私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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どうにかギリギリ間に合いました。

ギリギリになったにも関わらず導入回なので殆ど進展がありません。本格的な修行は次話からですね。


菊月(偽)と接近戦、その一

深海棲艦()の砲弾を躱し、潜り抜け、お返しに此方も砲を放つ。風を切る砲弾はそのまま真っ直ぐに敵の眉間を撃ち抜く。次いでもう二発発砲、命中するが轟沈させるには至らない。

 

「……くうっ!」

 

そのうち片方、駆逐ハ級が牙を剥き此方へ突進して来る。ぴくり、と身体が動くもそれを押し留め、後退しながら砲撃を続けるが埒が空かない。

 

「本当ならばその単眼、突き刺し抉り抜いてやりたいのだがな……!」

 

ナイフの一本でもあれば、と昔と真逆のことを考え、頭を振る。戦闘中に雑念を混ぜると教官達に怒られる、とりあえずナイフのことは捨て置き、足首の艤装から魚雷を放つ。

 

「……運が悪かったな……」

 

外れる訳もなく、容易くハ級は海の藻屑へと消える。今のが最後の深海棲艦のようだ、完全に沈んだことを確認すればさっさと踵を返し、仲間と合流する。ハ級ごときに雷撃をしたことが不満な点だが、これで遠征も終わり。資源を鎮守府に届けに戻ろう。

 

―――――――――――――――――――――――

 

海戦を終えて帰投し、汗を流し夕食を摂り自由時間を迎える。本日の遠征も成功を収め、途中で遭遇した深海棲艦にも殆ど苦労することは無かった。しかし、足りない。菊月()が取り回しの良い駆逐艦だと言うことを差し引いてなお、極至近距離での手の内が足りないのだ。

 

「―――はあ。要するに、その至近距離での脆さをカバーする艤装が欲しい、ということですか」

 

「うむ。話が早くて助かる……」

 

「話が早い、って。こんな時間に私を小一時間拘束した(ひと)の言葉じゃ無いですけどね」

 

極至近距離での継戦、平たく言えば白兵戦力の足りなさに気付いた俺は居ても立ってもいられずに明石の工廠へと駆け込んだ。とっくに消灯時間は回っている、夜番に見つかれば少々面倒かも知れないが、嘗てナイフで海を渡り歩いた菊月()には躊躇う理由など無かった。

 

「まあ、おっしゃってる事は確かですからね。特に菊月さんなんかは気になるでしょうし。モデルは詳しく聞いてませんですけど、天龍型のお二人が持っているような物で構わないですか?」

 

「ああ。……だが、私に長物は過ぎるからな。天龍さんや伊勢型の二人の持っているような刀や、ナイフなんかだと有難い…」

 

「分かりました!少々時間は頂きますが、完成させて見せます!ですが、ちゃんとした物を扱うんですからきちんと訓練はして下さいよ?」

 

「……うむ、心得た。私も我流でしか無いしな……」

 

それから明石と二言三言交わし、耐水加工を依頼したウェストポーチ、同じく依頼しておいた緊急用のファイヤスターターを受け取り礼をして部屋を出る。

明石に言われた通り、間に合わせでないきちんとした刃物を扱うのなら訓練は必須だろう。生憎伝手など無い身、神通教官たちを頼りたいところだがこの時間に押しかけてはいけないだろう。川内教官ならまだしも、神通教官は時間に厳しいからだ。

 

「そうだな、明日の遠征が終わり次第教官達に相談するか……」

 

誰に言うでも無く漏らした言葉と、次いで出た欠伸が誰も居ない廊下に響く。欠伸が漏れるほどなら、どちらにせよ帰った方が良い。明日も遠征があるのだから。足音を殺しながら、俺は自分達の部屋へと戻った。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「―――うーん、接近戦の心得ですか。残念ですが、私には務まりそうにありませんね。川内姉さんはどうですか?」

 

「私も神通と同じ。夜戦でなら誰よりも接近して雷撃する自信があるけど格闘とかそう言うのは向かないわ」

 

遠征から帰り、入渠と補給を手早く済ませ教官達のもとを訪ねる。今日の遠征でも深海棲艦と交戦し、やはり気になってしまった。わざわざ接近してくる駆逐艦イロハ級や艦載機を出し終わった後のヌ級などに、弾を使うのは勿体無い。

 

「そうですね、菊月。やっぱり得意としていそうな艦に話を聞くべきでは無いですか?話に上がった天龍型なら刀を持っているでしょう」

 

「やはりそうですか。……実は、龍田さんとは面識があるのですが天龍さんとは面識が無いのです。失礼では、無いでしょうか……」

 

「あー、確かに天龍型はあなたたち睦月型と遠征に出ることは少ないわよね。たまに龍田と組むぐらいか。まあ、大丈夫でしょ!天龍はそんなこと気にしないわ」

 

「そうですね、彼女達はどちらも優しい艦ですから。あっ、あとは木曽も刀を持っていましたね。天龍型と同じく彼女も面倒見が良いですから、彼女に頼んでも良いかもしれませんよ、菊月」

 

両教官の言葉に頷き、彼女達の部屋を聞く。教官と同じ軽巡だから宿舎も同じで、部屋もすぐ近くらしい。あまり遅くなっては迷惑だろうと思い、早速向かうことにする。俺は、頑張りなさいという神通の声を聞きながら退室した。

 

向かうべくは―――天龍型の部屋。やはり、龍田という顔見知りがいるからだ。いくら相手が気にしないだろうと言っても、何も考えないで良い訳ではない。

 

そんなことを考えつつ、目当ての部屋の前へ到着する。ノックをすれば帰ってくる龍田の声に、名前と要件を告げる。さほど時間も要さずにドアを開けてくれた。

 

「あら〜、菊月ちゃんじゃない。珍しいわね〜、天龍ちゃんに御用なの〜?」

 

「……その通りだ、龍田さん。済まないが、天龍さんを呼んでくれるか……?」

 

扉を開けて出てきた龍田と少し話し、天龍を呼んでもらう。程無くして、彼女はやって来た。駆逐艦とは違う成熟した身体つきに、黒い衣服。頭には謎の耳のようなものが付いており、更に片目に眼帯をしている。

 

「―――なんだ、誰かと思えば駆逐艦じゃねえか。オレは天龍、初めまして、だよな?」

 

「……ああ。睦月型駆逐艦九番艦、菊月だ」

 

金の目を持つ彼女、天龍と見える。『俺』の知る限りではなんだかんだとお人好しの彼女だが、同時にまどろっこしいのは嫌いな筈だ。ぐちゃぐちゃと理由を並べ立てたところで意味は無いだろう、ならば正面から押し通るのみ。

 

「……率直に言う。天龍さん、私に剣を教えてくれないか……?」

 




後書きを書いてる最中に日を跨いだという不覚。

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