孤高の黒の剣士   作:アズマオウ

10 / 10
最終話です。緑評価になってしまったけどどうぞ!

間はスゲー空いちゃったけど。


第10話:孤独のーーー

「シリカ……?」

 

 俺は、目の前に立つ、もう二度と会うことはないと思っていた少女の名前を呼んだ。俺は息を飲みながら彼女を見る。

 髪の色はあの世界と同じ薄い茶色、背はやや低め、目は大きく、ツインテールをしている。変わってない。あの世界と。心を汚され、落ちるところまで落ちてしまったシリカの容姿と変わらない。

 

「……何のようだ?」

 

 俺は低い声で言った。警戒している訳じゃないが、親密には話せない。なぜなら、俺はもう二度と会うなと言ってしまったからだ。彼女を嫌悪だけで拒絶してしまったからだ。だが、彼女が何故俺に話しかけてきたのかだけは聴くべきだろう。

 シリカは俺の視線から逃れるように顔をそらし、もじもじとしていた。だが、か細い声でシリカは答えた。

 

「あの……その、キリトさんに謝りたくて……」

 

「謝る? 何をだ?」

 

 どうやら俺に謝罪しに来たらしい。だが、戸惑うことしか俺にはできなかった。

 

「ええっと……その、キリトさんにあの世界で、迷惑かけちゃったこと、です」

 

「…………」

 

 迷惑かけちゃっただと? そんなものじゃない。俺の友達だった女の子に俺は裏切られたんだ。アスナを侮辱し、雌犬のように媚びを売って汚い男の小種を喜んで受ける人間がかけた迷惑は、想像を絶するものだ。そういってやりたいが、果たして俺にそれを言う資格があるのかと言われたら、ない。だから今は黙って彼女の話を聞くことにした。

 

「キリトさん、ごめんなさい……。私はバカでした。キリトさんには好きな人がいたって言うのに……寝とるようなことをしようとしちゃって。最低ですよね……私」

 

 シリカは俯きながらもぼそぼそと謝罪の言葉を並べていた。俺は、彼女の丸くなった背中をじっと見つめる。そういえば、彼女は先程から背中を丸めている。前にあの世界で、それも初めて会ったときは、背をピンと伸ばしていた。だが今は凄く怯えている。俺に対してではなく、目に見えるものすべてに怯えている気がする。

 俺は、場違いだと解っていたがある質問を投げ掛けた。

 

「なあシリカ……病院の方には行ったのか?」

 

 病院とは精神病院のことである。彼女は精神があの世界で歪んでしまったため、恐らく治療を受けているのだろうと思っている。

 シリカは一体なんでそんな質問をしたと言うような表情で俺を見るが、正直に答えてくれた。

 

「ええ、そうです……昨日まで入院してました」

 

「そっか……」

 

 俺は彼女の過去を想像した。恐らくだ……恐らく、彼女はあらゆる差別を受けてきたのだ。あの世界でシリカの世界はかなり変わってしまったであろう。何でも許されたSAOとは違い、ダメなものはダメな現実世界を受け入れずにいられなかった結果、こうして今まで病院に居たのである。今もこうして現実世界の空気を恐れ、背を曲げて必死に耐えている。そして俺からも、距離をとっている。

 

「あの……もう、キリトさんとは会わない方が……」

 

「そう、言わないでくれ」

 

「え?」

 

 自分でも何故こういったのかわからなかった。シリカのことを哀れに思ったのか、許したのか分からない。でも、自然と口から溢れていた。

 

「俺が悪かった。……許してくれ、君にひどいことをいったのは俺だ。だから……だから……」

 

 俺は息を吸い直し、喉に引っ掛かっている言葉を出した。

 

「友達に、なろう」

 

 時間が止まるのを感じた。両者とも言葉がでない。でも……二人の距離を阻んでいた壁が壊れる音が微かに響いた。

 シリカの表情も、だんだんと柔らかくなっていき、涙をこぼしていた。

 

「……ありがとう……ございます……!」

 

 俺は、あのときのようににこっとわらい、頭を撫でた。シリカは嬉しそうな表情でそれを受け入れる。

 

「また、やり直そう。この、現実世界でもさ」

 

「ーーーはい!!」

 

「じゃあ、俺はこれからアスナの墓参りにいくからな。また、明日な」

 

「はい、また明日ですね!!」

 

 シリカの笑みを見ながら俺は、後ろを振り向いた。そして、玄関の靴を乱暴に取って、駆け出していった。

 あの世界でのシリカはもういない。今は、俺の知っているシリカなんだ。だからーーーこれからも友達で、いよう。

 俺は、アスナの墓までの道のりを早足で駆けていった。

 

 

***

 

 電車を乗り継ぎ、ようやくアスナのすんでいる街、中野へとたどり着く。駅のバス停から墓場まで向かい、そこでアスナの両親と出会った。アスナのお父さんである人物、結城彰三氏とはメールでやり取りする間柄になったが、これもすべて菊岡のお陰である。無論、彰三氏も俺がアスナの恋人であったことを知っている。

 

「久しぶりだね、和人君」

 

「ええ」

 

 彰三氏が声をかけたので俺は頭を下げた。隣にいるアスナの母親の京子さんも、怜悧な表情をいっそう引き締めて頭を下げる。

 

「明日奈の墓参りかい?」

 

「はい……俺にはこれしかできないので……」

 

「分かったよ。じゃあ私たちはこれで」

 

「はい、分かりました」

 

 結城夫妻は俺を残してその場から去っていった。彼らは、この墓で何を思っただろうか……。

 

 

 SAO事件が終結したあと、世間の耳目が注目したのは、茅場晶彦の生死だった。結論から言うと、彼は死んでいた。それも、全身コードまみれで。彼は長野県にて潜伏しており、そのログハウスにて生活していた。全身にはいくつもの点滴の針のあとがあり、痩せ細っていた。ただ、彼の死因は衰弱ではなく、脳死だった。どうやら強烈な電磁波を送りつけたらしい。

 いずれにせよ、これにより事件は終結した。

 が、再び新たな事件が起こった。ALO事件である。

 SAO事件が起こった1年後に、結城彰三氏が運営するレクトによってリリースされたVRゲームでーーー正式名称は《アルヴヘイムオンライン》ーーー空を飛べることで有名なVRMMORPGだったが、その裏では、人の意思を自由に操作できるという悪魔的な計画が密やかに実行されていたのである。その中で人体実験まで行われており、あと少しで非人道的な計画が成功しそうだったという。その前に、結城彰三氏が気づき、どうにか逮捕まで行けたのだが……VRMMORPGというジャンルがおった傷は相当なものだった。もう二度と、復帰不可能なほどまでに。

 でも俺は信じている。いつか、いつかこの仮想世界が、再び全うな形になって現れることを。茅場の意思は、消えることは、ないだろう。

 

 俺は物思いを振り払い、線香と花束を手向けた。手を合わせて黙祷し、明日奈に声をかける。

 

「久しぶりだな、アスナ」

 

 答えは、ない。

 

「今日さ、学校でシリカとあったんだ。前、話したことあったよな。和解したんだ。友達でいようって」

 

 嫉妬の声が、聞こえなかった。俺はグッとこらえる。

 もう、キリト君ったら。そう言ってくれよ……。

 

「ユイは……ごめん、どっかへいっちゃった……でも……ずっと俺たちの子には、変わりないよな」

 

 そう、あのときキバオウに取られてしまったのだ。きっとユイもデータの奔流と共に消え去ってしまったことだろう。

 

「君がいなくなってからは、散々だったよ。俺だけしか戦うやつはいなかったし、リズだって汚された。みんな壊れちゃったんだ……ユイだって君だって……全部が壊れて、死んでいったんだ」

 

 

 ぽた、ぽたぽた。

 涙が地面を濡らす。激情が溢れ出す。しゃがみこみ、明日奈の顔を思い浮かべた。

 優しいアスナ、怒るアスナ、泣いているアスナ、戦うアスナ。すべて愛おしかった。今すぐにでも、会いたい。でもーーー会えないんだ……。

 あのとき守ってやれなかった自分を殺したい。でもそれは、許されないだろう。アスナは、俺に生きてほしいと願っていた。死ぬときだって、俺に生きろと声を出さずにいってたんだーーー。

 

「アスナ……君の分まで、俺は生きるよ。今まで、ありがとうな……」

 

 俺は涙をこぼしながら立ち上がった。アスナのことは今でも好きだ。今でも助けてもらっている。だけど、アスナは立ち止まっている俺を見るのは嫌だろう。だからーーーアスナの分までいきると誓った。

 俺は墓を抱き締めた。温もりはない。冷たい感触が頬を刺激する。でも構うものか。アスナは、アスナなんだ。

 俺に出会ってくれてありがとう。

 俺と一緒にいてくれてありがとう。

 俺の、恋人になってくれて、愛してくれて。

 

 

「ありがとう……」

 

 

 俺は、その場で立ち上がり、背を向ける。また来るよと、声をかけて、俺は足を踏み出した。

 

 

 

 

(終)




もう少し修行したいです。応援ありがとうございました。

完結までいったこと、嬉しく思います。こんな駄文を読んでくださり、ありがとうございました。


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