私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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き、昨日のぶんです、はい。

今日のぶんはがんばって書いてます。


菊月(偽)の艤装事情、その四

日付が変わろうかという頃、俺達は鎮守府へ帰投した。帰って先ず行うことは艤装の片付け。船渠へ仕舞うべきものは全て整理し終え、卯月達と別れて明石の部屋へ向かう。久々に酷使したナイフの点検と、『護月』の仕上がりの確認の為だ。

 

「あ、菊月さんこんばんは。その顔ですと、ちゃんと仲直り出来たみたいですね?」

 

「ああ、明石……む?明石と……天龍、神通か?どうした、珍しい顔を並べて……」

 

「おう、菊月じゃねーか。遠征お疲れさん」

 

「こんばんは、菊月。私達は、刀のことで明石に呼ばれたんですよ」

 

明石の部屋へ入った菊月()を出迎えたのは、部屋の主である明石と、それ以外に二人。片や菊月()以上に刀を長く扱っている艦娘、片や侍のごとき出で立ちの艦娘。成る程、相談にはうってつけの相手だろう。

 

「……済まない、神通に天龍。刀で、と言うなら私のことだろう……?」

 

「まあ、間違っちゃいねえな。お前の折れた刀――『護月』についてはどうにもならねえが、軍刀をどうにか調整出来ねえかって呼ばれたんだよ。で、三人で話し合った結果が出た」

 

くいっ、と明石の机を示す天龍に従い、そこに広げられた図面を覗き込む。書き込まれた細かい式は理解しきれないが、どうやら無理やり切り詰めて短く加工する手法らしい。

 

「この一連の改装加工を、刀の『磨上げ』と言う――らしいです。あはは、私も神通さんから聞いただけで詳しくはまだ調べてないですけれど。でも、やると言うなら工作艦の誇りにかけて成功させます!」

 

「……そうか。ならば、頼む……」

 

頼もしげに言う明石。彼女には長く世話になっている、今更その腕を疑う理由は何処にもない。菊月()が明石へと返事をすると、今度は神通が微笑みながら菊月()に話しかけてきた。

 

「ごめんなさい菊月、時間を取らせて。ですけれど、刀の加工はきちんと菊月に話をしておかなければと思ったものですから。それにどうやら、卯月と仲直りも出来たようですね?」

 

「……なんだ、知っていたのか神通……」

 

「ええ、勿論知っていますよ。卯月と喧嘩してしまったことも――その直後、作戦中に突出して勝手に負傷したことも、全部川内姉さんから聞きました」

 

その言葉が終わると同時に、神通の浮かべていた笑みの質が変化する。同時に感じる圧力も上昇し、天龍は怪訝な顔でこちらを見返してくる。

 

「……で?」

 

「ふふ、言わずとも分かっているようですね、菊月。あなたは、艤装や刀、そんなレベル以前の問題で甘えて――いえ、弛んでいる、と言った方が正しいですね。ミッドウェーに居た際に鈍ったのでしょう」

 

「それで追加訓練か。……丁度良い。卯月との一件の前から、腕が錆び付いたとは感じていたからな。精々叩き直してくれ……」

 

「あら、威勢のいいことですね。殊勝なのは良いですけれど、前回までの訓練は精々新米(ひよっこ)用。次回からは、せめて半人前(したっぱ)までは耐えて下さいね?」

 

「ふん、抜かせ……」

 

神通と二人、口元だけを歪めて笑いあう。視界の端に映る明石の顔が引き攣っているように見えるのは、きっと気の所為だろう。

 

「喋れなくなってからでは聞けませんからね、今のうちに希望を聞いておきます。訓練に何か要望はありますか、菊月?」

 

訓練に関しては素人の『俺』も『菊月』も、口を出すことは無い。しかし一つだけ『菊月』から浮かび上がる感情、それを伝えるために口を開く。

 

「神通の遣ることだ、信頼している。要望は無い……いや、一つだけだ。……その、三日月を心配させないように、頼む」

 

俺の言葉に虚をつかれたような表情をした神通は、次いで顔を破顔させる。先程までの冷たい笑みではなく、柔らかい笑顔だ。釣られて菊月()も顔を綻ばせる。

 

「ふふ、彼女には私も勝てません。私達二人とも、三日月には弱いですものね。ええ、分かりました。さて、話は纏まりましたね。菊月、お風呂に入りに行きましょう」

 

「なに?確かに私はまだ入渠していないが……神通、お前もか?」

 

「私も、それに天龍もですよ。出撃が終わってすぐ、明石に呼ばれて来ましたから。丁度ひと段落ついたところであなた達が帰ってきたと連絡があったものですから、それならばと待っていたのです」

 

「そうそう。偶にはいいだろって事でな、オレも同伴しようって訳だ。なんなら、六駆の駆逐艦どもみてぇに頭でも洗ってやろうか?」

 

けらけらと笑う天龍と、楽しそうに微笑む神通。『俺』はともかく、『菊月』的には願っても無い申し出だ。

 

「なんだ、天龍は優しいお姉さんだったのだな……?楽しみにしている。では、行こうか……」

 

天龍の軽口を更に軽口で返し、三人で連れ立って明石の部屋を出る。部屋に戻るのは、少し遅くなりそうだ。




艤装編終了。

あ、一個前の活動報告に菊月達の着物について書いてあるんで良かったら。

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