ランクインしましたが……低評価の嵐でした。緑にまで落ちました。しかし評価してくださったかたに(爆撃者は除く)お礼申し上げます。設定が不自然だというご意見をたくさん頂戴しましたが、強引すぎるとは自覚していました。しかし……ちょうどいい設定が見つからないんです。よろしければ、こうすればよかったとご意見ください。こんなもの書くなって話ですが。
では、どうぞ!
夕焼け空が、目を射る。
朧気な意識が徐々に明瞭になる。気がつくと俺は、ある場所にたっていた。両手を見ると、指貫のグローブが嵌められていて、黒のブーツが見える。どうやら今の俺の服装は、《SAO》のキリトの装備のままだ。どうやら俺はまだSAOにいるらしい。眼下には燃えるような夕焼け空が果てしなく続いていて、ちょうど俺は透明な板の上に乗っているような感覚がある。でも……こんなフィールドは存在しないはずだ。それに俺は、ヒースクリフとの戦いでポリゴンの欠片と化したはずだ。だから俺は、死んでいるはずなのに……。
俺は右手を降り、ウィンドウを呼び出す。だが、出てきたのは見慣れた装備メニューでも詳細データでもなく、《最終フェイズ実行中》という表記と、54%という数値だけだった。一体何がどうなっている? そう考えている間にも数値は55へと上昇した。
俺は視線を横にずらす。するとーー。
「あれは……」
そこにあったのは、崩壊していく浮游城アインクラッドだった。下層からゆっくりと崩れ始め、瓦礫が果てしない底へと消えていく。第1層を崩壊の波が飲み込み、あの汚らわしい場所を消し去っていく。清々しいと言われればそうではないが、別に惜しいものではない。
だが、壊されていったのは汚らわしい場所だけではなかった。俺とアスナの家、迷いの森、シリカと冒険したフラワーガーデン、リズベットと出会ったリンダースの町、俺とアスナが結婚を誓い合ったセルムブルグのホーム、ヒースクリフと本気のデュエルをした第75層のコリニアの闘技場。すべてが、嘘のように消えていってしまうのはどこか悲しいものである。俺は、ドサッと座り込んでただその崩れていく様を見ていた。
「中々に絶景だな」
ふと、柔らかく、それでいて冷たい声が聴覚を揺らした。振り向くとそこには、白衣姿の男がいた。
「ヒースクリフ……いや、茅場晶彦……」
俺は男の名を呼んだ。彼は今、現実世界のヒースクリフの姿できている。顔にはこの世界のヒースクリフと同じように感情が欠落している、無機質な表情が浮かんでおり、全体的に削られている感じがある。このまま消えてなくなってしまうのではと危惧したくなるくらいに。
茅場は革靴をそっと鳴らして俺に歩み寄る。俺は奴から視線を離して、ただ、壊れゆく城を見つめていた。推奨のように透き通った板は無限に広がっているわけではなく、俺と浮游城の間は、板がすっぽり切れている。この雲海へと身を任せたら俺はどうなるだろうか。仮想の命を失うだけですむのか、それとも、0と1の奔流に囚われそのまま存在そのものを消されるのだろうか。試そうという気は起きない。
「茅場、あれはなんだ?」
俺は浮游城を見ながら問う。すると、抑揚の幅が少ない、単調な声が返ってきた。
「比喩的表現、というべきかな」
どういう意味だと俺はちらっと茅場を見る。茅場は説明を開始する。
「現在アーガス本社地下5階にてSAOメインフレームの全記憶装置の完全消去作業に入っている。あと十分でこの世界の何もかもが消滅するだろう」
「あそこにいた奴等は……?」
俺の問いに茅場は心配ないと答えて、左手でウィンドウを開く。すると、プレイヤーの名前と顔写真がリストとなって浮かび上がる。
「先ほど、生き残った5028人のログアウトが完了した」
ウィンドウを繰りながら彼は答える。
「死んだ連中は、どうなった? 俺だって死んだのにこうやっていられるんだ。死んでいないんじゃないのか?」
俺はかすれ声で聞く。茅場は、表情一つ変えずに答える。
「命はそんなに軽々しく扱うべきではないよ。彼らの意識は帰ってこない。死者が消え去るのはどこの世界でも一緒さ。君とはーーー最後に一つだけ話したいことがあったからこの時間を作らせてもらった」
「5000人を殺した人間が言えることかよ、ふざけやがって」
俺は奴を睨んだ。アスナはもう戻ってこないことに関しても俺は怒りを抱いていた。だが、茅場はまるで動じず、俺に返す。
「確かに、君のいうことは最もだ。だが、私のいうことも事実だ。命は、帰ってこない」
「アンタの言葉ほど、信憑性の薄いものはないぜ」
俺は吐き捨てるように言い、この話を打ち切った。俺のなかで、絶対に聞きたい疑問があったからだ。これは……全プレイヤーが抱いていた疑問だ。それを聞かずには、いられない。
「……何であんなことをしたんだ?」
俺は声を低めて問う。茅場はちらりとこちらを見やり、言った。その顔は、珍しく人間らしいものだった。
「何故ーーーだろうか。私も長い間忘れていたよ。なぜだろうな。フルダイブ環境システムの開発を知った時ーーーいやその遥か昔以前から、私はあの城を、現実世界のあらゆる枠や法律を超越した世界を創り出すことを欲して生きてきた。そして私は……私の世界の法則を超越するものを見ることができた……。例えば、君のソードスキルの連鎖攻撃とか、かな」
「ああ、あれか……。あれは半分まぐれだ。無理矢理繋げようとしたらこうなったんだ。まあ、アンタの与えてくれた孤高のスキルのお陰でもあるんだけどな」
俺は先ほどヒースクリフとの戦いにて使ったシステム外スキルの種を明かした。茅場は表情を変えずに語る。
「君には、《孤高》スキルを与えるべきではなかったかもしれなかったな。硬直時間の大幅減少をあそこまで利用されるとは。まあ最も、このスキルの役割は、勇者が倒れたときに他のものに与えられるスキル、という私の勝手な設定だったのだが……見事にシステムはそれを無視してくれたものだ……。取得条件は、トップクラスプレイヤーが一名のみになった場合だからな」
「そうか……まあ、アンタのさぞ素晴らしいシナリオが出来なくて残念だったな」
俺は嫌みを言う。が、茅場は超人的なほどにまで極められた鉄の心によってスルーした。
「ーーー話を戻そうか。私はね、空に浮かぶ鉄の城に取りつかれたんだ。あれは何歳の頃だったかな……。その情景だけはいつまでたっても消え去ることはなかった。年を取るごとにだんだんリアルになっていき、大きく広がっていった。この地上を飛び立ってあの城にいきたい……長い、長い間、それが私の夢だったのだ。私はねキリト君ーーーまだ信じているのだよ。どこか別の世界にも、本当にあの城は存在するのだと」
話を聞くうちに俺はこんなことを思っていた。
要は自己満足だろ、自己満足でアンタは何千人も殺したんだ、と。
そう非難したかった。アスナを殺した張本人を今ここでぶん殴りたかった。でもーーー同時に俺は、彼のことを認めてもいた。俺にはあんな志はない。実行力はない。最低なことをしたけれど、その行動力と意思力は、評価すべきなのではないのか。俺は、自分がなにがしたいのかわからなくなってきていることに心で苦笑する。
俺は、浮游城を見つめる。確かにこの城は、現実のあらゆるものを無視している。だからまだ学生である俺は、アスナと結婚できた。だからあんな残虐な行為がまかり通っていた。でもーーー茅場は本当にそういったものまで求めているのか? 残虐な行為も許される世界も作ろうと、本気で思っていたのか?
「茅場。アンタはさ……本当にあんな無法な世界を作りたいと思っていたのか?」
俺の疑問に茅場は目をつむる。そして、口を開いた。
「いや、人間倫理に反するところまでいってしまうと世界を崩壊させてしまう。それではならないのだ。だからーーー今回のこの結果は良いものではない。こうしたいわけではなかったことだけは、言わせてほしい」
「そうか……」
奴はこの状況を好んでいなかった。だが、神の介入は許されていない。ジレンマを味わっていたのだろう。いや、もしかしたらそういったものとは無縁かもしれないが、少なくともよい心境ではなかったらしい。それを聞いてかすかに安心した。
「キリト君。隣、いいかな」
「構わないぜ」
「では、失礼する」
茅場はそういうと、俺のとなりに腰かけた。その間には微妙な距離がある。
「だけどアンタらしくないぜ。アンタは人には滅多に近寄らない筈なのにな」
奴へと視線を向けて俺は呆れ顔を作る。奴は、顔をわずかにほころばせた。
「確かにらしくない真似だろうな。だが、こんなに美しい景色はないじゃないか。少し、浸らせてほしいものだ」
「そう、だな……」
俺は、再び浮游城に視線を戻し、見つめる。もうすぐその破壊の波は、第100層へと迫ろうとしている。俺は、どうしようもない喪失感を味わっていた。これで終わってしまうのかと思うと、寂しくなってしまうのは、ゲーマーの性なのか、それとも、現実と化したこの世界が消えることに対する拒絶があるのか、俺には分からない。
「さて、私はそろそろいくよ。やらなくてはならないことがあるからね」
茅場は一息吐くと、立ち上がった。俺はなにも言わずに彼を見る。彼の目には、決意の色が見える。何を決意したか、俺は何となく察していた。
彼は、白衣を翻して去っていく。革靴の音が妙に響き、毅然とした後ろ姿は妙な存在感を放っている。
だが、彼は何かを思い出したようで、顔をこちらに向けて、言った。
「言い忘れていたよ。ゲームクリア、おめでとう。キリト君」
それだけいうと、茅場は去っていった。俺は、奴が見えなくなるまでただ、見送り続けていた。いつのまにか、茅場の姿は消えていた。
茅場の姿が雲海の果てへと消えていった後、再び俺一人になった。寂しさが込み上げ、一人息を吐く。リズベットやアスナはここにはいない。俺とは違う世界で生きているのだろう。もう彼女らには会えないのか。
「っ……ぅ……」
頬に暖かい感触が流れる。泣いているのだ。孤高の黒の剣士の役割を終えた俺は、今、泣いているんだ。全てが終わったという偽りの達成感と、全てが消えてしまったという虚無感。
でもーーーそれもすぐに終わる。俺は、まもなく死ぬのだから。あれほど死ぬのが嫌だったのに、今では死に対して喜びすら感じている。独りから、解放されるのだから。独りぼっちは、もう、ごめんだ。
俺は笑っていた。浮游城が全て崩れ落ち、ただの無限の夕焼け空が広がる空間に成り果てたその場所が白い光に包まれていく瞬間でも、俺は喜んでいた。これは俺を死に誘う光だ。恐らく俺は地獄へと落ちるだろう。でも、何時かはアスナに、天国にいるアスナに会えるはずだ。いや、必ず会ってみせる。そして、いつまでも一緒にいるんだ。
ーーーアスナ……君のもとへと、行くよ……。
俺の意識はすぅーと、冷たい空気が入り込むように薄くなっていく。視界さえも白に染まりゆく。浮遊感が生じていき、存在そのものが掻き消されようとしている。それでも構わなかった。俺はなにも悔いていない。全て消えてやろう。この世界から、違う世界へと旅たてるなら。
望み通り、消えてやろう。
***
空気に臭いがある。どこか薬品臭い。俺は違和感を覚えて目を開けようとする。すると、目の前に映る天井にて、大きな機械が見えた。あれは空気清浄器だ。空調を入れ換えるためのものだが、何故こんなものがあるのだ? 鍛冶スキルや大工スキルを最大限駆使しても、こんな精密な機械など作れない。
ということは、ここは現実世界なのか? もう帰れないと思っていた、二年半以上も前に別れを告げた、あの世界に戻れたのか? 正直、リアリティーがない。信じがたい。
横たわっている体で、俺は指を縦に揃えて縦に降る。何もない。今度はもう一度強く降る。やはり何もなかった。
間違いない。ここは、現実世界だ。一人取り残されたあの世界から、脱出できたんだ。そう、リズベットたちがいる、この世界へと行けたんだ。言い換えればーーー俺はアスナのもとへと、行けなかった。
帰還できた喜びと、アスナに会えなかったという悲しみが同時に押し寄せていき、どうしようもなくぐちゃぐちゃした気持ちになる。俺はあの世界で消えたはずなんだ……アスナの元へと行くことが出来たんだ。俺を生かしてくれた運命という奴を恨むべきなのか、分からない。いや……恨むべきだろう。運命は、俺とアスナを二度も引き剥がしたのだから。俺とアスナは関わっちゃいけないと、言っているのだ。人は運命には抗えない。何もできない。
仕方がないと、体をベッドに沈み込ませるも、俺の中で何かが声高に叫んでいた。それは、反抗心だった。ふざけるな、抗えと、叫び続けている。戦えと、奮い立たせてくれている。
ーーー認めるものか、そんなもの……。俺は神に剣を向けた男だ。抗ってやる……アスナの死は覆せないとしても……アスナとの繋がりだけは、失うわけにはいかないんだ!
俺は、上半身をどうにか起こす。視界がヘッドギア型のインターフェースマシン・ナーヴギアに覆われているので、俺はそれを手探りで外す。すると、伸びきった髪の毛がぶわっと垂れていく。これではまるで囚人だ。いや、実際囚人だったが、俺はこれから光をみなくてはいけないんだ。剣はなくとも、俺は戦うんだ。
俺は、身体中のあちこちに貼られているパッチやコードを丁寧に剥がしていく。途中、警告音が鳴り響くもそれを無視し、ベッドからゆっくりと降りた。ベッドに足をつけて立った瞬間、鋭い痛みが足を襲った。長い間使われていなかった体が今必死に抗議しているのだろう。だが、立ち止まれない。俺は唇を力なく噛み締めて痛みに耐えながら、どうにか立ち上がる。あれほどの超人的な身体能力を持っていた《キリト》の面影は何処にもない。現実の俺は、ここまで脆いのか。苦笑せざるを得ない。
俺は、点滴の支柱を両手で握りしめて歩き始める。今にも崩れ落ちそうなほどに、筋肉は悲鳴をあげている。灼けるような痛みを堪えながら俺は歩みを止めない。部屋の自動ドアが開き、廊下に踏み入れる。ひんやりと冷感が素足を刺激するも俺は耐える。まずは、アスナの家族を探すんだ。この病院にもしかしたらいるかもしれない。仮にいなくてもいい。どれだけ時間がかかっても俺は探して見せる。大人に頼ればいいという考えが浮かぶが、このまま待っていては発狂してしまいそうだ。だから、俺はーーーーーー。
独りの少年、桐ヶ谷和人は、脆い体を引きずり、堅い信念を抱きながら……この現実世界でも戦うことを、決めたのだった。
まだもうちっとだけ続くぞい。
では、感想やお気に入り登録などお待ちしております。チラ裏でも行こうかしらW