私が菊月(偽)だ。   作:ディム

210 / 276
せめて週一とか言っておきながら二週間空けた馬鹿はどこのどいつだい?

私だよ!!

はい、ごめんなさい。イベントすらまだやれてません。


ザ・秋刀魚ハンターズ、その五

早朝。朝もやの漂う海のそば、コンクリートで固められた港と桟橋のそばに、俺達は揃って立っていた。俺の後ろには三人、俺の前には此方を向いて四人。そして、向かい合う俺達の間を仕切るように、五人。そして、そんな俺達を興味深げに遠巻きに眺める、艤装を付けた艦娘が数人。

 

「さて、漸く全員集まったようね。それじゃ、ルールを説明するわ」

 

俺達の間を仕切るように立つ艦娘のうちの一人、浴衣を身に纏い大きな団扇を持った雷がおもむろに口を開いた。海からの風が寒いのかその頬は濃いめの朱色に染まっていて、少し(つつ)いてみたくなる衝動に駆られる。

 

「ルールは簡単で、一週間後の期限までにどっちが多く秋刀魚を集められるか。獲得数は個人じゃなくてチームで計算して、その分勝利者報酬も勝ったチーム全体に与えられる。ここまでは良い?」

 

その言葉に菊月()も、俺の前に立つ陽炎も首を縦に振る。菊月()と同じように三人の艦娘を後ろに控えさせた陽炎は、何故か厚手のベンチコートにすっぽりとくるまっている。その陽炎が信じられないものを見るような目で菊月()のことを凝視しているが、全く理由はわからない。俺は、腕組みをしてその視線を真っ向から見返した。

 

「勝利チームへの報酬は、高級な方の間宮券と三日の休暇――だっけ? あれ、どうだったっけ電?」

 

「合っているのです。特上スイーツ食べ放題、キラキラ間違いなしの高級間宮券と休暇が報酬なのです。あと、負けた方にも参加賞として高級間宮券が一枚支給されるのです」

 

雷から言葉を引き継いだ電が、説明を補足する。それを受けて、菊月()は大きく頷いた。同時に吹き付ける冷たい海風が、菊月()剥き出し(・・・・)の腕や脚を撫でてゆく。肌寒さに思わず身体を震わせた。

 

「あ、そうだったわね。ありがと電っ。で、それとは別にだけど、秋刀魚を三十匹以上獲得した場合は特典をあげちゃうわ。なんと! 私特製のこの大漁旗を進呈しちゃうのよ!」

 

むふー、と息を吐きつつ胸を張る雷。同時に、その後ろに控えていた暁と響がばっ、と大漁旗を広げた。壁に掛けるのに丁度いい大きさのそれは、手作りというのが信じられない程の完成度を誇っている。

 

「……それが、特典か。なるほど、確かに欲しいな……」

 

「そうでしょ!? これは勝ち負けとは別にあげちゃうから、頑張って秋刀魚を集めてきてね! 実際のところ、あなた達とは別の艦娘たちからも欲しいって評判なんだからっ!」

 

「お姉ちゃん、そろそろ次に進むのです。あんまり待たせちゃ皆さんに悪いのです」

 

「あ、そうね。ありがと電。――さて! お次はお互いの公平さを証明してから、敗北者へのペナルティーの確認だったわよね?」

 

Да(だー)、そうだよ、雷」

 

ちらりと背後を振り返った雷に、頷くことで響が応える。それを受けた雷が陽炎、そして菊月()へと順に視線を動かし――その瞳に湛える色を不可思議そうに変化させた。

 

「うーん、でも。もう一度聞くけど、それ(・・)、ほんとに何でもないの? 実は誰かともう賭けをしてて、そのペナルティーだったりとかしない?」

 

「……なにを言う、雷。これは歴とした、今回の戦いのための衣装だ。なあ、陽炎……?」

 

「私がアンタをだいぶ勘違いしてたとかそもそもこんなおかしな艦娘見たことないとかアンタ寒さ以前に羞恥心とか無いのとか色々言いたいことはあるけど、不本意ながらその通りよ」

 

「……ほら、な。しかし信用されないと言うのならば……陽炎、お前もその外套を脱いでくれ。そうすれば、私達の言っていることが間違いで無いと分かるだろう……」

 

「いや、そうは言うけど、これはおかしくないかしら。ね、考え直さない?」

 

「…………」

 

これ以上語ることはない、とばかりに陽炎をじっと見返せば、彼女は大きく嘆息し外套を脱ぎ去る。どんな羞恥プレイよ、とぼやく、厚手の布の下から現れた彼女の姿は――

 

「はい。これで満足かしら?」

 

ごく短いその服の袖から覗く、ほっそりとした両腕。光沢のある生地にぴっちり包まれた身体は、幼い駆逐艦の中でも少し発育の良い彼女のボディラインをくっきりと表している。服に深く刻まれたスリットからは、彼女が腕を組み仁王立ちをしていることもあって健康的な太ももと足が眩しく覗いている。

 

「……ああ、流石だな。似合っているぞ、陽炎」

 

「全く嬉しくないわよっ!!」

 

――まごう事なきチャイナドレス。陽炎型の制服と同じ、濃いめの緑のそれに身を包んだ彼女が、顔を真っ赤にして立っていた。風に揺れるドレスの裾と、各部にあしらわれた文字どおりの陽炎のような揺らめく金糸の刺繍がなんとも美しい。

 

「……ふむ、流石に今から競い合う相手に褒められたところで、か……」

 

「いや、違うって」

 

対する菊月()も、陽炎と同じくチャイナドレスを身に纏っている。睦月型の制服と同じ黒地の生地に、陽炎と対になる銀糸での刺繍。彼女よりも一回り幼い菊月()の身体は彼女のように起伏が――特に胸の辺りだが――大きい訳ではないけれど、鏡に映したチャイナドレス姿の『菊月』は息が詰まるほど可愛かったし、何より『俺』は幼い女の子の方が、こう、好きだから何も問題はない。……向こうで暁が菊月()を指差して、『ねえ響、あれってレディーかしら』なんて聞いているが、問題はない。

 

「――というか、アンタのせいで話が脱線したじゃない! ほら、『負けた方は相手の言うことを一回聞く』、これで良かったわね、雷?」

 

「う、うんオッケーよ。お互い、もう他に聞きたいことはない?」

 

何かに気圧されたように返事をし、此方を伺う雷。菊月()の正面に立つ陽炎も、そして俺も、事前に詰めたことの確認さえ済めば他にすることは無い。雷に一つ頷き、足元に置いておいた艤装を背負った。背中に密着する睦月型(俺達)用の背負い艤装が、音を立てて始動した。

 

「……今更だが、陽炎。私の下らない遊びに付き合って貰って悪いな。感謝している……」

 

「本当、下らないわね。これでアンタまで期待はずれに弱かったら、許さないわよ」

 

「……その心配だけは無用だ……」

 

艤装を背負った瞬間、冷え切った全身に熱が回る。にやりと口元を歪めれば、陽炎も好戦的に笑って見せた。そのまま視線を移し、第六駆逐隊の面々に感謝を告げる。

 

「別にいいわよ。暁達も、楽しそうだから審判を買って出たんだから!」

 

「無論、さっきからそこで寒さで縮こまってる那珂さんに頼まれたからでもあるけれどね」

 

胸を張る暁と苦笑する響、そして最初から一言も発していない那珂ちゃんに、再度礼を言う。さあ、もう準備は整った。背後に艦隊を従え、菊月()と陽炎は並んで桟橋の先端に立つ。ちょうど、水平線から朝日が昇るところだった。

 

「――駆逐艦陽炎、抜錨よっ!」

 

「……駆逐艦菊月、出撃する!」

 

同時に叫び、跳躍する。ぱしゃりと跳ねた海水は、やはり冷たかった。




そもそも夏イベ編も書き終わってないのに秋刀魚やって、更に秋イベが始まってますね?

どうしましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。