孤高の黒の剣士   作:アズマオウ

5 / 10
警告しておきます。第三話のごとく、過激な描写が入ります。しかし、第三話ほどではないと思います。この第三話と比べれば拍子抜けするかもしれません。ですが、そういった描写があることは警告しておきます。

あと、7000文字の長文?です。私はいつもこれくらいは越してしまうのでご注意ください。どうしたら4000字ほどで抑えられるのだろうか。
では、どうぞ。評価ありがとうございます!

あと、県内解除設定は今作品ではありません。フツーに圏内設定はあります。


第5話:孤高の決意

「動くなよビーターはん。動いたら……やったるで」

 

 冷酷に告げられたキバオウの言葉が、現状を表していた。俺が圧倒的不利な状況だということを、嫌でも認めざるを得なかった。

 キバオウは吹っ飛ばされたが、玉座に再び座り直す。隣にリズベットが数人の男達に押さえつけられていて、キバオウ一派は歪んだ笑いを玉座の横から、俺に向けている。その距離、およそ10メートル。

 俺の今の敏捷値ならば、その距離を走り、憎ったらしいその面に剣をぶちこむことは容易い。しかし、それを不可能にしている存在がある。リズベットだ。

 仮にここで俺が《ヴォーパル・ストライク》を放って、リズベットを押さえつけている男達を襲っても、奴等はリズベットを盾にするだろう。リズベットは吹っ飛ばされ、尋常じゃない不快感に苛まれる。だから俺は動けないのだ。別にリズベットを吹っ飛ばしたら、奴等を倒すことはできる。でもーーー激しい拒否感があった。俺は、仲間には剣を向けられない。この血にまみれた剣を、彼女に向けたくはない……。だから俺は、動けない。だがそのエゴが、取り返しのつかないことになろうとは思わなかった。

 リズベットは必死に体を動かそうとしていた。だが、男達の手から逃れることはできない。よく見ると、彼女の手には錠付きの拘束具が付けられていた。あれは、モンスタードロップで手に入る拘束具で、プレイヤーの動きを簡単に封じられる。だが、あれは5分しか効果がない、残念な代物だ。しかも自身じゃどんなにもがいても解錠できないが、耐久値があまりに少なく仲間に斬られる、いや触れられるだけですぐに壊れてしまい、5分も拘束できるものじゃない。でも……俺には嫌な予感しかしなかった。

 

「今すぐ……リズを離せ。さもないとアンタらを斬るぞ」

 

 俺は掠れた声で脅す。しかし、まるで効力はないようで、キバオウは酷な笑いをさらに強めて言い返した。

 

「やれるもんならやってみい。……この嬢ちゃんがどうなってもいいんならな」

 

 俺は唇を咬むこと以外にやることがなかった。その様子をキバオウは音高く笑う。そして、側近達に顎を向け、俺の方へ振った。側近達はわかりましたと言わんばかりにさらに笑いを強め、俺へと近づいた。

 音高く側近達のブーツが響く。側近達は一斉に俺に飛びかかり、俺を押さえつけた。

 

「は、離せっ!?」

 

「おおっとビーターはん! 動いたらどうなるか……分かっとるよな」

 

「っ……」

 

 その、憎たらしい大声が聞こえた瞬間、俺は力を抜かざるを得なくなり、無様に手に例のアイテムを嵌められて拘束された。俺は部下たちに床に叩きつけられ、這いつくばる形になった。悔しさが頭の中を駆け巡る。殺意が芽生え始めている。

 

「随分といい気味やな。ワイらのこと、笑いに来たんやないのか? 今はジブンが笑いもんやなっ」

 

 キバオウは玉座の上からジロッと俺を見下ろし、側近共が下卑た笑い声をあげる。俺は歯軋りしてその屈辱に耐える。殺してやりたいと、明確に思った。

 だが、ここからが悲劇の始まりだった。

 

「なあ……オマエラは、このクソビーターに何か恨みはあるかいな?」

 

 俺は、伏せられた頭からどうにかキバオウをみる。あの目は……あの、粘つくような視線は、何かを企んでいる目だ。一体俺に、リズに何をしようと……?

 問いかけられた側近たちはニヤついた顔でうんうんと頷く。

 

「だったら……今、鬱憤を張らしてもええとワイは思うんやけど。ま、やったれな」

 

 キバオウは静かに側近たちに命令した。俺を痛め付けようとでも言うのか。それだったらいくらでも受けてやる。リズベットにさえ手を出さなければいいんだ。俺は、その旨をキバオウに伝えようとしたが。

 

 突然、脇腹に鋭い衝撃が走る。側近のブーツが俺の脇腹に刺さり、僅かに体が動く。

 

「ぐっ!?」

 

 痛みはないが、不快感が生じる。奴等のステータスは低いため、それほどではない。だが、狙いは俺を痛みつけることではなかったことを、この時悟った。

 その攻撃が終わった瞬間、キバオウは叫んだ。

 

「あ、ビーターはんが動いたで! オマエラ、もうこの娘、やってエエで」

 

 側近共は狂喜に満ちた叫び声を挙げて、拘束されているリズベットへと乱暴を始めた。

 その言葉に俺はすかさず反抗する。今のは不可抗力だ。蹴られたせいでこうなったんだ。キバオウに対する激しい怒りが巻き起こった。

 

「なっ!? ふ、ふざけるな!! アンタらが俺を動かしたんだろ!! 理不尽だぞ!!」

 

 だが、玉座に座る偽りの王はニタニタと俺に気持ち悪い笑いを浮かべながら、惚けた。

 

「え? 何のことか分からんな? でも動いたのは事実やろ? 動いたらこの娘をヤッたるって、言うたよな?」

 

「このゲスが……!」

 

 俺はギロッとキバオウを睨む。だが、余裕ゆえかまるで怯みもしない。悔しいかな、今の俺は奴に踊らされているのだ。ぎりっと歯を鳴らし、暴れだす衝動を堪える。

 

「いやっ、離しなさいよアンタたち!!」

 

 その瞬間、リズベットは悲鳴をあげた。男達は毒つきながらリズベットの手を掴みあげてウィンドウを降らせる。すでに彼女の目の前にはハラスメントコードが浮かび上がっているが、彼女は押せない状況にあった。そのまま、手は動かされていき、メニューの奥の方にある禁断の、《倫理コード解除》へと触れようとしていた。

 

「貴様らぁッ!! 殺す、殺してやるぞ!! リズから離れろォォォォッッ!!」

 

 俺は、リズベットに迫る恐怖を感じた。俺は、うつ伏せになった体をじたばたさせながら叫ぶ。このままでは……彼女が守ってきた純潔が、誇りが、心が壊れてしまう!

 恐怖が俺の頭を凍らせる。怒りが俺の頭を灼き尽くす。俺の最後の味方が、死んでしまう。怒りを凍らせた恐怖が、殺意が萎えさせ、懇願という、もっとも頼りなく屈辱的な手段しか、できなかった。

 

「止めろ……止めてくれ!! それだけは止めてくれ!! 頼む、何でもするから、止めてくれ!!」

 

 俺はたぶん、今までにないほどの大声で叫んだ。プライドも全て捨てた。しかし、中央で座るキバオウは哀れな俺を歪んだ笑い顔で見下ろし、側近共は強引に涙目のリズベットの手に触れる。彼女はおこりのように身体を震わせ、側近共は舌を伸ばして浮かび上がるウィンドウへと視線を向ける。

 

「やめろォォォォッッ!!!!」

 

 俺は怒声を撒き散らしながら……リズベットの震える指が、《倫理コード解除》のボタンを押すところを見た。受諾したということを示す効果音が、室内に大きく、響き渡った。

 

 

***

 

 あの後、リズベットは裸にされ、彼女の弱いところを執拗に責め立てられ、何度もエクスタシーを味わされた。しまいには側近共は彼女に汚い欲望の汁を何度も浴びせ、彼女の神聖な場所へと躊躇なくイチモツを挿入した。キバオウも参戦し、彼女を何度も何度も何度も何度も……犯した。

 リズベットの羞恥と嫌悪に満ちた顔、男達の薄汚い性欲、何人ものの男達に玩具のようにされるリズベットの体、キバオウの欲望の汁を体内に注がれたリズベットの、光も受け付けぬほどに虚ろになってしまった目、何も出来ずただその現実を直視することしか出来なかった、無様な俺の姿。思い出したくなくても、それははっきりと克明に現れる。

 目を背けたかった。耳を塞ぎたかった。だが、俺を拘束していた側近がそれを許さなかった。頭は灼けていき、涙は溢れ、殺意の衝動に駆られた。だが、ねっとりと密度の増した時間の中で全て燃え尽きた。全て、灰のごとく舞い散った。終わった頃には、俺は全てを投げ出していた。

 

 奴等の地獄のショーから解放された俺は今、宿屋の一室にて項垂れている。背中に武器はない。ストレージにあるものは、勝手にメニューを弄られて奴等に殆ど取られてしまった。俺の二刀も、アスナの細剣も、ありとあらゆるもの、全てが。

 別に武器を取られたことに関してはどうでもいい。目の前で、俺の最後の味方であるリズベットが、犯され、輪姦され、身も心も壊されてしまったことが俺の心を黒く満たしていた。ボトボトと墨汁が紙に垂れ流されていくように、俺という存在が漆黒に染まり、掻き消されていく。

 俺は大切なものを全て失った。サチ、アスナ、クライン、エギル、シリカ、そしてリズベット。彼ら、彼女らは命やそれに等しい何かを奪われて、俺の元から離れていく。今度こそ、俺は一人になった。武器も誇りも何も持たない、ただの無力な《キリト》に成り果てた。守れるはずだったのに……全て守りきれなかった。

 

 もう死のう。

 

 そう、自然に口から漏れた。全てを失った今、もう生きている意味なんて……ない。

 本当ならば、アスナが死んだ、いや、サチが死んだ時点で命を絶っておくべきだったんだ。そうすれば、俺の大切な人間の《死》を見なくてすんだのに。こんな空虚のなかで、生きていくことなんてできやしない。たった独りで生きていけやしない。ソロプレイとは訳が違う。

 俺は、宿を出た。アインクラッドの外周部分に行くためである。始まりの街の中にその場所はある。その場所で、何人ものプレイヤーが、絶望とーーもしかしたら茅場の宣告が嘘であるかもしれないという、微かな希望を抱いて死んでいった。

 外周部分につくと、俺の視界に壮大な夕焼け空が広がる。二羽の鳥が雄雄と空を舞い、正面に映る太陽が視界を淡く灼く。死ぬのには、最高の空間だ。辞世の句でも詠みあげたら風流だろう。

 そんなものどうでもいいか。いいからさっさと死のう。俺は、柵へと近づき、何の躊躇いもなく上に登る。ふと、かつてこうして自殺した奴を思い出す。このとき彼は何を思っただろう。俺に全てを奪われ生きる希望をなくした彼は、何を思っただろう。ああ、もしかしたらこれは彼を、彼の仲間を殺した報いかもしれない。

 だったら僥倖だ。漸くその罪を償える日が来た。同じような目に遭って同じように死んで苦しむ。それで俺の罪を雪ぎ、この狂った現実から消え去ることができる。一石二鳥だ。俺は皮肉っぽい笑みを浮かべる。喜んで死んでやろう。こんな世界、俺にはなんの未練もーー。

 いや、未練はあった。茅場晶彦をこの手で殺せなかったことだ。だが、もうあいつを殺せない。俺には……もうその力はない。

 

ーー待っててくれアスナ……。すぐ、行くから。

 

 遥か向こう側にいるアスナがきっと俺を待っているだろう。向こう側で会えたら、抱き締めよう。俺は手を伸ばし、ありもしない希望へと身を任せ、体重を前へと傾けるーーーー。

 

 ポーン。

 

 突然、軽快なサウンドが鼓膜を刺激した。俺は何事かと思い、柵から内側へ降りる。なぜ降りて死のうとしなかったのか。きっと誰かに止めてほしかったのだろうか。一体何故だかは永遠にわかりそうにない。俺はかなりの臆病で、優柔不断なクソ野郎だな。自虐的な笑みを隠せずにいられなかった。

 俺の視界に通知画面がポップアップしている。どうやら手紙のようだ。宛名は……リズベット。

 

「リズ……?」

 

 俺はそれをタッチし、それを開く。すると、長方形が俺の視界に広がり、手紙が映し出された。だが、なぜ俺に手紙を……? そもそも……彼女は調教と言う名の洗脳を受けたのではないのか? まだ、そんな精神力があったのか?

 考えていても仕方がない。読んでみないとわからない。俺は、書かれている文字に視線を落とした。

 

『キリトへ

 

 リズベットです。

 あのときは……ごめんね。アタシが不甲斐ないせいでさ、アンタに迷惑かけちゃったね。アタシの恥ずかしい姿をアンタに見られたけど。アタシは怒ってないよ。アタシとアイツらが悪いんだからさ』

 

 確かにリズベットは俺に裸を見せてしまい、恥ずかしい姿を晒され、恥ずかしい言葉を連呼させられた。俺に見られたくないって何度も懇願していた。でも……リズベットは何も悪くない。彼女を守れなかった俺が悪いんだ。俺はグッと拳を握りしめる。

 己の不甲斐なさを悔いながらも、俺は続きを追った。

 

『ま、そんなのはどうでもいいの。アタシ、今ね牢屋に入れられているんだ。あと10分後にはアタシ、汚いおっさんの元へと連れられるんだよ。まあ、アタシが耐えればいいんだけどさ』

 

 俺はギリッと奥歯を軋る。

 あの後、リズベットはキバオウ一派に連れられて牢屋へと入れられた。奴隷にでもするつもりなのだろう。いくら強靭なリズベットの精神でも、時間の問題だ。今すぐにでも助けにいきたい。でも……今の俺には無理だ。武器もない俺なんて、現実世界のひ弱な中学生と変わらない。自分の無力さを恨むしか出来ないことほど、辛いものはない。

 

『それでね……今日アタシが手紙を送ったのはさ、アンタにプレゼントあげたいって思ったからなの。アンタは武器、取り上げられちゃったでしょ? でもね、奴等スッゴク間抜けだからアタシが勝手に取り返しておいた。まあそれも一部なんだけどさ。手紙のプレゼント画面見てみなよ』

 

 手紙に言われるがままに俺はプレゼント画面を見る。すると、二件の新着プレゼントがありますと書かれていた。俺は、それをタップしてオブジェクト化する。するとーー。

 

 二振りの剣があった。一本目は、リズベットが作ってくれた、《ダークリパルサー》、そして二本目は、見たことのない剣だった。名前は……《エンド・ワールド》。

 《エリュシデータ》よりかは、若干軽めだが、十分に威力はありそうな外見だ。柄頭は黒、柄は白、刀身は紅と、独特としたデザインになっている。能力値は《エリュシデータ》を遥かに上回っており、たぶんアインクラッドの中で最高の片手剣だろう。だが、こんな剣をどこで……?

 

『まあ先に謝っておかなきゃいけないんだけど……アンタの《エリュシデータ》と、アスナの《ランベントライト》をインゴットにしてその《エンド・ワールド》を作ったんだ。そのせいでちょっと変なデザインになってるんだけどさ、ゴメンね。でも……アンタはまだここでくたばらせるわけにはいかない。アンタは、アスナから聞いたけど……ナイーブなのよね。どうせきっと今回のことで、死のうとでも思ったんでしょ?』

 

 図星だった。現にそうしようとしている。しかし……手紙を読んでいると、死のうという決意が、意思が薄れていく。今手元にある手紙が俺の心を暖めているのか、それとも、彼女自身の言葉に暖められているのか。よくわからない。

 

『だからね……アンタを励ましたくてこの剣を作ることにしたんだ。囚われていてもね、ハンマーとか鋳型とか、インスタントの窯とかはまだ持ってたから、現地で楽に作れるんだ。ま、性能は抜群のはずよ。何てったってアインクラッドの中でトップクラスの武器を原材料にしているし、アタシという最高の鍛冶屋が打ったんだから当然だけどさ。その剣にはアタシとアスナの想いが込められているから、粗末にしないでね』

 

 変わってない。彼女は、変わってない。

 あれほどの屈辱を受けてなお、普段のさばさばした性格を保っている。俺はそれにひどく心を打たれた。彼女は強いんだ。俺なんかとは、違う。彼女の強さに、俺は心が暖かくなった。同時に、甘ったれた自分の姿が消え去っていくのを感じた。死にたいとすぐ後ろ向きになる自分が死んでいくのが分かった。

 

『長くなっちゃったわね。最後にさ、お願いがあるんだ。SAOを、クリアして。それはアンタにしかできない。アンタがこの世界を終わらせて。《闇を切り払う者(ダークリパルサー)》と《世界を破壊する者(エンド・ワールド)》で、この闇に満ちた世界を終わらせて。アンタはまだ戦える。アタシも戦うからさ。終わったら、現実で会おうよ。アタシは……アンタと現実で会いたい。だからそれまでアタシは戦うよ。アイツらなんかに屈したりしない』

 

 いや、違う。リズベットは強いんじゃない。強くあろうとしているんだ。彼女の方が、傷は深いはずなのに、絶望感は俺の比じゃないはずなのに……俺は何を考えているんだ。死にたいだと? 消えたいだと? リズベットは俺よりも辛い思いにこうして耐えているのに……俺だけ逃げるなど許されない。

 俺は、《エンド・ワールド》をそっと撫でる。リズベットの戦う決意が手に汲み取れた気がした。俺がそれを受け取らなくてどうする? 俺が死んでどうするんだ? 俺が、強くあろうとしなくてはいけないんだ。戦わなくてはいけないんだ。俺以外の全てが絶望だろうと、剣がある限り、俺は戦えるんだ。この世界では……《剣士キリト》なのだから。絶望を跳ね返す、孤高の剣士なのだからーーーー。

 

『お願い、早くこの世界を終わらせて。アンタは……アタシの、いや、みんなの希望の星だから。頑張って。アタシ、アンタのこと愛してるから。

また、現実で会おう。

リズベットより』

 

 

 ぽた、ぽたぽた。

 眼前に浮かび上がってくるメッセージ画面に、水滴が数粒零れた。顔を歪ませて俺は嗚咽を必死にこらえる。リズベットは、今もこうして戦っている。そして俺を励ましてくれている。

 俺は弱い。情けない。何も大切なものを守れやしない、大馬鹿野郎だ。だけど、そんな俺をまだ愛してくれている人がいるなら……俺は、その人のために戦う義務がある。決意を決める義務があるんだ。俺が、全て終わらせなきゃいけないんだ。

 

ーーありがとう、リズ。

 

 今すぐにでも直接彼女に感謝を告げたい。でも……それはまだ先でいい。彼女を解放し、現実世界で会ってからでも、遅くはない。感傷を捨て、心を支配する黒い何かを全て排除した。今は……戦うんだ。

 俺は、二本の剣を背に装備し、転移門へと向かう。残すボスはヒースクリフのみ、奴を倒せば全ては終わる。途中に残酷な光景が映るも、俺の歩みは止まらない。もうじき、こんな悲惨なことは終わるから、それまで耐えてくれ。俺は胸の中でそう言った。

 転移門へつくと俺は早速第99層に転移した。100層のアクティベートはまだ済ませていなかったことに気づく。

 軽い目眩の後、《終わりの街》に着いた俺は、迷わず迷宮区へと向かう。ボス部屋までほぼノンストップで駆け抜け、主のいないボス部屋へと入る。ボスは二度とリポップしない仕様になっているため再び面倒な戦闘を行わずにすむ。俺はそのまま螺旋階段を駆け抜けーー第100層へと到達した。

 第100層は、アインクラッドの天辺だけあって、上空を覆うものは何もない。燃えるような夕焼け空がはっきりと見える。淡く照らしている太陽も沈みかけ、もうすぐ夜が訪れようとしている。もし、現実に戻れたら、そのときは夜なんだろうな。

 どうでもいい感傷に浸る暇はないはずだ。俺は正面にある転移門へと向かい、そこでアクティベートを済ませた。この第100層は数十メートルの一本道で出来ている。転移門からラスボスが待つ紅玉宮まで目と鼻の先だ。夕焼け色に染まる紅玉宮は、今までの迷宮区とは比べ物にならないくらい、荘厳な印象を与えていた。そこに凶悪なラスボスが待っている、と告げているかのように。全てが終わるその場所へと俺は踏み入れる。

 全てが血のように紅い紅玉宮の奥へと進むと、重々しい扉が見えた。この扉を開ければ、アインクラッドに閉じ込められたプレイヤーの運命を賭けた最後の戦いが始まる。非情な仮想現実を終わらせ、現実世界へと帰るための死闘が始まる。

 

ーー待っててくれ……リズ。力を貸してくれ……アスナ。

 

 右肩に吊るされた、紅い剣をそっと握る。答えはないが、かすかにとくんと鳴った気がした。それだけで俺は十分だ。表情を引き締め、右の掌でゆっくりとボス部屋の扉を押す。ギィッと鈍くドアが広がり、紅に染まった床が見える。中央に……神が座した玉座が、姿を見せるーーーーーー。

 

 

「待っていたよ、キリトくん」

 

 

 この世界の神が、何段も続いている紅の階段から、ゆっくりと降り立ち、独りの傷ついた勇者と対峙する。その顔は、笑っていた。

 

 

 




うーん、何か前半の描写が物足りない気が。皆様もそう感じたら、遠慮なく感想に書いてください。場合によっては改稿します。陵辱描写をもっと細かく書こうかと(無論許容範囲内で)すごく迷いました。これでいいのかと今でも思ってます。

次回からは……ラスボス編となります。過激な描写ともこれでおさらばですね。

では、感想、お気に入り登録、評価などお待ちしております。
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