私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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昨日の投稿分が今日の分になったけど、まあ一日一回投稿だし……と思ってました。

しかしッ!
菊月が登場していないのならばッ!それは投稿したと数えられないッ!
故にッ!本日二回目の投稿であるッ!

第二章、始まりますッ!!


第二章
放浪艦菊月(偽)、その一


「……っと、よし。これで完成だな。……ふふ、また強くなってしまった……」

 

瓜の島を見つけてから数日、俺は相も変わらず海岸で作業をしていた。今作っていたのはイ級の歯を利用した手斧で、これ一つで細枝を採取することから深海棲艦の強襲までこなせる……のではないか、と密かに夢想しているものだ。

 

「しかし、考えていた以上に状況が悪い……。今日から、少し遠くまで出るか……?」

 

……そう、俺はあの瓜の島以外に何一つ見つけられていないのだ。二つの島を中心に少しずつ探索範囲を広げるも、見つけられた人工物は皆無。ただ一つ遠くに岩礁地帯があった他は、穏やかな海しか目に入らなかった。

また、夜も明かりを探しているものの見つかるものは皆無。少し前に遠くの海に見た明るい瞬きも二度見えることはなく、今では恐らく見間違いだったのだろうと考えている。

 

「……あまり無茶はしたく無かったが……仕方あるまい。虎穴に入らずんば、とも言うからな……」

 

まず目指すのは……そうだな、イ級が来た方角へ、瓜の島を超えてずっと。それでも何も無ければ、あの何か光ったように見えたところへ。

 

「……ふむ、これで行こう。駆逐艦『菊月』、抜錨する!」

 

――――――――――――――――――――――――

 

「…………はぁっ、はぁっ、はぁっ……く、流石に辛いぞ……」

 

これで三隻目。駆逐艦イ級が二つにロ級が一つ。この何時間かで俺が沈めた深海棲艦だ。イ級がいた方角には何も無く、光が見えた海域にも何も無く。仕方がないから唯一見えた岩礁へ向かい、そこから太陽を見て南へ進んで……すぐ、駆逐イ級と遭遇したのだ。どうにか背に登って、脳天へナイフを突き立てることで沈めはしたが、その疲れを癒す間も無くロ級にも襲われ。這々の態で岩礁へ帰還しようとすれば今度は後ろからイ級に奇襲された。

 

「……ぐっ、はぁ……!つ、疲労が酷いな」

 

ただでさえ戦闘には気を張らねばならない上に、俺の持つ実用に足る艤装はナイフと手斧一つずつ。初めてイ級と渡り合った時よりはマシだが、満足に戦えるという訳では決して無い。ましてや遭遇する深海棲艦は傷を負っていることもない万全なのだ。

 

「……轟沈は、嫌だからな……っ」

 

次々に繰り出される砲撃を掻い潜って肉薄し、横腹に手斧とナイフをを叩き込む。それを持って船体に這い上がり、頭にナイフを突き刺す。言葉にすればたったそれだけだが、一つ一つに尋常でないほど体力を使うのだ。

まず、砲撃を掻い潜るなんて馬鹿のすることだ。遠くにいる時でさえ油断すれば被弾すると言うのに、近付けば近付くほどそのリスクが高まる。幸い未だ直撃は無いが、駆逐艦だからといって幾らでも回避できる訳ではない。

 

次に、深海棲艦によじ登ることだが、彼奴等は『菊月()』の身体に対して大きすぎる。自転車に跨るのとは訳が違う、一回一回が登山をしているかのように感じるのだ。

 

最後に……自明だが、彼奴等は暴れる。自分の身体に刃物を突き立てられているのだから当然ではあるのだが、それはもう盛大に暴れてくれる。暴れる山というだけで馬鹿馬鹿しいのに、それを道具二つだけでよじ登るなんてそれこそ呆れてしまう。それでも、そうしなければ海の藻屑と消えるのは此方なのだからやっているのだが。

 

「くうっ……腕が痺れる。情け無いが、帰投するより他は無いか……」

 

……また、登ったからと言って暴れるのが止まる訳でもない。むしろ暴れ馬のように盛大に跳ねるのだ。どずん、どずんと下から突き上げられ、しがみ付くのに精一杯である。ただでさえ駆逐艦、戦艦連中に比べれば非力なのだ。さっきなどロ級に振り飛ばされ、危うく轟沈するところだった。

 

「……っ!?あれは……く、撤退、する……!」

 

疲労ゆえの見間違えかも知れない、しかし楽観的に受け止めることなんて絶対にしない。遠くの『空』に見える小さな異形……『艦載機』。こんな状況でなくとも、独りで挑むには過ぎた相手。踵を返し、一も二もなく出せる全速力で俺は逃げた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

すっかり日が落ちたころ。岩礁地帯から来た航路を辿り、拠点とする島へと向かう。……しかし、そこでも俺は信じられないものを見た。

 

「……なん、だと。馬鹿な……っ!?」

 

―――俄かには信じられない。否、信じたくないことだが、俺が寝起きしていた島は深海棲艦に占領されていた。海岸付近には駆逐艦が何隻も居り、ちらほらと人型の深海棲艦も見える。雷巡、重巡、それに……空母?……冗談ではない。

 

「……夜であることが幸いしたか。艦載機さえ無ければ、下手を打たなければ見つかるまい……ぐうっ……」

 

疲労から、自然と呻き声が出る。慌てて口を押さえるも、そもそも声が聞こえる距離にまで接近してもいない。今度こそゆっくり溜息をついて、俺はそこを離れた。目指すは瓜の島……だが、此方も長居は出来ない。此処に隠れるところなど無いし、俺が直ぐに辿り着ける距離など艦載機を飛ばされれば見つからない道理がないからだ。

 

「……ぅう、これは……く、辛いぞ……」

 

瓜を持てるだけ回収し、辿り着いたのは岩礁地帯。その中でも岩が密集しているところを選び、その間に身を預ける。手斧で岩礁を崩し小さな足場にし、突き立った太い岩礁へ寄りかかる。

 

「………ぅうう……!何なのさ、何なのさ一体……!私が何をしたと言うんだ……!」

 

いくら愚痴を溢そうと、疲労には抗えない。誘われるように、俺は冷たい海の上で眠りに落ちた。




拠点:孤島→海上の岩礁 New!!
安定した衣食住全部ロスト!

でも実際、深海棲艦に海域占領される時ってこんな感じだと思います。

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