青々と茂った木々や草花はもうすぐ訪れるであろう夏を思い起こさせ、澄んだ空と浮かぶ雲がどことなく心を弾ませる。眼に映る景色が次々と移り変わって行く、それを眺め車に揺られながら
「……済まないな、明石。こうして車まで出させて……」
「いえ、構いませんよ。私も提督に休みを貰っていましたし、一人で行くのも寂しいですからね」
俺達は今、明石の車に同乗しながら街を目指している。目的はショッピング、夏服その他の購入である。前回と同じく姉妹達だけで向かおうとしたところ、同時刻に出掛けようとしていた明石を卯月が捕捉し交渉した為に車に乗せて送ってもらえることとなった。助手席に
カーブに差し掛かると、大きな車体がぐわんと揺れた。
「……明石は今日、何を買うのだ……?」
「そうですねぇ。ウィンドウショッピングで時間を潰して、あとは色んな本を探すつもりです!インスピレーション、大事なんですよ?菊月さんの刀も、そうやってデザインしたんですから」
「……そうか。本を読む、と言うのは少し意外だな。……明石、護月は……」
「そうですね。正直、一旦折れたものを元どおりにするのは私でも難しいですね。どうにか工夫して、脇差に落とし込むのが精一杯でしょう。時間さえあれば可能ですが……どうします?」
明石から投げかけられる言葉に、暫し黙考する。後ろで騒いでいる姉妹達の声が遠くなるぐらいに考え込み、『菊月』の意思を『俺』の意思で汲み取る。
「……頼む」
「分かりました、菊月さん。鎮守府へ戻ったら、折れた護月を持ってきて下さいね」
「……ああ」
そこまで言って、運転へと集中する明石。後ろの姉妹達の会話に混ざりたくもあるが、じゃんけんで席順が決まっている以上はどうしようもない。それに良い機会だ、明石に一度聞いてみたいと思っていたことを聞いてみるとしよう。
「……なあ、明石。一つ、ものを作る立場のお前に聞きたいことがあるのだが……?」
「おや。何ですか、いきなり改まって」
「護月が折れた時に思ったのだが……長く使ったものには魂が宿る、と言うだろう。明石は……それを信じているか?」
「――ふ、ふふふっ!あははは、何言ってるんですか、菊月さん!」
笑った拍子にハンドルがあらぬ方向に回転し、車が大きく揺れる。慌ててハンドルを切る明石へと不満げに視線を送れば、後ろの姉妹達からも笑い声が聞こえてくる。
「……なんだ、一体。そんなに可笑しなことを言ったつもりは無いが……?」
「可笑しなことも何も、可笑しなことだらけぴょん」
「……何がだ、卯月……」
「ふふ、菊月さん。別に可笑しくて笑ったのではありませんよ。『物に魂が宿るか』でしたか。じゃあ菊月さん、一つ聞きますが――私達って、一体何ですか?」
明石の問い掛けに、ハッとする。同時に、
「……艦娘。『嘗て存在した軍艦の魂』を宿した存在。成る程な、それは笑われる筈だ……」
「ええ、ですから私は――いえ、おそらく私達みんなが同じように考えているでしょう。『護月』も、菊月さんの手は殆ど傷つけなかったと聞きました。なら、まだ薄くとも何かを宿しているのじゃないかと思ってしまいますね」
「そうか。……ありがとう、明石……」
「いいえ、構いませんよ。さ、話をしているうちに到着しました。この駐車場に、午後六時に集合ですからね」
全員で明石に了解の意を伝え、順に車から降りる。今朝、明石のこのピンク色の大きなトラックを見た時は少し心配になったものだが終わってみればどうということはなかった。
「そうだ。私は何をするか言いましたけど、皆さんはまず何処に行かれるのですか?」
「……そうだな、それは私も聞いていなかった。どうするんだ、如月?」
「ふふ、菊月ちゃんには言ってませんものね。まずは夏服を買いに行きますよ。そのあとは――内緒、ね」
「……なに?」
「内緒。うふふ、楽しみにしていてね?」
「ま、うーちゃんこれ聞いた時正直可哀想に思ったぴょん」
「私は、私でなくて良かったとだけだな」
「頑張ってください、菊月お姉ちゃん」
背筋に少し、薄ら寒いものを感じる。卯月に長月、そして三日月の言葉が不気味に響く。謎の不安を抱えたまま、ショッピングは始まるのだった。
嫌な予感=如月と二人で下着を買いに行くイベント。
採用させて頂きます。