私が菊月(偽)だ。   作:ディム

91 / 276
戦闘。春イベじゃないです。


菊月(偽)の艤装事情、その一

太陽の勢いは日に日に増し、今も強く菊月()達を照らしつけている。時刻は、ちょうどそれが中天を過ぎたころ。十数分前に、此方を奇襲してきた艦隊を撃滅しようかと言うところである。

 

「……くうっ!長月っ!」

 

「分かっているさ。はあっ!!」

 

敵軽巡級の砲撃を躱し、長月と二人でその黒い異形の左右を取る。同時に砲撃、間髪入れずに雷撃を放つ。迎撃も回避もさせることなく、軽巡級は真っ赤な熱を巻き起こして冷たい水底へ沈んでいった。

 

「周囲に敵は残っていないな。菊月、そっちはどうだ?」

 

「……敵影無し……」

 

警戒を終えると同時に、後方で他の深海棲艦と交戦していた川内達が寄ってくる。其方にも大した被害は無いようだ。今日の編成も変わらず我々姉妹と川内、安心して背中を任せられる。

 

「ほーい、長月と菊月は怪我無いぴょん?」

 

「当たり前だ。其方も問題無いな、川内?」

 

「うん、全員平気。んじゃ、複縦組み直して行軍の続き行くよ!」

 

「「了解(ぴょん)!」」

 

川内の横には如月が付き、縦隊二列目には長月と三日月。殿は菊月()と卯月が務めている。周囲を警戒しながら海を行く、照りつける太陽以外に俺達を害そうとするものは存在しない。そんな中、卯月が此方へ声を掛けてきた。

 

「そういえば菊月、今日は『それ』使ったぴょん?」

 

「ああ、『これ』か。……いや、今日は使っていないな……」

 

「そうなのぴょん?うーちゃんはさっき一匹仕留めたぴょん、『これ』で!」

 

卯月が指を指したのは、菊月()の腰に佩かれている『乙種軍刀』。真っ二つに折れ、その片割れを脇差へと改造している最中の『護月』の代替として使うつもりで装備しているものだ。

 

「やっぱり使いにくいぴょん?同じのを使ってるうーちゃん的にはなんとも無いんだけどぴょん」

 

「……これが悪い、というよりも『護月』が私に良すぎただけだ、というのは分かっているのだがな。やはり慣れぬ……」

 

「ぷっぷくぷぅー、やっぱりうーちゃんの方が強いみたいぴょん!」

 

卯月の言葉を聞き流しつつ、腰から乙種軍刀を抜き放ち数回空を切る。良く鍛えられた、実用的な艤装だとは感じる。ただ、やはり違和感が拭え無いのだ。軍刀へすまん、と心の中で詫びながら鞘へ戻し、卯月へ向き直る。

 

「まあ、こればかりは慣れるしか無いだろう。だがな、私が軍刀よりも気にしているのは『それら』だ……」

 

「ああ、『これら』ぴょん?」

 

先程とは反対に、俺が指差したのは卯月の手に持つ・又は両足首に備えた艤装。それは睦月型が標準装備している『12cm単装砲』と『61cm三連装魚雷』――ではなく、『12.7cm連装砲』と『61cm四連装(酸素)魚雷』。どちらも、菊月()が今装備しているものより数ランク上の艤装だ。

 

「艤装の性能だけで戦果が決まる、と言う気は無いがな……、それでも、良いものを積むに越したことは無いだろう?みんな、羨ましいよ……」

 

「そりゃあ、菊月が居なかったんだから仕方ないぴょん。うーちゃん達がこれを装備して一生懸命海に出てた時、思いっきり流されてミッドウェー島で怪我してたのはどこの誰だったぴょん?」

 

「ぐ……」

 

そう、この艤装の刷新は菊月()がミッドウェーに居た時に行われた。当然、揃えられる数は当時鎮守府に居た艦娘の分だけであり、現状菊月()の分の艤装は申請中となっている。

 

「ふっふーん、ぐうの音も出ないぴょん?うーちゃんの完全勝利ぴょん。そうそう、結局菊月が言ってたみたいに、艤装で戦果が決まる訳じゃないぴょん。だから菊月も甘えずに、うーちゃんみたいに普通の軍刀を使って――おっ、あれは深海棲艦ぴょん?」

 

卯月の言葉と同時に、先頭を行く川内から号令が飛ぶ。全員が深海より這い出た異形へと視線を集中させる。だが、その中でも菊月()の中では一つの感情が渦巻いていた。

 

『菊月も甘えずに』。

 

卯月の顔からして、さっきから言われていたのはいつもの軽口であるのは分かっている。だが、だからと言って『甘えている』と言われて黙って居られる『菊月』ではない。姉への幼い反発心だろうが知ったことではない、拗ねているような感情だが、見返してやるという意思は本物。

 

「……っ!!」

 

故に、雷撃が終了した直後。沈めた駆逐級の向こうに佇む幾つかの軽巡へ向けて砲を構える面々をよそに、菊月()は単装砲を腰へと留め、すらりと軍刀を抜く。『護月』のように片手で自在に振るえないのならば、両手で全員斬り伏せるまでだ……!

 

「……はあぁぁぁあっ!!」

 

「ちょっ、菊月っ!?」

 

砲を放つ姉妹と川内の真ん中を通り過ぎ、たった一人で敵艦隊へ肉薄する。当然飛んでくる砲弾、それを軍刀で斬り払う。重心のバランスがおかしく斬り漏らした破片が頬を浅く切るが、気にも止めない。

 

「くうっ!!」

 

すれ違いざまに、一体の軽巡級の首を撥ねる。いつもの感触よりも幾分重く、態勢を崩したところに砲撃を受ける。裂ける服と肌の痛みを噛み殺し、返す軍刀を一閃。軽巡級の首を半分ほど切り裂いた。

 

「……ちいっ!!」

 

『菊月』には、長く刀を使ってきたという自負がある。加えて、『護月』という相棒と共にそれを成してきたことも。故に、たとえ卯月だろうと――いや、むしろ近しい艦娘だからこそ、こと刀においては負けたく無いという感情がひしひしと伝わってくる。

 

「運が、悪かったな……!」

 

そのままもう一歩踏み込み、半分断ち切った首へもう一撃。今度こそ両断し、眼前の亡骸は海へ消える。残り一体は、どうやら仲間達が沈めたようだ。

 

「う、あー、その、菊月?」

 

「……ふん」

 

おずおずと話しかける卯月へ目も合わせず、鼻を一つ鳴らしそっぽを向く。ショックを受けたような顔をしているが関係無い。口は災いのもと、少しは慎むといい。『菊月』から、そんな子供のような感情が溢れてくる。それに思うところが無いではないが、『俺』は菊月の思うようにするだけだ。

 

結局、少し憮然とした感情のまま、菊月()はその日一日を過ごしたのだった。

 




うーちゃんとの確執(菊月が拗ねてるだけとも言う)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。