ソードアート・ポケットモンスター・オンライン 作:RYUNA
壁の中は真っ暗で後ろも左右も自分の姿すら確認することはできない。ただ分かるのは左手をギュッと握ってくれているヒビキさんの手の感触。そして奥にうっすらと見える小さな光だ。
「ヒビキさん居ます?」
「ちゃんと居るぞ、ここに。」
さらに左手に力が籠められる。私も彼の右手をさらに強く握りしめて足を前へと進めた。ちょっとだけ、怖い。
そう遠くない位置からシェイミの鳴き声が聞こえてくる。私たちはゆっくり慎重にとりあえず前へと進んでいった。
進んでいくにしたがって奥にあった光がどんどん近くなっていき、その目前で私たちは一度歩みを止める。光のお蔭で今はお互いの顔を確認することができた。
「この先ってどこかに繋がってるんですかね…。」
「もしかすると隠しエリアか何かかもしれない。行くか…?」
「こ、ここまで来ちゃったらもう行ってみます!」
「ふっ、そうか。度胸あるんだな。」
ちょっとだけヒビキさんが笑ったような気がして思わず彼の顔をジッと見つめてしまったが、ほどなくして「行くぞ。」と顔を逸らされた。
光の中に入った瞬間は真っ白で何も見えなかったがすぐに視界が鮮明になる。目の前に広がる光景に私もヒビキさんも言葉が出せなかった。
「綺麗…。」
「これは…。」
視界いっぱいに広がるのは色とりどりの綺麗な花たち。奥には一軒のプレイヤーハウスらしき建物。
そしてたくさんのポケモンがいた。むしタイプやくさタイプのポケモンはもちろん意外なタイプのポケモンも。
「なぁ、あそこ…。」
「う、うわぁ…。」
ヒビキさんが指さす方向にいたのはなんと花畑で気持ちよさそうに丸まって眠っているドラゴンタイプのカイリューだった。
しかもその隣でガブリアスがミズゴロウと一緒に花に水をあげている。これはいったいどういう光景なんだ…。
すると誰かにクイックイッと装備の裾を引っ張られるのを感じたので視線を向けるとここまで私たちを連れてきたシェイミが嬉しそうな顔でこっちを見上げていた。
「ミー!ミー!」
「うーん…ここってこの子たちの住処なんですかねぇ…。」
「一応マップを確認してみるか。」
ヒビキさんが手をスライドさせてマップを表示してくれる。私は彼の傍に近寄って2人で画面を覗き込んだ。
私たちがさっきまでいた22層の森のエリアからだいぶ離れたマップ外に私たちの位置を示す光が表示されていた。そしてこの場所の名前。
「花の楽園…?」
「確かに楽園ではあるな…。まるで天国だ…。」
ヒビキさんの感想はごもっともだが私はこの地名に見覚えがあった。
そうだ。確か花の楽園というのはシェイミをゲットすることができる場所だ。
通常では行くことのできない公式から配布されるアイテムを使用することによって行ける隠しエリアともいえる場所。
しかし実はここ、そのアイテムを持っていなくてもバグによって来ることができる裏技があり一時はネットでその情報が出回った。
あの時は私もそのバグを使ってシェイミをゲットしたっけなぁ。けどあのバグは間違えると後々悲惨なことになるためやっている人はあまり見かけなかったが。
(さっきの真っ暗な道もあのバグとよく似てた…なるほどなぁ…。)
どうやらヒビキさんが言っていたことはあながち間違いではなかったようだ。まさかここまでポケモンを再現するとはやるなSAO。
と、ここで感心している場合ではないのだ。ある問題がひとつある。
「私たち元の場所に帰れるんですかね。」
「同じ道を行けば帰れるんじゃないのか。」
私たちが後ろを振り返るとさっきの22層の時と同じ真っ黒い壁がある。今度は近づいてみても侵入不可のメッセージは表示されない。
「正直言うとあのプレイヤーハウスっぽい家が気になるんですけど…。」
「俺もだ。…一度戻って自由に行き来できそうだったらあの家を調べてみるか?」
「そ、そうですね。やってみましょう。」
かなり危ない橋を渡ろうとしているような気がするが足元にいるシェイミだって22層と花の楽園を行き来していたみたいだしきっと大丈夫、だろう。
ヒビキさんがまた右手を差し出してきたので私も彼に左手を伸ばす。お互いの手をしっかり握りしめて私たちは来た道を戻っていった。
結果としてどうやら22層とこの花の楽園は問題なく自由に行き来できるようだ。
合計で8回ほどヒビキさんと手をつないで往復していたのだが、途中で面白そうとでも思ったのか花の楽園にいたポケモンたちが一緒になって確認作業をしてくれたおかげで最初ほどの恐怖心は感じなかった。
「大丈夫そうですね、一応。」
「あぁ。それじゃあ見に行ってみるか。」
私たちは花の楽園に戻って奥にひっそりと建っているプレイヤーハウスもどきへと近寄った。
すると目の前に値段の書かれたウィンドウがパッと表示される。どうやらプレイヤーハウスで間違いなさそうだ。
問題のお値段は…今の私の貯金をすべて注ぎ込めばギリギリ買うことはできる。が、一気にすべての貯金を使うのは当たり前だが抵抗があった。
「どうする。買うのか?」
「今の貯金も含めて全投資すれば買えますけど…さすがにそれはちょっと…。」
「…お前もか。」
「てことはヒビキさんも?」
「あぁ。…なぁ、ひとつ聞きたいことがあるんだがお前は最前線プレイヤーか?」
「ええっと、はい。一応そうなります。」
いきなりすぎるヒビキさんの質問に狼狽えながらも私は答えた。
最前線プレイヤーというのはいわゆる攻略組ともよばれるプレイヤーのことで、先陣切ってSAOの世界を走り抜けるレベルの高いプレイヤーの別称だ。
レベルだけ言えば私も十分その最前線プレイヤーを名乗れるが、あまりボス戦に参加しないので本当に名乗っていいのかはちょっと微妙なところ。
説得力を持たせるために私は正直に自分のレベルを表示させたウィンドウをヒビキさんに見せた。
彼は少し驚いていたが、すぐに元の表情に戻って今度は私に自分のレベルを見せてくれる。
私よりいくらかレベルは低いが十分最前線プレイヤーを名乗れるレベルに達していた。
「随分レベルが高いな。俺が見てきた中ではダントツの1位だ。」
「ヒビキさんも十分高いですよ。それだけあればしばらくは安全ですね。」
「お前が手練れたプレイヤーと分かったところでひとつ提案がある。」
「提案…ですか?」
「俺とお前でこの家を割り勘で買って一緒に使うというのはどうだ?」
「つまりそれは同居するってことですか?」
「そうだな。」
涼しげな顔でそう言うヒビキさんを私は呆気に取られながらジッと見上げた。
そりゃ確かに兄さんに似てるからって勝手に親しみ持ってみたり手握ってもらったりしたけどそれでもさっき知り合ったばかりの人といきなり同居というのはいかがなものだろうか。
「もちろんただ同居するってわけじゃない。もうひとつ提案があるんだ。」
「もう、ひとつ。」
「俺は鍛冶をメインとする製造系スキルをいくつか上げている。この槍も自分で作ったんだが素材を取りに行く際の戦闘はだいたいポケモンに任せっきりだ。だからお前に武器や盾を作る為に必要な素材を集めてもらいたい。その代わりに俺はお前に自分が手掛けれる最高レベルの武器をお前に無償で提供する…というのはどうだ。」
「んんんん…。」
家を割り勘で買うことによって専属の鍛冶屋がひとりついてくるというのは結構おいしい条件だ。
それに素材集めに関しても私ひとりに任せっきりじゃなくて、自分もいけるようならば足手まといになるかもしれないが一緒についてきてくれると彼は言った。
私はこの花の楽園が気に入ってしまったし、目の前の二階建ての大きなプレイヤーハウスも気に入ってしまった。
そして何よりこの家を買えば他人とはいえ帰ってきて「ただいま」と言える相手ができる。
「…分かりました。その提案うけます。」
「ありがとう。これからよろしく頼むな、リオ。」
「よろしくお願いしますヒビキさん。」
「ヒビキでいい。あと俺とお前は歳は離れているだろうが同じ立場同士だ。敬語はいらない。」
「わ、分かった…。」
明らかに自分より年上の人にタメ語で話すというのはいかせんハードルが高いけど、これから一緒に暮らしていくわけだから敬語なんて使われても確かにあまりいい気はしないだろうし、その方がきっとより早く仲良くなれそう…な気がする。
とりあえず私たちはまずフレンド登録を済ませ、ヒビキさんが私にお金を引き渡してきた。私はビクビクしながらそれを受け取る。
そして目の前のウィンドウに表示されている購入ボタンを人差し指でタップ。【本当に購入しますか?】という最終確認にyesを選択。
【プレイヤーハウスの購入が完了しました!】
ノリのいい短いファンファーレと共に目の前のプレイヤーハウスが一瞬だけ淡く光る。
そのとき後ろからポケモンたちの大きな声が上がった。
私とヒビキさんがびっくりして振り返るとさっきまで気持ちよく寝ていたカイリューも花に水をあげていたガブリアスとミズゴロウも、私たちをここまで導いてくれたシェイミも含めてそこにいる全てのポケモンたちが私たちを歓迎してくれているかのように見つめている。
私たちはお互いに顔を見合わせた後、ポケモンたちにこう言った。
「これからよろしく。」
「これからよろしくね。」
元気な彼らの返事が花の楽園中に響き渡った。
14話の後書きにて追加するといったオリジナルキャラはこのヒビキです。
これからリオ共々よろしくしてやってください。
後書きの一番最後にリオとヒビキのイラストがあります。
イメージを崩したくない方は見ないでください。
ヒビキ
リオが22層で偶然出会いそのまま花の楽園で同居することになった男性。
使用武器は槍だが、自分の作った武器をその他色々と所持している。
茶色の髪に同じ色の瞳をもつ。年齢17歳。
【リオとヒビキ】
【挿絵表示】