ぱちぱち、と何かが焼けるような音が耳に入る。同時に水平線から差す光が目蓋へ届き、俺はゆっくりと目を開ける。すん、と鼻を鳴らせば焦げ臭い匂いがする。そこでようやく、俺は昨夜の出来事を思い出した。
「んっ……くぅ。中々、清々しい朝だ……」
草むらに放った火はほとんど鎮火している。島の全域に燃え広がっていないか心配だったが、どうやら俺の計画した通りに一角を焼くだけで済んでくれたようだ。
「……だが、身体の方は清々しくは無いな。うぅ、じゃりじゃりするぞ……」
疲労と充足感を感じるままに海岸で眠ったのが災いした、全身が砂にまみれている。ゆっくりと立ち上がり全身を払うも、じゃりじゃりとした感覚は残ったままだ。下着の中にまで入っている砂が鬱陶しい。
「……池でもあれば良かったのだが……。ぐ、仕方あるまい……」
島の周囲をぐるりと歩き、海から直接草地へ上がれるところを探す。先日島の地形を調べた際に、そんな場所が幾つかあった筈だ。そのうちの一箇所にレ級の亡骸と尻尾の死体を運び、次いで荷物を纏め置く。最後に――短パンと靴、そして下着を脱ぎ去り荷物へ仕舞う。
「………ぅ、っ。や、やはり慣れん……っ」
『菊月』となって長い時間が経ったが、未だに裸の
「……うぅ、冷たい……」
髪は纏めて結い上げ、準備は完了。ゆっくりと海へ入ればひんやりとした海水が肌を撫でる。ちゃぷちゃぷと揺れる波が心地良い。目を瞑ったまま肩まで浸かり、全身を擦りながら砂を落として行く。顔と髪だけは潮水に晒さないように気を付けながら、丹念に身体を洗った。
「……もう、良いだろう。上がるとするか……」
ゆっくりと草地へ上がり、荷物から取り出したハンドタオルで身体を拭く。下着からパンパンと砂を払い、最初と同じように身につければ漸く人心地つくことが出来た。
「……ふむ。今更ではあるが、素材は集まったな。これだけあれば、当面はなんとかなるだろう……」
艤装にしろ資材にしろ、それなりの量が確保出来るというもの。少なくとも、食料以外はだが。とりあえず嫌なことは頭の片隅へ退けて、俺は材料へ向かい作業を開始した。
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およそ丸一日を費やし、俺は新たに装備を整えた。尻尾に残った燃料と、弾薬から取り出した炸薬を使い切った燃料の缶に保存。また、無事だったレ級の艤装の中から雷撃用の魚雷を拝借出来た。流石に
「……握りも良い。重心も、悪くない……」
また、レ級尻尾の骨を削り出しその歯と組み合わせることで、懐かしい手斧を再現することも出来た。その数は何と四振り、少々無茶な戦闘も可能な数である。これらは全て、ウェストポーチに備えたウェポンラックに掛けてある。
また、レ級尻尾から剥いだ皮を海水で洗い加工することで、上半身の下着の上に巻くものを作成した。流石に下着を曝け出したままというのは決まりが悪かっただけに助かった。その上からレ級のパーカーを着れば、無事に服装の問題は解決したと言える。
「……また強くなってしまった……!」
そんな事を口走りながら、俺は海を駆ける。もう数時間はこうしているだろう、どこを目指すと言う訳ではないが向かう方向は北――レ級が向かい、そして傷を負って帰ってきた方角である。出会うであろう存在は深海棲艦か、運が良ければ艦娘だろうと踏んでいた。
「……あれは……。くっ、私も運が無い……」
見つけたのは深海棲艦。あの独特のフォルムは駆逐ニ級、この辺りで遭遇する深海棲艦を考えれば後期型だろう。例によって北へ向かっている最中のようだ、背後から攻撃しようか悩みどころである。
「……いや、奴は捨て置く。無駄に戦闘を重ねる意味は無いからな……」
海上を滑る速度を落とし、暫くして停止する。このまま待っていても意味が無いだろう、それよりはさっさと島へ戻り準備を整えてもう一度ここへ来る方が良いに決まっている。レ級と同じ行動パターンならば今日の夜、もう一度ここに現れる筈だ。
「……次にここへ来る際は、きちんと進撃の準備を整えておかねばな。あのニ級を沈めたのち、そのまま先の海を目指すとしよう……」
ここまで来るのに使った数時間と燃料は無駄になってしまったが、そうそう上手くいくばかりでもないのは分かっている。新たに疲弊することが無かったことをプラスに考えるべきだろう。
そうして、俺はその海域を後にした。
本日の見せ場:サービスシーン。