私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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なんか飛行場姫が単艦で暴れまわるイベントがあるらしいですね?

あ、大和出ました。


展開、二面作戦!その一

ベルトを締め、スカートの裾を整える。両足に取り付けた魚雷発射管の固定を強め、射撃の際にブレないように。装填されているのは酸素魚雷。背部艤装にWurfgerat42(ロケットランチャー)を装備して、少しばかり重量の増したそれを背負ってこちらも固定。両腰に二振りの刀を提げ、手には連装砲。寒い海へと繰り出すために黒色のマフラーを巻けば、菊月()はすっくと立ち上がる。

 

「おっ、菊月。なになに、それ、私とお揃い?」

 

「川内か……まあ、そんなところだ。今日の旗艦はお前だったな? 宜しく頼むぞ……」

 

「うん、よろしく。ま、でも先導してくれるんでしょ?」

 

川内の言葉にこくりと頷く。講堂での作戦会議から数日経った今でも、脳裏に聞こえる声は止むことはない。いや――厳密に言えばその声が聞こえているのは『俺』でなく『菊月』なのだが。俺は声を聞いているのではなく、その存在を薄っすらと感じているだけ。

 

「――ま、往々にして私たちにはそういうの、あるみたいだし。あたしはまだ感じたことないけど、神通だって何か感じてるみたいだしね、信用するよ」

 

「有難い……」

 

「ま、そのため(・・・・)だけにわざわざこっちの部隊に編入されに来るのには驚いたけどね。この後、輸送作戦の方に合流するんでしょ? 二作戦跨いでなんて無茶をするけど――ま、作戦海域がほぼ重なってるから、出来ないこともないか」

 

「ああ、そうなっている。……神通の護衛は任せておけ、川内」

 

そう言うと、川内は虚をつかれたような表情をした。次いで、口元を緩めて軽く笑う。菊月()と彼女は無言で拳を突き合わせ、並んで出撃港の扉を開けた。吹き付ける寒風と、視界に広がる海原。その向こうには、既に準備を整え終わった四人の艦娘。その端に、俺は駆け寄り直立の姿勢をとった。

 

「菊月、夕立、暁、北上、大井。揃ってるみたいだね、みんな」

 

こちらを見渡し頷く川内。その顔にいつもの快活な笑みを浮かべれば、彼女は口を開いた。

 

「まあ、この面子と出撃するのは何度も経験してるし。個人的にはここ(・・)雷巡(あなた達)を持ってくるのには、提督も思い切ったものだと思ったけれど。まあ、あんまり話すことはないわ」

 

すうっ、と大きく息を吸い込む川内。目に力を込め、全身から燐光(キラキラ)を巻き上げた。

 

「――二面作戦、その緒戦! これだけの面子が集められたのが、期待と責務の証だよっ!! さあ、全員顔を上げて! まずはここを軽く突破して、後続の艦隊の景気付けにするよっ!!」

 

「「了解っ!!」」

 

「よぉし、いい返事! それじゃ全艦、抜錨よぉっ!!」

 

言うや否や、俺たちの真ん中を突っ切り勢いよく海面へ飛び出す川内。それを追い、俺達は勢いよく出撃港のコンクリートを蹴ったのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

風が凪ぎ、波が静まる。雲は無く、空は一面の青に覆われている。そんな穏やかな空を写したような海に、俄かに直線の波が立つ。

 

「――下っぽい、菊月ちゃんっ!」

 

「っ、そこか……!」

 

雷撃。敵軽巡ヘ級より放たれたそれはいくつもの線となり、俺達を沈めようと殺到する。そのうち菊月()の足元へ来るそれらへ、

 

「……ふっ……!」

 

連装砲を放つ。砲弾が魚雷を撃ち抜き爆散させ、雷跡をかき消すほどの大きな水柱を噴きあげさせた。その奥に、一つの殺気。轟音を響かせ迫ってくるそれ(・・)に舌打ちし、菊月()は左手で腰の刀を抜き放った。

 

「ガァァァァアッ!!!」

 

「くう……っ!」

 

駆逐イ級後期型、通常のものよりも濃密な殺意を纏ったそれの鼻先が、水柱の中から顔を出した。同時に回避を開始。片足を軸に重心を移動し、菊月()の横を突っ込んでゆく彼奴の船体(からだ)へ刀の腹を押し付け――突撃の猛威を逃すように、くるりとその場でターンする。

真横を通り過ぎてゆく圧力と同時に感じる……硬い(・・)手応え。うまく往なしきったイ級の横腹を省みる。そこには、斬れ味鋭い『月光』の刃を身に当てながら滑り行ったにもかかわらず、薄く軽い切り傷しか負っていない彼奴の船体(からだ)が存在した。

 

「っ、何度試しても無駄か……! この硬さ、どうやらどれも皆、あの(・・)硬い奴らしいが……だが、そうだとしても!」

 

この手に伝わる硬さには覚えがある。嘗てミッドウェー沖で皐月や睦月たちと共に戦った際に現れた、表皮が斬撃に対しての耐性を持ち、全体的な防御力を増したタイプ。あれ以来久しく見てはいなかったが、どうやら再び現れたらしい。

 

――だが、それがどうしたというのだ。

 

「……喰らえっ!!」

 

がちゃりと音を立てて、連装砲の照準を交錯したイ級へ向ける。三度引き金を引けば、まばゆい発射炎が六度視界を埋め尽くす。そうして放たれた弾丸は、距離にしておよそ二十メートルと少しといったところか、その位置で菊月()を再度捉えんとそこで旋回しているイ級へ襲い掛かる。爆音とともに、彼奴の土手っ腹に大きな六つの爆炎が生まれた。その大きな船体(からだ)を捩り、身悶えするイ級。そこに迫るのは二つの影。

 

「行くわよ、夕立さんっ!」

 

「わかってるっぽいっ!!」

 

暁と夕立。菊月()がトリガーを引いた直後に背後から飛び出した二人は、未だ舞い散る爆炎の中を突っ切りイ級へ肉薄した。数瞬後、耳をつんざくような轟音とともにイ級の船体(からだ)がへし折れ、ほとんど真っ二つになって爆散した。

 

「向こうも軽巡へ級の処理は終わったようだな。なら、これで最後か……ああ、夕立、暁。助かった、感謝する……」

 

「ううん、別にいいっぽい。それより、敵艦はぜんぶ片付いたっぽい?」

 

「そうみたいね。ほら、川内さんたちがこっちに来てるし」

 

戦闘機動を終え、ゆったりとした速度でこちらへ滑ってくる川内、北上、そして大井。服や身体には目立った傷はなく、弾薬の減りも緩やかなようだ。これならば、この先を目指せるだろう。不意に、ぐっと下腹が熱くなる。視線を外し、海の先を見た。

 

「いやー、あれだけならあたしたちが出る必要無かったかもしれないね、大井っち。で、川内、次はどっちに羅針盤が振れてるの?」

 

「うーん、羅針盤が差してる反応は北向きなんだけど――」

 

「あー、菊月の。で、どうなの? 実際あの子が向いてる方向に反応あるってわけ?」

 

「反応自体はあるわ。()()()()()()()()、ね」

 

背後で話し合う声が聞こえる。確かに、二人の懸念――というか、疑問はもっともだろう。俺だって……いや、艦これというゲームを知っている俺であるからこそそういうことがあり得るのだと理解できるが、そうでなければ俄かには信じられない。

 

だが、俺は――否、『俺』は。確かに『菊月』の感じているものが理解できる。ゲームがどうこうではなく、脳裏に響くこの『菊月』の声によって。

 

『あっちから、呼んでいる』

 

そう伝わる声に()()()()()()()()ように、菊月()は川内の元へと進み寄り方向を示す。方角は南東。

 

「ま、信用しないって訳は無いからね。全艦、舵を南東に! 目標地点まで突っ切るわよ、菊月と私に続きなさい!」

 

よく通る声で号令が飛ぶ。その声に従うように、先導するように、あるいは――逸るように。菊月()は艦隊の一番前へと躍り出たのだった。




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