私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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今日は何の日?

子日――じゃなくて、この拙作『私が菊月(偽)だ。』の一周年の日です。
皆様のお陰でここまで書き続けることが出来ました。迷惑は沢山かけてしまいましたし、これからもかけてしまうかも知れませんが、良ければどうかこれからもよろしくお願い致します。


予感

ゆさ、ゆさと身体を揺すられる感覚。何か固いものにもたせ掛けていた頭をゆっくりとあげる。腰から下が暖かい。……こたつ、だろうか?

 

「おい菊月、起きろって、なあっ!」

 

「……うるさい、皐月」

 

「うるさいじゃないっての!ああもう、陽炎も陽炎で起こしても起きないし。ほら、もう朝だって!!」

 

皐月の声が頭に響く。寝起きの『俺』はあまり頭が回らないのだが、『菊月』の声に従うままに身体をこたつから抜き出して立ち上がる。寒い。身体を見下ろせば、薄灰色のパジャマを着ていた。

 

「……ああ、そうか。そう言えば今日は、司令官から全体に連絡があるのだったな……」

 

――神通との訓練を始めてから、早二週間。初日程ではないものの徹底的にしごかれ抜き、またその夜は陽炎と共に座学に励む。途中から神通の訓練に混じった長月も加え、四人で合宿のように寝起きしてそれなりの日が経った今、菊月()を含めた四人は少なくとも一端と呼べるだけの実力を身につけられた。――最も、菊月()の場合は『菊月』に多くのアシストを受けているのだが。

 

「……長月は?」

 

「長月はもう朝ご飯を食べに行ったよ。みんなでご飯は今日は無理っぽいしね。ほら、菊月もさっさと着替えて陽炎を起こすの手伝ってよ!」

 

「……了解した……」

 

言って、部屋の隅にハンガーで掛けておいた制服の元へと歩み寄る。ばさり、とパジャマの上を脱ぎ去れば、当然のごとく目に入る『菊月』のなだらかな双丘と、それを包む白い下着。こればかりは慣れない――菊月の身体である以上慣れる訳がないのだが――とぎゅっと目を瞑り、一気に制服に袖を通す。同時にスカートを履き、ズボンも履く。部屋に備え付けの洗面台まで歩み寄り、身嗜みをチェック。

 

そこには問題なく、少しだけ眠そうな菊月が映っていた。

 

「……うむ、そうだな。水でも掛けてやるか」

 

この二週間で大幅に遠慮の無くなった陽炎をどう起こすかを思案しながら、髪をかき上げ顔を洗う。冷たい水が顔を濡らし、眠気を吹き飛ばしてゆく。タオルで顔を拭き終われば備え付けのコップを手に取り、冷たい水を並々と注いだ。これで陽炎も目覚めるだろう、と口元に笑みを浮かべ、踵を返し、

 

――ぞくり、と。

 

――ぞわり、と。

 

脳裏に閃く映像。夕暮れの海、誰もいない浜辺、潮風、青い月、幾度も繰り返すそれら、そして――ぽつり、と。真っ暗な海に立ち尽くすそれ(・・)

 

「……ッ!!」

 

幻想を見ていたのはほんの数瞬だった。しかし、その数瞬の間に手からコップが溢れ落ち……がつん、と音を立てて床を転げまわる。注がれた水が盛大に溢れ、床の上を広がった。

 

「ふぁ、ったく皐月もあたしの上に飛び込んで来なくたって良いじゃないの。――あれ、どうしたの菊月?」

 

「……ッ、いや、なんでもない……」

 

起きてきた様子の陽炎に背を向けたまま応え、タオルで床を拭く。終われば、そのままふらふらと部屋を出た。

 

「……あれは。……いや、今もずっと感じられる(・・・・・)。……なんだ、これは……?」

 

――いや、本当は理解している。本質的に理解しているのは『俺』ではなく『菊月』――『俺』が入り込めるほどの魂の隙間を持った、菊月なのだが。

 

「……そうか……ならば、どうにか、しなければ」

 

呼んでいる、と『菊月』は言っているが、その感覚は『俺』にも理解できる。ただ一つ違うところは、『俺』には微かにだが、菊月はもっと強くその呼び声が聞こえているということか。その声に乗せられる感情は、菊月()がかつて『菊月』から感じていたものに酷似している。

 

――即ち、寂寥。

 

「……っ、時間か」

 

ふらふらとした足取りをなんとか立て直し、講堂へ向かう。ちょうど艦娘たちも良い具合に集まっていたようで、整列して少し後には朝礼と任務通達が開始された。

 

――しかし、あの声とあの光景が、頭の中から離れてくれない。断続的に届く呼び声が、俺の中からイメージを呼び覚ます。展開される提督の話が耳に入らないほどに、ぼんやりとぼやける頭。それを覚ますように、菊月()は強く頭を振った。顔をくすぐる髪を指で梳かし、腹に力を込める。『菊月』と二人、息を吸い込んで前を見据えた。

 

「――ゆえに、今回は二方面での同時作戦となる。一方は大規模の反抗作戦、もう片方は中規模の海上輸送作戦だ。大規模作戦の方は主力のうち戦艦、空母、重巡を基点にした艦隊で。輸送作戦の方は水雷戦隊を編成して行う。各自艦種でどちらの作戦に振り分けられるか、また遠征や鎮守府の防衛に回されるかが決定される、振り分けは各掲示板に張り出しておくから確認するように。――連絡は以上だ、各艦己の最善を尽くし、勝利せよ!」

 

提督の言葉に全艦一致して返される『了解』の返答、しかし菊月()はそこに声をあげることは出来なかった。壇上から姿を消す提督を追おうと足を運――ぼうとした時、服の裾を引っ張られる。

 

「お、お姉ちゃん。あの――その、輸送作戦のことなんですけれど」

 

三日月。黒髪金眼の幼げな妹が、不安そうな表情で此方を見てきた。輸送作戦――確か、その作戦の中には。

 

「……()()()()()()()か」

 

「――っ、はい。その、お姉ちゃん。私、心配でっ。私も出撃しますし、もちろん今度こそ守ってみせるって思ってますけど、そのっ――」

 

どこか必死の様子を見せる三日月の頭に、ぽんと手を置いた。

 

「……私も同じ気持ちだ。叶うならば、共に出撃をさせて欲しい。神通には、数え切れぬほど世話になった――無論、他の艦娘たちにも、だが」

 

「そ、そうですっ。良かったです、お姉ちゃんが来てくれるなら私は、怖いものなんてありませんっ」

 

「……そこまで言うことはないだろう。だが、そうだな……少し、待っていてもらう事になるかも知れん。少なくとも、ショートランド泊地の沖にはお前だけで出撃してくれ」

 

「えっ? あの、お姉ちゃんは――って、どこ行くんですかっ!」

 

三日月にくるりと背を向け、ちょうど講堂から出ようとする提督のもとへ歩みを進める。背後から三日月が付いてきているようだが、説明の手間が省けてちょうど良いだろう。

 

「――司令官」

 

「なんだ、菊月か。どうした、作戦のことで質問か」

 

「いや、違う。……大型反抗作戦の第一段階、私はショートランド泊地沖の攻略に編入されているな? それを変更してくれ。私を、泊地沖ではなく、ショートランドの攻略部隊に含めて欲しい」

 

「いきなり何を言う。お前は全段階の作戦において輸送作戦の方に組み込まれている。しかし――何か理由があるのだな?」

 

こくりと頷き、口を開く。

 

「いるんだ」

 

全身から、真紅の気焔(オーラ)が噴きあがった。

 

「呼んでいるんだ」

 

両目に雷光が瞬くのが分かる。その目で、提督をじっと見た。

 

菊月()のかけらが、私を呼んでいるんだ」

 

――言い切る。直後、提督は一つだけ頷くと菊月()をショートランド攻略へ編入することを約束してくれた。背後にいる三日月を振り返ると、「そういうことだ」と微笑みかける。

 

「もうっ。分かりましたけれど、絶対怪我せずに帰ってきて下さいねっ!」

 

「怪我は保証出来んが……努力しよう」

 

そう言って、『俺』は『菊月』に語りかける。

 

――共にゆこう。




と言うわけで夏イベ秋イベダブル作戦だよ!!

あ、投稿時間は予約投稿で、去年の一話と同じ時間にしておきました。

あと。「如月の意地、その八」に挿絵を追加させていただきました!
素晴らしい如月改二の挿絵、いつも素晴らしい挿絵をくださる海鷹さんの作品です!
さあそっちもチェック!
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