私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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最近時間守れてると思ったらこれだよ(慢心)

一応、ショッピング→遊園地→アイドル回までは決まりました。そこから春イベ挟んでプールやお祭りやるかどうか、春イベ挟まずにプールやお祭りやるか、ですね。


ショッピング・アゲイン、その一

「そう言えば菊月ちゃん、夏服って持っているの?」

 

穏やかな風が吹き込む午後、出撃のない休日の昼下がり。不意に思いついた風な如月が、そのことを菊月()に問いかける。睦月型(俺達)に割り当てられた部屋ではなく食堂で、まったりと間宮さん謹製のおやつを食べているところだった。

 

「菊月は冬服すら持ってなかったんだからな。夏服なんて無いんじゃ無いかと私達で話し合ったんだが、どうだ?」

 

「……うむ?いや、持っていないが……」

 

ほんの少しだけ気を緩めつつ返答する。間宮さんのおやつ、漂流してから長いこと食べる事の叶わなかったものである。普段の料理もさる事ながら、やはりこの甘味は頬を蕩けさせる作用があるのだろう。その証拠に、先程から『菊月』から伝わる感情がふわふわとしていて仕方が無い。菊月()は必死に顔を取り繕っている。

 

「あら、それじゃ駄目じゃない。三日月ちゃん、張り切ってたのよ?そうね、いい機会だからまたみんなで――ねえ、菊月ちゃん?」

 

「……なんだ……?」

 

スプーンを口に運び答える。口内に広がる控えめな甘さがまた良い。

 

「ちゃんと聞いてる、わよね?」

 

「……うむ……。私の夏服だろう?」

 

「良かった。そんなに頬を蕩けさせてるんだから、もしかして聞き流されているんじゃ無いかって思っちゃったじゃない」

 

「頬を……?そんなことは無いだろう。確かにこの間宮さんのおやつは久し振りで、高揚してしまうが……」

 

菊月()の言葉に、正面に座っているもう一人……卯月が取り出した手鏡を俺へと向けてくる。そこに映っていたのは、眉と目尻と口元を下げた、至福の表情を浮かべる菊月()だった。その鏡に、『菊月』は赤面し『俺』は歓喜する。

 

「……この菊月、この程度の甘味で……!」

 

「そんな顔で強がっても意味が無いですよ、菊月お姉ちゃん」

 

「はは、何だかんだ言っても菊月も子供だな。私を見習うといい」

 

「長月も似たような顔だぴょん」

 

何をーっ、と声を上げる長月とそれをからかう卯月。声を上げながらも頬の緩んでいる長月を横目に、菊月()と如月、そして三日月は笑いながらスプーンを進める。

 

「はい、あーん。こっちも美味しいですよ、お姉ちゃん?」

 

「……む、うむ……ありがとう、三日月……」

 

わいわいと騒ぎながら、穏やかに時を過ごす。おやつを食べきり、その後も暫く食堂で時間を潰す。気が付けば時計の針は五時をとっくに過ぎているのに、日が高い。ミッドウェーにいた頃には気がつかなかったことだ。姉妹達の顔を眺めながら、菊月()はそんなことを思っていた。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「……ということがあってだな……」

 

「ほう、良い日を過ごせたみたいじゃないか。苦労続きだったろう、偶には良いんじゃないか」

 

「ああ。……しかし、お前も酔狂だな……?」

 

「酔狂でもなければ、天下の大戦艦『武蔵』などやってられんさ。っと、菊月。お前も飲むか?」

 

「いや、良い……」

 

すっかり日も落ち、風が冷たくなったころ。菊月()は戦艦『武蔵』の誘いの元、彼女の部屋へ呼ばれていた。元々は接点が薄かった彼女だが、先日の鎮守府襲撃時の活躍が彼女の目に止まり、それ以来親しくしている。

 

「いやしかし、大和も情けない。これしきの酒で倒れるとは」

 

「……何を言う。お前が飲みすぎているのだろう。私財で購入したのだろうが、流石に飲み過ぎだ……」

 

真上(・・)に位置する武蔵の顔を見上げながら、呆れ半分で告げる。菊月()の言葉に堪えるどころか、楽しそうに笑うのが武蔵という艦娘だ。真正面で潰れている大和とは、これで姉妹と言うのだから面白い。ちなみに、菊月()は今胡座を掻いている武蔵の上に座っている。部屋に来るなり既に出来上がっていて座らされた形で、戦艦のパワーから逃れる術は菊月()には無い。

 

「はっはっは、構うものか。しかし、お前はよくやるなぁ。私の懐に入るぐらい小さいと言うのに、ああも魅せてくれた。私も刀を使うようになったが、流石にな」

 

「……?武蔵、お前も刀を使うのか……」

 

「ああ、そこに立て掛けてあるだろう?」

 

武蔵の身体から乗り出すように指を指された方向を見ると、言う通り壁には二本(・・)の刀が斜めに掛けてある。

 

「……二本?……ふ、成る程な……」

 

「そういう事だ。『武蔵』なのだからな、それぐらいはしないと名折れだろう?実際、使う事は稀だがな」

 

武蔵と二人、小さく笑みを漏らす。

 

「で、何だったか。そうだ、お前の剣の話だ。今宵は、お前の休みの間に剣の演習を申し込もうかと思って呼んだのだが。流石に姉妹団欒を邪魔しては悪いな」

 

「……済まないな……。詫びではないが、受けよう。何時になるかは分からんがな……」

 

「構わんさ、楽しみにしている。――さあ、振られた記念だ。せめて今夜は付き合ってもらうぞ」

 

「……飲むなら離せ。私はもう寝る……!」

 

「つれないことを言うんじゃないぞ、菊月。離さん、離さんぞ」

 

「だから離せと……!」

 

武蔵の腕の中でジタバタともがくが、離してもらえる気配は無い。菊月()が部屋に戻れたのは武蔵が酔い潰れてから。およそ午前三時になるのだった。

 




ショッピング・アゲイン(ショッピングするとは言っていない)

次回はちゃんと買い物行きます。夏服買うよ。

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