性懲りも無く戻ってきました。
近況やらの詳しいことはいずれ活動報告に書くとしてら
――菊月、お誕生日おめでとう!
雨が強く降っている。横殴りの風、逆巻く波、水平線には遠雷が見える。
耳を覆いたくなるような騒音。水音、風音――しかし、それらを掻き消して余るほどの、けたたましい轟音。真横スレスレのところに着弾した大口径砲弾が炸裂し、
「――っ、う!」
『菊月さん、限界以上の無茶は禁物ですよ! 退いても文句は言われませんっ』
無線から響く青葉の声。……無茶をしている、という自覚はある。駆逐艦娘であるが故の低燃費・高速修復を活かして出撃を繰り返している
「承知した、青葉はそちらの指揮を頼む。私はこの通り突撃中だ、指揮など取れそうにもないから――なッ!!」
『分かってますけどぉ! こちらだって全て沈められる訳じゃないんですからね!』
「信頼しているからな……!!」
錐揉みしながら着水。態勢を整え跳躍前進。砲火を掻い潜り、上空だけに目を向けて突撃。『月光』を振り、飛来する銃弾を斬り払う。落ちる弾骸、雨に烟る水面下は気にしない――気にしないだけの理由はある。それは仲間への信頼であり、己の磨き上げた技への自負である。そして、もう一つが、
『そちらは大丈夫にゃしぃ、如月ちゃん!?』
『ええ、大丈夫――第二対潜部隊、所属
『こっちも問題ないにゃし! では――行くのです!』
――海防艦。先の大損害が堪えたか、新たに出現した艦種の艦娘。燃費に優れ、対潜能力に長け、的確に運用するのならば守勢に活躍が期待されるそれら。
『それにしても――ッ、キツいわね。菊月ちゃんがこんな所でずっと戦っていたなんて、くうっ!』
走るノイズ、響く鋼鉄音。がぁん、というそれは、砲撃を防いだ如月の盾の音だろう。それ以外にも、腰に提げた複数の無線からいくつも声が飛び込んでくる。それは姉妹のものであったり、仲間のものであったり、あるいは
「邪魔だ……退けっ!」
「ガァッ、シロイ、キサマ――」
懐へ飛び込んで首筋に一閃。ごとりと落ちるヲ級éliteの頭を蹴上げ、砲弾の盾へ。その下を掻い潜り、目前へ迫るは重巡、軽巡、雷巡艦隊。こちらへ集中する無数の砲が、魚雷が、ごとりと重々しい音を立てた。
「その程度で、私を――」
砲口が光る。瞬間、
水柱へ突っ込む。黒さの増す制服、顔に張り付く髪を掻き揚げて両脚に力を込めた――跳躍、跳躍。ぶわりと噴き出す真紅の気焔を置き去りに、俺は真っ直ぐに加速した。
「シズメ、シズメシズメ、シズメェ……ッ!」
「――止められると思うかッ!!」
半透明な壁の向こう、拓けた視界に飛び込んでくる砲弾。考えたことは向こうも同じか、
背に纏う黒い
故に突貫。マントの燃え滓を浴びながら、両腰から引き抜いた短斧を投擲。一つ、二つ、三つ、四つ、重い風切り音を立てて飛翔したそれらは、行く手を阻むツ級、ネ級、チ級どもの頭を仮面ごと砕き断つ。
「こ、こだ……ッ!! 行けぇぇえっ!」
その間隙を縫うように、
それでも、止まらない。顔の血を拭いつつ、敵旗艦――見覚えのない『鬼』級の頭へ向けて、腰から軍刀を引き抜き一閃した。修繕中の『月光』とはまた別の、量産された兵装としてのそれは、果たしてその役目通りに鬼の胸、首、顔を縦一文字に斬り裂いた。
「これで一隻――残り一隻ッ!」
斬り裂いた鬼の胴に、背部艤装から取り外した手斧を振り下ろす。胴に二度、引き抜いて頭に一度、噴出する青黒い
「こちら菊月。予定通り後部艦隊の旗艦を撃滅した! これより、想定通り第一艦隊と交戦中の――敵中核連合艦隊へ突貫するッ!」
一息で以って交戦中の全艦隊へ。簡潔に目的を伝えて、俺は大きく取舵を取った。敢行するは、今回の作戦の――あるいは、ここ最近の作戦すべての根幹となる一撃だ。
増え続ける深海棲艦を撃滅するために、現在の手勢で行う作戦。駆逐艦、海防艦、軽巡洋艦や軽空母で敵艦隊周囲の随伴艦隊の露払いをし、主力である第一部隊を正面からぶつける。そして、その全てを囮とし、
こんな無茶を、何度も繰り返してきた。それを推したのは俺と『菊月』。友のため、仲間のために戦えるのなら、と頷いて。今回など流石に対策され、敵の後方にもう一隻鬼を配置され――それでも、
「お、ォォオォォオォオォォ――っ!!」
金色の焔が全身から溢れる。収束した推力が足裏で爆ぜる。水面を踏み抜き、波間を駆け抜け、抜いたままの軍刀を脇構えに構えて。水平線の彼方、豆粒のようだった敵旗艦――姫級深海棲艦がみるみるうちに近づいてくる。視線が交錯し、彼奴の瞳に恐怖が映る。
「もう遅いッ! 運が――悪かったな……!」
――全力一刀、横薙ぎに、彼奴の胴を真っ二つに両断した。ぐらりと崩れ沈む下半身、それにしがみ付き此方へ反撃をしようと試みる上半身。俺は振り抜いたそのままの態勢で片足を海面下へ突っ込み、それを軸にくるりと回転。単装砲を抜き放ち、沈み行く瀕死の姫の眉間へ銃口を合わせて、
「……謝罪はせぬ。せめて二度、黄泉路に迷うな」
トリガー、脱出。離脱する
金の焔を収め、ふらつく身体をどうにか支えつつふと顔を擦る。べたりと手に張り付いた、額から流れるままだったそれを見て、肩の鈍痛を思い出した。
ふぅ、と溜息を一つ吐く。帰ったら、また如月と三日月に怒られそうだ。