私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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訓練編を書けば冗長になる。

しかし、書かなかければ描写が足りなくなる。ならばどうするか?

―――簡単なこと、一日に二話書けば良いだけのこと。
超頑張りました。


菊月(偽)と接近戦、閑話

「為せば成る、為さねば成らぬ……そして、こと剣に関しては一振り一振りが血肉となる」

 

ここは鎮守府の片隅、余人の立ち寄らぬ寂しい場所。勿論、提督に使用許可は取ってある。

 

目の前には、手製の簡素な打ち込み台。明石から譲ってもらった厚布を、地面に突き立てた廃材の丸太に巻きつけただけのもの。

 

身に纏うは、提督指定体操服&ブルマ(くちくかんようのうごきやすいふく)。教本を提督に頼んだら、ついでに寄越されたもの。提督も良い仕事をする。

 

「……ふぅ……」

 

腹に大きく息を吸い、止める。全身に気力を充実させ、精神を集中させる。そのまま、構える木刀を真っ直ぐに振り被り―――

 

「……ふ……っ!!」

 

振り上げた時と同じ軌道を描き、打ち込み台の頂点へ木刀を振り下ろした。

 

 

 

天龍と稽古をしてから数日。誰に聞いても剣の心得など知らぬと返された俺は、ふと思い立って提督を訪ねてみた。彼についてはあまり知らないが、軍人ならば剣を修めていることもあるかも知れない。もし違うとしても、教本を探してもらえないか掛け合う積りだった。

 

「何、剣をか。生憎、俺はお前の望むように剣を修めていることは無い。軽く齧った程度だ、人に教えるなどとても出来たものではない。代わりと言っては何だが、教本なら揃えよう」

 

そう言って、俺の申し出を快く受け入れてくれた。ついでに動きやすいような服も揃えてやろうなんて言っていたが、まさか体操服とブルマを渡されるとは思っていなかったが。精々トレーニングウェアか剣道着だとでも勘違いしていた。

 

「……っ!……ふっ!!」

 

振り上げて、振り下ろす。振り上げると同時に息を吸い、振り下ろすと同時に息を吐く。あまり他の艦娘(ひと)に勘付かれたくない為に気声は発さないが、その分の気勢を込めて打ち込み台を打ち据える。

 

素振りと言うものは基本である。更に、それよりも基本が足捌きである、と教本にはある。この自主的な打ち込みでは、その二点だけに意識を向けている。実戦に於いて役立たない?そんなことは無い。こうして素振りを繰り返すことで、『剣を振るう』という動作そのものが身体に馴染むようになる。咄嗟の時に身体が動くか否かはそこにかかっている。

 

「……ふっ!!……はぁっ!!」

 

ぱこぉん、と打ち込み台が小気味よい音を立てる。教官達との訓練が週一となった今、夜の時間潰しにもこの稽古は丁度良い。三日月達との風呂の約束まであと一時間弱、頑張ろう。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「やっほー、菊月頑張ってるぴょん?あ、これ差し入れぴょん」

 

「……卯月か。まさかここを知られるとは思っていなかったよ……」

 

素振りを続けて早数日。この間にナイフ二本は完成し明石から受け取ったが、刀の方は難航しているらしい。少しだけ残念に思いながら素振りをしていると、なんとスポーツドリンクを持った卯月に見つかってしまった。

 

「いや、提督に聞いたら一発だったぴょん。で、やっぱり提督が言ってた通りそんな色物着てるんだぴょん」

 

「……む。いや、しかし意外と動きやすいのだ……」

 

まあ、着続けている理由は勿論『俺』が高揚するからなんだが。『菊月がブルマで素振りしてる光景』を思い浮かべれば、『俺』に限界なんて存在しない。……まあ、『俺』と『菊月』の本音を言えば『折角貰ったものを無為に出来ない』だけだが。

 

「……済まないな、卯月。見ていても楽しく無いぞ……」

 

座り込んで見物している卯月にそう言うと、菊月()は再び素振りを始める。流石は菊月(艦娘)の身体だけはあるのか、すっかり慣れた動作で剣先がブレることも稀になってきた。

 

「―――菊月は、偉いね」

 

そうして黙々と素振りを続けていれば、卯月がぽつりと零す。思わず素振りを止めて彼女の方を見れば、底抜けに明るい普段と違って何か儚い笑みを浮かべている。

 

「……卯月?」

 

「最初からたった一人で生き抜いてて、傷だらけになって。こっちに来ても神通とかと訓練して、どんどん強くなってる。―――なんで、そんなに頑張れるの?」

 

卯月の言葉に暫し黙り込む。『俺』は、『菊月』の為に強くなろうとしている。しかし、『なろうとしている』を続けられるのは『俺』だけのチンケな意思じゃない。『菊月()』が心から思うこと、それは―――

 

「………決まっている。卯月の為だからだ」

 

「へ?う、うーちゃんの為?」

 

「……正確には、姉妹達の為だがな。……それでも私は、卯月の為に強くなりたい。私は……その、あまり笑うのが上手くないだろう?それでも、卯月が笑っていると私も楽しくなるのだ。……そう、だな。『卯月に笑っていて欲しいから』、私は強くなりたい……」

 

卯月に、紛れも無い菊月(俺達)の本心をぶつける。意外だったのか、ぽかんと惚ける卯月。暫くして、くすくすと笑いだした。

 

「ほーんと、菊月はカッコつけだぴょん。でも、やっぱり嬉しかったぴょん。―――よっし!うーちゃん、菊月の為にもっと笑いまっす!それで、うーちゃんも菊月を守れるように強くなるぴょんっ!!」

 

立ち上がって叫んだと思ったら、すぐさま走り去ってしまう卯月に仰天する。そして、暫くしてブルマに身を包み木刀をさげて来る卯月に更に仰天する。

 

「うーちゃんも、一緒にやるぴょん!二人なら、寂しく無いでしょ?」

 

「……そうだな。楽しくなってくるよ、卯月『お姉ちゃん』」

 

お互いにくすりと微笑んで、卯月に打ち込み台を譲る。

それからずっと、この練習場は少しだけ賑やかになったのだった。




最近、結構本気で菊月の最終武装に『零式斬艦刀』的なのを採用しようか悩んでます。

あと、アンケート立てました。菊月の刀の銘について。
回答は活動報告に。
活動報告にお願いします。

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