私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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前回、姉妹達がわいわいしてる時のBGMがほんわかしたものだとするなら、今回菊月が単独行動してる時のBGMは『特攻野郎Aチーム』のテーマ。

八割ぐらい菊月ソロで文章書きましたが、とても楽しかったです。


菊月(偽)達とショッピング、その三

洋服屋から出た後は、変わらず三日月に手を引かれレストランへ向かう。今の服は、いつもの制服……ではなく、先程購入した白いワンピースである。出来ればパンツルックを着たいと抗議はしたのだが、これも強引に押し切られた形となった。その上からコートを羽織ってはいるが、一見では菊月()と三日月がお揃いを着ているように見えてしまう。おまけに、三日月がこうもくっ付いてくれば尚更だ。

 

わいわいと姉妹で昼食を済ませれば、午後からは各人自由行動になるそうだ。これを機に着替えたいところだが、着てきた制服を含め残りの購入した服は鎮守府へ送られてしまっている。

 

「じゃあ、ヒトナナマルマルにここにもう一度集合ね。解散〜っ」

 

如月の言葉に、各々好きな方向へ歩き出す。やはりと言うべきか、三日月は菊月()に着いて来たがっていたが、好きに行動して良いと諭すと渋々離れていった。

 

「……三日月などが付いて来たところで、楽しめぬだろうからな……さて、まずはアレを買いに行くか……」

 

買いたいものが明確で、なおかつ可愛らしい服でないとなると歩みも進む。ただ、菊月()の身体は小さいため急ぐとどうしてもスキップしているようになってしまうのが難点だ。

 

「……うむ、ここか。成程、中々良い品揃えだ……」

 

目当ての店に入り、商品を見渡す。最初に買いに来たのはウェストポーチ。少し大きく無骨な、ちょうど制服に合うようなそれを探す。必然的に低い位置の物に目が行きがちになるが、少々無理をして上の方の品物も確認する。

 

「……おお、あれなど良いではないか……!」

 

見回し、商品棚の一番上に見つけたのは深草色で生地の厚いウェストポーチ。容量も見た限りでは充分そうで、何より『菊月』に映えそうだ。早速手に取ろうとするが、高すぎて手が届かない。近くに置いてあった休憩用の椅子を持ってきて、靴を脱いで登って更に背伸びをしても届かない。数分間商品棚と奮闘した挙句諦め、店員さんに取ってもらった。

 

「……礼は言わぬ……あ、いやそれはいかんな。……うむ、ありがとう……」

 

店員さんはやたら微笑ましげに此方を見てくるが、それも致し方無いだろう。同じ状況の菊月を見れば、俺だってそうなるだろうからだ。

 

「……また強くなってしまった……!!」

 

思わず漏れる言葉とドヤ顔(快心の笑み)を抑えられないまま、購入したウェストポーチを早速身に付ける。鏡で確認したが、真っ白な髪と、ワンピースを着た美幼女がゴッツいウェストポーチを身に付けているのは中々にアンバランスだ。

 

「……ふふ、では次に向かうか……!」

 

しかし、『菊月』にはそのアンバランスさも魅力である。足取り軽く次の店へ向かう。近くのショッピングモールに入り、百円のライターとライターオイルを沢山購入しウェストポーチに詰める。そのままショッピングモール内の手芸用品店へ入り、裁縫道具一式を購入しそれもウェストポーチへ。その後は釣具屋へ行き、釣り針と釣り糸を少し。全部整頓し、綺麗にウェストポーチへ詰め終わる。

 

言わずもがな、任務や遠征で何が起こっても良いような備えである。補給・活動の諸物資が揃い、『菊月』も満足しているようだ。釣具屋へ寄った時など、『お嬢ちゃん、お使いかい?偉いねぇ』なんて言葉と共に可愛らしい疑似餌も頂いた。想定外の戦果(遠征は大成功)に、『俺』も『菊月』もホクホク顔である。

神通教官達にも菓子の詰め合わせを土産で買い、買おうと思っていたものは全て買い尽くした。時計を見ればまだ四時少し前である。

 

「……しかし、時間が余ってしまったな……。少し早いが、まあ良い。戻るか……」

 

―――――――――――――――――――――――

 

陽が長くなっては来たものの、この時間になれば人通りは少なくなってくる。そんな通りに何もせず突っ立っていると、後ろから誰かに抱き着かれた。普段ならば卯月なのだが、今日に限っては―――

 

「……三日月、か。なんだ、随分と早いな……」

 

「早いのは菊月お姉ちゃんもですっ。一人で立ってたから、何があったのかと急いでしまいましたよっ」

 

見れば、確かに息を切らしている。それに、少し逡巡しているような、何か聞きたいような雰囲気をしている。振り返り、僅かに表情の変わる三日月の顔を眺めて彼女が言葉を発するのを待つ。

 

「あのっ!菊月お姉ちゃん、ええと。―――今日は、楽しかったですか?」

 

「………?何故だ、楽しかったに決まっている……」

 

少し緊張気味に三日月が尋ねてくる。勿論楽しかったに決まっているが、何故尋ねてきたのか分からずに答えた後黙っていると、三日月がゆっくりと続ける。

 

「―――良かった。菊月お姉ちゃん、いつも、訓練や遠征、海戦を楽しそうにしています。他に何があっても、それが一番楽しそうなんです。だから、もしかしたら今日も楽しく無かったんじゃないか、訓練してたかったんじゃないかって」

 

どうやら、『菊月(俺達)』は目の前の小さな妹に大きな心配をかけていたようだ。真面目な三日月だと言っても、そう、『俺』からすればまだ『小さい』のだ。気を回してくれるのに甘えていてはいけない。戦う事だけが『菊月』の喜びだと思わせていたなら、菊月()が沈んでしまうかも、とすら思わせていたかも知れない。

 

「……三日月」

 

「っ!は、ひゃいっ!」

 

目の前の、小さな優しい菊月()の妹に向き直る。兄貴()として、姉貴(菊月)として、兄姉が妹をあやすように三日月を抱き締める。

 

「……迷惑をかける。……今日は楽しかった、此処へ来てから一番楽しかった」

 

「ふわぁっ!?―――えへへ、なら、良かったです」

 

三日月の顔に、今日一番の笑顔が浮かぶ。―――うむ。守りたい、この笑顔。冗談でも何でもなく、二度と三日月を心配させてはいけないと強く思う。いや、三日月だけではない。如月、卯月、長月。彼女達も同じ、心配させたくない。

 

―――たとえ、物陰からニヤニヤと笑いながら見物しているような姉妹達であろうと。

 

この後、鎮守府まで散々からかわれながら帰ったこと、神通教官に土産を渡すついでに彼女達の明日の訓練を申請しておいたことは言うまでもないだろう。

 




どう見ても兄弟愛、姉妹愛。

とりあえず収拾はついたので、次回は近接武器回かなあ。

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