私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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接近戦編終了。
アンケートにご協力、ありがとうございました。


菊月(偽)と接近戦、その三

遂に、明石から呼び出しを受けた。依頼していたナイフ二本は既に受領しているのだ、となれば呼び出された理由は一つしか無いだろう。

 

隣の長月と三日月を起こさないように、そっとベッドを抜け出す。時刻は午前5時前、この時間すら明石に指定されたものだ。起床時間よりも早い時刻だが、東の空は既に白み始めている。足音を殺し、廊下を走る。程無くして、俺は目的の場所へ到着した。

 

「おはようございます!菊月さんっ!いやぁ、丁度良い時間ですね、今さっき仕上げが終わったところですよ!」

 

平時より少しだけテンションの高い明石に、工廠の一室へ招き入れて貰う。溜まった疲労からくるものだろう、今度何か礼をしなければならない。

 

「さて、あまり長く話していても仕方がありませんよね。装飾を除いてもまだあと一つ工程が残っていますが、一先ず『これ』が完成したものですっ!」

 

明石の一声とともに、部屋の中心に鎮座している台から掛け布が取り払われる。そこに存在し、菊月《俺》の目を引いたのは、台座の中心に横に据えられている未だ装飾の施されていない一振りの刀だった。

 

「これは……っ、凄いな……!」

 

菊月()の背に合わせた、通常の刀より少し短い刀身。曇り一つ無いそれは、窓から差し込む薄明かりを受けて煌めいている。飾られていない刀身の前に置かれた鞘は薄黒色、菊月()の着る制服と揃えられているようだ。

 

「そうでしょう?私も刀なんて鍛えたのは初めてですけど、砲造りとは違って新鮮で楽しかったですよ。―――さて」

 

こほん、と咳払いをして明石が俺に向き直る。それにつられ、俺も目の前の刀から視線を外して明石と相対する。

 

「あとは柄巻を施すだけで完成なんですが、その前に一つやっておきたいことがありまして。『銘を刻む』、御存知ですか?私が初めて鍛えた刀であり、そして今の私にはこれ以上のものは作れません。その記念の一振りに是非、銘を刻みたいんです」

 

明石の言葉は最もだ。そして、俺としても名無しの刀を使うより愛着が湧くだろう。

 

「……それで、何故私に言ったのだ……?」

 

「お恥ずかしながら、あまり名付けが得意では無くてですね。菊月さんなら何か、相応しいものが思いつくかと相談させて頂きました」

 

てへ、とほんのり顔を赤くしつつ明石が言う。俺が決めてしまってはなんと言うか、明石の立つ瀬が無いだろうに。暫く考えて、俺は口を開く。

 

「……分かった。……刀には左右二面あるだろう?そのうち片方には……『明石』と刻んでくれ」

 

「えっ!?え、ほ、本当に良いんですかっ!?」

 

「……何を。当然だ、明石の名を刻まずに私の考えたものを刻むと言うのならば、それは恥知らずだろう……」

 

驚き半分、喜び半分と言った顔で明石が見つめてくる、むしろそのまま『明石』を銘としても良いぐらいだと言うのに。そんな明石を思考の外に置き、また暫く考える。

 

「………『――』」

 

「えっ?今、なにか仰いましたか?」

 

ぼそりと口から漏れた言葉に明石が反応する。『俺』と『菊月』、どちらの意識の外からも漏れた言葉だ、その内にこそ意味があるのかも知れない。その響きを、銘としよう。

 

「ああ……。……『護月』。護るに月で『サネツキ』だ。……『明石』の裏には、そう刻んでくれ」

 

―――――――――――――――――――――――

 

「へぇ〜、で、それが菊月の刀ぴょん?何でか分かんないけど、さっきは使ってなかったみたいだけどぴょん」

 

「ああ、今朝完成したばかりだ。……砲で仕留められるならそれに越したことは無いだろう、わざわざ近付くこともない。……が、やはり良いな……」

 

本日の遠征も無事に終わり、鎮守府へ帰投する。二度ほど深海棲艦に襲われたが、幸い艦隊の誰もが被弾なく終わらせることが出来た。

艦隊の最後尾を、菊月()と並走して海上を滑る卯月を横目に俺は抜き払った『護月』で軽く空を切る。ひゅおん、という風切り音が耳に心地良い。

 

「う〜むぅ〜、菊月のを見てたらうーちゃんも刀が欲しくなってきたぴょん」

 

「……ふふ、何なら明石さんに頼んでみるか?」

 

ぷっぷくぷぅ〜、と息を漏らす卯月の方へ苦笑しながら向き直る。あたりは日が暮れかけ、夕焼け色に染まっている。被弾は無いものの疲労はしており、皆さっさと帰りたいというのが本音だろう。

 

「―――ぷはぁっ!全艦警戒っ!潜水艦でちっ!!数六っ!!」

 

その空気を、伊58の発した言葉が打ち壊す。最近になって敵偵察潜水艦が増えてきたことを受けて連れてきたが、正解だったようだ。

 

「爆雷、放てーっ!!」

 

陣形を組む暇もなく、旗艦『川内』の号令に合わせて爆雷を投下。川内はソナーを、残りは伊58の言葉を頼りに大凡の位置を図り放ったが、今回は運があったようだ。

 

「数六、って言ったね?あと一匹、残りは―――っ!?菊月、後ろっ!?」

 

「……菊月っ!」

 

ソナーで敵影を確認した川内教官の言葉に、艦隊が一斉に菊月()の背後へ砲を向ける。が、それよりも一瞬早く後ろへ向けて片手に持ったそれを振り抜く。

 

「……おおおおぉぉぉぉぉおっ!!!」

 

気合一閃、背後から俺を喰らおうと浮上して来た潜水カ級(最後の敵)を上下真っ二つに斬り飛ばす。カ級は、悲鳴も上げずに再び深海へ沈んでいった。

 

「……?どうしたのだ、みんな……」

 

なにか輝くような瞳で此方を見る面々。川内教官まで物欲しそうに菊月()を見ているが、その理由は分からないまま。

 

―――数日後に明石から『刀を沢山頼まれた』と恨み言を聞かされるまで、その時菊月()の刀が艦娘達にどんな影響を及ぼしたのかを知ることは無かったのだった。




『丙種軍刀』が開発可能になりました!
菊月が『護月』を入手したその日の海戦(三戦)のうちで一度『護月で敵を一撃で撃破する』というフラグを立てれば丙種軍刀開発フラグが立ちます。
また、とあるイベントまでに軍刀開発数が一定以上だと『月光』の入手イベントが発生します。

―――というなんかガンパレっぽい妄想。

アンケートにご協力ありがとうございました。
丙種軍刀が開発されましたので、採用したかったけど出来なかった他の銘はそれらに与えられると思います。

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