私が菊月(偽)だ。   作:ディム

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レッスンレッスン。
昨日の分です。


菊月(偽)と那珂ちゃんとレッスン、その二

時刻は夜七時を回る寸前、夜空に瞬く星々が美しい図柄を描いている。いつものメニューならば例によって那珂ちゃんと二人で訓練(レッスン)をしているのだが、今日の衣服(ユニフォーム)はジャージではなくいつもの制服。那珂ちゃんも改二服を着込んでいる。その理由は、俺達の前にある――否、立っている(・・・・・)

 

「はい、時間には間に合っていますね。時間厳守は原則ですよ、分かっていますね?」

 

そう、隣に立つ那珂ちゃんの姉であり菊月()の師でもある軽巡『神通』。誰あろう、彼女こそが今日の訓練相手という訳だ。ちなみに、正確には菊月()と神通の訓練に那珂ちゃんを無理やり巻き込んだと表す方が正しい。

 

「それで、今日の訓練には那珂ちゃんも参加するようですけれど。私、嬉しくなってしまいます。まさか愛する妹が、これほど意欲を持って、自発的に訓練に参加してくれるなんて」

 

「いやー、那珂ちゃん的にはこれを『自発的に』とは言わないんじゃないかなって」

 

「あら、どうしたんです那珂ちゃん?まさか、本当は私と顔を合わせるのが嫌だったり、なんて――」

 

「あー!いやいやいや、そんなこと全然無いよっ!那珂ちゃん、訓練大好き☆」

 

神通の真髄は、分かっていても従わざるを得ない状況を創り出すことにある。自ら望んで訓練している菊月()には意味が無いものの、那珂ちゃんには効果覿面(critical)のようだ。蜘蛛の糸に絡め取られる那珂ちゃん(相方)を尻目に、神通へ話しかける。

 

「……で?今日は何をするのだ神通……」

 

「そうですね、始めにそれを伝えなければいけませんでした。菊月と那珂ちゃん、二人には同じ訓練を受けてもらいます。訓練で、かつアイドル活動の糧になるものを、というリクエストでしたので、主にそういうメニューを組んでおきました」

 

にこりと笑ってそう告げる神通。そこそこ長い付き合いになったからか、彼女の笑みが何を意味しているのか分かるようになって来た。今の微笑みは、裏の無いもの。つまり、本当に那珂ちゃんにもプラスになる訓練なのだろう。

 

「今日も、実際に海で訓練をします。残念なことに波は穏やかですが、比較的風が強いです。艤装は――、二人とも大丈夫みたいですね。それでは、実りある訓練を始めましょう」

 

「分かった、神通……」

 

「はーい」

 

「声が小さい、返事は揃えてキビキビと!」

 

「「はい、教官!」」

 

「まだまだ聞こえませんよ、腹から声を出しなさい!」

 

「「はいっ!!教官!!」」

 

「良し、それでは訓練を始めます!抜錨!!」

 

いつか経験した、容赦の無い声が飛ぶ。それに追い立てられるように、俺達は訓練を開始するのだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

かこん、と小気味良い音がする。髪を纏めて湯船に浸かれば、疲労した身体に温かさが染み渡る。そのまま湯船の縁に顎を乗せ、身体を洗っている二人に目を向ける。那珂ちゃんと神通、姉妹だけあってその後ろ姿はとても似ている。

 

「……くぁ」

 

訓練の内容は、『新米(ひよっこ)』に対し飛躍的に厳しいものとなった――訳では無かった。むしろ、体力的には断然マシと言える。なんでも、『精神と肉体を苛め抜かなければならないのは新米だけ』らしい。その上で、精神と肉体を『適度にギリギリまで』酷使させる神通の手腕は大したものだと言える。

 

「あら、菊月。どうしました、眠たそうな顔ですよ?」

 

「んぅ、神通……」

 

浴槽の縁に身体をもたせかけていると、眠気がゆっくりと襲ってくる。気の緩んだ顔を神通と、その後ろの那珂ちゃんに見せてしまったがこの二人相手なら気にならない。ふぁ、と間の抜けた欠伸をする。

 

「菊月ちゃん、のぼせてはいないみたいだけどね。んー、もう上がっちゃおっか。那珂ちゃんだって大概眠いしー」

 

「そうしましょうか。ほら起きなさい菊月、お風呂から出ますよ」

 

「ぅむ……分かった……」

 

いつの間にか解けかけていた髪のタオルをもう一度巻き、ゆっくりと湯船から上がる。上気した身体を伝う雫がぽたぽたと浴場の床タイルに落ち、音を立てる。それらを拭いつつ脱衣所へ出る。ふっと感じる涼しさに頭を起こされ、時計を見ればまだまだ時間はあることが分かる。

 

「今日は、ゆっくりと髪を乾かせるな……。神通、那珂ちゃん、良ければ見ていてくれるか……?」

 

「もっちろん!神通ちゃんの髪も菊月ちゃんの髪も、この那珂ちゃんが完璧に見てあげるっ!」

 

再び眠気の襲ってきた、朦朧とした頭と髪を那珂ちゃんの手に委ねる。その髪が那珂ちゃんとお揃いのシニョンに結われていることには、菊月()は部屋に帰るまで終ぞ気付くことは無かったのだった。




お風呂回どんどんもっと。
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