先を行く祥鳳と皐月の後ろに続き、平坦な道を歩く。見回せば至る所に砲弾が撃ち込まれたであろう古いクレーターが散見され、今歩いている舗装された道路でさえひび割れているところが多い。荒れ具合から、少なくない年月放置されていたのだろうと推測出来る。
「さ、着いたよ菊月。ここがボク達の拠点にしているところだ」
皐月の言葉に指を指す方向を向けば、そこには確かに建物が存在した。嘗てはそれなりに大きかったであろう鎮守府を連想させるその建物は、三階より上の部分が無残に吹き飛ばされており二階までしか存在しない。その二階部分ですら一部崩壊している有様だ。壁もひび割れ、窓ガラスは全て塞がれている。
「菊月がどこから来たのか聞いてないですけど、流石に鎮守府の設備とは比べられませんよね。私達も、これでも苦労したんですが」
祥鳳の言葉を聞きながら、次いでその建物の周囲を見る。近くには木造の簡素な小屋が幾つか並び、溜め池や人型でない深海棲艦の死骸を積んだ資材保管庫も確認することが出来た。控えめに言っても上等な施設ではない。施設ではないのだが――
「いや。……中々、良いところではないか……」
少なくとも、雨風を凌げる場所があるというだけで
「そう?ボクも実は結構気に入ってるんだよね。でさ、立ち話も何だし中に入らない?見た目はぼろっちいけど、中はしっかりしてるんだよ」
皐月に促されるままにドアを潜り、建物の内部へ。もう夜も深いこの時間では、皐月の言う他の艦娘は寝ている頃だろう。暗いエントランスを静かに抜けて少し歩き、食堂とプレートの貼られた部屋へ入る。鎮守府のものと比べれば古く狭いその部屋だが、これはこれで味がある。皐月が部屋のオイルランプに火を付け終わると、俺達は手近な机と椅子に腰掛けて向かい合った。
「あなたも、勿論私達も眠りたいところではありますが、流石に何も話さないままと言うわけには行きません。お互いに情報交換といきませんか、菊月?」
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食堂を出れば、皐月に案内されるままに建物の一番端の部屋へ連れてこられる。数時間は話し合っただろう、夜の最も深い時間だ、疲労した身体には堪えるものがある。
「ごめんね菊月、こんなに時間取っちゃって。まさかキミが単に流されたとか脱走したとかじゃなく、ここまでずっと海戦と野宿を続けて来ただなんて想像出来なかったよ」
普通は沈んでるじゃんか、と軽口を叩きながらも少しばつの悪そうな皐月に対して、
「……構わぬ。見知らぬ、深海棲艦の服を着た艦娘など警戒して当然だ。それよりも、私はお前達の方が驚いた……。まさか、脱走同然に逃げ出していたとはな」
そう、此処にいる艦娘は皆鎮守府から逃げ出した艦娘だと言うのだ。普通に考えれば認めるわけにはいかないが、ここの場合は少々特別だ。
「脱走って。言い方ヒドいなぁ、菊月は。あのままじゃ、遠からずボク達はみんな轟沈してたんだよっ。ま、ボク達睦月型のワガママに祥鳳さんと熊野さんを付き合わせちゃったのは悪く思ってるけどね」
「……む、確かにそうかも知れぬな。休みなく出撃させられ続け露払い……挙句、中破し疲労の残るまま強行偵察に使われてはどうにもならぬだろう。……むしろ、全員が大破したとはいえ無事にこの島へ辿り着けたのは相当な強運だな」
何でも皐月達はかつて所属していた鎮守府で、ほぼ毎日休みなく遠征と出撃を繰り返させられていたらしい。それも、『睦月型は旧型、損耗しても問題は無い』という理由で。
中破の修復さえ受けられないままに、この深海棲艦溢れる『MI海域』に強行偵察に出され、予想通り全艦大破。這々の体でこの島へ逃げ込んでずっと隠れているそうだ。
「来るときには、実際に結構な深海棲艦から攻撃を受けたけど。いやー、あの時は無理やり付いてきてくれた祥鳳さんと熊野さんが居てくれなきゃマジで沈んでたね。けど、それを過ぎちゃえばこの島の近くには弱いのしか来ないし。最近現れた頭の悪そうなレ級も、誰かさんがやっつけてくれたみたいだし?」
深海棲艦の台頭と共に早々に放棄され無線も届かない、その上訪れようと思えば相当数の深海棲艦を掻い潜らなければならないこの島は彼女達にとっては正に天国だろう。
「……済まない、時間を取らせたな。私が寝るのはこの部屋で良いのか……?」
「あ、うん。ここでお願い。明日みんなに顔合わせしたらさ、一緒に寝てくれても良いからね。何ならボクと同じ布団で寝る?スペース余ってるんだ」
皐月の悪戯げな表情に卯月のそれを思い出しつつ、引き戸を開ける。扉の向こうは暗く少し埃っぽいが、布団が一つ用意されていた。祥鳳が出してくれたのだろう、明日礼を言わなければ。
「結構だ……。……その。お休み、皐月」
「うん、お休み菊月っ!」
就寝の挨拶を交わし、扉を閉める。真っ暗になった部屋でごそごそとコートと服を脱ぎ、下着だけの姿になる。月明かりに照らされた菊月の身体はやはり真っ白でとても美しいが、見惚れていないで寝なければ。
「……ぅ、む。やはり、布団は良い……」
布団へ潜り込んですぐに睡魔がやって来る。今日は、久しぶりにゆっくり寝られるだろう。
裸で海→コート脱ぎ→下着。サービスシーン連続。
名前だけ登場、熊野さん。感想でサバイバルがと教えてもらいました。重巡ぐらいなら、ゴツい武器ブン回してても大丈夫だよね?