それだけだと個人的に気に食わなかったので菊月たちは制服じゃなくて私服にしました!!!
日が代わり、太陽が昇る。寝不足気味の提督が妙なテンションで演説をぶち上げたその翌々日、艦隊に一斉に与えられた休暇の初日、
「ほへー……」
「どうしたんです、お姉ちゃん。そんなキャラじゃない顔をして」
三日月からのツッコミが入る。いやしかし、キャラじゃない顔をするのもしょうがないと思う。
俺が呆けて見ているバスの周囲は既にざわざわと人垣が出来ており、一部の艦娘は既に割り当てられた車両に乗り込んでいるようだ。
「いやな、皆一様にはしゃいでいるなと思ったのだ……」
「だって、みんな揃っての旅行なんですよ。お姉ちゃんだって楽しみにしてましたよね? 昨日の晩なんかノリノリで荷物の準備してましたし」
「あれは……その、南方海域から深海棲艦を追い出すことが出来ただろう。それが嬉しくて嬉しくてな。つい、今でも落ち着かぬのだ……」
それは本当だ。『俺』も『菊月』も、ある海域だけとはいえ深海棲艦を殲滅できたことに大きな喜びを抱いている。その喜びを抑えきれないまま、今日の日を迎えてしまったと言うわけだ。
――だがまあ、だからと言って温泉旅行が楽しみではないと言うわけではないし。ノリノリで用意したのは荷物だけでなく着ていく服、持って行く服もであり、今は黒のキャップにTシャツ、薄手のパーカー、そしてホットパンツにブーツという動きやすいながらも『俺』と『菊月』の両方が納得する精一杯のお洒落をしてみたりしているが、温泉旅行だけを超楽しみにしていたのではなくきちんと海域制圧についても喜んでいるし。うん、俺たちは悪くない。
「だがまあ、旅行自体は楽しみに思っている。久々に皆で羽を伸ばせるのだからな……おっと、あまり立ち話をしていても仕方ないな。三日月、私はもうバスに乗ろうと思うのだがお前はどうする?」
「あっ、私も乗りますっ。席は早い者勝ちの自由でしたよね、お姉ちゃんの隣に座っても良いですかっ!?」
「……? ああ、構わぬが……」
小さくガッツポーズをする三日月を尻目に、トランクを転がしながらバスへと近づく。張り切って荷物を詰め込んだそれはそれなりに重く、手に掛かる振動が俺に高揚感を思い起こさせた。
「へー、バスの中ってこんな風になってたんですか」
「……何だ三日月、お前は乗ったことが無かったのか」
「えへへ、お恥ずかしながら。でも、私達ってずっと海の上ですし、陸に出る時もどなたかの車に乗せてもらう事が多いですし。でも、その口ぶりだとお姉ちゃんは乗った事が有るんですよね?」
む、と言葉に詰まる。確かに『俺』は乗った事があるが、『菊月』としては無かった筈。悩んだ結果
「……夢の中でなら」
「もうっ! お姉ちゃんも無いんじゃないですかっ!」
「いや、うむ……。それよりも三日月、席は何処にする。隣掛けは幾つもあるが、お前はどの辺りに座りたいという希望はあるのか」
「そうですね。本当は後ろの方のあの、長い所に座ってみたく思うんですが――あのあたり、多分戦艦や空母の方々が座ってお酒を飲むでしょうし」
苦笑しながら三日月が言う。確かにその未来は容易に想像出来、ならばなるべく前の方に座るのが望ましい。三日月には残念だが、帰りのバスに期待して貰うしかない。
「なので、前の方に座りましょう」
「ああ、了解した」
三日月と二人、前から三列目の席に腰掛ける。三日月が窓側、
「お、菊月じゃないか。私が引率をするバスに乗るとは奇遇だな」
「武蔵か。……引率だと?」
「ああ。駆逐や軽巡まで全員で連れ立ってとなると流石に数が多いだろう? だから、私や一部の戦艦が車両ごとに責任者として任命されている訳だ」
「……成る程、休みの日までご苦労なことだな」
「何、精々五時間前後の仕事だ。それが終われば温泉旅館、仕事にも精が出るというものだぜ」
「まあ、私としてはお前なら問題はないと思うがな。頼んだぞ」
二言三言会話を交わし、最前列に座る武蔵を見送る。その直後あたりから続々と艦娘も詰めかけ、バスの座席は一杯に埋まった。 それを見計らったかのように、添乗員がマイクを取る。
「みなさん、おはようございます。今回はわたくし共の旅館をご利用頂きありがとうございます。本バスは四号車となっておりますので、パーキングエリア等で外出なされました際にお乗り間違えの無いようにお願い申し上げます。それでは今から行路の説明を――」
添乗員がつらつらと必要事項を読み上げる。行路を計算するに、武蔵の言った通り五時間程度の旅となりそうだ。だが、その五時間の旅にさえ隣に座る三日月は目を輝かせている。
「……まあ、姉として精一杯面倒を見ねばな……」
そのきらきらとした横顔を見ながら、
菊月のホットパンツ!
なまあし!!
イヤッホゥ!!!!