私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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その四テイクツー。

半分ぐらい書き直して、ついでに加筆。
でも罰ゲームはやります。


激戦海域、その四

「任務を確認する。我々第三艦隊は、主要戦闘海域の中心へ突入。闇に紛れて先制攻撃を仕掛け敵先鋒艦隊を撃滅、その後朝に進軍してくる第一・第二艦隊の進軍ルートを構築する!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「よしっ!言うまでも無いけれど、周囲全方位から敵が来るからね!見ての通り、私達の大好きな夜戦―――なんだけど、多分今回は楽しんでられないよ。わざわざ敵のど真ん中に突っ込んで行こうって言うんだからね。『全艦隊ニ通達、我ラコレヨリ鉄底海峡へ突貫スル』!全員、一人も沈んじゃいけないよっ!!」

 

川内の言葉にもう一度返事を返し、態勢を低く下げて足を少し開く。砲を両手で構えながら単縦陣で航行。鉄底海峡の入り口へ入ると同時に敵艦隊が続々と姿を現してくるが、今の艦隊には的でしか無い。

 

敵海域へ突貫し撃滅する今回の任務、ローテーションに加え個人の練度を加味して編成された第三艦隊。旗艦の川内と補佐の神通、雷撃と言えば右に出るものの居ない北上と大井(ハイパーズ)。そして、駆逐艦から菊月()と、この海には外すことの出来ない彼女『夕立(ソロモンの悪夢)』である。

 

時刻は零時を回ったところ。天を見上げれば月が煌々と輝いている。端的に言ってしまえば『真夜中に突撃して朝まで暴れる』、それだけの任務。しかし実行する艦娘にかかる負担は並ではなく、それ故にこれだけの艦娘と弾薬……魚雷が集められた。

 

今回の任務では全艦が最低限の砲以外は魚雷を満載にしている上に、普段は資源運搬用に使用している輸送船に弾薬を満タンにして持ってきている。北上と大井で提督に掛け合って許可を貰ったらしい、確かにこれだけ必要だろう。

 

「開幕雷撃っ!沈めぇーっ!!」

 

「ギッタギタにしてあげましょうかね、ギッタギタっ!」

 

川内と北上から放たれる圧倒的な魚雷の前に、成す術もなく沈んでゆく深海棲艦達。駆逐、軽巡、重巡も混ざっていたように見えるが、砲撃の機会すら与えない。

 

「北上さんに続くわよっ!冷たい酸素魚雷、遠慮なく喰らって逝きなさい!!」

 

「良く、狙って!砲雷撃戦、行きますっ!!」

 

撃ち漏らしと、新たに現れる深海棲艦群と相対する。しかしその物量さえ、頼もしき第二波が悉く爆散させる。

『全艦隊の先駆けを務める』ということ、それは誰よりも勇猛に進撃し敵に被害とプレッシャーを与えなければならないということである。その点で頼もしいのは彼女、神通。暗闇の中、爆炎に照らし出される彼女は正に『華』の二水戦と呼ぶに相応しいだろう。

 

「……流石は神通教官、か……」

 

「ふふ、当たり前ですよ菊月。さあ、次発装填、再突入しますっ!」

 

「だがまあ、今は私達も居るのだ。沈んでくれるなよ……!」

 

旗艦である川内と並び、魚雷をばら撒く神通教官。その姿に勇気づけられ、艦隊の誰もがそれに続けとばかりに圧倒的な物量に立ち向かう。そして、軽巡や雷巡に速度で置いて行かれているようでは駆逐艦の名が泣くというもの。隣の夕立に目配せをすれば、その真っ赤な目を輝かせて彼女は頷く。

 

「……さて、我々も遅れるわけには行かないな。菊月、突入するっ!」

 

「あははっ!!素敵なパーティ、始めましょ!お相手は私、ソロモンの悪夢っぽい!!」

 

雷撃を放つ巡洋艦達、砲火に晒された彼女達の身体に傷がついてゆく。その間を縫い、艦隊の先頭へと二人で躍り出る。夕立と二人で単縦陣を組み、前を走るのが夕立だ。俺は彼女の後ろから雷撃を放ちつつ、しかし砲撃で的確に彼女のサポートをする。流石に川内達の弾薬もキツイところだろう、振り返って言葉を放つ。

 

「……巡洋艦、少し態勢を整えて補給しろっ!押し返しは出来んが、戦列を保たせることぐらいはしてみせるさ……!」

 

言い捨てれば反転して海面を滑る。その勢いを殺さぬまま片足のつま先を水面に突っ込むとその足を軸に身体が航行速度で回転する。菊月()は同時に背に無理やり括り付けていた二つ目の砲を取り外し、それを両手に構え周囲360°全てへ敵意と砲弾を放った。

 

「あはっ、何それ菊月ちゃん格好いいっぽい!!」

 

「何なら後で、砲を貸してやるぞ……!!」

 

敵から放たれる砲撃、出来るだけを回避しつつも少なくない被弾をする。そんな菊月()を庇うように寄り添ってくる夕立と背を合わせ、同じように回転移動しながら夕立はこれでもかと雷撃を放つ。砲撃、雷撃、砲撃、雷撃。咲き乱れる砲華が美しいが、見惚れている余裕など無い。溢れるように現れる深海棲艦を次々に沈める。

 

「はははっ、面白いことやってるじゃない!でもまあ、私の教え子ならあいつらを殲滅してくれて良かったんだけどね!」

 

「川内教官も無茶を言う……!っ、私達も弾薬が保たない、下がるぞ……」

 

弾薬積載船の方から川内、神通両教官が滑ってくる。夕立と共に回転を止めれば後ろに下がり、援護砲撃へ移行。

 

「あ〜、楽しかった!でも、夕立はまだ暴れ足りないっぽい!!」

 

「……なら、さっさと補給を済ませるぞ。これだけの敵の数だ、休んではいられぬ……!」

 

ふと見ればさっきの菊月()と夕立に影響されたのか、北上と大井も二人で回転しながら雷撃をしている。更に彼方は片手ずつを繋ぐというオプション付きだ。

 

「補給完了……!」

 

「あはっ、まだまだパーティは終わらないっぽい!!」

 

前に出る四艦を補助するように、今度は後ろから砲撃を仕掛ける。あくまで駆逐艦の砲撃、流石に一撃で沈めることは出来ないがそれで生まれた隙に容赦無く魚雷が叩き込まれてゆく。

 

「うわっ、とぉ!危っぶな、潜水艦っ!?対潜は……菊月っ、任せたっ!」

 

「分かっている……!!全艦に通達、対潜爆雷を放つっ!!」

 

海底から攻撃を仕掛けてくる潜水艦を憎々しげに睨みつける川内の横を潜り抜け、潜水艦群へ爆雷を投射する。暫くして立ち昇る水柱に、撃沈を確認する。

 

「流石は菊月、私の教え子です。見事な雷撃と此処までの艦隊の補助ですよ」

 

「……華の二水戦、引けないのは分かるが、せめて被弾を減らす努力をしてくれ……!」

 

掛けられる声に振り返れば、眼に映るのは半壊した衣服を身に纏いつつも凛と立つ神通教官の姿。魚雷の在庫も少なくなっているようだが、戦意は微塵も衰えていないようだ。

 

「あら、分かっていますよ菊月。これだけ軽くなるまで撃ち尽くしたのです、もうじき朝でしょうからね」

 

「こっちもほとんど空っぽ。でも、まだ一仕事あるみたいなんだよね―――ほら、おいでなすったみたい」

 

神通教官と同じく服の破れた川内教官が、徐に指を指す。その方向には、新たに現れた深海棲艦―――似付かわしくもないが、暁の空を背中に受けた、戦艦レ級とタ級の艦隊が存在した。

 

「ここで戦艦かぁ。真っ暗な時なら怖くなかったんだけど、今来られちゃツラいよねー。大井っち、魚雷の残りは?」

 

「なんとか、一度の斉射分だけは。それ以外は、輸送船にも残ってません」

 

夕立の前に立つ北上と大井も、同じく中破だろう。弾薬も燃料ものこと余裕が無いようだ。

 

「……大方、流石に我々も疲弊していると見て出てきたのだろうが……どうやら、この周囲に雑魚が消えたのも同じようだな」

 

「あいつら以外居ないっぽい?なら夕立、まだまだ元気っぽい!」

 

「しんどいっちゃしんどいけどさ。大井っちと組めば―――」

 

「―――最強、でしょう?分かってますよ、北上さん」

 

だが、艦隊の皆に諦めの雰囲気は無い。それぞれが猛き魂を背負った存在、勿論『俺』も菊月に懸けて負けられない。

 

「探照灯、いらなかったですね。行きますよ、川内姉さん?」

 

「ああ、そうね神通っ!全艦、目標はあの戦艦群っ!先制雷撃で全部片付けるわよっ!―――用意っ、()ぇーーっ!!」

 

残った魚雷全てを放ち、両手の砲を乱射する。未だ薄暗い空と海を繋ぐように水柱が上がるが……

 

「……夕立、砲を預けるぞ……っ!」

 

「え、菊月ちゃんどうしたっぽい!?」

 

夕立へ押し付けるように砲を預け、単艦(ひとり)で敵の居た場所へ突っ込む。二つ、他より水柱の小さいものがあった。沈められていないのなら、次に危機に晒されるのは碌な装備の無い此方だ。鞘から『護月』を抜き放ち正面を向けば、やはり半壊した―――沈んでおらず、艦隊へ太い砲台を向ける『レ級』と『タ級』が視界に入る。

 

「………先ずは一つ、首を貰うぞっ!!」

 

走る勢いのまま、レ級の無防備な首元に護月を根元まで突き入れる。そのまま柄を強く握り、ぐっと回し、レ級の肉を抉る。広がった傷口からは錆臭い、黒ずんだ体液が吹き出し菊月()に降り掛かる。

 

「……次は、貴様だ……!」

 

そのまま、力の限り護月を振り抜けば肉を千切り飛ばし、レ級は苦悶の表情を浮かべたまま崩れ落ちる。それに一瞥もくれずに俺はタ級へ向き直ると突貫する。レ級の始末に時間を掛け過ぎた、迎撃されるだろうが『望むところ』、と『菊月』が吠える。

 

突きを繰り出す為に刀身を構え引きつつ、怒りに瞳を燃やすタ級へ接近する。後ろから誰かが何かを叫んでいるが、気にしていられない。轟音と共に振り下ろされる『戦艦』タ級の拳。肩に被弾し、そこからめしゃりと嫌な音がする。『菊月()』の小さく軽い身体は、一溜まりもなく吹き飛ばされるだろう。

 

―――被弾する一瞬前に、『護月』を奴の胸元に突き立てて居なければ、だが。

 

「〜〜〜〜〜っ!!ぐ、ぅぁあああああぁあっ!!!」

 

激痛に声が漏れる、しかし片腕は動く。吹き飛ばされるままに、刃の向いた方向へ力を込めればずるりと肉を断つ。

 

「………こふっ、私達の勝ちだな……!」

 

吹き飛びながら、光の消えた戦艦の眼を見つめつつひとり漏らす。艦隊のみんなは無事らしい。しかし、それでも菊月()の頭の片隅に巣くったこの嫌な感覚が消えてくれない。そんなことを思いながら、菊月()は今更ながら訪れた衝撃に意識を持っていかれた。




やはり、安易なギャグに逃げることは許されない。

筆者は、『菊月(偽)絶対試練与えるマン』ですから。

追記。
神通さんの台詞を修正しました。

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