私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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いつから次が遊園地だと錯覚していた?ごめんなさい。


ゆ号作戦、その二

空は澄み渡り、風はほどよく涼しい。雲は全くと言っていいほど無く、波も高くない(・・・・・・)。この調子だと、雨に降られることも無いだろう。

 

「あーあ、提案したのはうーちゃんなのにがっかりぴょん。早く遊園地行きたいぴょぉ〜ん!」

 

「我慢してください、卯月お姉ちゃん。あと一日の辛抱じゃないですか。先に行くか後に行くかなんて、大して変わりは無いでしょう?」

 

「それでもうーちゃんは早く遊びたかったぴょん!」

 

『ゆ号作戦』の振り分けの結果、我々睦月型の艦娘は後半に作戦行動に移ることが決定した。菊月()としては楽しいことは後に取っておきたい為文句は無いのだが、卯月は違うようだ。振り分けから今日までずっと、今日のように遠征に出ていたとしても思い出す度に文句を言っている。

 

「今日と明日、それだけ我慢すればあとは二日遊び放題じゃない。我慢しなさい、卯月ちゃん」

 

「ぷっぷくぷぅ〜、うーちゃん不満ぴょん。如月に言われたら静かにするしか無いけどぴょん」

 

ぷっぷくぷぅ、と頬を膨らませる卯月。その顔を振り返った拍子に、黒いスカートが揺れた。今纏っている服はミッドウェーで作成したものではなく、正規の制服。マフラーも何もつけておらず、見た目だけならほぼ『菊月』と同じだ。神通の鉢金はウェストポーチに入れてある、いつか返さねばと思いつつもニアミスが多く返せていない。

 

「はい、全艦集中!そろそろ敵部隊が確認される頃だろうし、気を引き締めて――ほら、言ったそばから出たわ!三時の方向!」

 

旗艦である川内の言葉に、全員が砲を構えて臨戦態勢に移る。先頭は菊月()、本来ならば川内を中心に隊列を組む筈なのだが今日に限っては敵の編成次第で先陣を切って突撃する許可を得ている。その理由は――新兵装のテスト。同時に、此の所皆から出撃をやんわりと止められていたのだ、『皆を守り、共に海を駆けたい』という『菊月』の願いの為にも『俺』は奮起する。

 

「……さあ、コレが如何程のものか試させて貰う。菊月、全力突撃する……!」

 

態勢を低くし、敵味方の誰よりも先んじて突撃する。見える敵影は駆逐が四に軽巡が二。その中でも先鋒を務める駆逐ロ級二匹に向かって、菊月()は手に持つ『12.7mm単装機銃()』を掃射した。

 

「それが明石から頼まれた艤装か、菊月。何にせよ、残りは任せろ」

 

「……ああ。この二匹は片付けるさ、長月……!」

 

ロ級二匹の注意を引き付けた側を、姉妹達と川内が駆けてゆく。その姿をちらりとだけ見れば視線を戻し、ロ級からの砲撃を『12.7mm単装機銃改』の斉射で撃ち落とした。

 

「取り回しは悪くない……。あとは威力か……!」

 

『12.7mm単装機銃()』は、その名の通り12.7mm単装機銃をベースにした艤装である。基本的に対空性能も外観も変わってはいない、ならば何が『改』かと言えばその用途である。簡単に言えば、対空用だけでなく直接敵へとばら撒けるだけの威力を確保したのだ。菊月()の要望に対し重機関銃からインスピレーションを得た明石が完成させたもので、テストは済ませているものの実戦での使用は初めてである。

 

「……くうっ!」

 

身体を左右に振り、慣性で回転しながら旋回しロ級の横腹へ『12.7mm単装機銃改』から放たれる無数の弾丸を叩き込む。一発一発は駆逐艦の主砲にすら遠く及ばない威力だが、機銃も敵装甲に穴を開けるだけの威力は確保している。――その筈だったのだが、ばら撒いた弾丸はロ級の表皮に傷をつけるだけに留まる。それを見てから数発の魚雷を放てば、漸くロ級は沈んでいった。

 

「ゴォァォァア!!」

 

「……次だっ!」

 

つま先を使うことで小刻みに軌道を変化させ、敵砲撃を回避する。そのまま突貫……と思った矢先、敵から魚雷が放たれる。何時もであれば回避するところだが、菊月()は手に持つ機銃から弾丸を海面に向けてばら撒く。それらのうち幾つかが魚雷へと命中し爆散させる。

 

「……ふ、まだ甘いところも多いが中々使えるじゃないか……」

 

水飛沫へと機銃を向け、その中へ思い切り飛び込む。肉薄し、ロ級へと銃弾の雨を浴びせるが精々弾痕を刻むぐらいで沈めることは敵わない。銃身を焼きつかせた『12.7mm単装機銃改』が煙を上げて装弾不良を引き起こすのと、追撃として放った雷撃がロ級へ風穴を開けたほはほぼ同時だった。

 

「……今日はこれまでか。……向こうも終わったようだな」

 

「あったりまえぴょん、余裕ぴょん!もうすぐ遊園地なのに怪我なんかしてられないぴょん!菊月は、ちゃんと準備してるぴょん?」

 

「勿論だ……。しおりも読み込んだし、持ち物欄にチェックも入れた。着替えも多めに入れてあるぞ……」

 

「うむ、完璧ぴょん!」

 

青い空へと立ち昇る黒煙のもとから海を滑ってくる、傷一つ負っていない仲間達と合流する。流石に、後期型でもなんでもない駆逐級と軽巡では相手にもならなかったようだ。完全勝利したせいだろうか、卯月の機嫌も幾分かは良くなっている。機銃のようにまくし立てられる卯月の言葉を全員で聞きながら、俺達は遠征を終わらせて帰投するのだった。

 




次こそ遊園地、だといいなぁ。

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