私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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イベントやってたら執筆のことをすっかり忘れてたので急いで書きました。
それにしても、イベントしながら別のイベント書いてるとごっちゃになって大変です。「あれ、今回E1で駆逐棲姫出ないよな……?」と何回か思っちゃいました。


展開、二面作戦!その二

相変わらず雲ひとつ無い空の下、艦隊の先頭に立ち海を直進する。向かう先が、変わることはない。少し屈めた両足と、海面の間に生まれる白波以外に見えるものも無く、次第に太陽がその位置を変える。そうして、敵先遣艦隊を退けてからおよそ二時間と言ったあたり。不意に、艦隊に緊張が走った。

 

「ねえ、みんな分かってる?」

 

「勿論っぽい、川内さん」

 

気がつけば、水平線の彼方にポツリポツリと浮かぶ島影。それ(・・)が何かは『菊月』こそが良く知っているだろう。そして、ある意味では『俺』とも関係の深いそこ――しかし、今日ばかりはそこに意識を割く訳にはいかなかった。

 

「オオ……オオオオオ……!!」

 

殺気。

 

海面下より次々と現れる、殺意の炎を纏った異形。がぱりとその顎から砲身を伸ばした姿は凶悪そのもの。巨大な図体が与えるプレッシャーは、彼奴らの実際の戦闘力よりも厄介だ。そして、ずらりと並んだ駆逐級深海棲艦の、そのどれもが後期型(足付き)だった――いや、違う。

 

「……川内、いるぞ」

 

「勿論。あの奥の奴よね? 任せるわ――と言いたいところだけど」

 

「みなまで言うな、川内。私とて分かっている……艦隊行動をしているのだ、突出などせぬさ」

 

そう言って、俺は菊月()の視線を向ける。

透き通るような白髪を、サイドに結んだ髪型。帽子や服装、そして容貌は深海棲艦の雰囲気を持ちつつもどこか艦娘のような印象を受ける。全身から黄金の気焔を噴き上げ、敵意を漲らせ海面に立つ、『この場所』を司る深海棲艦の姫――『菊月』の欠片を感じるそれ。

 

「……しかし、なんだ。違和感……? いや、どうでもいい。彼奴を倒すことが最優先だ……!」

 

異形どもの中に一つだけ紛れる小さな、しかしその何れよりも大きな殺意を此方へ向ける、異形どもの主――『駆逐棲姫』へ、

 

「――行くぞ、深海棲艦っ!!」

 

「アアアァァ、アアア……!!」

 

連装砲を向ける。同時に姫と、その取り巻きの怪物たちが動き出す。真っ先に突っ込んで来るのは単眼の怪物――駆逐イ級、その後期型。二匹揃って仲良く突っ込んで来るそれらに対してトリガーを引こうとした菊月()の脇を、何かがすり抜けていった。

 

「駆逐艦なら私に任せなさい! これぐらい、へっちゃらよ!」

 

「それは此方も同じことだ、暁……!」

 

黒色の髪を靡かせて俺を抜き去る彼女に、追い縋るように肉薄する。そんな菊月()達を諸共に撃破しようと、先んじて放たれるイ級の砲弾。咄嗟に互いを押し、二手に分かれることで回避する。そのまま菊月()は、連装砲のトリガーを引いた。狙うは、同じように二手に分かれたイ級の片割れ。

 

「……喰らえっ!」

 

砲音と共に飛び出した砲弾が一匹のイ級の目に命中し、爆裂する。吹き上がる爆炎と、青黒い体液(オイル)。しかし、爆炎の中から飛び出した彼奴の姿は、損傷こそあれど健在だった。

 

「ちっ、流石に硬い。まだまだ神通の言っていた練度には及ばぬか……だが、な!」

 

「オォ……ゴァァァァァア!!」

 

牽制するように砲撃を放ちつつ、滑るように後退する。そんな菊月()の姿を怖気付いたとでも捉えたのか、イ級は更に勢いづいて此方へ猛進して来た。菊月()の身体など引き千切ってしまえそうな大顎を最大に開き、纏った黄金の気焔を昂らせ、菊月()へ肉薄し、

 

「――ま、四十門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」

 

殺到した北上の雷撃に、その横腹を打ち砕かれた。炎を噴き上げ、胴の真ん中から真っ二つに割れるイ級。燃え盛るその姿に目をやると、背後から北上の声が聞こえた。

 

「ん、上々」

 

「北上か……感謝する。倒せないことはなかっただろうが、手こずりそうだったからな」

 

「いいよいいよ、そんなの。まだ残りもいるし――って、ちょっ! 菊月後ろ!」

 

「っ、何が……なんだとっ!?」

 

咄嗟に振り向く。眼前にあったのは歪な、そして巨大な牙。北上の雷撃で真っ二つに裂けたイ級、その前半身だけが喰らい付いて来たようだ。単眼から光は消えかけ、纏っていた気焔(オーラ)も消失している。それでも、その牙が脅威であることに変わりはなかった。

 

「くうっ!」

 

両足に力を込め、全力で背後へ跳ぶ。急激な加速による圧力が身体を軋ませ、唸りをあげて迫る顎が胴を掠める。制服が破け、腹に擦り傷が生まれ、しかしどうにかイ級の攻撃は回避した――その瞬間。

 

「……な、」

 

射殺すような冷たい殺意。振り返る間もなかった。衝撃、鈍痛、そして熱。破裂したそれの生み出す炎に頭が包まれ、炸裂した砲弾の破片が全身を切り刻む。頭の中がぐちゃぐちゃにかき回されたような感覚と共に、四肢が吹き飛んだ錯覚を覚えた。菊月()の側頭部、回避を終えたばかりの無防備なそこに突き刺さるように命中した砲弾に、俺は灼かれた。

 

「――、――――!!」

 

何かが聞こえる、ような気がする。感じるのは全身を裏側から引き裂くような痛みと、血の気を奪うような冷たい海面(地面)の感触。どうやら、倒れてしまったようだ。水面に手をつき、身体を起こす。どろり、と額を、顔を何かがつたう。左手で拭ってみれば、真っ赤になった。鉄の匂いがするそれを、海で洗い流す。

 

「うわっ、菊月大丈夫? それ、だいぶ酷いよ」

 

「……油断したな。大破か……だが、彼奴を倒せさえすれば良い……う、うぷっ」

 

頭がぐわんぐわんと揺れ、気持ち悪さが込み上げてくる。船に乗っているようだ……なんて想像し、ある種の可笑しさをかみ殺す。どうやら、立てはするようだ。ならば、砲撃はできる。咄嗟に砲弾から頭を庇った右腕は使えなさそうだが。

 

「……北上、さっさと終わらせてくれ……」

 

「はいはい。はぁー、これだから駆逐艦は」

 

そう言って、旗艦である駆逐棲姫へと滑り出す北上。言葉とは裏腹に、どこか心配そうな感情を感じる。そのことに仄かに微笑むと、ずきりと頭に痛みが走った。奥歯を噛み締め、顔を上げる。だらだらと流れる血液を無視して連装砲を片手で構えれば、遠くの駆逐棲姫へ照準を合わせる。ふと、視線が交錯したような気がした。

 

「……っ、?」

 

違和感。しかし、『菊月』は何も言ってくれない。ならばと連装砲のトリガーを引く。吐き出された二つの砲弾は、駆逐棲姫へ向かう仲間たちの間を抜けて飛翔する。真っ直ぐに飛ぶそれが、目標へ命中する――その寸前、彼奴は一歩だけ横へ動いた。まるで、菊月()の攻撃が分かっていたかのように。そうして、そのまま全身の砲門をただ一つ、此方へ向けて――

 

「砲雷撃戦! 用意――撃て()ーっ!!」

 

仲間達の放つ砲弾と雷撃に呑まれ、水底へと消えた。

 

「な……これは、どういう……う、ぐっ」

 

「――大丈夫っ、菊月!?」

 

「ああ、平気だ……しかし川内、敵は……」

 

「イ級とロ級が一体ずつ残ってるわ。けど、旗艦である姫級は沈めたし帰還するつもりよ。――正直あの姫級の動きは不気味だったし、何を企んでるのか分からなかったけど、沈めてしまえばもうどうしようも無い筈よ。さ、手を貸して。そんなにふらふらじゃまともに航行できないでしょうし、曳航してあげるわ」

 

「ぐ、げほっ。感謝……」

 

此方へ伸ばされる川内の手に、無数の細かい切り傷の刻まれた左手を差し出す。がしりと握った直後、ふらつき首をかくんと揺らす。頭から滴り落ちる血の雫。それが揺らした海面の向こうに、俺は駆逐棲姫の姿を見た気がした。




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