私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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そう言えば頂いた感想が2,000件を越えておりました。
改めて、この作品は皆様からの応援によって成っているものなのだと実感しております。
これからも、どうか拙作を宜しくお願い致します。

それはそれとして菊月かわいいですね?秋だし体操着にブルマを履いた菊月が運動会してるのとか見たいですね?


第十一章
暗雲、その一


 深海棲艦と艦娘による戦争は、現在のところは艦娘側――否、艦娘を含めた人間側の方が優勢だ。二面作戦を含めた数々の大規模作戦の全てに勝利し、海域を奪還し、人類への被害も日に日に減少して行っている。艦娘の練度も向上し、多国間での演習も盛んになり、激戦区から程遠い国では深海棲艦を見ることすら少なくなったという。だが――

 

『――菊月、其方へ敵前衛艦隊が向かっています、気をつけて!』

「把握している。此方も既に迎撃準備は完了している、接近する敵戦力を撃滅し次第突っ込み、奥の陸上型を叩く。仕留めきれないだろうが……お前達へ任せ、私達は撃ち漏らした雑魚を片付けよう。それで良いな、大和?」

『はい、勿論です。姫級へのトドメは私達へ任せて下さい!』

「良し。――みな、聞いていたな? では、突撃開始だ……!」

 

 ――だが、それらは遠い海の向こうの話。激戦区である太平洋に面した俺達には、全く関係のない話だった。

 確かに深海棲艦の数は減少した――と、言われている。だが、実際に彼奴等と鉾を交える俺達にとっては南方海域を奪還しようが目の前の敵が減るわけではない。いや、むしろ南方から溢れた深海棲艦の残党が中部や北方へ流れている分叩くべき敵が多くなったとさえ言えるだろう。今回の作戦――またも発令された北方・中部海域攻略の二面作戦が、その証左だ。

 

「菊月、敵三! 小鬼が二で戦艦棲姫が一! 残りは地上の砲台と姫一匹だけど――」

「お前と夕立、そして吹雪で先行して地上の敵を叩いてくれ。目標は砲台の全滅、そして姫級の発艦場を潰すことだが、無理だけはするなよ……陽炎」

「分かったわ! でもま、無理なんてしないわよ。というか、こっちこそ大丈夫なの? どうせあんたが戦艦棲姫を相手にして、その間に小鬼を仕留めさせる気なんでしょうけど」

「私とて、彼奴を仕留める気は無いさ。腕の一本、砲のいくつかでも奪えば後は大和達に任せるさ。――さあ、そろそろ小鬼が来る。戦艦棲姫は押さえておく、お前達は早く行け……!」

「分かったわよ、任されたわ。それじゃ菊月、また後で!」

 

 此方へ一度だけ手を振った陽炎は、口元をニヤリと歪めながら艦隊の半数を率いて大回りに迂回し出す。そのルート上に敵は存在しないものの、彼女らの意図はすでに気付かれているだろう。だが、たとえそうだとしても対応出来なければ結果は同じ。故に、俺は無線のスイッチを入れて号令を出した。

 

「島風、神通! 見ての通りだ、これから私があの戦艦棲姫(デカブツ)に突撃して足止めをする! その間にお前達は小鬼の処理を頼む!」

『了解しました、菊月』

「彼奴等は群れていて数が多く、その上すばしこい。短時間で処理可能なのは技に秀でた神通と、速さに優れたお前だけだ。やってくれるな?」

『まっかせて! あんなちっさいのより、島風の方が速いんだから!』

「良し。それでは――行けっ!」

 

 号令を下すと同時に、俺の左右を駆け抜けてゆく二人。二人は小鬼の処理に関してはこの連合艦隊中の誰よりも秀でている、その仕事ぶりに心配は無いだろう。故に、残るは一つ。俺のやるべき仕事だけだ。

 

「さて……付き合ってもらうぞ、戦艦棲姫!」

 

 集中、屈伸、跳躍、加速。足の裏側に集めた推力が海面へ炸裂し、菊月()の身体を前方へと吹き飛ばす。そのまま二足、三足。一足ごとに加速し、乱戦中の二人と小鬼群の間を突っ切り――

 

「沈めっ!」

「ヌウ……ッ!」

 

 一閃。加速したまま腰から抜き打ちに放った一撃は、しかし戦艦棲姫の異形の艤装に阻まれた。そのまま繰り出される豪腕を跳び避け、返す刀がその表面を裂く。

 

「ふん、やはり柔いな……ッ!」

 

 上から、横から、下から、腕力よりも身体全体を使った斬撃を繰り出し斬りあげ薙ぎ払う。狙うは本体と、艤装の肉の部分。絶えず動き回りながら、しかし一刀ごとに腰を入れて繰り出す斬撃は風を断ち、青黒い彼奴等の体液を付着させながらも切れ味が落ちることはない。

一歩間違えれば一撃で大破判定を受けるであろう接近戦。そんな一歩向こうのスリルと格闘しながらも、俺の意識は()()()()から離れなかった。

 ――北方・中部二面迎撃作戦。現在展開されているこの作戦の名前だ。南方を失った深海棲艦のこの一斉攻勢は、南方を奪回する為の布石なのではないかという見立てがある。艦娘(おれ)達の中でも力ある主力を前線に釘付けにし、その隙に南方海域を急襲するのではという見立てだ。

 この作戦予想は理に適っている。そして、それ故に対策も既に取られている。現在の彼奴等の進撃は俺達を前線へ固定する為の布石だとするならば、あらゆる状況に対処可能な数の艦娘を鎮守府へ控えさせていれば良いだけの話。その分前線へ向かう俺達の負担は大きくなるが、それを見越して手厚い物資の供給が前線基地へは行われている。此方の作戦に穴はなく、敵の動きからしても主力を前線へ縛り付ける目的であるのは明白。何も心配は無い。

 そう、何も心配は無いはずなのだ。なのに――何故か、菊月(俺達)の心はざわめいている。しかもそれは未来に起こりうる何かへの不安ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのような、致命的な何かへのざわめきが――

 

「コノ、羽虫ガァァアッ!」

「……っ!」

 

 頬に鋭い痛みが走った。見れば、憤怒の形相を浮かべた戦艦棲姫が、艤装ではなくその本体の腕を此方へ伸ばしている。おおよそ駆逐艦一隻すら沈められないことに怒り狂い、冷静さを失ったのだろう。

こうなればもう、話は早い。『足止めに徹する』必要も無くなった。怒りに任せ雄叫びを上げながら掴み掛かってくる戦艦棲姫を見つめる。冷静であった時よりも凄味と圧力を増した彼奴は、しかし最早菊月()の敵ではなく、

 

「……お前はわりと、弱い姫だったな」

「アァァァアアァア……ア、ガアッ!?」

 

 繰り出す爪を掻い潜り、刺し抉るように刀を閃かせる。それだけで、彼奴の首は身体から離れぼとりと海面下に没していった。首から噴き出す体液(オイル)を避けるように跳び退き、沈み行く残骸に一礼。そのまま振り返らずに、菊月()は仲間が戦っている陸上型の姫の元へと舵を取る。菊月()の背部艤装に装着されたWG42(ロケラン)があれば、更なる打撃が狙えるだろう。

 

「……波も風も、可笑しな所は無い。だが――気を付けておくに越したことは無いだろうな」

 

 晴れ渡り澄み切った空。そこに蔓延しゆく暗雲の幻影を見ながら――俺は被りを振り、俺は駆け出したのだった。




菊月かわいい。

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