菊月保存会様応援!
菊月保存会様応援!
大和の一撃で包囲が崩れた一角、その穴へ向けて駆ける。被弾した右脚は膝から下の感覚がほぼ無いが、『菊月』がきちんと動いていることを伝えてくれている。その声を信じ、続く左足を繰り出し大きく前へ――跳んだ瞬間、行かせんとばかりに深海棲艦どもが行く手を塞ぎにかかる。先程までの重厚な包囲に比べればまばらなものだが、それでも片足を損傷している
「――だがなっ! 私も、止められる訳には行かぬのだ……!」
立ち塞がるのは軽巡級、重巡級。そのどれもが
……足は止めない。止めれば、右膝から崩れ落ちてしまうだろうと言うことが分かっているからだ。故に、
衝撃と閃光、圧倒的な熱と痛み。視界が明滅し、ふらりと体幹が揺れ、思わず気を失いかけた瞬間――
――痛みは私が引き受ける。動かぬ身体も私が動かす。だから、お前は前へ進め――
頭の中で声が聞こえ、気がつくと
視界の半分が真っ赤に染まる程の損傷を受けながら、
頭部を失いぐらりと崩折れるツ級――を認識した瞬間、またも身体が動き出す。次々に撃ち込まれる砲撃の嵐を掻い潜りながら、海面を滑る
「オナジナノヨ……ナンド、タチアガッテモ……!」
海の奥から聞こえる、腹の底から魂を凍えさせるような声。鎮守府の真正面に建設された瓦礫の島の頂上に腰掛け、彼奴――泊地水鬼は此方を睥睨し、
「カンムス――シズメッ!!」
片手を振り下ろす。瞬間、島のあちこちから瓦礫が立ち上り、それらは丸い艦載機と化す。見る限りその全ては艦爆である。あるが、種類など今の
そう言えば、初めてリコリスと戦った時も苦戦させられた。あの時は『菊月』の残骸が瓦礫島の形成に使われていた、激昂もした――などと考えつつも、身体は前へと進んでゆく。全く慣れた風に艦載機からの爆撃を回避し海上を滑る様は、『俺』のような激しさこそ無いものの堅実かつ安定した戦い方を思わせる。
「……っ!」
歯を食いしばりながら
せめてとばかりに僅かに残った魚雷を上空へ放り投げ撃ち抜き、対空攻撃を繰り返す。そんなジリ貧の中、俺は背筋に嫌な予感を感じた。
「――跳ぶぞ、『菊月』ッ!」
戦場全てへ響き渡る程の声を捻り出し、その機に乗じて無理やり身体を動かした。
途端に全身に襲いくる激痛。割れるように痛む頭、焼けた鉄の棒に変じたかのように熱を持った骨。右足の感覚はとうに消え失せ、全身の傷が身体を締め付けているようだ。今まで俯瞰していた筈の戦場が一気に狭まり、正面しか見えなくなっている。
しかし――やらなくてはならない。身体を動かした途端にこの痛みを感じたと言うことは、その痛みを今まで肩代わりして貰っていたと言うことだ。即ち――『俺』は、『菊月』に痛みだけを押し付け、のうのうと戦場を眺めながら刀を振るっていただけだと言うことだ。
情けないにも程がある。格好悪いにも程がある。望んで飛び出しておきながら、嫌なところだけを代わって貰っていただなんて。
彼女は戦ってくれた。ならば、その奮闘に報いないで何が『菊月大好き』だ……!
「――ッ、ぐぁ、ぁぁぁあああああッ!!」
身体の主導権を握り、痛みを認識した次の瞬間――直感した通りに、海面下から鋭く尖った錆鉄の塊が突き出してくる。それは艦娘からの砲雷撃の盾となり、艦娘の死角を突く矛となる代物。かつて飛行場姫が好んで繰り出したそれ。
飛び出した鉄塊に脚の肌を裂かれつつ、身体を貫く衝撃を受けつつ。その一撃の勢いを利用し、両脚に溜めていた推力を鉄塊に叩き付け、
錆鉄が粉々に砕ける音とともに、
「――コノ、コノカンムスフゼイガ……!」
「おおぉぉおおああぁぁぁぁあぁぁあッ!!」
滑空、肉薄。憎しみに染まる彼奴の真紅の視線と、
「――くうっ!」
左斜め下から逆袈裟に一閃。斬り上げる一撃は、しかし彼奴を仕留めるには一歩及ばない。
一撃で力を使い果たした
「――ハ、ハハハ、アハハハハ……! ムダヨ、ムダナノヨ……!」
驚愕と恐怖の表情から一転、喜悦に白い顔を歪ませ背部の砲塔を横たわる
確かにまあ、側から見ればこの状況は絶体絶命だろう。
「オワリナノヨ、アナタハ……! サア、シズミナサイ……!」
――ところで。『俺』は跳ぶ寸前まで戦場を俯瞰していた。今となっては恐らくその視点は『菊月』のものだと理解してはいるが、戦場を把握出来ていた事に変わりはない。
だから知っているのだ。俺の後方で姉妹達が艦載機を迎撃してくれていた事も、傷つきながらも
「――ああ、貴様は」
――
「ハハハ、ハハ――ハ、ア?」
「沈めぇぇぇぇええぇぇえぇえぇえっ!!!」
戦艦大和。
血を流し、息を荒げ、それでも十五万馬力の跳躍力で跳ね上がった彼女が中空で掴み、その膂力で振り下ろす『月光』。
唐竹に振り下ろされるその一刀は、違わず泊地水鬼を、その艤装を、纏めて縦一文字に両断し――急拵えの錆鉄の島すら、真っ二つに断ち割った。
「……言ってやれ、大和」
「ええ。泊地水鬼――『運が、無かったな』」
その言葉を皮切りに、島が崩壊し沈んでゆく。泊地水鬼の亡骸もまた、その崩壊に巻き込まれて海の藻屑と消えゆくだろう。
大和はどうやら気が抜けたようだ。一撃を最後にへたり込んだ彼女を支えれば、恥ずかしげに顔を赤らめる。
「――ありがとう、大和」
菊月の
バニーガール姿とか
見て見たくありませんか
でぃむ(字余り)