孤高の黒の剣士   作:アズマオウ

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アズマオウです。新作小説です。

今回は、キリトが75層にて正体を看破できなかった場合のIFストーリーです。え?アルベリヒ?ストレア?そんなもの知らない。

では、どうぞ!


第1話:孤独の戦い

ーー浮游城アインクラッド、第96層にて。

 

「はぁ……!」

 

 チッと俺の肩を刃が浅く抉る。痛みはないが、微かな不快感を感じる。俺の肩に紅いラインが刻まれ、血液に似た紅いポリゴンが散っていく。俺の視界の左上に映るHPがわずかに減り、舌を打つ。死ぬことすらもう、怖くも恐ろしくもないのに、何故か苛立っている。

 

「ちっ……!」

 

 反撃を試みようと、俺は左手に握られている剣を腰まで引き、右の剣を前に出す。距離は十分に離した。ここからなら、十分に余裕も生まれる。

 俺と対峙しているモンスター、《スケルトンナイト》は、不気味な笑いを浮かべて剣を構える。左に握られている盾が中々邪魔だ。スケルトンナイトの全体が見えないため、攻撃がしづらいのだ。なら、あの技が良いだろうか。

 俺は、剣を少し動かす。すると、キュイイイインというサウンドエフェクトが発生し、二本の剣を青の光が包み込む。

 スケルトンは、盾を前に突き出して突進してきた。技の選択は間違いじゃなかったようだ。勝利を確信した俺は、ばっと飛び出した。

 スケルトンの盾が迫る。俺の体も高速で動いている。システムが俺を動かしてくれているのだ。これを、《ソードスキル》という。言わば必殺技だ。

 俺の左腕は、下から上へと弧を描いて盾へと迫る。その後、火花を散らして衝突。真横から打たれた盾は一気に逸れ、懐が空いた。だが、そこで攻撃は終わらない。

 俺の体は、先程振った一撃の勢いと共に右回転した。再び正面を向いたその瞬間、俺は右に握られた剣を肩に担ぎ、そのままスケルトンの右肩から、左腰まで切り下ろした。途中ガコンガコンと鈍い音が響くが無視する。奴の胴体は骨でできているため、剣とは相性が悪い。けれど、そんなこと知っちゃこっちゃなかった。俺には、それを覆すほどの攻撃力を与えてくれるスキルがある。一人の時にしか発動しない、もう一つのユニークスキル。だけれども相方の¨彼女¨がいればよかったと思う。けれど、もういない。

 

「……っ!」

 

 いけない。また思い出してしまった。もう忘れるんだ。じゃなければ俺の心は、保てない。今はただ敵を、斃すだけだ。それしか俺を抑える方法はない。俺は舌を噛んで、剣を全力で降り下ろした。

 俺の剣を受けたスケルトンは、HPゲージを左端まで減らし0になった。スケルトンはだらしなく崩れ落ち、情けない断末魔をあげて硬直、その後ガラス片の如く弾けた。キラキラとポリゴンの欠片が宙に舞い、数秒後に、跡形もなく消滅した。

 これがこの世界での死である。儚く、呆気ない。この世界の死はそれだけじゃない。この世界に似た別の世界、すなわち普通の仮想世界では、再び蘇生できる。けれどこの世界ではそうならなかった。そう、俺たちが置き去りにして来たあの世界、つまり現実世界と同じように。二度と生き返られない世界になってしまったのだ。

 

 俺はポリゴンが魅せるその景色を見つめていた。その度に頭が痛くなってくる。だが、もう最近は慣れ始めている。月日がたったからか、それとも、心が死んだからか……。

 

「帰ろう……」

 

 俺は、考えるのをやめて剣を鞘にしまう。そしてノロノロとその場を去って街へと戻った。もう俺に家などないはずなのに、帰ろうと言えるのはきっとまだ信じているのかもしれない。二人で過ごした、あの森の家が、まだ幸せな形で残っていることを。

 

「アスナ……」

 

 そっと、俺は相方の名前を呟いた。それで腐りかけた俺の心を癒そうとしたが、ダメだった。名前を呼ぶことで、苦しみから逃れようとしたがダメだった。彼女が隣にいない限り、治りはしない。

 俺は諦めて、一人街へと向かう。

 

(なんで、こんなことになっちゃったんだ……)

 

 それでも、過去を思い出すことはできた。そう、フルダイブゲームであり、デスゲームでもある《Sword Art Online》にて、俺の大切な人やものがすべて奪われた瞬間を……。

 

 

 

***

 

 

 西暦2022年5月、次世代ゲーム機《ナーヴギア》が発売された。ヘッドギア型で、被って電源を入れると、ゲーム世界へとダイブできるというものだ。現実の体はベッドで横たわっているが、意識はゲームの中にあり、自由に動ける。

 ナーヴギア発売から6カ月後、ナーヴギア対応ソフトが発売された。≪Sword Art Online≫、略して≪SAO≫である。フルダイブできるオンラインゲームである。

 多くのゲーマーは、斬新さや、そのゲームが孕む自由性に惹かれて初回生産本数の一万本はあっという間に完売し、予約はすぐに終了してしまった。俺もどうにか運が回ってきてそれをゲットすることが出来た。

 そして、11月6日。≪SAO≫での正式サービスが始まった。1万人全員がログインし、さあ遊ぼうというところで、悲劇が襲い掛かってきた。

 突然全員が最初の街、≪始まりの街≫に転移させられてそこで、謎のアバターによる宣告が行われた。そのアバターは、茅場晶彦と名乗っていた。

 茅場晶彦とは、天才量子物理学者であり、天才ゲームプログラマーである。ゲーム会社アーガスを一気に大手企業にまで押し上げて多くの名声を得た男であり、俺が憧れていた男でもある。ナーヴギアやSAOを創ったのもこの男で、絶大な人気を得ていた。

 だが、そんな男から絶望的な言葉が降り注ぐ。≪SAO≫から永遠に退出、すなわちログアウトできないこと、この世界で死んだら、現実でも死ぬこと、そして、解放されるためには、死なずに、100層にまで連なる≪SAO≫の舞台である≪浮遊城アインクラッド≫の第100層にいる最終ボスを倒さなくてはいけないことを。

 そこからは阿鼻叫喚の地獄だった。パニックに陥り、ありもしない持論を立てて退場していくものも出始めて、引きこもりに走った者も現れた。

 その中で俺は、自分を強化する道へと走った。だれにも頼らず、自分一人の力で。

 だが、俺のソロでの冒険の中で、様々な人と出会った。兄貴分の刀使い、涙を流さず泣いていた少女、悪人に狙われていた竜使いの少女、いつも元気な鍛冶屋の少女、全てにおいて卓越した大人な商人、愛らしい愛娘、そして、強くて弱い、女剣士。

 彼ら、彼女らに出会ったことで俺は冷え切っていた心を温めることが出来た。ソロによって疲弊していた俺の心と体を、みんなが癒してくれたのだ。そして、俺はその時恋心というものを知った。

 

 やがて俺は女剣士と結ばれ、生死を共にするようになった。家もたてて、わずかの間だが娘もできて、幸せなひとときを過ごしていた。彼女との生活は、かけがえのないものだった。

 

 だが、それは奪われた。第95層でのボス攻略戦終了時から悲劇は始まった。

 

 あれは最悪の出来事だった。思い出すだけで抑えきれない怒りと嫌悪の渦が襲いかかってくる。

 95層のボスは強力だった。死者こそは出さなかったものの、皆疲弊していた。そのなかでただ一人悠然と立っていた男がいた。ヒースクリフである。

 この男は、《神聖剣》というただ一人しか習得できないスキル《ユニークスキル》を持っており、最強の力を持っていた。彼は最強ギルド《血盟騎士団》を結成し、攻略組のリーダーとして信頼を集めていた。

 だが、ヒースクリフは、疲弊していた皆にこう言った。¨私は、茅場晶彦だ¨と。これは何を意味するか。彼が、正体を隠して俺たちと共に戦って、いや遊んでいたのだ。俺たちが必死に戦っているところを上から見下ろすように。

 弄ばれ、鑑賞させられていた俺達は激しく怒りをぶつけた。だが、神が操るシステムの力には誰も抗うことはできなかった。ダメージどころか攻撃を当てることすら叶わなかった。

 ヒースクリフ、いや茅場晶彦は神の笑みを浮かべながら遥か上に存在する城の頂に向かっていった。彼には、ラスボスとしての役割があるという。

 茅場が去った後、皆が呆然として、ただ座っていた。信頼と希望が一瞬にして奪われたのだから。

 それでも、俺の妻であるアスナがどうにか攻略組を仕切ってその上の層の第96層の攻略を成功させた。

 

 だが、ボスを倒して一息いれた時に、悲劇が起こった。

 

 突然ボス部屋のドアが開いて、プレイヤーがなだれ込んできたのだ。カーソルは緑ではなく、犯罪者を示すオレンジ。率いていたのは、最大の殺人ギルドを立ち上げた男、Pohだった。

 ボス部屋は再び戦場になった。だが、攻略組は疲弊しており、劣勢へと陥る。ついには死者まで出てしまい、皆が恐慌する。俺も叫び狂い、襲いかかってくる犯罪者を殺してしまった。あのときの、討伐戦の時と同じように。

 状況は悪くなる一方で、攻略組の数も半分以下となった。アスナも、刀使いのクラインも、商人のエギルも奮闘した。だが。

 3人とも死んだ。

 最初に死んだのはエギル。最後まで襲撃者を睨み付けながら死んでいった。

 次に死んだのはクライン。俺に生きろと何度もいいながら死んでいった。

 そしてアスナ。俺とアスナしか生き残っていなかった状況のなか、必死に細剣を奮い続けていた。しかし、集中攻撃を受けてついに崩れ落ちた。最後まで、俺の名前を呼び続けていた。俺は必死に手を伸ばし叫ぶも、彼女の手に触れる寸前、彼女は体を四散させた。

 俺は尋常じゃない怒りに襲われた。襲いかかってきたレッドプレイヤーたちに、この世界を作った茅場晶彦に、そして、彼女を守ると誓った俺に対して、怒りを感じた。その怒りが活力源になったのか、視界が赤くスパークし、溢れんばかりの殺意を抱いた。明確に、殺そうとはじめて思った。彼らが最後に残した言葉と表情を思い浮かべると、殺害という行為に立ち塞がる壁など、優に越えられた。

 俺は思うがままに殺した。アスナを、クラインを、エギルを殺した奴等を生かすわけにはいかなかった。悲鳴が聞こえようが、許しを乞われようが、容赦はしなかった。奴等の命など、知ったことではない。

 

 気づいたら俺は一人だった。敵の姿も味方の姿もなかった。心がごっそりと持ってかれた気分だった。頭の大部分を失った感じだった。涙だけは溢れるのに言葉にできなかった。叫び声をあげてもむなしく響くだけ。誰もいない、この世界にいるのは辛かった。

 その戦いのあと、俺は気づかなかったことがあったのに気づいた。戦っている最中、スキルを習得していたことに。

 名前は《孤高》。ウィンドウにはこう記されている。

 

『パーティを組まず、ギルドにも所属していない場合のみに発動される。与ダメージが2倍になり、スキルの硬直時間も大幅に減る。また、経験値も二倍になり、獲得コルも二倍になる。ただし被ダメージが二倍になる』

 

 俺は、《孤高》という文字がなぜか簡単に受け入れられそうになっていた。また、一人になったんだと、俺は皮肉めいた笑みを浮かべていた。取得条件は書かれていないが、恐らく本当の意味で一人になった奴にしか得られないものなのだろう。願わくば、欲しくなかった。

 こうして俺は、もう一つのユニークスキル《二刀流》と、手にいれた《孤高》を駆使して攻略していった。目的などない。何かしなくてはいけないという使命感からだ。別に死んでも、構わない。いや、目的はある。最上層に仁王立ちしている、茅場晶彦を殺すことだ。それ以外に生き甲斐など、ない。

 

 そして、2025年6月1日。俺は第99層、第100層を残すまでになり、今日、2025年6月5日。フィールドでスケルトンを屠った。レベルは……149にまでになっていた。




基本的に鬱キリトですね。短めです。

では、感想お待ちしております。
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