私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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試練その二。
入れようとした展開を忘れていて一度削除してしまいましたが、書いたシナリオの大筋を直すのは違う気がしましたので訂正せずに再投稿です。申し訳ありません。


海を越えて、その八

「敵艦出現!数三、駆逐ロ級が二、軽巡ホ級が一っ!右前方ですわっ、蹴散らしますわよっ!!」

 

「了解だぁ!ボク達とやる気なんて、全く可愛いねっ!!」

 

ミッドウェーを抜けてから、凡そ一日程度だろうか。俺達は一度小さな島で休息を取ったあとは、ずっと休みなく海を走り続けている。今まではほとんど深海棲艦の襲撃は無かったのだが、ここ数時間のうちで姿を現わす深海棲艦の数が跳ね上がってきた。

 

「……くうっ、ホ級には私が当たる……!」

 

「菊月っ!なら、私も続くっ!」

 

「分かりましたわ、わたくし達が残りですわね!」

 

声を張り上げ、弥生と共に隊列から飛び出す。狙うのは軽巡ホ級、『護月』は抜かず、両手に魚雷を握り締めて身体を屈める。真横に並ぶ弥生も同じ体勢だ。

 

「グァァォオオォオォ!!」

 

咆哮を上げて、ホ級は全ての砲門から砲弾を吐き出す。予備動作からそれを察知するのは容易いことだ。弥生と二人、左右に分かれ回転しそれを躱すと砲弾は菊月()のマフラーの端を掠めて海へと突き刺さる。

 

「……遅い、喰らえっ!」

 

「雷撃っ!!」

 

滑る勢いのままホ級の横を駆け抜ける。半回転し、無防備な背に両手の魚雷を放ち更に半回転。結果は見ない、見る必要が無いからだ。

遥か本土のある方向へとただ進めば、背後から三つの爆発音が聞こえる。同時に、残りを相手にしていた熊野達が揃って横へ戻ってきた。

 

「あー、めんどくさいっ。わざわざあたし達の前に出てくるなっ!」

 

「同感っ!――って、まだ居るじゃんかさぁ!全艦警戒、潜水級だぁっ!」

 

「だっから、めんどくさいってぇ!!」

 

皐月の警告に全艦が構え直す。うっすらと姿は見えるが、そんなことよりも此方へ向かう魚雷の対処が先決だ。

 

「……熊野っ、祥鳳っ!!」

 

「ええ!全艦、潜水級は無視なさいっ!回避に徹しながら、振り切りますわよっ!」

 

海の中から俺達を尾け狙う魚雷の群れを、複雑な軌道で回避してゆく。放たれた魚雷は相当な数であり、いくつかは魚雷同士で接触し大きな水柱を上げている。

 

「菊月ちゃぁん、後ろぉっ!」

 

「……ちいっ!!」

 

菊月()の真後ろをぴったりと追尾しながら放たれた雷撃を真横へターンすることで辛うじて躱し、担いだ魚雷のうち幾つかを投下し、誘爆させることで身を守る。噴き上がる炎に肌を軽く焼かれ、更にずぶ濡れにはなったが気にしていられない。

 

「……くそ、歯痒いな……!」

 

「無事ですね、菊月。潜水級も全て振り切れたようです」

 

心配して声を掛けてくれた祥鳳へ礼を返し、再び波に乗り速度を上げる。雲はぐんぐんと背後へ吹き飛んでゆき、足元の波は高くなってゆく。

 

「く、またですのっ!?敵艦出現、警戒っ!艦種――軽巡ツ級が二、戦艦ル級が一っ!?」

 

「ここに来て……!」

 

その船体(からだ)のパーツよりも、大きく無骨な両腕の艤装が目を引く深海棲艦。その威圧感は何もしていない時でさえ俺達を押し潰そうとする。そして、何より厄介なのがル級の巻き起こす真紅の気焔。一目でわかる上級(elite)深海棲艦の証。

 

「開幕雷撃っ!!」

 

睦月が叫び、それに合わせて魚雷を投下する。合わせて十数の雷撃が三体の深海棲艦へ殺到するも、彼奴等は腕の艤装を盾としてそれを防いだ。

 

「仕方無いでしょう、艦載機を放ちますっ!」

 

「……ならば、私が突っ込むっ!囮とはいえ沈むのは御免だ、サポートを頼むぞ……っ!」

 

「菊月ちゃん一人に任せてられないよっ、私だってお姉ちゃんなんだからっ!!」

 

突出すれば、その瞬間に降り注ぐ殺意の篭った砲弾の雨。それを掻い潜れば、同時に睦月が菊月()の横に並んだ。後ろには文月と皐月が追随して来ている。

 

「……助かるっ!」

 

限界まで加速しながら、三体の周りを大きく旋回する。ル級の砲撃を軽いステップで回避し、返す雷撃を放つ。命中。衝撃と爆炎をル級に叩きつけるも、またしても腕の艤装で防いだようだ。残るツ級二隻は、文月と皐月、そして熊野が相手をしている。

 

「菊月ちゃん、援護するよっ!」

 

「分かった……っ、くうっ!!」

 

睦月の雷撃より少し遅れ、真っ直ぐに『護月』で突きを入れる。――防がれた(miss)。そのまま極至近距離を維持しつつ何度も斬り掛かるが、万全の戦艦では流石に相手が悪く有効打を与えられない。がぎぃん、という耳障りな音と共に、毀れた『護月』の刃の欠片が菊月()の頰を裂いた。

 

「オオォォォォオオ!!」

 

「ぐ、この……ぐふっ!?」

 

縦一文字に振り下ろした一刀を分厚い両手で防がれ、逆に質量を活かした突撃(チャージング)をもろに喰らい、吹き飛ばされた。衝撃、衝撃、衝撃。大きく頭が揺さ振られ、意識を飛ばしかける。ぐらつく視界の端に捉えたのは、砲を構えるル級と――それより速く空を駆ける祥鳳の艦載機。どうやら、役割は果たせたようだ。

 

「……けほっ、馬鹿力め……。だから戦艦は嫌いだ……!」

 

「菊月!大丈夫なの?」

 

「……弥生か。うむ、全身を強く打ったが大事は無い……」

 

顔を上げる。ちょうど祥鳳の艦載機から放たれた魚雷が拡散し、降り注ぎ、海を焼き、深海棲艦を炎で包み込む。くずおれる三体のうち、やはりル級だけが片腕を掲げ砲を放とうとするが――それも、残る姉妹と熊野の攻撃で藻屑と帰した。

 

「げほっ、げほ。……く、髪が傷むじゃないか……」

 

「なにそれ、菊月。珍しいね」

 

「……受け売りだ、姉のな……」

 

片膝をついていた状態から、身体を起こす。此方を向いた姉妹達や熊野、祥鳳もどこかしら被弾しているようだ。程度で言えば小破ほどだろうか。

 

「……まだまだ行けるな、みんな……?」

 

「もっちろんさ!深海棲艦は多いけど、多分もう半分くらいまで来たんだよな?なら、最後スパートかけよう!」

 

皐月の言葉に、全員で頷き一斉に加速を始める。魚雷も弾薬も既に心許ないが、道程は既に半分を切った。

 

待っていろ、みんな――




次回、鎮守府サイド。

ちなみに、入れようとした展開というのは『那珂ちゃんが助けに来る』というものでした。

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