なんか自分には詳細な描写が足りないのでは、と考えた結果試行錯誤して書いてみました。結果、予定の半分の展開で一話出来ちゃいました。時間はかかりましたが。
未知の戦線、その一
その日は、爽やかな気候とぎらつく太陽が印象に残る日だった。
日に日に力を増す太陽は強く光を地に落とし、じりじりと鎮守府を照らし出す。コンクリート製の石壁や港は漏れなく熱され、正に夏の訪れを嫌でも感じさせる。海から吹き付ける風に含まれる、潮の匂いもかぐわしい。夕立でも降りそうなほどに湿った大気には、少しの不快さと一種の感慨を覚えるだろう。
そんな初夏の鎮守府港、海を臨むそこに
「…………」
慰労式を取り潰して備えさせた敵中規模艦隊、それらは決して血迷っただけの捨て駒では無かった。ある程度統率された戦闘方法や艦種、作戦行動やその他諸々。叩いても叩いても補充される、『中規模であると予想された艦隊』は結局のところ、書類において最も馬鹿らしい処理をされた。
敵規模不明、敵戦力極めて高度、支配海域は広大――『E海域』区分。対策を練るでもなく、補給や支援を増すでもない。面倒ごとを一つに纏めどこかへ丸投げする――そんな処理だ。
「…………」
ざざん、ざざんと波の音が聞こえる。照り付ける陽の勢いは収まらず、白黒の
「…………」
日光に充てられた訳でもなく、海の色に酔った訳でもない。にも関わらず何故か頭が働いてくれない。いや、『何故か』というのはおかしい。『俺』は、俺の頭が駄目になってしまった理由をよく知っている。
E海域、それに対する今回の作戦の呼称は『第十一号作戦』だったか。作戦内容は、カレー・リランカ方面を初戦とした南西海域での多段階作戦か。E海域区分とはいえ他のそれに比肩するほど大きな作戦ではなく、提督や秘書艦も『比較的』大規模な作戦だと繰り返していた筈だ。
「……第十一号作戦、だと……?」
広域に展開した敵艦隊に対して、先遣艦隊で戦力を威力偵察しつつ殲滅、その後味方本隊を投入し残存戦力を各個撃破しつつ敵中核を討ち取る。なんらおかしい所のない、在り来たりでそれ故に信頼できる作戦だ。――そう、なんらおかしい所は無い……『俺』以外に対しては、だが。
「……そんな、そんな作戦……」
講堂でいつものように作戦内容が通達された際の反応は、やはり其々だった。慰労式が潰れたことへの不満はあるものの、振る舞い方は皆同じ。意気込む者が多く、そうでない者は気を引き締めている。その中で――『俺』の取った反応は、その何方でも無かったどころか、およそ戦いに臨む者とは不釣り合いなものであった。
衝撃、狼狽、動揺、否定、その感情を形容する言葉はなんでも良いが、要するに俺はこの作戦を認められなかったのだ。
「……知らない、
『
例えば、『俺』が知らないだけで、艦これというゲームにはこんな作戦があったのか?恐らくこの世界には存在しない『霧』のイベントの代替作戦?もしくは――できればそうであって欲しくないがーー『俺』という存在の為に生まれたイレギュラー?
「……くそっ……」
戦闘技術は万全とは言い難く、戦う者としての覚悟も『菊月』に遠く及ばない。保持している知識も、今回は役に立たない。そして、意志の弱さや力の無さを今までのように知識で隠すことは出来ない。何せ、増援の有無どころか敵艦種すら分からないのだから。
――つまり、『俺』には今、存在している意味がないのだ。
思考はどんどんと悪い方向へ流れてゆく。たらりと額から流れ落ちる汗は、この日差しだけが原因ではないだろう。少しずつ、身体が重くなってゆく感覚。今まで感じていなかった未知の重圧がのし掛かる。
「……情けない、こんな有様……」
自分が必要無いだけならば、まだ何とかなるだろう。だが、この海戦自体が『俺』の存在によって引き起こされたものだとしたならば?果たしてその時、『俺』の存在は明確にマイナスになる。そこまでネガティブな考えが巡り、『
「……知るか、私はただ戦うだけだ。私は、菊月なのだから……」
そう、役に立たないと言うならばせめて『菊月』であれば良い。菊月に代わり菊月を成す、それだけに注力すれば良い。そうすればいつも通りだ、『俺』はいつも通り、菊月の端末であれば良い。
結論は出た。だと言うのに、俺の身体は重くなり続けるだけだった。
放浪艦菊月(偽)その四に、素晴らしい挿絵が!!
みなさん、今すぐGOですよ!