―追記―
7/11、後半を改訂しました。ご意見を下さった方、ありがとうございます!
――温泉旅行もこれで三日目。
「……で、神通? 次はどこを見に行くのだ……」
「そう、ですね。この辺りは温泉街ですが、文化遺産もあるようです。そこを見に行きませんか」
今日の夜を過ごせば、
かく言う
「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお――」
――なんとなく、こんな静けさは何時までも続くものではないのだろうと思っていた。
「……む、神通。何か声が聞こえなかったか?」
「――声、ですか? いえ……」
「ぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
聞こえない、と言いかけた神通が口を噤む。確かに二度目ははっきり聞こえた――というか最早声ではなく叫び声だとか咆哮だとか表現した方が良いような、そんな音波に僅かに肩を縮こまらせた。
背後から轟き少しずつ接近してくる、どこかで聞いたことのある、もう少し具体的に言えば仲間の一人の声。やっぱり静かになんて過ごせなかったか、などと諦め半分で神通と後ろを向き、その声の主を視界に収めれば、
「ぉぉぉぉおっしゃあああっ! 二人確保ーっ☆さあ旅館にゴーっ!!」
あたかもラリアットでも見舞うかのように首を引っ掛けられ、僅かの身長差と加速する勢いで宙に吊り下げられたまま運搬される
「――な、な、那珂ちゃんっ! 一体何がどうなっているのか説明してくれっ!!」
「そんなのあとあと! いっそいで面子集めなきゃなんだから、後でみんなに説明するよ!!」
そう言って登り坂を爆走する那珂。先程から
「よっし! 一応これだけ集めればじゅーぶんかな。はーい、みんな聞いてくださーい!」
そのまま運ばれ数分後、ようやく旅館に到着した
「これで十人、那珂ちゃん直々に見繕った精鋭が揃ったので説明をさせて頂きたいと思いまーす! えっと、まずはみんな思い思いに過ごしてるところを無理やり連れてきちゃってゴメンなさい!」
説明開始と同時に頭を下げた那珂。謝罪に対し構わないという声がどこかから掛けられると、彼女はその頭を上げた。お団子から伸びる髪が揺れる。
「うん、ありがとー。ゴメンなさい、ホントに悪いとは思ってます。けど、此処にいるみんなには聞いておこうと思って。――えっと、じゃあ改めて説明します。みんな、今日の晩御飯はちょっと遅い時間から大宴会場を借りてやるってことは知ってるよね?」
「ええ、それは提督のしおりにも記載されていますから。確か――最終日、本日だけは大宴会場で、他の市民の皆さんと一緒の席になるのでしたか」
神通の上げた声に、那珂が頷く。
「うん、ありがとう神通ちゃん。で、その晩御飯なんだけど、結構な宴会スタイルなんだ。だから――っていうか何ていうか、この旅館ではいつも、宴会の際には芸人さんや手品師さんを呼んで出し物をしてくれてるの。で、今回もそういう風に舞台がある筈だったんだけど……」
「……だけど、という事は何かあったのだな?」
「ざっつらいと、菊月ちゃん」
今度は俺の指摘に指をびしっと立てて首肯する那珂。その挙動の一つ一つが人を魅せるものなのは、やはり感嘆すべき点だろう。
「で、何が起こったのかを一言で述べると、深海棲艦が出たの。それも、ちょっと陸に近い位置でね。当然そんな位置に出現した深海棲艦なんて即座に沈められはしたんだけど、そこで、件の芸人さん達がこっちへ向かう道が寸断されちゃったんだって。当然陸路はそうなってるし、海路なんて以ての外でしょ? 結局舞台を請け負ってくれる人達も来れなくなったの。――で、それを受けて今朝、私がてーとくに呼ばれたんだ」
そう言うと、那珂は立てていた指を勢いよく振り下ろした。その人差し指が示す先にいた者は、誰あろう青葉。
「はい、ここで青葉ちゃんに質問です。今私は朝イチでてーとくに呼ばれたって言ったけど、それはどんな要請を受けてのことだったでしょうか? あ、ヒントだけど、そこに同席してたのは明石さんと大淀さんね」
「え、えぁ、青葉ですかっ!? うーん、えーっと――そうですね、那珂さんを態々呼んだわけですし、何か芸を――っ、もしかして」
「うん、正解。と言っても、本当はもう少し込み入ってたんだけどね。最初は案を聞くために舞台とかステージとかに詳しい那珂ちゃんが呼ばれたんだけど、結局立候補しちゃった。最もてーとく自身はこんな形で私達を使う気は無かったみたいだけど、私は私のために歌うことを決めたんだ」
提督は本当に申し訳なさそうにしてたし、出来ないなら出来ないで構わないって言ってたけどね。そんな風にあっけらかんと言う那珂の言葉に、会議室は水を打ったように静まり返った。その上で、更に那珂は口を開く。
「で、なんでこんな話でみんなを呼んだかって言うと、他に誰か有志は居ないかなって思ったから。――あっ、別に強制してる訳じゃないよっ!? 那珂ちゃんは那珂ちゃんとして、歌いたいから歌う。でも、みんなも曲を作るくらいステージが好きなのも知ってるし、機会だけは知らせとかなきゃって。なにより、流石の那珂ちゃんでも一人で残り一時間はツラいし、でも――」
――歌うことで旅館のみんなに恩返しできるなら、それは嬉しいことだし、と那珂は言った。
そこまでの話を聞いて周囲を見回してみると、やはりと言ったところか集められた面々は金剛だったり暁だったり、那珂ちゃんに――或いは
那珂がかき集めたそんな面子は、いつになく真面目な様子の彼女を前に考えを巡らせているようだった。
「……ふ、恩返し……か。それは良い。私は乗るぞ、那珂ちゃん。一緒にステージに立たせてくれ」
「――っ、ホントっ!? やったーっ、菊月ちゃんありがとーっ!」
「なに、最近は歌っていなかったからな。元々、深海棲艦の仕出かしたことの後始末ならば我々艦娘の仕事だろう? それに……人の為に存在する我々艦娘が、世話になったここの人達に恩を返さぬというのも収まりが悪いだろう」
脳裏に閃くのは陽炎の言葉と菊月の同意。そして、
「分かったよ、菊月ちゃん。じゃあ、言うね。――みんなにやって欲しいことは二つ。一つ、自分の持ち歌とダンスを自分のグループと一緒にステージで披露すること。もう一つ、ここに集まったメンバーは今すぐ
机の上に置かれていたビデオを手に取り、那珂が言う。
「質問、無いね!? よっし、それじゃあ任務――『鎮守府大宴会を成功させろ』、発令しますっ!」
こうして、
アイドルッ!!!!
やりますッ!!!!