私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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大和無双はっじまっるよー。

あと、それとですね。
菊月保存会様が、駆逐艦菊月の第一煙突の一部を無事帰還させ、保存処理を終えた(らしい)と伺いました。やべえ。やべえ。
保存会様はすごく尽力されておられるので、私も頑張らねば……書くくらいしかできませんけどね!
皆さんも私のなんかを読むよりもまず保存会様の応援にゴー!!


『大和』、下

 ――海を蹴る。直後感じたものは、圧倒的な風と加速感。周囲に速度の指標となる構造物が殆ど無くとも感じられる、尋常でない速度。こんな速度の中、彼と彼女はそれを使い熟し敵に挑んでいたのかと今更ながらに驚愕する。

けれど、驚愕してばかりでもいられない。私は、戦艦『大和』だ。彼と彼女のを見下すつもりなどかけらもないが、それでも彼らに出来ることを私が出来ないと言うことは出来ない。『大和』として。

 浮遊感を感じる。どうやら海を蹴ると同時に、少しばかり空へ浮いたようだ。まあ――駆逐艦とは比較にならない私の馬力。それを以て海を蹴ったのだからさもありなんと言うところか。飛んで跳んで高くなった目線から、遥か遠くに仲間たちが見える。傷つき、力失い、しかし懸命に立ち続ける仲間たち。その中には、『菊月』に影響された者たちの姿も散見された。例えば――那珂とか、青葉とか。

 救わねばならない。いや、義務ではない。これは私の望み。だから、救いたいと言わねばならない。その想いを込めて、着水と同時に再度海を蹴る。今度はきちんと前へ。膨大な推力をきちんと伝達し、猛進し、同時に右手に力を込める。握り拳。狙うは、艦隊の旗艦である金剛を狙う影――戦艦レ級。

 レ級は、一目見た限りでも十以上確認できる。絶望的、とすら言える数だ。だが、それに相対しても仲間たちの士気は衰えない。……全く、いい仲間たちだと独りごちる。だからこそ、沈ませる訳にはいかない。せめて、彼女らだけでも。

 

「そこを――」

 

 握り込む拳に力が満ちる。全身の燐光(キラキラ)が輝きを増す。閃光を棚引かせ、私はついに戦場へ降り立つ。そのまま振り下ろすは、振り被った右腕――

 

「――退きなさいッ……!!!!」

 

 手応えは感じなかった。

 全力で振り抜いた右腕は、私の登場に呆然とするレ級に迫った。しかし彼奴もさるもの、その強靭な尾を自らの防御に回した。回した、のに、それは全く意味を成さなかった。

 風圧と、何かが弾ける感触。私の右腕が通過したそこに、レ級は――レ級の上半身は抉れ、ひしゃげ、砕けて粉々になっていた。残ったのはただ名残として、海面に立ち続ける下半身のみ。一陣の風とともにそれが海面下に没すると同時に、戦場に満ちていた喧騒は収まる。

 

「――よく、頑張ってくれました」

 

 口をついて出たのは、紛れも無い本心。

 

「我が名は大和。戦艦大和――ここは、私に任せて下さい」

 

 そう言うと同時に、私は装備する全艤装から砲弾を放った。

 私の意思を汲み取ったかのように、砲弾は敵へと向かって行く。その先に有るのは駆逐艦であり、戦艦であり、空母であり、そして鬼、姫であった。

 私の砲撃は一撃必殺。けれど、空母や鬼、姫が沈む様子はない。山のように湧き出す駆逐艦が、その身を盾とすることで砲撃を防いだからだ。舌打ちはしないものの、焦りはある。何せ、私の弾薬は残り少ないのだから――尤も、後悔はしていないが。背に庇った、ほぼ沈みかけの金剛へ意識を遣りつつそう思う。

 

「っ、大和――? 全く、私の悪運も捨てたものじゃないネ。Thanks、お陰で助かりマシタ」

「構いません、金剛。私達は仲間なのです。それに――正直、これだけの数をこれだけの味方でよく抑えられたと感心しています」

 

 視界に映るは黒、黒、黒。どれもみな、深海棲艦だ。その奥に座するであろう姫級――報告では集積地棲姫が三隻――の姿など、影すら見えない。

 

「そう言って貰えると幸いネー。これでも、結構無茶したんだからネ」

「ええ、分かります。だから――さっきも言いましたが、此処からは私に任せて下さい」

「っ――何か、作戦が?」

「そんな大層なものではありません。私が、あれら軍勢の核となっている姫級三隻を沈めます。その隙を突いて、あなたたちは撤退を。傷を癒してから、また援護に来て下さい」

「What!? そんなの、認められる筈が無いネ! 要するに、一人で囮になるってコトでショウ!?」

「似てはいます。ただ」

「ただも何も無いデース! 大和、あなたを囮に、見殺しにするなんて出来るはずが――ッ!?」

 

 金剛の言葉を聞きながら、私は無造作に歩き出した。離れる積りだから無線のスイッチをオン。海を蹴るでもなく、滑るでもなく。ただ、深海棲艦へ向けて歩いて行く。

 無論、奴らも動き始めた私に目標を定めた。生き残った空母や姫級から艦載機が飛ばされ、海上艦が砲門を此方へ向け、静まり返っていた海に轟音が次々に響き渡る。

 

『――と、大和――』

 

 無線から聞こえる金剛の声。だいぶ慌てているようだ。無理もない、何も説明していないのだから。――けどまあ、これに関しては百聞は一見にしかずというやつだ。見て貰った方が早い。

 迫る砲弾が至近弾として着水する。艦載機の落とす雷撃が水柱を上げる。その中で、一つの砲弾が私の胸へ命中した。弾けるそれと、撒き散らされる鉄の破片。熱が肌を焼く。

 続く二弾目は私の額に直撃した。炎をあげるとともに、視界が真っ赤に染まる。流石に肌が裂け、血が流れた。

 それでも。

 

『や――大和――?』

 

 それでも、私の歩みは止まらない。ゆっくりゆっくり、鉄と炎の雨の中を、姫級の一体へ向けて歩いてゆく。

 額に直撃。肩に直撃。腹に直撃。両足に直撃。――ダメージ軽微。どれほどの攻撃も、私のたった一歩を止めることすら不可能だ。

 そのうちに、背後の仲間達へ照準を向けるものも現れる。艦載機だ。現れると同時に――私は、飛来した砲弾を掴み、握り砕き、その破片を空を行くそれらへ向けて投擲する。散弾銃の弾のごとく拡散したそれは、纏まって艦載機を撃ち落とす。それを確認すれば、私は腹から咆哮した。

 

「――どこを、狙っているのですッ!!」

 

 彼奴等の抱える感情は恨みや憎しみ、妬みに後悔――負の感情。だが、その一端ならば私にも理解できる。なんせ『大和』は、仲間を守れなかった後悔を糧に戦うのだから。

 

「目の前に存在する、たった一隻(ひとり)。格好の的から照準を逸らし、どこを狙うと言うのです! あなた達の抱えるものは、その程度だと言うのですかッ!!」

 

 砲弾が、何度目かも分からない額への命中。しかし、私の頭は微塵たりとも後ろに逸らされることがない。ただただ真っ直ぐに、深海棲艦を睨み続ける。睨み続け、砲弾の破片を投げ続ける。それだけで、彼奴等は崩折れ沈んで行く。

 

「あなた達が真っ先に狙うべきは、此処にいるッ! 我が名は大和、戦艦大和! 戦艦の象徴にして、この国の名を冠した戦艦だ! あなた達がこの国を、その民を滅ぼさんとするならばッ!」

 

 胸へ目掛けて飛んできた砲弾を殴り返す。手元で爆散したその破片が、私の道行を拓く。集積地棲姫、その一体目。いつか聞いた、菊月が相手取った飛行場姫――その一戦目と同じように、海面に屑鉄と錆鉄で己の領土(しま)を生み出したそれが、目の前にいる。

 

「――この私を沈めてからにすることですッ! 私が健在である限り、これ以上の侵攻は不可能と知りなさいッ!!」

 

 両足に力を込め、海を蹴る。生み出される推力のまま突貫。進路状に現れた深海棲艦は、全て私に触れるだけでひしゃげ捻じ曲がってゆく。それはまるで、トラックに轢かれた人のように。

 海から錆鉄の島へ乗り上げると、攻撃は一層激しさを増した。火の海とは、私を取り巻く今のことを言うのだろう。それを私は一瞥し、おもむろに右脚を振り上げ――力いっぱい振り下ろす。

 錆鉄の島が、私の足元を起点にへし折れ、砕け、ばらばらに解けてゆく。島の中央に座していた集積地棲姫は、その衝撃に此方へ飛ばされてくる。それを眺めつつ、私は近くにいた駆逐イ級の背に片腕を突き込んだ。背骨(竜骨)を鷲掴みにし、力尽くで引き抜く。黒い体液(オイル)が滴ったままのそれをいつか(飛行場姫)の大剣のように、呆然と落ちてくる集積地棲姫へ向けて振り抜く。

 

「ア、アガ、ガ――」

「まずは一つ。けれど、これだけでは無いのでしょう――さあ、金剛。今のうちです。撤退し、身体を癒し、できるだけ早く応援に来て下さい。それまでは保たせますから」

 

 上半身と下半身が乱雑に分かたれ沈む集積地棲姫を一瞥すれば、私はもう一度右脚を振り上げ、振り下ろす。海に走る衝撃が海面下の深海棲艦に伝播し、その頭蓋を揺らし浮上させる。それらへ狙いを付けつつ、イ級の背骨を二つに引き千切る。

 

「私は大和、戦艦大和。あなた達深海棲艦に少しの気概でも有るのならば――大和(この国)を、沈めてご覧なさい」

 

 全砲門を開き、両手の骨を投擲し、向けられる砲弾を掴み砕き投げ返し――周囲に爆炎を撒き散らし、黒い影どもを沈め畏れさせ、たった一人立ち続ける。

 向こうに見えるは第二波、第三波。この分では、一週間はこのまま立ち続けることになるだろうか。

まあ、でも――

 

「――運が、無かったですね」

 

 私の、大和の前に立つなんて。

 彼女の言葉を借りつつそう呟き、私は永い戦いに臨むのだった。




次は一週間後の菊月(偽)が目覚めたところからかな!

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