私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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ギリギリぃ。


作戦報告、完了。

ひとしきり泣きに泣けば、戦闘中には感じなかった疲労がどっと全身に重くのしかかってくるのが分かる。足を引きずり、波立つ海を踏みしめて歩き、懐かしきコンクリート造りの港へと身体を引き揚げる。後ろに続くのは睦月たち、ミッドウェーから来た面々だ。

 

「……提督。作戦報告だ……」

 

ゆっくりと、提督執務室と書いたプレートの貼られた扉を叩く。入れ、という声が返ってくるまで時間はかからなかった。

 

「……睦月型駆逐艦、菊月。只今帰投した……」

 

「――ああ。作戦報告を頼む」

 

口を開き、度々咳をしつつあったことを伝える。神通と別れてからのこと、漂流の末ミッドウェーにたどり着いたこと、そこで過ごしたこと、そしてこの鎮守府へと帰還したこと。小さく纏めようとしたのだが、到底纏めれるものでもない。途中、提督から貰った水を飲みつつ語り終える。

 

「そうか、菊月がどうあったのかは把握出来た。次は――その、後ろの彼女たちについてだ」

 

提督の指摘に、後ろに控えた熊野や睦月達がびくりと震えたのが分かる。

 

「連合艦隊に参加してくれた複数の艦娘の証言では、彼女達はしばらく前に作戦中行方不明――その後轟沈として処理されていたらしいな。一人二人ならばともかく、消えた艦娘がそのまま現れたのだ、轟沈処理が間違いだったと考えざるを得まい。どうだ?」

 

「あっ、あの――!」

 

言葉を発しかけた睦月を手で制する。優しい睦月のことだ、自分だけ脱走の罪を被ろう、なんて思っているのだろうが……そんなことは必要ない。如月曰く『軍人に成りきれない甘ちゃん』。こんな聞き方をするのだって、彼女達を罪に問おうという意図でない。ならば、俺もそれに乗るだけだ。

 

「……作戦報告をしているのは私だ、私が説明する。……先ほど、ミッドウェーへ漂着し助力を得て帰還したとは説明したな?その助力をしてくれたのが彼女達だ。彼女達は聞いた話によると、酷く悪質な提督に扱き使われていたらしい。……勇敢な彼女達は必死に戦ったが、それがもとで深海棲艦に遅れを取りボロボロになりながらもミッドウェーまでたどり着いたついたそうだ」

 

提督に渡された水を口に含み、喉を潤す。それが終わると提督は此方へ話の続きを促してくる。一つ頷き、口を開く。

 

「……推測だが、ミッドウェーに辿り着いた彼女達は悪質な提督への怒りや憎しみを感じていただろう。……だが、それでも彼女達は鎮守府へ残された者の為に、手製の武器を取り深海棲艦倒し続けていたのだ。たった一つ、艦娘としての誇りを胸にな……。そのお陰で、私も命を拾った……いわば恩人だ。故に……簡潔に纏めるならば『どんな時でも誇りを失わなかった勇士にして私の恩人』。……これで良いか、提督?」

 

「ちょ、ちょっと菊月?あなた――」

 

「そうだよ、ボク達は――」

 

言葉を発しかけた祥鳳と皐月を、今度は提督が手で制する。

 

「話は分かった。彼女達の誰もが否定的な顔をしているのは恐らく、疲労していたとはいえ深海棲艦に遅れを取ったというのが恥ずかしいからだと思うのだが、どうだ菊月?」

 

「――へ?」

 

「ああ、その通りだろう。そこの皐月など、負けず嫌いにも程があってな。私と殴り合いまでしたのだ……」

 

「菊月と、か。なるほど、言うだけはあるようだ。――分かった。処分を伝える」

 

提督の言葉に、背後の皆の空気が引き締まるのが分かる。しかし、背を向けている菊月()の口元はにやけている。組んだ腕で隠した提督の口元もまた、同じだ。

 

「補給も無く、また期待できない状況下に於いても仲間の為に戦い続けたその心意気は天晴れである。また、貴君らの援護が、先の戦闘の流れを変えたことも明らかだ。よって、貴君らの轟沈処理を取り消すとともに、元の所属部隊への復隊を許可する。――ああ、心配せずとも、君達を好き放題扱っていた者は既に更迭されている」

 

そこまで言った提督は、口元の笑みをさらに大きくして続けた。

 

「――が、私と菊月が作戦報告をしていると言うのに度々口を挟むのは頂けんな。どんな理由があろうと、『相談無く自分勝手をする』のはいかん。よって、貴君らに一ヶ月の便所掃除を申し付ける。――異論は認めんぞ」

 

ちらりと背後を振り返れば、熊野と祥鳳以外はぽかんとしている。逆に、二人は提督の言う『処分』を受け止めたようだ。

 

「あとは私が彼女達と直接話す。委細、他の艦娘に聞かせられんこともあるだろう。菊月、退出しなさい」

 

「了解した、提督」

 

くるりと踵を返し、望月の横を通り部屋から出ようとする。その時、後ろから声が投げかけられた。

 

「言い忘れてたいたが、菊月。君の、無事の帰還を歓迎する。鎮守府へおかえり、菊月」

 

「……っ。ありがとう、ただいま、提督」

 

振り返らず、そのまま部屋を出る。不意にこみ上げるものを堪えつつ後手にドアを閉じる。部屋の外には神通、その姿はぼろぼろだと言うのに菊月()を待っていてくれていたようだ。その胸の中へ飛び込み、静かに嗚咽を漏らす。

 

――どうやら、知らないうちに菊月()は、泣き虫になったらしい。




漸くミッドウェーで必要なことも終わりました。
次回から日常、かな。
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