今回は現実世界での生活です。原作とはやはり大きく変わっています。矛盾点とかありましたら教えてください。
では、どうぞ。
「えー……それではファイル25と26を転送しておくので、明日までにアップロードして送ること。では、これで」
静寂に包まれた教室の中、年配の教師がドアを開けて去っていった。その直後、昼休みが到来し、室内に弛緩した空気が入り込む。
俺は早速宿題のファイルをみる。英語の問題だが、なかなかに長い文章だ。これは大変だろうなと、俺は溜め息をつく。
俺は、授業で使うタブレット端末を鞄に放り込み、席を立つ。その様子を他の生徒が見つめるが、俺は無視して教室を出る。
廊下を歩いている最中にも、俺をじろじろみる輩がたくさんいた。彼らの目にあるものは、俺に対する警戒心と恐怖心だった。だが、俺は構わず進む。
3階立ての校舎の最上階にある食堂についた俺は、早速待ち合わせている人物を探す。学生食堂は賑わっていて、それぞれの時間を楽しんでいる。歓談している生徒たちの間に入りながら俺はその人物を探す。すると、ちらっと白い手が見えた。その手はブンブンと左右に振られている。俺はそこへと向かった。
「よ、キリト」
その場所に向かうと、学食の端の席に女子生徒が俺に声をかけた。目の前に座る女子は、俺をじっと見上げている。頬にはソバカスが目立つが、それを打ち消してしまうほどの可愛らしい童顔を持っている。顔はあの世界と同じだが、髪の色はピンク色ではなく茶色であり、地味なヘアピンがつけられている。
俺は苦笑しながら、俺の呼び名を訂正した。
「それをいうなら俺は和人だ。篠崎里香さん」
「里香でいいわよ、全く」
リズベットーーー篠崎里香は、苦笑して呼び名を訂正させた。
2025年7月1日。
悪魔のデスゲーム《ソードアート・オンライン》はクリアされた。死者は5000人弱も出してしまい、史上最悪の殺人事件として歴史に名を残すことになった。
俺ーーー桐ヶ谷和人はそんな過酷なゲームから生き残れた。まず、目覚めて最初にあった人物は、看護婦だった。俺が勝手に出歩いているところを見つかってしまい、すぐに病室へと運ばれた。そのあとすぐに、俺の家族が来た。妹の直葉は泣きじゃくりながら再会を喜び、母さんは俺を思いきり抱き締めてくれた。俺は、彼女らの前で、自分の身勝手な行動のせいで、たくさんの人間に迷惑をかけたことを謝った。同時に感謝もした。俺をこうして生かしてくれた家族や先生方に。
その後、ある男が俺の元を訪ねた。総務省の、SAO事件解決の担当メンバーで、名前を菊岡誠二郎というのだが、この男性が俺の入院する病院を決めてくれたらしい。俺はその人にもお礼をいい、あることを頼み込んだ。アスナとリズベットの、本名と住所を教えてほしいと。
すぐに却下された。プレイヤーの個人情報を無闇に公開してはならない規則があるからだ。でも、俺は引き下がれず交換条件を出した。教えてくれたら、SAOでの出来事をすべて話すと。強く交渉した結果、やむ無く了承したが、リズベットの住所だけは教えてもらえなかった。彼女はまだ生きているからだ。代わりに、年を教えてもらった。年は、俺よりも一つ年上だ。最初に聞いたときは意外でならなかった。
「いやあ……やっぱこの呼び名で定着しちゃうんだよなあ……」
「まあ、アタシに対してはそれでもいいけどね別に。バレても知ったこっちゃないし」
「まあな……俺もばれてるっぽいけど」
「そうね。アンタ向こうで目立ってたじゃん、黒ずくめでさ」
俺はむすっと目の前の少女を睨んだ。
今、俺は西東京市にある学校に通っている。中々お洒落で素敵な学校だが、この学校の生徒にはある共通点がある。それは、全員がSAOプレイヤー、ということだ。
学生だった俺たちは、2年ものの間にあの狂った世界に捕らわれ続けていた。学力低下もそうなのだがもっとも危惧されたのは、人格崩壊だった。殺伐としたデスゲームに居続けた俺たち若者は、何らかの精神異常を抱えていると見なされた。そこで国はある措置をとった。学生だったものを一斉にその高校へと入学させ、管理下に置いたのだ。大学入学資格を得られるだの、ただで入学できるだのという餌を振り撒き、ほぼ全員をこの学校にいれることに成功した。ただ、俺たちにとっても願ったりかなったりだ。社会復帰のチャンスを与えられるのだから、これ以上の待遇はない。社会人の場合は、そういった措置は取られなかったが、元いた会社に復帰するもよし、新たに就職するもよしとされた。ただ、元いた会社に戻る際は、ちゃんと手続きを踏めば必ず復帰できる制度が敷かれた。
早速、2026年4月、学校が完成し入学式が行われた。秋入学も検討されたのだが、リハビリの長期化や建設期間の短さから、春入学へとなった。いざ入学式に参加すると、女子生徒の方が割合が多かった。だが、それも頷ける。何故なら、ほとんどの女性は、始まりの街に拉致監禁され、凌辱の限りを尽くされたからだ。奪われたのは尊厳であって命ではない。対して男性は、攻略組等の戦闘集団に属していたので致死率が高かった。だから男女比に偏りができたのである。
この学校のルールとして、生徒をプレイヤーネームで呼んではならないというものがある。ゲーム内でのいざこざを持ち込まれては対処のしようがないからである。だが、なんせ容姿や性別はゲームと同じであるので、バレてしまうこともある。現に俺は、入学式でバレてしまった。
その次の日から、俺に話しかける人間は極端に減り、1ヶ月たってからは誰も俺に話しかけなくなった。時には罵声も浴びせられることもあった。
何故かというと、彼ら彼女らは俺に壁を作っているからだ。俺は、生き残ったプレイヤーのなかで、唯一違う道を歩んでいて、恐らく1万人の頂点に立つ男である。だから、俺のことを普通の人間として見ていない。例えるならば、普通、あるいは程度の低い学歴を持つ集団のなかに東大卒業者が入り込むと、尊敬こそはするが、行き過ぎたものになり敬遠するようになる。それと同じだ。今の俺には、何の力もないと言うのに無駄にそういった目で見られ過ぎている。
皮肉なものだ。俺が悪魔のような生活から解放したというのに、感謝どころか、話しかけてもくれない。だが、もうそんな不条理には慣れている。別に俺は英雄になりたい訳じゃない。だからどういわれようと構わないのだが。
「ーーーアタシは理不尽だと思うけどね。アンタが救ったのにさ、アンタがちやほやされないのは、ねえ」
「ま、まあ別にちやほやされたい訳じゃないけどな。でも、話しかけられないのはちょっとな」
「それはアンタのその雰囲気のせいじゃない? アンタはちょっと怖そうだもん」
「おいおい……。俺は別に怖くはーーー」
「まあ、いいわ。とりあえず食べましょ」
「やれやれ……。とりあえず食うか」
俺たちは、早速メニューを決めて学食のおばちゃんに注文する。俺は天丼二杯、リズベットはカレーライスである。
テーブルに乗っけられた二杯の丼にリズベットはビックリしながら、呆れ声でいった。
「アンタ、よくこんなに食べれるわね」
「育ち盛りだからな。それに放課後しんどいし」
「ああ……アンタ剣道やってるんだっけ?」
「正確にはまた始めたんだけどな。つい最近まで竹刀が持てなかったけど、今はどうにかやってるよ」
俺は、細い腕をぷらんぷらんと揺らしながら言う。長い長い入院生活のせいで、筋力は落ちてきてしまったが、最近始めた剣道によって徐々に体力は戻りつつある。ちなみにこの学校の剣道部に所属している。
「ふーん……ま、がんばりなさい。あ、その天ぷらちょうだい」
「ん」
俺は里香の激励に応えながら、海老の天ぷらをあげた。里香は満面の笑みを浮かべている。
「あー、この天ぷら美味しいわねー」
「そうか? なんか脂っこいからなあ……里香はそういうの好きなのか?」
「あのねえ……アンタデリカシーないでしょ? フツーは女の子に油っこいとか、そういうフレーズ使っちゃダメなのよ」
「その油っこい……いや、脂肪分がやや高めな食べ物を食しているのはどこのどなただ?」
俺の突っ込みを里香はスルーし、大きく口を開けてがぶっとかぶりついた。これが、アインクラッドにて相当辛い思いをして来た少女だとは、思えなかった。
あの世界にて、悲惨な現状が起こっていたことは、世間の耳目を集めた。俺がアスナとリズの情報と引き換えに伝えた情報は、菊岡を大きく驚かせ、すぐさまマスコミへと知れ渡った。そう、あのゲスな欲にまみれた人間の存在が、判明したのである。無論、SAOプレイヤーの情報は非公開厳守であるので、首謀者であるキバオウのリアルネームなどは明かされなかったが、キバオウと言う名前は広まったので、ネットにてキバオウと名のついたアカウントのSNSは炎上していった。ただ、不思議なことにそのアカウントには謝罪の言葉はおろか、レスポンスすらなかった。ネット上では、彼は死んだ可能性が高いと噂されている。いや、実際死んでいることを俺は知っているのだが。
何故俺がそれを知っているか。それは、入学式の際、里香から聞いたからだ。里香はクリアまであいつに捕らわれていたが、アイツは俺を殺そうと最前線へと向かったらしい。武器がないと思い込んでいた奴は、里香から居場所を吐かせてその場所へと向かったが、愚かなことに俺のいる場所は第99層で、当然道楽の限りを尽くしてきたあの男に、凶悪なモンスターに立ち向かうすべもなくその体を散らしていった。余り死人を悪くは言いたくはないが、自業自得で且つ、あいつにふさわしい無様な最後と言うべきだろう。
閑話休題。
あの世界にて、精神異常を来した人間は、やはり多かった。女性は極度の男性恐怖症になったり、男性は平気で痴漢などの猥褻行為に持ち込むようになった事例が相次いだからだ。しかもそのほとんどが、元SAOプレイヤーであった。そういう場合は精神病院へとすぐに搬送され、長い長い精神ケアを受けることとなるのである。俺の通っている学校でも、毎週カウンセリングを受けさせられる。現在は病院搬送レベルのダメージを負っているものはいないが、入学直後は、6割方が精神病院へと送られた。そのため、クラスにはろくに人がいなかった。
俺たちは、かなり特殊な人生を送ると思う。でも、今はそれで生きていくしかないのだろう。俺は、そう腹を括って天丼二杯目へと取り掛かった。
***
俺と里香はそれぞれのご飯を食べ終わり、学食を出た。相変わらず廊下は昼休みの喧騒に溢れている。
「あ、そうだ。今日、俺アスナの墓参りに行こうと思っているんだけど、里香は行くか?」
俺は歩きながら聞く。俺はアスナのご両親とすでにメールでやり取りをしていて、仲良くなっている。今日、初めて彼女の家の近くの墓場にてご両親と対面することを約束しており、そこに里香を連れていこうと思ったが。
「いや、アタシはいいよ。今日は用事があるからさ」
「そっか。分かった」
俺は里香の用事が少し気になったが、干渉していいものじゃない。俺は、深く聞かずに教室まで向かう。
「じゃ、ここでね」
「おう」
俺と里香は、階段越しで別れた。俺は二階、里香は3階に教室がある。俺はリズを見上げながら手を振って去った。
「さて、俺もいくか」
俺は止めた足を再び動かして自分の教室にまで向かった。
5、6時限目が終了し、放課後になった。俺は鞄などを整理して、そのまま教室を出た。階段を降りて最下階の昇降口にて、上履きから靴へと履き替え、外へと出ようとした。
「キリトさん!」
突然後ろから声をかけられた。振り向いてはいけないはずだ。何故ならば、今呼ばれた名前は俺のリアルネームじゃないからだ。でもーーー俺は振り向いた。振り向かざるを得なかったから。声が、同じような感じがしたからだ。
「シリカ……?」
俺は、あの世界にて絶交して、もう二度と会うなと警告を与えた少女の名前を呼んだのだった。
aloや茅場に関しては次回説明いたします。次回が最終回になります。続編を作るかは、考えていません。
では、感想、お気に入りなどお待ちしております。