ここ最近のはいつかちゃんと書き足したりするかもです。
段々と強さを増す日光が容赦なく照りつける昼下がり、
「……で、明石。私の艤装は……」
「菊月さん?昨日も一昨日も『もう少し掛かるでしょう』と返事したものが、どうして今日完成していると思うんです。いくら私でも、ちゃんと調整した艤装を渡すのに一日は無理ですって」
「むう……それでは、『護月』の仕上がりはどうだ?」
「それもまだです。刃先の調整やら何やら、複雑で緻密な作業が必要なんです。柄の部分も調整が必要ですし、まだ少し掛かっちゃいますね。それまでは、乙種軍刀で我慢して下さい。あ、あとで握りの部分のチェックしますからね」
「……うむ」
「ところで菊月さん。流石にもう、卯月さんとは仲直りしましたよね?もう一週間ですよ?」
「……うっ」
三つ目の理由が、未だ卯月と気不味い状況にあるからだ。流石にもう拗ねてはいないが、あれだけ意地を張った手前素直にもなり辛い。加えて、卯月の顔を見るたびに『菊月』の反骨心が蘇ってしまうのが理由だ。
「はあ。未だみたいですね、その様子じゃ。それなりに菊月さんとは付き合ってますけど、やっぱり意地っ張りですねぇ。後で聞きましたけど、菊月さんの剣術練習場に『卯月オコトワリ』って張り紙したらしいじゃないですか」
「……今回のは、仕方がないだろう。良い艤装が欲しいというのは当たり前だろう?長く使った刀を持ち替えたから慣れない、というのも……。それを『甘えて』と言われたんだぞ……」
『菊月』の意思を代弁すれば、口から漏れるのは普段からは想像出来ない程の長い愚痴。その向こう側に存在する真意すら分かってしまう『俺』にとっては微笑ましいものでもあるのだが。
「はいはい、それも何度も聞きましたよ。まあ、卯月さんも言い過ぎ――というか、軽口が過ぎるとは思いますよ。でもだいたい、限られた艤装と資材で勝ちを拾うような戦い方は菊月さんの十八番じゃないですか。深海棲艦の魚雷を手で投擲してた艦娘は何処の誰でしたか?」
「……むぅ」
「刀を持ち替えたから慣れない、っていうのも。自分で深海棲艦の骨からナイフや斧を削り出して使う艦娘なんて聞いたことありませんよ。そんなのが使えるんですから、軍刀ぐらい直ぐに慣れる筈です。ですから――菊月さんの『慣れない』という感覚は、護月への未練です。そうでしょう?」
「……む。……ああ、その通りだ……」
「それに、そもそも『護月』はあなたに合わせて鍛えたんです。使い易くて当たり前、他の艦娘は今の菊月さんと同じ思いをして、それで刀に慣れたんですよ?艤装はともかく、刀にだけは卯月さんの言いたいことも分かります」
きっぱりと告げる明石。卯月の言いたいこと。彼女は彼女なりに、
「……む。……そうだな、分かった……」
「なら、しっかりやって下さい!菊月さんは乙種軍刀を使いこなして、卯月さんと仲直り。その代わり、私は『護月』の調整と艤装の用意に全力を傾けます!良いですね?」
「……分かった……。済まなかったな、明石」
腰掛けていた椅子から立ち上がり、そのまま扉を開けて外に出る。今日の遠征も編成は同じ、姉妹達と川内。『菊月』から伝わる複雑な感情を笑いつつ、
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「ね、ねえ菊月?」
「………………なんだ」
「う、あ、えっとぉ。その、ぴょぉん」
「………………どうした」
「ぬ、ぐぬ、ううぅ、なんでもないぴょんっ」
「そうか…………」
日も暮れかけた海の上。遠征に出てからずっと、卯月と
「全艦警戒!今度のは駆逐三、軽巡二――戦艦一っ!?しかもあいつ、
川内からの号令に、単縦陣を組みながら返事を返す。接敵しつつ雷撃を放つ、夕日と同じ色の炎を吹き上げた魚雷は敵艦隊の半分を呑み込み焼き尽くす。しかし、やはりと言うべきか黄金のオーラを吹き上げるそれ――『戦艦ル級』には、大した傷を与えられていない。
「……く、あれは後回しか。軽巡は任せろ、残りの足止めを頼む……!」
「仕方ない、か!菊月、任せたわよ!」
川内から掛けられる言葉を背中に感じつつ、敵軽巡へと迫る。ル級は仲間達が縫い付けてくれているお陰か、好きに動くことが出来た。
「……はあっ!!」
「グガォォア!!」
繰り出される砲弾を回避し、刃の届く距離までの接近を試みる。回避、回避、掠弾、砲弾を躱し、或いは切り裂く。切り落とし切れなかった破片は、もれなく身体を傷つけてゆく。回避、掠弾、掠弾――被弾。胴へ命中したそれは、服と身体を焼き付ける。
「……っ、ぐっ!!」
苦悶の声が漏れる。回避も何もかもうまく噛み合わないが、それを喰いしばる。当たり前だ、『甘えてない』と言い張ったのは
「……くうっ!!」
構えなおし、海面を大きく蹴り再度踏み込んで横一閃に刀を動かす。殺った……いや、甘い。やはり首の皮一枚繋がった敵軽巡は、最期の砲弾を至近距離から俺にぶつけようとし――
「せぇぇぇえいっ!!」
「……っ、卯月?」
「ふっふーん、やっぱり菊月は甘いんだから」
「卯月、お前は……っ」
「ウソ。――ごめん、菊月」
激昂しそうになる『菊月』を制し、それよりも速く『ごめん』と紡ぐ卯月。その顔に、軽薄な感情は見られない。
「ごめんね、菊月。菊月の、みんなを守りたい、だから強くなりたいって気持ちは知ってたのに。甘えてるだなんて、本気で思ったことは無い。ただ、その。菊月のそんな愚痴を聞くのも久しぶりで、ちょっと調子に乗っちゃって、というか」
「……っ、ふ、ふふふ……」
「あ、笑ったなっ!わたし――うーちゃんがどれだけ気を揉んだか知らないから笑えるんだぴょん!正直、絶交されたらどうしよう、とか考えてたんだからぴょん!」
「ふふ……いや、済まないな卯月。私も謝る、意地が過ぎた。明石にも言われたが『護月』に関しては只の未練だ。艤装は、その。私だって、みんなとお揃いを使いたい、というだけでな……?」
『菊月』が抱えている、ほんの小さな我儘。戦術的な面を除いたときに、漸く見えてくる個人的な事情。それを聞いた卯月はぽかんと口を開き、次の瞬間は同時に小さく破顔し手を取り合って後ろへ向き直る。いつの間にかしゃがんでいた身体を、卯月に引かれて立ち上がらせる。
「菊月!」
「ああ、残り一体。さっさと片付けて帰ろう……!」
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