ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第100話 決着 −背中を押す者−

 

-下部司令エリア 司令室-

 

 激しく揺れ続ける闘神都市。その最深部にある部屋に座り込んでいる者がいる。それは、シィルを抱きしめているランスだ。ルークたちが去った後も、こうしてシィルを抱きしめ続けていたのだ。失われていく体の暖かみを、その手で最後まで感じていたかったからだ。

 

「馬鹿野郎……馬鹿野郎……」

 

 シィルを強く抱きしめながらそう呟くランス。そろそろ脱出口へ向かわなければマズイ。だが、ランスはまだ動かない。最後になる抱擁を熱が失われるまでしていたいと思ったからだ。だが、ここでようやくランスはシィルの体がおかしい事に気が付く。ルークたちが去ってからもうかなりの時間が経つが、シィルの体がいつまで経っても冷たくならないのだ。

 

「まさか……?」

 

 ランスがそっとシィルの胸に耳を当てる。すると、ドックンドックンと確かな心臓の音が聞こえる。

 

「へっ……? 生き……てる……? おい、シィル、シィル!!」

 

 完全に止まったと思っていたシィルの心臓の音を聞き、ランスがシィルの肩を大きく揺すりながら大声を出す。すると、もう二度とは開かれないと思っていたシィルの瞳が、ゆっくりと開かれていった。

 

「んっ……あっ……ランス様……?」

「生きてる……のか? おい、大丈夫なのか?」

「はい……少し気を失っていたみたいで……あの、ユプシロンは……?」

 

 朦朧とする意識から徐々に覚醒していき、周囲を見回しながらそう問いかけるシィル。だが、次の瞬間にはその頭に拳骨が落ちてきた。

 

「このバカもんがぁぁぁぁ!!」

「きゃん!?」

 

 目覚めて早々にお見舞いされた一撃にシィルが涙目になる。だが、ランスの怒りは収まらない。

 

「ひんひん……痛いです、ランス様……」

「死んだふりなんかしやがって! どれだけ心配したと思っているんだ!!」

 

 声を荒げるランスだったが、心配したという思いもかけない言葉を聞いたシィルは目を見開き、ランスの顔をまじまじと見る。すると、ある事に気が付く。頬に残る、確かな跡。

 

「ランス様……私の為に泣いて……?」

 

 そう言いかけた瞬間、再びシィルの頭に拳骨が落ちてくる。

 

「馬鹿者! 英雄である俺様が泣くわけがないだろうが! まかり間違っても奴隷なんかの為に泣いたりはせんわ!!」

「…………」

 

 そう断言しながらぷいと後ろを向いてしまうランスだったが、その頬が少しだけ赤くなっているのをシィルは見てしまう。自然と嬉しくなり、ランスの背中に抱きつこうと思った瞬間、闘神都市が更に大きく揺れる。

 

「きゃっ……これは……?」

「ちっ……急ぐぞ、シィル。もうすぐこの闘神都市は落下する!」

「えっ……えぇぇぇぇ! 本当ですか!?」

 

 いきなりの事態にシィルが動転するが、気持ちを落ち着ける間もなく更に闘神都市は大きく揺れ、部屋の壁が崩れ落ちる。

 

「み、みなさんはどうされたのですか?」

「ふん。あいつらは俺様たちを置いて先に逃げやがった。薄情な奴らだ」

 

 自分で先に行けと言った事を棚に上げてふんぞり返るランス。シィルも他の者たちが自分たちを見捨てるような事はしないと判っているため、ランスの言葉を話半分に聞いて頷く。

 

「とにかく脱出口へ向かうぞ! 全く……愚図のお前を待っていたからギリギリになってしまったではないか。地上に戻ったら、その分働けよ」

「はい、ランス様!!」

 

 そう言い合いながら部屋から飛び出していくランスとシィル。崩れ落ちていく司令室。最後の二人が出て行ったため、今この部屋に人間は存在しない。だが、ランスたちが出て行ったのとほぼ同じタイミングで、ゆっくりと一つの影が立ち上がった。

 

「…………」

 

 その巨体の持ち主はゆっくりと周囲を見回し、天井を見上げる。そして、何かを確かめるように両手を自分の両耳に当てる。聞こえてくるのは、闘神都市に残る者たちの声。都市の主であるこの者は、こうして都市の隅々の様子を感じ取る事が出来るのだ。すぐ近くの通路を走る男女の声、脱出口に残る少女たちの呼吸音、地下から響く二人の達人の戦闘音、そして、防空コアから聞こえる目当ての男の声。

 

「…………」

 

 一度だけ頷き、ゆっくりと司令室の奥へと進んでいく。崩れ落ちた瓦礫を掻き分けると、まだ奇跡的に残っている壁が現れる。そして、その者は壁に埋め込まれた鏡のようなものを触る。これは、闘神都市のどこにでも転移できる装置だ。だが、教団にその使用を許された者にしか使用する事は出来ない。それはただ一人。都市を預かる最高責任者、闘神。鏡に触れていた者の姿が一度だけ光り、フッと姿を消してしまった。

 

 

 

-防空コア 地下六階-

 

「火炎流石弾!!」

「がぁぁぁぁ!!」

「スーパーティーゲル!!」

 

 ハンティ、キャンテル、フリークたちが何度目になるか判らない攻撃を壁に仕掛ける。だが、今なお壁は健在。少しずつダメージを与えているのは確かだが、このままのペースでは都市崩壊までに間に合わない。

 

「くそっ!」

「ふっ!!」

「うぉぉぉぉ!」

 

 フリークたちが魔法の準備をしている間は、ヒューバートたち三人が壁に直接攻撃を仕掛ける。ヒューバートは不知火で斬りつけ、ミスリーは回し蹴りを繰り出し、デンズは斧が折れてしまっているため、タックルをぶちかます。だが、三人の攻撃は焼け石に水でしかない。

 

「ちくしょう……このままじゃ間に合わねぇ……」

「弱音を吐くな。最後まで頑張るんじゃ!!」

 

 都市がまたも大きく揺れ、額の汗を拭いながらヒューバートが吐き捨てる。気持ちばかりが焦ってしまい、どうしようもない。それを戒めるフリークだったが、このままでは間に合わないというのは紛れもない事実であり、全員が薄々勘付いていた事柄だった。

 

「離れな、もう一度……っ!?」

 

 ヒューバートたちを壁から離れさせ、再び魔法を放とうとするハンティ。だが、部屋の隅から感じた強力なエネルギーに目を見開き、すぐにそちらを見る。キャンテルも気が付いたようで、ハンティ同様そちらに視線を向ける。部屋の隅からは強力なエネルギーに続いて眩いばかりの光が発せられ、この時点になってヒューバートたちもそちらの異変に気が付いた。全員がそちらに注目している中、光が徐々に晴れていく。すると、そこには一つの影がそびえ立っていた。一番初めに声を漏らしたのは、フリーク。

 

「ユ……ユプシロン!?」

「なっ……何故ここに……!?」

「こいつは死んだんじゃなかったのか!?」

 

 ミスリーが困惑し、ヒューバートが不知火を握りしめながら声を荒げる。闘神都市の崩壊が始まっているという事は、ユプシロンは第一パーティーに敗れたはずだ。そのユプシロンが、ボロボロの体で目の前に突如現れたのだ。混乱するのも無理はない。

 

「ちっ……時間が無いっていうのに……」

「…………」

 

 ハンティが壁に放とうとしていた魔力をユプシロンに向かって放とうとし、キャンテルもブレスを吐き出そうとする。だが、ユプシロンはゆっくりと腕を上げて何かを合図する。それはまるで、こちらを静止するような仕草だ。眉をひそめながらハンティたちがユプシロンの思惑を窺っている中、その口からゆっくりと言葉が放たれる。

 

「フリーク……」

「なっ!?」

 

 絶句するフリーク。それは有り得ない出来事。闘神に改造された時点で彼は死んでいるはず。今ここに立っている闘神は、聖魔教団の操り人形でしかないはずなのだ。ゆっくりと前進し始めるユプシロンに反応し、ハンティとキャンテルが攻撃を仕掛けようとする。だが、フリークが両手を広げてそれを遮る。

 

「待て! 待ってくれ……」

「なんだい、突然!?」

 

 不可解なフリークの行動に驚くハンティだったが、歩き始めたユプシロンは自分たちに向かって来ず、壁の方へと歩みを進めた。歩く度に体から軋む音が聞こえてくる。いつ倒れてもおかしくない程にボロボロの状態だ。その状態で壁の前まで辿り着いたユプシロンはフリークたちに向かって振り返り、再び言葉を発する。

 

「フリーク……聖魔教団は……滅んだんだな……?」

「セルジオ……やはり記憶が……?」

 

 今度こそ間違いない。目の前のユプシロンは操り人形ではなく、自らの意思で言葉を発している。フリークの言葉を受け、ユプシロンはゆっくりと首を横に振る。

 

「人間セルジオは死んだ。今の俺は……」

「そうじゃったな……今のお主は、闘神ユプシロンじゃ……」

 

 それは、セルジオがまだ闘神になる前に交わされた約束。セルジオではなく、ユプシロンと呼ぶという、遙か昔の約束だ。だが、ユプシロンがこの記憶を覚えているはずがない。闘神になる際に、彼は死んでいるのだから。

 

「何故記憶が……?」

「さぁな……だが、うっすらと覚えている。聖魔教団が滅んだ事……お前が闘神を封印した事……そして、魔人に操られ、先程人間に敗れた事……闘神という器の中から観劇しているような、そんな感覚だった……」

「そんな事が有り得るのですか……?」

 

 そう語るユプシロンにミスリーが絶句する。それは、残された魂が見た記憶だったのかもしれない。

 

「人間に敗れ、魔人の支配から解放され、器であるものが死滅し……今の俺がある……」

 

 ユプシロンの言うように、彼はルークたちに敗れて一度死んでいる。だからこそ闘神都市の崩壊が始まったのだ。ヒューバートが訝しげにしながらユプシロンに問いかける。

 

「死滅しただと……? じゃあ、目の前に立つてめぇは……?」

「それは……」

 

 ヒューバートの問いに答えようとしたユプシロンだったが、フリークが自身の胸を親指で指し示し、その問いに代わりに答える。

 

「決まっておる……魂じゃよ」

「ふっ……」

 

 静かに笑うユプシロン。これ程の時が過ぎてもなお、目の前の親友はあの時の言葉を覚えていてくれたのだ。

 

「フリーク……曖昧な記憶しかないから教えて欲しい……聖魔教団は滅んだんだな……?」

「ああ……滅んだ……」

「シータやラムダ……他のみんなも死んだんだな……?」

「ああ、見事な戦いぶりじゃったよ……」

 

 ノスと70日間にも及ぶ死闘を繰り広げた闘神シータ。魔人ガルティアをたった一人で退けた闘神ラムダ。どちらも見事な戦いぶりであり、見事な散り様であった。親友として、フリークは彼らの散り様を誇らしく思っている。

 

「ルーンは……?」

「……ワシが殺した」

 

 静かに、されどハッキリと答えるフリーク。それは本来ならば驚愕すべき告白。だが、ユプシロンは静かに頷いた。

 

「そうか……お前がそうしたのなら……それが正しかったのだろうな……」

 

 あっさりと頷いたユプシロンに少しだけ驚くフリークだったが、闘神に改造されると共に自身の意思が無くなり、器の中からただ見ているだけとなった存在である人間セルジオ。そんな風に物事を外から観劇して彼は、どこかでルーンの暴走に気が付いていたのかも知れない。

 

「フリーク……人類は……まだ健在なんだな……?」

「ああ……争いは無くなっておらん。じゃが、しぶとく、強く、生き抜いておるよ……お主の子も聖魔戦争を生き抜き、子孫がJAPANに渡っておる!」

「そうか……人間ってのは強いな……」

 

 そう呟き、フリークたちに背を向けて壁と対峙するユプシロン。その右腕に強烈なエネルギーが集まるが、その力に体が耐えきれず肩口で小さな爆発が起こる。

 

「ユプシロン!!」

 

 フリークが叫ぶが、ユプシロンは更にエネルギーを右腕に集める。空気が震え、轟音がユプシロンから響き始める。そして、その全力の拳は絶叫と共に放たれた。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 壁から響く強烈な破裂音と、ユプシロンの全身から響く爆発音。それと同時に、ユプシロンはその場に座り込んでしまう。だが、砂煙の晴れた先にある壁には巨大な穴が空いており、その先には青々とした空が広がっていた。これだけの人数で破壊出来なかった防空コアの壁を、一撃で破壊せしめた。これこそが教団の遺産、闘神の力。

 

「すげぇ……これが闘神の力か……」

「これだけ巨大な穴であれば脱出出来るぞ!」

「ユプシロン!!」

 

 ヒューバートが感嘆し、キャンテルが穴を見ながらそう口にする。だが、フリークは座り込んだユプシロンへと駆け寄っていた。頭を垂れて座り込み、顔を上げる事すら出来ない様子のユプシロン。だが、駆け寄ってきたフリークに下を向いたままの状態で静かに問いかける。

 

「オメガは……?」

「ワシが隠しておる。あれは魔人への切り札じゃ」

「そうか……だが、俺のようにはなるな……」

「ユプシロン……」

「(……オメガ?)」

 

 二人の会話を聞いていたヒューバートが聞き慣れぬ単語に眉をひそめるが、二人の間に割って入るような事はしない。察しているからだ。これが、親友同士の最後の会話になる事を。邪魔だけは絶対にしてはならない。

 

「フリーク……人類を……頼んだぞ……」

 

 それが、闘神ユプシロンの最後の言葉だった。俯いたままピクリとも動かなくなった友を見据え、フリークがしっかりと最後の言葉に答える。

 

「任せておけ……人類を滅ぼしはせんよ……ワシの魂に誓ってな……」

 

 涙を流せぬ体だが、魂が震えているのがフリークには感じられた。それは、友の死に対しての魂の慟哭だったのだろう。

 

「脱出するよ!!」

 

 ハンティの声が部屋に響き、全員がキャンテルの背に乗り込む。部屋から外へと飛び立つ間際、フリークがもう一度だけユプシロンへと振り返る。座り込んで動かなくなったユプシロンの前に、確かに見えた幻。セルジオ、ルーン、シータ、ラムダ。かつての仲間たちがそこには立っていた。

 

 

 

-下部中央エリア 地下-

 

「つあっ!」

「がっ……」

 

 ディオの回し蹴りを傷口のある腰部にモロに食らい、ルークが悶絶する。その隙を突くようにディオは手刀の連撃を放つ。必死にそれを防ぐが、徐々に押し込まれていくルーク。

 

「真空……」

「させんよ!」

 

 真空斬をディオの顔面に放ち、怯んだ隙に後方に跳んで間合いを取ろうとしたルークだったが、剣に溜めた闘気を放つ前にディオがブラックソードに蹴りを放つ。剣を持った右手ごと腕がかち上げられ、闘気が四散する。

 

「カカカカカ!」

 

 間合いを取る事に失敗したルークは更に攻め立てられる。ディオの手刀が肩口を掠め、血が噴き出す。剣を横薙ぎに振るうが、ディオはそれを一歩だけ下がって悠々と躱し、そのまま足払いを放ってくる。ギリギリのところで躱したルークだったが、足がもつれてしまい体勢が崩れる。よろけたルークの姿をニヤリ笑いながら見据え、その脳天目がけてディオは手刀を振り下ろしてきた。

 

「ぐっ……」

「クカカカカ……終わりだな……」

 

 上から振り下ろされた手刀をなんとかブラックソードで受け止めたルーク。だが、腰から流れ続ける出血のせいで力が入らない。ジリジリと力で押し込まれていき、剣が弾かれそうになる。いや、弾かれるのも時間の問題。それを察してか、目の前のディオは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

「楽しかったぞ、ルーク。私がこれ程までに親近感を覚えた相手は貴様で二人目だ。殺すには惜しいぞ」

 

 ディオはそう言い放ち、ブラックソードを力で強引に弾いた。手を放すことはしなかったが、腕ごと弾かれて無防備になるルーク。迫っていた手刀を何とか躱すが、左肩に深々と手刀が突き刺さる。先程掠めたときとは比べものにならないほどの血が噴き出す。

 

「ぐあっ……」

「だが、殺すがな。クカカカカ!!」

 

 即座にディオに蹴りを入れ、肩を押さえながら後ろに下がるルーク。だが、力の入っていない蹴りではディオを吹き飛ばすことは叶わない。即座に体勢を立て直したディオは手刀に闘気を纏わせ、ルークに向かって一気に駆け出す。トドメを刺しに来たのだ。息を吐き、そのディオを見据えるルーク。

 

「さらばだ、私と同じ狂人よ!」

「(捌ききれるか……いや、捌かねばならない……待っている者がいる……)」

 

 この状況にあっても、ルークはまだ勝利を諦めてはいない。既に体は限界。だが、必ず帰ると約束した。必ず援軍に駆けつけると約束した。なればこそ、ここで死ぬ訳にはいかない。満身創痍の状態でもなお剣を握りしめるルークを見ながら、ディオは嬉しそうに言葉を続けた。

 

「ククク……狂人同士は惹かれ合うものだったのだな。文献で見た魔王ジル以来だぞ、これ程の親近感を覚えたのは。貴様は最上の敵だったぞ!」

「……!?」

 

 そう言い放ち、ルークの頭頂部目がけて手刀を振り下ろすディオ。だが、その手刀が勢いよく弾かれた。腕をかち上げられ、先程のルークと同じように無防備な姿を晒すディオ。その目に映るのは、強烈な殺気を放つルークの姿。

 

「ふざけるな……ふざけるなよ貴様!!」

 

 そう叫び、ディオの無防備な体に剣を振り下ろすルーク。闘気を纏った剣はディオの体に直撃し、真一文字に金属の体に深い傷を残す。

 

「ぐっ……」

 

 思わず後方に跳ぶディオだったが、ルークがそれに反応して追撃する。ディオに息付く間も与えぬほどの猛攻。先程まで満身創痍であったはず。それなのに、何故これ程までに動けるのか。腰と肩から激しく出血したままだが、ルークは止まらない。激しく剣を振るい、ディオの肩に直撃したそれは確かなダメージとなる。続けて腹部に剣を振るうが、それを手刀で受け止めるディオ。思わぬ反撃を受けたディオは、ルークに向けて強烈な殺気を放っている。対するルークも、それに一歩も劣らぬ程の殺気を放っていた。

 

「ジルは貴様とは違う!!」

「何を判った風な事をぉぉぉ!!」

 

 互いに声を荒げ、再び剣と手刀が交差する。超至近距離での攻防の中、ルークが腰を落として剣を振るう。

 

「真空斬!!」

「ぐおっ!?」

 

 ほぼゼロ距離から放たれた真空斬はディオにとっても予想外な攻撃だった。至近距離で爆発した闘気は自らにも跳ね返り、ルークの体をも傷つけているからだ。だが、ルークは真空斬によるダメージを耐え、体勢を崩しているディオに向かって剣を振り下ろす。

 

「真滅斬!!」

「勝ったつもりかぁぁぁぁ!!」

 

 ディオが叫び、左腕で振り下ろされた剣を掴む。その衝撃を受け止めきる事は敵わず、ディオの左腕が吹き飛んだが、ブラックソードも同時に衝撃でかち上げられてしまい、大きく体勢を崩すルーク。

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

 残った右腕でルークの腰の肉を抉り取るディオ。元々出血していた腰から更に激しく血が噴き出す。それは失神してもおかしくない程の激痛だったが、唇を噛みしめてルークは必死に耐える。かち上げられたブラックソードを再び振り下ろすが、ディオがそれよりも早くルークの腰に右腕を突き入れ、中でグチャグチャと激しく動かす。生々しい音は崩れ落ちる壁の音によってかき消えたが、その痛みは消える事は無い。ルークが痛みで目を見開きながらディオの肩に剣を振り下ろしたが、ディオは離れない。広がる傷口と尋常ではない痛み。死というものが近づいてきているのが判る。

 

「ぐっ……離れろ!!」

 

 必死にブラックソードを振るい、ディオを引きはがすルーク。後方へと跳び上がったディオの右手は、ルークの血で赤黒く染まっていた。先程以上の殺気を放ちながら、ディオは赤黒く染まった拳を握って声を荒げる。

 

「勝ち誇るな、見下すな、上に立った気でいるな! 勝者は私、狩るのはいつでも私なのだ!!」

 

 そう叫び、ディオがこれまでで最高の闘気を腕に纏わせる。禍々しいまでの悪意に満ちたその闘気は、どす黒いオーラとなっているようにルークには見えた。

 

「ここに来て、まだこれ程とはな……」

「私の前に立ちはだかろうとする者は、全て死なねばならぬのだ!」

 

 ディオがルークに向かって駆け出す。対するルークもブラックソードを握りしめてディオを見据えるが、腰からの出血で目が霞んでしまっている。唇を噛んで意識をハッキリとさせるが、ディオは既に目前まで迫っている。今から剣を出したのでは間に合わない。となれば、自分の心臓目がけて突き出そうとしている手刀を避けるしかない。その上でディオに反撃し、勝利を収める。だが、生半可な反撃ではディオは躱してしまうだろう。背後からの一撃でも無い限り、今のルークの状態では奴の異常な反応速度を越える事は出来ない。

 

「クカカカカ! 死ねぇぇぇぇ、ルーク!!!」

 

 即座に背後に回り、反撃する。それは到底無理な行動だ。口の中に溢れている血の味がやけにしっかりと伝わってくる。これが、死の味だとでも言うのだろうか。そのルークに対し、ディオが手刀を突き出してくる。瞬間、ルークの目には全ての光景がスローモーションに映った。ゆっくりと迫るディオの攻撃に呆然とする中、ルークの耳に声が響く。

 

「これが私の見ている戦闘時の風景だ」

「っ……!?」

 

 背後からハッキリと響くあの女性の声。だが、何故か振り返る事が出来ない。そういえば、ディオに一度敗れた時も彼女の夢を見た覚えがある。

 

「後は判るな? 貴様は私の動きに多少なりともついてきたんだ、出来んとは言わさんぞ。己の肉体の限界を超えろ」

「…………」

 

 その言葉を受け、ルークの体がゆっくりと動き出す。スローモーションの世界では十分すぎる速度だ。

 

「それと、奴は似ていないよ。私にも……貴様にもな……」

 

 その言葉と同時に、世界が一転する。ディオが全力で突き出した手刀は、ルークの心臓を貫通するはずであった。だが、その一撃は空を切る。それどころか、目の前にルークがいないのだ。

 

「なにっ……!?」

 

 直後、背後に感じた殺気に後ろを振り返るディオ。そこには深く腰を落とし、剣を今正に突き出そうとしているルークがいた。

 

「馬鹿な……認めん、認めんぞ……」

 

 ディオが絶句する。避けられた事にすら気が付けなかったのだ。目にも止まらぬ速度で攻撃を躱し、即座に背後に回り込む。それは、リーザス解放戦時に魔王ジルが見せた足捌きだ。だが、その代償は大きい。人間の限界を超えた速度はルークの肉体にダメージを与える。肩と腰の傷口からは更に激しく出血し、両足の骨がミシミシと軋むのが判る。筋肉も何本か切れたかもしれない。だが、ルークはその痛みを気にせず、ハッキリと口にする。

 

「いいさ……貴様に勝てるのなら、この程度の痛みは問題ではない……終わりだ、ディオ!!」

「こんなもの……私は認めぬぞぉぉぉ!!」

 

 ルークが闘気を纏った剣を突き出す。突如背後に現れた相手からの高速の突き。流石のディオもこれを躱す術はない。目の前にいた相手が即座に背後に回り込んでいるという理不尽にディオが叫ぶ。だが、これはディオの忌み嫌う魔法ではない。人間の肉体の限界を超えた、一つの極地。

 

「虎影閃!!」

 

 強烈な突きは衝撃と共にディオの胴体を貫通する。だが、これで終わりではない。ブラックソードを覆っていた闘気が外へ向かって放たれたのだ。それはまるで、ランスアタックのような一撃。闘気を外へ放っていたのを止める事によって鬼畜アタックを生み出したランス。それとは対照的に、真滅斬では剣に纏わせ続けていた闘気を外に放つルーク。それはまるで、互いに互いの技を参考にしたかのような光景であった。突きという形で一度深々と刺さった虎の牙は、龍へと昇華し敵の体内で闘気を爆発させる。

 

「龍爆斬!!」

「ぐっ……がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 激しい爆発音が響き渡る。ディオの体内で光った闘気は、そのまま強烈な爆発を引き起こした。既にプチハニー爆弾で傷ついていたディオの体は、更なる内からの爆発に耐えることは敵わず、その胴体が吹き飛ぶ。パラパラと吹き飛んだ破片が床に落ち、二つに分かれた体は、まず下半身からぐらりと倒れ込む。そして、ルークの目の前に浮いていたディオの上半身が重力を思い出したかのように床へと落ちていく。下半身に折り重なるように落ちたディオの体。動かなくなった宿敵を見下ろしながら、ルークは小さく呟く。

 

「似ていないよ……俺も、ジルも、お前とはな……」

 

 自身に言い聞かせているのか、聞こえていないであろう宿敵へと言ったのか、あるいはここにはいない彼女へと贈った言葉だったのかは定かではない。今なお建物が崩れ続ける中、闘神都市での最終決戦はこうして幕を閉じた。

 

 




[技]
虎影閃 (オリ技)
使用者 ルーク・グラント
 ルークの必殺技。刀身に闘気を纏い、至近距離から放つ高速の突き。真滅斬より威力が劣るが、その剣速はルークの技の中でもダントツに速い。また、龍爆斬へと繋げる事によって真滅斬をも上回る威力を叩き出す事も可能。

龍爆斬 (オリ技)
使用者 ルーク・グラント
 ルークの必殺技。剣に纏わせた闘気を外へと放出させ、小規模な爆発を起こす。普通に使う分には効果範囲が狭く使い勝手の悪い技だが、虎影閃から繋げる事によって驚異的な威力を発揮する。

韋駄天速 (オリ技)
使用者 ルーク・グラント、ジル
 ルークとジルの必殺技。ジルからしてみれば普通に動いているだけなので、技でもなんでもない。目にも止まらない速さでの移動術であり、その速度は一瞬だがメガラスをも上回る。だが、人間の肉体に耐えられる速度ではないため、少し使っただけでも多大なダメージを受けてしまう諸刃の技。

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