私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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日常編は唐突に終わりを告げて第四章。


第四章
激戦海域、その一


前日夜にいきなり通達された通り、今朝は午前六時から全ての艦娘が講堂に集められた。寝ぼけ眼を擦っている艦娘も中にはいるが、俺はどことなく漂う不穏な空気に落ち着かない。

講堂壇上には秘書艦金剛が控えており、その顔も平時と違ってやや厳しめである。そこへ、我が鎮守府の提督が姿を現した。

 

「おはよう、諸君。本日、集まってもらったのは他でもない。此処最近頻発していた深海棲艦の偵察部隊、その本隊と思しき群れが発見された。例によって総数は不明だが、かなりの数だ。概算で百数十は降らないだろう。大凡の敵本隊が居を構えているのは―――サーモン海域、その奥地。そう、艦隊はフロリダ諸島周辺を抜ける必要がある」

 

フロリダ諸島周辺を抜ける、という声を聞いた途端に騒めく艦娘達。何が理由かは言わずもがなだろう、つまり嘗て幾多の仲間が沈んだかの『アイアンボトム・サウンド』を抜けて行く必要があるということだからだ。かく言う『俺』は、別の理由で顔を顰めているが。

 

「また、並行して他鎮守府にも散発的な深海棲艦による攻撃が見られる。其れ程規模は大きく無いが、無視できる量でも無い。まあ、例によって最も戦力が充実している此処が中心となって海域制圧を行うことになった、ということだ。―――金剛、詳しい説明を」

 

提督が一歩引き、場所を金剛へ譲る。控えていた金剛は、顔に幾分か笑顔を覗かせるようにしている。

 

「ンー、マイクチェック、OKネ!Hi、今回第一艦隊の旗艦を務める金剛デース!提督から説明を任されたので、チャチャッと説明しちゃいマース!」

 

こほん、と咳払いをして金剛はマイクへ向き直る。

 

「今回、深海棲艦の増加が確認されたのはサーモン海域最奥。皆サンの予想通り、鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)を抜けてかなきゃならないところネ。これに対し、我が鎮守府は主となる四艦隊の内三艦隊を攻略に、残り一艦隊を鎮守府の守備に回しマース。第一艦隊は、戦艦と空母がメインを務める主力部隊。第二艦隊はそのBack-upネ。残る第三艦隊は精鋭の雷撃部隊を結成、状況に応じて第一・第二部隊の補助をお願いしマース。基本的に三艦隊は同時に行動をお願いするネ」

 

一息に喋った金剛は、机に置いてある水を一口飲んで改めて口を開く。知らず、拳を固く握っていた。

 

「問題は、此方の戦力ネ。さっき提督が言ったみたいに、他の鎮守府にも散発的な攻撃が発生してマース。つまり、現在他鎮守府へ出向している艦娘は呼び戻せマセン。―――大和、武蔵、長門、陸奥。今回の作戦は、彼女達強力な戦艦をアテに出来ないネ。加えて、鎮守府へも防衛戦力を残さないといけないから一掃打撃力が落ちマース。ついでに言うと、前回トラック島で沈めたBossの同型が居るみたいですネ」

 

そこまで言うと、金剛は壇上から艦娘達をぐるりと見渡した後提督と交代した。再びマイクの前へ立った提督は襟を正し、背筋を伸ばすと口を開く。

 

「ありがとう、金剛。これで伝わったと思うが、今回の海戦はとても厳しいものになるだろう。敵の一撃一撃が重い訳ではないが、減らない敵との消耗戦、じりじりと疲れを募らせる戦いになる。艦隊に編入されていない艦娘達も、ローテーションを組んで遠征に出てもらうだろう。―――しかし!だからと言って我々が諦めて良い訳ではない。この鎮守府から出向している艦娘達に、帰る場所が無くなったなどと言う報告を伝える訳には行かない。私は未だ成らぬ身だが、彼奴等を蹴散らすためならば幾らでも成長しようではないか」

 

周囲を見れば、どの艦娘も目に力を宿している。近くにいる菊月()の姉妹達も同様に、心強い視線で壇上を見つめている。

 

「私から君達へ伝えることは、変わらない。無傷とは言わない。勇猛果敢に戦い抜き、全艦無事に帰投せよっ!!」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

提督の演説が終わり、睦月型に割り当てられている自室に帰って作戦の準備をする。睦月型は他の艦とローテーションで第三艦隊を構成し、艦隊に入らない時は遠征を務めるようだ。敵戦力と作戦の如何について考えを巡らせていると、不意に後ろから抱き締められる。

 

「菊月ちゃん、大丈夫?」

 

「……如月か。むしろ、大丈夫そうでないのはお前のようだが……」

 

抱き締めて来たのは如月。このタイミングでなら、恐らく彼女の言いたいことはアレだろう。

 

「……まあ、言いたいことは分かるが。フロリダ諸島……つまり、ツラギだろう?」

 

「ええ、その通り。通るのは鉄底海峡だから、違うのは理解しているのだけれど、ね」

 

『ツラギ島』、フロリダ諸島に属する単なる一つの島で……朽ちた『菊月』の骸が眠るところ。菊月が艦娘として有るこの世界にその亡骸があるのかは分からないが、嘗て沈んだ場所だと言うのならば如月がこうして来るのも無理は無い。

 

「……私は沈まぬ。……それに、鉄底海峡で沈んだ艦娘達も海戦に参加するのだからな。泣き言は言わぬ……。さあ、我々も遠征があるだろう?用意をせねば、な……」

 

敢えて、気にしていない風に素っ気なく言って歩き出す。困った顔で付いてくる如月に、済まんと笑いかけながら考えを巡らせる。

ツラギ島?『俺』がそれを気にしていない筈が無い。だが、俺の心を占めるのは心配でも恐怖でも無い。

 

『二度と菊月を沈めさせない』。決意を新たに、俺は艤装の点検を始めた。




とんでもないことがおこってしまいました。

なんと、ニコニコ動画にて『龍。』さんが拙作の『菊月(偽)と那珂ちゃんとアイドル』を元にしてMMDによるライブの動画を作って下さったと言うのです。私も拝見させて頂きましたが、ええもう泣きましたとも。

動画URLは此方、龍。さんには許可を取っております。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm25740333

菊月の可愛さがヤバい。もっともっと広がれ菊月の輪。

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