私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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はい。菊月の進水日です。
本編が進まぬいけどちょっと待ってくださいね。
あと、感想返しも少し待ってください。


閑話、いつも通りの特別な日

空は天高くまで雲がなく、風は穏やかに波を揺らしている。今日は五月の十五日、すなわち菊月の誕生日(竣工日)。だからと言って別段何かある訳でもなく、強いて言えば去年は姉妹たちがサプライズを仕掛けてくれたから今年も何かあるのだろうが――

 

「…………ふむ」

 

「ガァァァッ、シズメッ!!」

 

その、五月十五日の昼下がり。菊月()は絶賛、海の上で高速戦闘を繰り広げていた。

 

「グオォォォオッ!!」

 

「おっ……と。ちっ、深海棲艦の癖に数だけは多い……!」

 

飛びくる砲弾を回避し、戦場に意識を向ける。敵艦隊は六隻。駆逐級が四隻、軽巡ト級が一隻、そして空母ヲ級が一隻。そのうち三隻の駆逐艦は既に水底に叩き込んだから、残るはそれぞれ一隻ずつだ。

 

「幸い、弾薬はまだまだあるのでな。ちょうど良い、砲撃の練習台になってもらおうか……!」

 

菊月()の言葉に反発するように放たれる砲弾を躱し、最大戦速で駆ける。まずは右、次も右、その次は左に舵を切る。菊月()の身体を掠めていった砲弾が、海面に着弾し盛大に水柱を噴き上げた。爆音とともに舞い上がる水滴が、重力に引かれてばたばたと落ちてくる。その中へ向けて、俺は砲の照準を合わせた。

 

「……っ、今だっ!」

 

神通の教えを思い出しながら、軽い引き金を引く。手に掛かる反動。砲音。水滴を吹き飛ばして飛翔する小さな砲弾は、狙った通りに駆逐艦級の単眼に突き刺さりその臓腑を抉った。直後に小さな爆発。内側からその船体を炎に食い破られた駆逐級は、悲鳴さえ上げずに水底に消えた。これで四隻。

 

「……ク、グゥッ……コノ、コノッ、グゥゥウ……! シ、シズメェッ!」

 

恐慌に駆られ艦載機を発艦させようとする空母。このままそれを許してしまえば、軽巡と揃ってそれなりに厄介なことになりそうだと直感した。ならば、少々危険だろうと取るべき手段は一つ。奥歯を食い縛り、腹に力を入れて口を開き、

 

「……怨念が、喋るなっ!」

 

砲を乱射しながら、腰の『月光』を抜く。名に反して日光を受けたそれは、しかし目映く煌めいた。光を刀身に残したまま、ほんの一瞬だけ黄金の気焔を纏い――

 

「――一つ」

 

跳躍一閃。

呆然としたままのヲ級の首が海面に転がる。それを見終わらないままに片足で反転し、棒立ちの身体を足場に跳躍し――軽巡ト級の脳天へ刀を斜めに突き立てる。皮と肉を突き破り、鉄骨の骨を圧し折る生々しい感触。もはや慣れ切ったそれを手の中で握り潰し、手首を返すようにして斬りあげ、同時に気焔をかき消し――

 

「二つ――っ、く」

 

意識を飛ばす。数瞬後、いつの間にか崩折れていたト級の残骸からゆっくりと身体を起こす。見る限りそれほど時間は経っていないようで、菊月()は安堵にほっと胸を撫で下ろした。

 

「――しかし、まあ。散々な誕生日になったものだな……?」

 

浮かび続ける残骸の上に腰を下ろし、息を吐きながら独りごちる。そうして、菊月()はこの災難な一日のことを振り返るのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――朝。いつも通りの起床時間に目を覚まし、着替えを済ませ顔を洗う。起床時間を過ぎても眠りこける卯月をいつも通りに叩き起こし、寝ぼけて腕に抱きついてくる三日月をいつも通りに引き剥がす。朝一番からどたばたと、一通りの戯れ合いを済ませた後、俺たちは揃って工廠に出向いた。

 

「あら、菊月さん。おはようございます、任務の確認ですか?」

 

「……おはようございます、大淀。ああ、その通りだ。出撃箇所の確認に来たのだが――丁度いい、お前に直接尋ねさせて貰うとする」

 

「ええ、分かりました。と言っても菊月さんの今日の任務は前線への出撃では無いんですけれどね」

 

「……なに?」

 

本日菊月()に任された任務は、平時の出撃と違い拠点防備だった。それも、鎮守府近海の掃海と警戒が主な内容のもの。恐らく提督が仕組んだものだろうと当たりをつけ、話を聞きに行くとその通り。今日が菊月の進水日であるという事を鑑みて、姉妹たちと少しでも時間を共に過ごせるようにするために、比較的早い時間に仕事を終えられる哨戒任務を任せてくれたらしい。

 

「……最近休みを貰ってばかりだ、気を使うことは無い」

 

「私は誰にだって同じことをしているだけだ。そもそも、気を使う余裕など有りはしない。海域を一つ奪還した分、多方面に回される深海棲艦の質、そして量が増加していることは理解しているだろう」

 

「ああ。……すると、何かあるわけだな」

 

「その通りだ。この頃は鎮守府近海にも厄介な深海棲艦が流れ込んでいるようでな、お前とお前の姉妹艦に頼みたいのはそれらの偵察、ないしは撃滅だ。姉妹艦の実力はそれほど高くもないが低くもない、お前が指揮をとれば問題は無いだろう」

 

「ふむ」

 

「まあ、狙いは別のところにもある。お前の姉妹艦、実力は中程度だがどいつもこいつも惜しい奴ばかりだろう――特に如月とか、な。あいつらに、第一艦隊流の海戦を見せてやれ」

 

そう言う提督の眉間には、深い皺が刻まれている。どことなく不穏な雰囲気を漂わせた彼に視線を合わせ、俺は口を開いた。

 

「……何か、心配でもあるのか」

 

「いや、何もない。何もないが――いや、お前に言うべきことでは無い。済まんな、この件は大淀とでも相談する」

 

「……そうか。ならば、私は私の戦い方を姉妹に見せてやるだけだ。ではな、提督。大淀にかまけるのも悪くはないが、あまり金剛を放ってやるなよ」

 

そう言って提督と別れ、準備を済ませた姉妹と鎮守府近海の哨戒任務に就いた。この頃は専ら最前線で戦っていただけに、鎮守府近海に迷い込んだだけの駆逐級は楽に沈められる。現れるいくつかの艦隊を姉妹と沈めつつ、前線で扱かれた航行術を姉妹に見せて任務は滞りなく終了する。

 

そう、終了する――はず、だったのだが……

 

―――――――――――――――――――――――

 

「……このト級で、本日十五隻目か。駆逐艦にしては中々の戦果ではあるが――もっとも、こうまで見事に釣り出されてしまってはそれも意味がないのだがな。……如月達は無事だろうか」

 

時刻が四時を回った段階で、菊月()の今日の戦果は十五隻。姉妹と沈めたのではなく、菊月()単体の戦果が――だ。数えてみれば気が重くなる数に、提督に体良く深海棲艦の掃討を押し付けられただけかも知れないと勘ぐる。はぁ、と溜息を吐き、無線のスイッチを入れた。それを顔に近づければ、小さなノイズと共に音が聞こえてくる。

 

「……こちら菊月。無様に釣り出されはしたが、敵艦隊は壊滅させた。そちらはどうだ」

 

『――こちら長月。敵連合艦隊の半数、此方に残った六隻のうち四隻は沈めた。残る二隻ももうすぐだ――と言いたいが、すまないが手を貸してくれ。流石に戦艦二隻相手だと攻めきれない』

 

「……菊月、了解。これより其方に合流する」

 

無線を切り、艤装に格納する。航行速度を一気に最大(マックス)まで上げ、白波を吹き上げながら海を行く。遠くから響く砲撃の音。見れば、丁度二隻の戦艦ル級のうち一隻が大楯砲を喪失し、雷撃をその身に受けたところだった。

 

「急ぐ必要も無かったか。だが……第一艦隊流、か。まあ、それほど特別なことはしていないが――」

 

「おっ、菊月だっぴょん! 遅かったぴょんね、残りは一隻ぴょ――」

 

未だ小破のル級を警戒しながらも、此方へ目線を向けて接近してくる卯月。その顔に浮かんでいるのは、いつも通りの明るい笑顔。菊月()はその卯月の笑顔の前を……素通りする。海面に片膝をつき、ずぶずぶと沈みゆく戦艦ル級へ向けて両足に力を込め、ぐんと加速し、

 

「――死にかけの怪物には確実に止めを刺す。それが、たとえどれだけの損傷だろうとな」

 

軋む全身を置き去りに、右腕に握った単装砲を乗馬槍のように突き出す。突き出す際に回転を加え、加速力を上乗せした一撃がル級の顔面を思い切り刺突した。鈍い衝撃。砲撃の反動などとは比べ物にならないほどの硬さを無理やりねじ伏せて、半開きの顎に砲身をねじ込んだ。

 

「沈め」

 

引き金を引く(トリガー)。装填された砲弾の尻が叩かれ、炸薬が弾け、一瞬で加速して吐き出される。生まれたての暴威を極至近距離で受けた深海棲艦の頭は、轟音と共に跡形もなく綺麗に吹き飛んだ。

 

「よし、残りは一匹だな。……卯月、どうした」

 

「何でもないっぴょん。ただ、菊月がどんどん野蛮になってく気がするだけっぴょん」

 

渋面を見せる卯月を横目にル級へと砲口を向ける。一瞬だけ怯んだ彼奴に生まれた隙を、姉妹達が突いた。放たれていた魚雷が彼奴の背後から迫り、その両足を吹き飛ばす。両足(船尾)を失い倒れ伏す身体は、続く第二派の雷撃で木端微塵に吹き飛んだ。

 

「対潜、対空警戒――は、不要か。電探にも反応なし、全員無事だな」

 

「ええ、みんな無事よ菊月ちゃん。――それにしても、ちょっと骨が折れたわ。まさか、鎮守府のこんなに近くにまで深海棲艦の大艦隊が迫ってきてるなんてね」

 

「ほとんどが弱い『前期型』の駆逐級だったとはいえ、総数は四十と数隻ですか。菊月お姉ちゃんがいてくれて、ほんとに助かりました」

 

「……まあ、この程度ならば相手をしているからな。だが、お前達にも早くここまでは来て欲しいのだが。……その、あまり一人だと寂しいからな」

 

『菊月』の想いの一端を口に出せば、背後から卯月が飛びかかってくる。それを受け止め頰ずりしながら、俺たちは一路鎮守府へ帰投する。

 

「ぷっぷくぷぅー、帰投したらプレゼントとケーキがあるっぴょん! あとあと、任務が終わって暇そうな何人かは来るって言ってたぴょんっ!」

 

「……今年は穏やかに済みそうだと思ったのだがな。だがまあ、こんな日も偶には良いか……」

 

進水日といえど、戦場に立つ艦娘にとってはただの一日に過ぎない。けれど、その一日を姉妹と仲間と一緒に過ごせることこそ、艦娘にとっての最高のプレゼントなのではないかと、菊月()は卯月の体温を感じながら思ったのだった。




この辺(前回の戦没日のと今回の)は本編よりちょっと先の時系列ですネ。本編は三月〜四月あたりです。
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