私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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日曜だからいっぱい書こうと思ってたのになんでこんな時間に書き上がってるのが一話なんだろう(白目)




ゆ号作戦、その三

がたん、と一際大きな揺れを立ててバスが停まる。渋滞に巻き込まれるようなこともなく、三時間と少しのバスの旅は終わりを告げ、同時に空気の抜けるような音と共に扉が開く。

 

「はい、到着です。皆さんお疲れ様でした。荷物を持って、ゆっくり出てください――こらそこっ、ゆっくり出てください!走らないで!」

 

全体の引率をしているのは赤城や加賀といった空母組。此方のバスは赤城が、もう一つのバスは加賀が率いている。軽巡や重巡もちらほらと見えるとはいえやはり多いのは駆逐艦、そのせいか赤城が小学校の先生にでもなったかのように感じてしまう。

 

「……長月、しおりと財布を忘れているぞ……」

 

「ん?お、おお済まない。なんだ、その、少しばかり楽しみでな」

 

あからさまにそわそわと落ち着かない様子なのは、別段長月だけではない。同じバスに乗っていた第六駆逐隊の面々や潜水艦達、そして卯月や三日月。その誰もが、今日と明日の二日間を楽しみに待っている。

 

「……そうだな。まあ、私も長月のことを笑えぬ……」

 

「ちなみに、うーちゃんも同じくだぴょん」

 

かく言う菊月()も、『菊月』の興奮に引っ張られて昨夜はあまり眠れなかったのだ。むしろ、睦月型の姉妹は誰も彼も寝不足だろう。

 

「……ここが……」

 

寝不足だというのに怠さを全く感じない。他の艦娘に続いて意気揚々とバスを降りれば、駐車場から少し歩いたところに見えるのは大きな入場門。明るい色で装飾されたそれと、その向こう側に見える沢山の人影は嫌でも気分を盛り上げる。

 

「じゃあ、皆さんは私と加賀さんについて来て下さいね。入場門を潜るところまでは団体行動です。その後は自由行動ですが、集合時間には遅れないように!しおりに書いてますから、それを見てください。全員、しおりは携帯していますね?」

 

引率される全員が、口を揃えて返事を返す。どうやら俺達が待ち切れない様子は滲み出てしまっているらしい、赤城が苦笑している。では早く入ってしまいましょう、という赤城に引き連れられて、漸く門をくぐり終える。

 

「最後に!皆さん、今ここに居るのは私達だけではありません。くれぐれも他の人に迷惑を掛けないように!それでは――解散!」

 

その一言に、わっと一斉に散る艦娘達。それぞれが思い思いの場所へ走っていく。そして、それは俺達睦月型駆逐艦も例外ではない。予想通り、張り切る卯月に引き連れられるような形で菊月()の遊園地はスタートしたのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「ほら、みんな!遅いぴょん、遅いぴょぉ〜んっ!!次はあっちのアトラクションに行くぴょん!!」

 

最初に乗ったのは、園内を一周するゴンドラだったか。次がメリーゴーラウンド、その次がコーヒーカップ。途中で遭遇した加賀が写真を撮ってくれたようで、鎮守府へ帰ったら焼いてくれるとのことだ。

 

「ぷっぷくぷぅ〜、お待たせしたっぴょん!遊園地に来たならコレ、絶対に乗らなきゃいけないアトラクション!ジェットコースターだぴょん!!」

 

そして、菊月()達の前にそびえ立っているものこそが絶叫マシーンの雄であるジェットコースター。この遊園地が改装した際に同時に改造され、速度も増したという逸品らしい。

 

「ジェットコースター、ですか。私は乗ったことが無いですけど、楽しみです」

 

「……ああ。おもしろそうだ――ぅん?」

 

三日月と並んで乗り場へと歩き出そうとすれば、何かに引っ張られ足を止められる。がくんと首を揺らし、何事かと振り向けば菊月()と三日月の服の裾をそれぞれ長月と如月が握りしめていた。

 

「ね、ねえ三日月ちゃん?ちょっと疲れない?そろそろ休憩にしても良いかと思うのだけれど」

 

「なるほど、流石に如月は良いことを言うな。それに、今日の午後も明日もあるのだ。そう急ぐこともないと思うぞ。なあ、菊月?」

 

穏やかに笑う如月と、いつものように口元にだけ笑みを浮かべる長月。しかし、その瞳はあらぬ方向へ泳いでおり声も震えている。そこから彼女達の心境を把握することなど容易く、三日月と顔を見合わせ――にっこりと、二人に向かって笑いかける。

 

「そうですね、如月お姉ちゃんの言う通りです」

 

「ああ。確かにまだまだ時間はあるな……」

 

菊月()と三日月の言葉に、如月と長月の顔が一気に明るくなり卯月が不満そうに顔を顰める。それを見ながら、笑顔のまま言葉を続けた。

 

「じゃあ、ジェットコースターが終わったらお昼にしましょう!それが良いですよね、菊月お姉ちゃん?」

 

「……ああ。時は金なりとも言うしな。ここから食事へ向かえば、ここに来た分の時間が無駄になるだろう……?なら、乗ってはいこうではないか……」

 

ぐっ。

 

言うや否や、長月の背後に回り込み動きを封じる。如月は三日月に同じことをされており、じたばたと必死にもがいているようだが逃す訳にはいかない。

 

「ふっふっふ、良くやったぴょん、菊月軍曹、三日月軍曹!さあ、うーちゃん提督が命じる!二人をジェットコースターへ連行するぴょん!!」

 

「ま、待て止めろ菊月!そうか、この前お前の分のデザートを横取りしたことを怒っているのだな!?プリンは返す、二倍にして返すから!わた、私はああいうのが苦手で、うわぁぁあ!!」

 

「離して、離して三日月ちゃん!ごめんなさい、もう着せ替えしたりしないから!――嫌ぁぁぁあ!!」

 

残念だな、長月。『俺』はともかく『菊月』は、プリンのことを許してはいないようだ。顔に笑みを貼り付けたまま、俺達はゆっくりと入場口へ歩いていった。

 

――楽しい時間は、まだまだ終わらない。




早く三流の方も書かなきゃ。

追記、前話の機銃の威力を下方修正しました。浅い傷しか与えられないから追加の雷撃で沈めた、というだけなので見なくても大丈夫です。

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