後半に気休め程度のお風呂を。
鎮守府内、第二体育館二階小ホール。主に個人から数人単位で身体を動かす際に借りられることの多いこの部屋で、
「はい、ワンツー!ワンツー!よっ、とっ、ターンっ!」
「ふっ、ふっ、ふっ……、よし、これでっ」
安っぽい音質の曲が止まると同時に、俺達は左右対称にポーズを決める。相方は勿論、アイドルとしての仲間であり師でもあり、そしてライバルでもある那珂ちゃんだ。
「ふうっ!今の良かったんじゃない、菊月ちゃん!もうすっかりダンスにも慣れた感じかな?」
「……確かに、会心の出来ではあった……。だが、まだまだ身につけたと言うには程遠い。今は、那珂ちゃんについて行くので精一杯だからな……」
「あはは、那珂ちゃんの動きに付いてこれてるだけスゴイよ!歌って踊るのは、単に自分が楽しめば良いって訳じゃないからね。――はー、でも、今の曲で最後だよね?今まで踊れてなかった曲」
「そうだな。まだ
那珂ちゃんがライブで歌うのは、だいたい三曲から五曲。持っている曲のレパートリーはそれよりも多い。遊園地での約束をもとに二人で練習を始めてから少し経ってはしまったが、今日ようやく全てのダンスの振り付けをマスター出来たという訳だ。
「だから、身体を半身にするときは腕を――」
「しかし、それではバランスが……」
ダンスの精度、そしてステップについて那珂ちゃんと意見を交わす。壇上から降りることも忘れて話をしていると、そんな
「やー、お二人さん。今さっきのダンス、録画のチェック終わりましたよ。見返します?」
「んー?あ、ありがとー青葉!よっし、じゃあ確認しよっか!青葉も、見てて気づいたことがあったらドンドン教えてよね」
「え、私がですか?青葉、ダンスなんかしたこと無いですし、参考になるアドバイスなんて出来ないですよ」
「……いや、ダンスが出来ない観客の目線というのは大事なものだ。どう見られているか、というのは知りたいところだからな……」
那珂ちゃんと青葉、そして
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かこん、と小気味よい音が浴場へ響く。消灯時間の僅か前ともなれば流石に人は少なく、汗を流しているのは
「おりょ、菊月ちゃんもう身体洗ってるの?」
「……ゆっくりとする時間も無いだろう。急がねば消灯だ……」
「うーん、まあそうなんだけど。よっし、那珂ちゃんも洗おーっと」
二人で並び、身体を泡立たせてゆく。身体の洗い方一つ取っても気をつけねばならないことは多く、そしてその大半が如月に叩き込まれたことだ。
「……ん、ん?どこだ……」
「ありゃ、どうしたの――って、ああ。菊月ちゃん、髪の毛洗うときに目を瞑ってるんだね。そりゃ見えないか」
「……悪いか。こう、その、沁みるだろう……」
「あはは、まあね。よっし、那珂お姉ちゃんが水を出してあげよう!ついでに、洗い残しが無いかも見てあげるよー!」
「……頼む……」
目を瞑ったまま顔を下に向ければ、俺の背後に立った那珂ちゃんがわしゃわしゃと
「うーん、菊月ちゃん洗えてるけどさ。ちゃんとケアもしないとダメだよ?傷んでる、とまでは言わないけどぉ、せっかく綺麗な
「……うむ……」
「あとは頭のてっぺんのあたりとか、ゆっくりこうやって――良し!じゃ、流すよー。温度は低めで、勢いも弱めで」
次いで掛けられる、先ほどまで浴びていたものよりも温いシャワーが泡を落とし、身体に張り付いた髪を那珂ちゃんが梳いてくれる。
「ほい、完了ー!」
「感謝……」
髪を手で纏め、軽く水を払い目を開ける。那珂ちゃんに洗って貰ったからか、随分と頭が気持ち良い。水を落としつつ浴場内の時計をちらりと見れば、先程以上に消灯時間に近づいている。
「急ぐぞ……」
「がってん!」
時計を指差し、那珂ちゃんと二人で慌てて風呂から上がる。髪の毛を乾かすのもそこそこに、浴場入り口で別れて部屋まで駆ける。部屋にたどり着くのと消灯のベルが鳴るのが同時、ギリギリで部屋に滑り込む。結局、髪を乾かすのは部屋の姉妹に手伝ってもらう事になったのだった。
さあ、次を書かねば。