私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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鎮守府サイド。


閑話、AL・MI作戦発動

あの(・・)日から、どれだけの日が過ぎただろうか。少なくとも、晩春が梅雨になり、そしてその梅雨も明けようとしているぐらいには時間が流れてしまった。

 

今、私――『長月』と姉妹の睦月型は、資材調達の為の遠征に出ている。向かう先は北方海域、この頃深海棲艦が急激に増えていると報告のあった方面だ。旗艦は川内、殿は神通。その間に、姉妹――如月、卯月、私、そして三日月が布陣している。

 

「全艦、戦闘用意!開幕雷撃、行くわよっ!」

 

川内からの号令に体勢を低くし、雷撃を放つ。目標は、駆逐が四、重巡が一、空母が一だ。この海域ではよく見かける艦種であり、また、『よく見かける』とぐらいは言えてしまうほどに出撃を重ねている。

 

大切な姉妹を欠き、四人となった我々姉妹。そこに軽巡二人を加えての六艦編成にも慣れた。あの日執務室で、二度と泣かぬと決意してからおよそ二ヶ月。決意はしたものの、結局どれだけ泣いてどれだけ悲しんだかは忘れるほどに幾多の海戦をこなした。その結果、身につけたものは様々だ。

 

「うふふ、開幕雷撃で空母はボロボロみたいね?卯月ちゃんは空母に止めを。川内さんと神通さんは、重巡に当たってください。残りの敵駆逐艦は、私と長月ちゃん、三日月ちゃんが対処します」

 

如月は、戦術に関する造詣を深めた。司令官の元へ通い詰め、基礎から学び敵の動きや戦闘のパターン、陣形をとことんまで突き詰めているようだ。こうしてその場に応じた判断が下せるようになった分、実は色々な艦隊から引っ張りだこだったりする。勿論、艦娘としての実力も順当に向上しただろう。

 

「勿論ぴょん、まっかせてぴょんっ!行くぴょぉぉぉおん、せぇぇぇぇぇえいっ!!」

 

すいすいと砲撃を躱し、中破した空母へ迫る卯月。苦し紛れに繰り出された艦載機も悠々と沈め、卯月は腰に佩いた軍刀を一閃して空母を両断した(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

卯月が伸ばしたのは剣の実力。姿を消した姉妹と共に剣の稽古をしていた卯月は、独りになってもそれを辞めなかった。雨の日も風の日も剣を振り続けた卯月は、今では天龍と並ぶ程の実力を身につけたと言っている。軍刀を佩く艦娘はそこそこ増えたが、卯月はその中でも群を抜いていると言える。

 

「私達も負けていられませんね、長月お姉ちゃん」

 

「ああ、そうだな。あいつらに文句を言われんよう、さっさと片付けるとするか!」

 

私と三日月は並走し、互いに死角をカバーしながら砲雷撃戦を繰り広げる。私達は二人と違い、順当に駆逐艦として成長した。若干三日月が砲撃寄り、私が雷撃寄りになったというぐらいだろう。だが、その実力は以前の比ではないと自負している。どれも姉妹を守るために身につけたものだ。

 

「右だっ、三日月!」

 

「分かってます!――当たって!」

 

真っ直ぐ空を裂き飛び炸裂する三日月の砲撃が駆逐級の顔面(ツラ)を悉く叩き折り歪め、そこへ放った私の雷撃が轟音を立てて奴等に風穴を開ける。

噴き上がる爆煙、残る深海棲艦はその中から即座に姿を現し此方へ反撃を仕掛けてくる。

 

「雷撃警戒っ!照準は神通、気をつけろ!」

 

「分かっていますよ、長月。回避成功、次発発射済みです!」

 

真横に跳躍した神通のそばを抜けて行く雷跡と真逆に走る雷撃、そしてそれと交差するように走る雷跡。神通と如月が放ったそれは、回避行動に移ろうとしたばかりの駆逐級へと突き刺さり奴を物言わぬ骸へと変える。

 

「残り、一体!」

 

「いいや、ゼロだぴょん」

 

三日月の言葉を否定するように、突き刺した軍刀を引き抜く卯月。その駆逐級からは既に青白い眼光が失われており、だらんと躰を力無く横たえている。

 

「――決着ね。みんな、被弾は?」

 

「私と川内姉さんが、重巡から一撃ずつ貰ってしまいました。情けないですね、更に訓練を重ねませんと」

 

「おい、ちょっと待て。どさくさに紛れているが、それは私達も無理やり付き合わせる奴だろう!?」

 

「あら、嫌でしたか?どうしても、と言うなら相方は那珂にしますけれど」

 

「南無三、那珂。骨は拾うぞ」

 

わいわいと集まり戦況報告をする。こうして笑い合うことが出来るようになるまで、少しは時間も掛かったものだ。だが、幾つもの悲しみと涙の海を越えて、私達は今日もここに立っている。

 

「うーん、問題無しよねぇ。これだけの為に毎日出撃させられちゃ、髪が傷んじゃうわ、もう」

 

確認すれば如月が確保していた遠征物資も無事のようだ、今回も大成功と言って過言では無いだろう。と、そこへ旗艦である川内から報告が入る。

 

「はい、全員聞いて。たった今鎮守府から連絡があったんだけど、大規模作戦を実行に移すみたい。春の南西海域掃討とは訳が違うみたいよ。それで、遠征組以外には通達が済んでるみたいだから、帰投次第提督執務室へ出向くように、って」

 

川内から通達された事項にお互い顔を見合わせる。あいつの――菊月の帰る場所を潰さないためにも、深海棲艦に負ける訳にはいかない。私は、ぐっと拳を握りしめた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

AL・MI作戦。本命は深海棲艦の増加の激しいミッドウェー周辺海域を叩くと共にミッドウェー島へ前線補給基地を設営することが目的。同時に、陽動としてアリューシャン海域に沸いている深海棲艦にも攻勢を掛けるという二面作戦だという。

 

「―――で、私、川内はアリューシャン、那珂がミッドウェー。このところ出ずっぱりだった神通と睦月型姉妹は、資材確保の遠征をしつつ鎮守府海域の警戒。これでいい?提督」

 

「うむ、話が早くて助かる。無理やり二面作戦を強行するのには理由がある、そのどちらにも『姫』が確認されているからだ。また、他の鎮守府所属の艦娘や、派遣している者たちにも助力は頼んでいるがどうにもよく分からない不安がある。此処にも戦力を残す以上、事実上の三面作戦だが――頼むぞ」

 

「「「「「了解(ぴょん)っ!!」」」」」

 

敬礼を返し、執務室を出る。そのまま少し歩いていると、三日月がおもむろに口を開く。その表情は複雑で、恐らく私と考えていることは同じだろう。

 

「川内さん、那珂さん。お気を付けて。――菊月お姉ちゃんの捜索、お願いします」

 

「勿論、そのつもりよ。菊月だって遠くにいると決まったわけでもないし、こっちは任せたよ!」

 

「ミッドウェーかー!多分そんなとこに居ないとは思うけど、那珂ちゃんも頑張って探すからね!なんかさぁ、二人で出てってよく頼まれちゃうし」

 

ぐるりと顔を見渡し、全員で大きく頷く。誰一人、諦めている者は居ない。あいつが遠くに、ずっと遠くに居るとしても構うものか。

決意を新たに、私達は大規模作戦――『AL・MI作戦』の準備を始めた。




ああもう菊月は可愛いなぁ。

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