ランスIF 二人の英雄   作:散々

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【以下、移転前の記述 記念に残してあります 初出:2012/3/18】
・4編完結記念
・ランクエマグナム発売記念
・140万ユニーク突破記念
・20万PV突破記念
・100万文字突破記念
・100話(結構前に)突破記念
・お気に入り件数900件突破記念
・なんか棚ぼたで久しぶりにランキング乗ったよ記念
・Shade氏退社にむせび泣いてカッとなった的な

 そんな感じで以前から予定しておりました小話集です。いつもご愛読ありがとうございます。
 全8話、長短あります。基本的には本編で拾えなそうなものを優先しているため、人選は適当です。本編で出番の多い人たちはむしろ少なめです。マイナーキャラ大好きです。


【ここより新規記述】
 いつもご愛読ありがとうございます。改訂作業も終盤戦、今月中には新話をお届けできると思いますのでもう少々お待ちください。
 ハーメルン様でもお気に入り1000件突破、10万UA突破と、変わらぬご指示に深く感謝しております。因みに、この時点で改訂版は150万文字突破。文章量が増えた事をそれで感じ取っていただければと……

 感想や評価は本当に励みになります。一言感想を送っていただいた方にも感謝しております。そういえば、少し前に評価0と10の付け方が変更(全体で付けられる最大数が出来た)になり、それまで0か10を付けていただいていた方の評価点が消えてしまっております。お手数かとは思いますが、現時点での評価点を再度入れ直していただけると励みになります。
 改訂作業ばかりでしたので、新話に向けてのリハビリとして小話を1話追加し、全9話とさせていただきました。元々の小話も「その4」には手を加えてあります。手を加えざるを得なかったというか。少しでも楽しんでいただければ幸いです。



第4.1章 ルークのお礼参り
外伝1 記念小話集


 

その1 学生王女の憂鬱

-ゼス 弾倉の塔-

 

「ふぅ……」

 

 疲れたように一息つきながら、メガネをかけた少女が持っていたペンを置く。机の上のノートにはみっちりと学習の跡が残っていた。彼女の名はマジック・ザ・ガンジー。ゼス国王ガンジーの一人娘にして、ゼス四天王という立場にある少女である。

 

「お疲れ様」

「ん、ありがとう」

 

 コトリと机の上にマグカップが置かれる。中身はホットうし乳だ。マジックが礼を言いながらマグカップを手に取り、一口啜る。勉強疲れが多少四散していく気がした。

 

「それで、課題は全て解けたかい?」

 

 そうマジックに尋ねるのは彼女の家庭教師を務める男、四将軍アレックス・ヴァルスだ。疲れた頃合いを見計らってホットうし乳を持ってくる辺り、マメな男である。

 

「んー……一問だけ判らないのがあるのよね……」

 

 マジックがマグカップを口に当てながらそう答える。今、二人はマジックの部屋で彼女が学校から出された課題に取り組んでいるところだ。といっても、アレックスは殆ど口出しをしていない。

 

「これか。確かに明らかに一つだけ難易度が高いね。これはこっちの計算式を……」

「待って! 言わないで、自力で解いてみせるから!」

 

 このように、アレックスが口出しをしようとしてもすぐにマジックに止められてしまうのだ。これは以前から、それこそ家庭教師を始めた頃からずっとこの調子である。だが、アレックスはそんな彼女を微笑ましく思っていた。

 

「これくらいの課題自力で解けなくちゃ……親の七光りだなんて絶対に言わせないんだから……」

「…………」

 

 学生という若さでありながら、ゼス四天王という立場にいる彼女には誹謗中傷も多い。何よりも国王の娘と言う出生がそれを後押ししていた。そのような声を振り払うべく、彼女は学業に専念している。そのため四天王としての仕事が疎かになり、フォローに回っている千鶴子の苦労は絶えないのだが、その辺りはアレックスも可能な限りフォローする事で何とか回っていた。

 

「マジック。僕は君のその誇り高さを尊敬するよ」

「んっ……」

 

 マジックの顔が赤らむ。二人は少し前から恋人関係にあった。家庭教師と生徒という関係を続けていく内に、アレックスはマジックの誇り高さに、マジックはアレックスの誠実さに徐々に惹かれていったのだ。互いに真面目な性格であるため話も合い、二人が恋人になるのも自然な流れであったと言えるだろう。

 

「まだまだよ。四将軍としての仕事が忙しいアレックスにも迷惑かけてばっかりで……」

「迷惑なんて思ったことは一度も無いよ」

 

 恋人同士になってからこれまで、アレックスの性格が災いしてか二人は未だプラトニックな関係であった。精々手を繋ぐレベルであり、キスすらしていない。だが、今の雰囲気は最高潮。こんな流れになるのは初めてである。

 

「アレックス……」

「マジック……」

 

 見つめ合う二人。互いに胸中では勝負を仕掛けるなら今しかないと考えていた。だが、二人にはそれを出来ない理由があった。

 

「……ったよりも面白……」

「……だろ? だから……」

「っ……」

 

 ビキッ、とマジックの広いおでこに青筋が浮かぶ。マジックが勉強し、家庭教師のアレックスが教える。他に登場人物は必要の無い物語だ。それなのに、話し声が勉強机の背後にあるコタツから聞こえてくるのだ。

 

「確かに面白いけど……ちょっとお色気シーンが多い……」

「ま、それも魅力って事で」

「主人公が風雷魔法の使い手というのが魅力じゃのう。色々と教えてやりたいわい」

「次の巻、次の巻……あ、ありがとうライトくん」

「きゅー、きゅー!」

 

 コタツに入って漫画を読んでいる四人の人物。ウスピラ、サイアス、カバッハーンの四将軍三人衆とキューティだ。闘神都市でカバッハーンが口にした事柄、マジックの部屋で漫画を読んでいたという話がゼスに帰ってから話題に上がり、妙に盛り上がった四人は何故かこうしてマジックの部屋で漫画を読んでいたのだ。

 

「温泉だけど、アスマ様も父親に相談してみるとの事です」

「極力参加したいとは言っていた……」

「エムサとミスリーも来られるんじゃろ? 中々集まったではないか」

「きゅー、きゅー!」

「お、ミカンか。サンキュー」

 

 ナギに温泉の事を伝えたキューティとウスピラから報告を聞くサイアス。着実に温泉旅行の話は進んでいた。本日は闘神都市調査に対しての振替休暇日であるため、こうしてくつろぐ一同。温泉の際に貰える特別有給とは別物であり、ガンジー王の鶴の一声で決まった物だ。ようやく楽を出来ると思っていた千鶴子が前のめりに倒れたりもしたが、今は元気に五人分の仕事をやっている。因みにミスリーとエムサは本日二人でゼスを観光している為不在。全身金属の体と盲目の女性という異質なコンビのため、割と注目の的になっていたりする。

 

「って、あんたたちね!!」

「おっと、マジック様もミカンを食べられますか?」

「え? ありがとう」

 

 折角の良い雰囲気を邪魔されたマジックが怒り心頭で文句を言おうとするが、サイアスにミカンを手渡されて素直に受け取ってしまう。一房口に運び、その甘さを堪能する。

 

「んー、甘くて美味しい……って、そうじゃなくて! 何であんたたちがここにいるのよ!!」

「家庭教師じゃ」

「漫画読んで温泉旅行の計画立てているだけじゃないの!!」

 

 カバッハーンが平然と返したのを聞き、更におでこに青筋が浮かぶマジック。雷帝相手にこの言葉遣いが出来る辺りは見事である。

 

「マジック様……エッチ……」

「きゅー、きゅー……」

 

 ウスピラが手に持っていた漫画の見開きになっているお色気シーンを広げながら口を開く。その横では彼女にミカンを渡していたレフトくんが顔を赤らめている。

 

「それはたまたま……」

「マジック様。最新刊は買われていないのですか?」

「そもそも誰よあんた!?」

 

 最新刊一つ前まで読み終えたキューティがそう尋ねるが、マジックからしてみれば面識の無い他人である。思わず反射的に突っ込むマジック。

 

「治安隊長、キューティ・バンドです! お見知りおきを!」

「覚えておくわ……」

 

 間違いなく良い方向には覚えられていないだろうが、仕事を碌にしていないマジックに名前を覚えられただけでもむしろ収穫なのかもしれない。キューティ・バンド、出世への道は未だ順調である。

 

「というか、勉強の邪魔だからさっさと出て行ってよね」

「アレックスだけじゃ判らない点もおありでしょう? なあ、アレックス?」

「え、ええ……はは……」

 

 サイアスに問いかけられたアレックスが乾いた笑いを浮かべる。ここで強く言えない辺りが、未だに二人がキスすら出来ていない所以であるとも言えよう。

 

「四将軍全員が家庭教師なんて勿体ないお化けが出ますよ? キューティもその年で今の地位って事は、それなりに優秀だったんだろう?」

「恐縮ではありますが、士官学校では常に三番以内をキープしておりました」

「きゅー、きゅー!」

「何でウォール・ガイが誇らしげなのよ!?」

「意思があるんですか……?」

 

 サイアスの問いかけに答えるキューティ。ライトくんとレフトくんも体をビシッと張って誇らしげにしている。意思を持ったウォール・ガイに戸惑うマジックとアレックスだが、他の者たちは既に見慣れている光景であるため何も言わない。

 

「という訳で、どうぞ学習を続けて下さい。騒がしくしてしまったのは申し訳ありません。少し静かにしておりますので」

「べ……勉強の邪魔って言うか……その……」

 

 頬を赤らめながら手をモジモジとさせるマジック。その様子を見てサイアスがポンと手を打つ。

 

「ああ、二人は恋人同士でしたね。そちらの方も我々に気にせず続きをどうぞ」

「頑張って……」

「若いのう」

 

 サイアスが平然と答え、グッとウスピラがサムズアップで答える。カバッハーンは微笑ましげな瞳で二人を見ており、キューティは両手で目を覆っているがしっかりと隙間から見ている。

 

「出来るかぁぁぁぁぁ!!!」

「マジック、落ち着いて」

 

 血管がはち切れんばかりの絶叫。アレックスが心配そうに声を掛けるが、その彼を押しのけてマジックが声を張る。

 

「いいから出てって! 親父に言いつけるわよ!! 一体誰の許可があってこの部屋に……」

「許可なら貰っていますよ」

「へ?」

 

 自分が許可を出していないのだから当然許可などあるはずが無いと思いそう口走ったマジックだったが、その予想を覆す返答をサイアスがする。マジックが呆けた顔をしているとサイアスが視線を部屋の隅に移したため、それを追うようにマジックも視線を移す。

 

「む? 8巻はどこだ? 真弓がレギュラー入りをするかどうかの瀬戸際なのだ」

「こちらに」

「うむ。カオル、ご苦労」

 

 そこには、国王という肩書きを持った馬鹿親父がいた。

 

「全員出てけぇぇぇぇぇ!!!」

 

 この日、マジックとアレックスの仲に進展はなかったという。

 

 

 

その2 シャイラの兄妹

-ゼス ペンタゴンアジト近隣の森-

 

「おらっ!」

「ガルルルル!!」

 

 フットが錨を振り回して目の前に浮いていたマグボールを粉砕し、フットの愛犬がメイジマンの首筋に噛みついて絶命させる。その周りではペンタゴン兵たちがモンスターと戦っている。今、彼らはアジトの周りに発生したモンスターの掃討に乗り出していた。それ程強いモンスターは発生していないとの事だったので、フット以外に大した面子はいない。彼らのレベル上げも兼ねているのだ。

 

「おらっ、俺が倒してもしょうがねぇだろ。自分たちで何とかしろ」

「は、はい。フットさん」

 

 そう返事をするペンタゴン兵だったが、その声は頼りない。へっぴり腰でモンスターに向かっていくが、そのような状態でモンスターを倒せるはずもなく、マグボールの爪で持っていた剣が弾き飛ばされる。無防備になるペンタゴン兵。

 

「ひっ!?」

「おいおい……」

 

 ため息をつきながら錨をマグボールに投げつけようとするフットだったが、それよりも早くナイフが飛んでいき、マグボールの巨大な一つ目に命中する。深々と刺さったそれはマグボールを絶命させていた。

 

「さっさと下がりな。邪魔だよ」

「す、すまない。助かった!」

 

 ナイフを投げたのはシャイラ。更に続けて三本ほどナイフを投げ、その全てが周りに浮いていたマグボールに命中する。そんな中、そのナイフの連撃を縫うように駆け、剣でメイジマンを狩っていく者がいる。シャイラの良きパートナー、ネイだ。

 

「見かけによらず、やるじゃねえか。嬢ちゃんたち」

「そりゃ、見た目は弱そうって事かい?」

「おっと、悪ぃ。褒めているんだぜ」

 

 シャイラの言葉を受けてフットがニヤリと笑う。第一印象は最悪だったが、この二人が意外にも拾い物。軽く動きを見ているが、明らかに殆どのペンタゴン兵よりも強い。8騎士レベルとまではいかないが、小隊長くらいなら任せられそうな強さである。

 

「ちっ……」

 

 後ろで舌打ちするのは、ペンタゴン兵のムカーダー。それなりに実力のあるペンタゴン兵だが、突然現れたシャイラとネイの強さが面白くないのだろう。

 

「嫉妬するくらいなら強くなりな」

「…………」

 

 フットがムカーダーの肩に手を回しながらそう言うと、ムカーダーはその手を振り払ってマグボールに向かっていく。プライドの高いムカーダーと、言いたい事をハッキリと言ってしまう性分のフットは以前から折り合いが悪い。もしペンタゴンが二つに割れるような事があれば、ムカーダーはフットとは別の道を歩むだろう。

 

「すげーぞ、あの二人」

「格好良い……」

「「えへへ……」」

 

 聞こえてくる尊敬の声。男性はその強さに感嘆し、女性は颯爽とモンスターを倒していく二人に見惚れる。それを意識して二人はニヤニヤしていた。ナイフを投げていたシャイラが腰に差していた短剣を抜いて前に出る。マグボールの鋭利な爪を華麗に躱し、返し際に斬りつけて倒す。それを見ていた周囲の者は接近戦も出来るのかと更に沸く。

 

「なんかさ、あたしらがこんなに注目されるのって初めてじゃないか?」

「今までパーティー最弱ってイメージだったけどさ、冷静に考えると一緒にいる人たちがおかしかったのよね。赤い死神とか、四将軍とか」

 

 ネイの言うことは尤もなことだ。現在の二人のレベルはシャイラが18、ネイが19。これは一般人から見れば相当なレベルだ。小さな町であれば、英雄として持て囃されてもおかしくはない。

 

「つまり、これからはあたしらの時代って事か!?」

「ええ、ようやく私たちが日の目を浴びるときが……」

 

 増長しかけた二人だったが、その声を遮るように別の位置でモンスターを狩っていたペンタゴン兵が駆けてきて声を上げる

 

「おーい、こっちはもっと凄いぞ。ハンマーを持った新入りが寝ぼけながらだが、一人でもう五十体以上もモンスターを狩っていやがる!」

「本当か!?」

 

 一気に話題をセスナに持って行かれる二人。こういう星の下に生まれているようだ。

 

「……地道に行きましょう」

「……そうだな」

 

 その背中には若干の哀愁が漂っていた。しばらくしてモンスターを掃討し終え、アジトへと戻っていく兵たち。シャイラとネイもそれに続く中、ネイが突然シャイラに疑問を口にする。

 

「本当に兄妹に会いに行かなくて良かったの?」

「平気、平気。あたしがいなくても逞しく生きているよ、あの二人は」

「へぇ、二人は何をやっているの?」

「盗賊」

「それはまた……」

 

 平然と言い放つシャイラにネイが呆気にとられる。

 

「親父が盗賊団のボスでね。まともな教育も受けさせて貰えないから、妹なんかいい年して読み書きも出来ない。兄妹は割と盗賊団稼業を気に入っていたけど、あたしはそんな生活まっぴらだった。それで、親父と大げんかして盗賊団を飛び出したんだ。まあ、流れて行き着いたのも盗賊団だったんだけどな。そこでランスとルークの二人に出会って……まあ、今があるって感じだな」

「中々に壮絶な人生を送っているわね……」

「割と楽しんでいるよ。嘆いてもしょうがないからな」

 

 気にした様子もなくニッカリと笑うシャイラ。盗賊に生まれ、盗賊、傭兵と渡り歩いてきたシャイラ。一般人から見ればとても褒められた人生ではないだろう。だが、ネイは彼女を誇らしく思う。一時的にパーティーを組んでいただけのバードたちとは違う。彼女は既にネイにとって欠かす事の出来ない無二のパートナーであった。

 

「元気でいるといいわね、お兄さんと妹さん」

「ま、大丈夫さ。逞しくてしぶとい二人だ」

 

 そう口にしながらシャイラは空を見上げる。その胸中には、数年前に別れたきりの兄妹がいた。

 

 

-ヘルマン 山間部 盗賊団アジト-

 

「「へっくし!」」

「どうした、ソウル、バウンド。兄妹揃って風邪か?」

 

 同時にくしゃみをした兄妹をからかう中年盗賊。ここはヘルマンのウラジオストックとゴーラクの間にある山間部。この盗賊団はこの場所をアジトにしていた。

 

「いや、風邪なんて引いてないんだけどな。誰かがウチら兄妹の噂でもしているのかな?」

「こんな盗賊兄妹、誰が噂するって言うんだよ」

「違ぇねぇ」

 

 ゲラゲラと下品に笑う盗賊たち。すると、二人の父親である盗賊団のボスが彼らの下にやってくる。

 

「野郎共、狩りの時間だ!」

「おう!!」

 

 その声を合図にアジトから出て行く盗賊たち。その中にはシャイラ・レスの兄妹、バウンド・レスとソウル・レスの姿もあった。兄妹の再会は、まだまだ果たされそうにない。

 

 

 

その3 それは誰が為

-ゼス ペンタゴンアジト-

 

「ぐぅ……ぐぅ……んっ……?」

「うっ!?」

 

 居眠りをしていたセスナが目を覚ます。すると、目の前にはペンタゴン兵がいた。丁度自分の服を脱がせようとしていたところだ。目覚めたセスナを見て固まっている。

 

「……誰にも言わないから、今すぐどこかにいって……そうじゃないと叩き潰す……」

 

 寝ぼけ眼でセスナがそう口にすると、男は慌てて逃げて行った。セスナの強さは既にペンタゴン内でも話題になっているため、その彼女に恐れをなしたのだ。現在装備しているのは安物のハンマー。愛用していたハンマーは闘神都市の戦いで壊れてしまったからだ。だが、後悔はしていない。そのお陰でとある人物を守れたからだ。ゼスから報酬も貰ったことだし、近い内にもっと良いハンマーを買うつもりだが、魔法大国のゼスでは中々近接武器の良質な物を探すのが難しい。そういった理由から未だに安物のハンマーを使っているのだった。

 

「…………」

 

 セスナが乱れた衣服を着直しながら、とある場所に向かう。寝ている間に悪戯をされるのは昔から良くある事だ。彼女もそれに関しては諦めている。そう、以前までは。

 

「いる……?」

「お、セスナじゃないか。どうした?」

「一緒に飲む?」

 

 やってきたのはシャイラとネイがいる部屋。丁度二人は酒を飲んでいるところであった。赤い顔でセスナを酒に誘うが、セスナは首を横に振る。

 

「それはいい……お願いがあって来た……」

「お願い?」

「寝ている間……出来る範囲でいいから護って欲しい……」

 

 ペコリと二人に頭を下げるセスナ。その言葉にネイが少しだけ驚いたような表情を浮かべる。

 

「ずっと一緒にいられる訳じゃないから完璧には護れないけど、それでいいなら」

「十分。助かる……」

「また悪戯されたの?」

 

 シャイラが酒を手に持ちながら返事をすると、セスナは再び深々と頭を下げる。ネイはセスナの格好を見て問いかける。まだ若干衣服に乱れがあったからだ。

 

「今回は未遂……」

「女の敵だな、張り倒しちまえば良かったのに。というか、ランスを思い出すな」

「私たち二人とも被害者だものね……」

 

 ランスを思い出しながら酒をちびりと飲むネイ。かつては憎悪した相手だが、闘神都市の一件で何だかんだ協力した事もあり、その恨みは殆ど無くなったと言っても良い。乱暴された事を忘れた訳ではないが、過去の事として最近は考えるようになっている。

 

「それにしても、以前聞いたときは悪戯されるのは諦めているって言っていたのに……どういう心境の変化?」

 

 ネイがそう尋ねる。彼女が先程驚いていた理由はこれだ。以前セスナと話をしていた際、そういう風に言っているのを聞いていた彼女にとって、セスナの心境の変化は気になるところであった。

 

「出来るだけ……綺麗な体でいたい……」

「おっ、面白そうな発言」

「気持ちは判るわ。私もカバッハーン様と……」

 

 セスナの返事にシャイラがニヤリと笑う。横のネイは放置。そんなマニアックな話を聞いたところで、酒が不味くなるだけだ。

 

「相手は誰なんだい?」

「……ぐぅ……ぐぅ……」

「随分と都合の良い居眠りだな、おい……」

 

 シャイラが興味津々に思い人を聞こうとするが、セスナは既に夢の中。だが、闘神都市での発言などを考えれば相手の予想はつこうというものだ。

 

「ま、いい男だものね。私も一瞬危なかったし。でも今は雷のようなあの人が……」

「それはどうでも良い」

 

 その男に返して貰ったカエルの耳飾りを弄りながらネイがそう口にする。これを返却されたときはネイも少しだけ危なかったと振り返りながら、更にカバッハーンの話を続けようとするのをシャイラが止める。

 

「みんな色気づいてるねぇ……」

 

 シャイラが酒を口に当てながらそう呟く。彼女の春は遠い。この次の日から、シャイラ、ネイ、セスナは一緒に行動する機会が増える事になる。それにより、フットが彼女たちを三人娘と呼ぶようになる。ペンタゴン三人娘誕生の瞬間であった。

 

 

 

その4 メタミリトマトver1.1

-カスタムの町 アイテム屋前-

 

「よっ、はっ、とりゃーですかねー!」

 

 アイテム屋の前ではトマトが斧を振るっている。持つのが重いのか、若干ぎこちない動きだ。それを丁度店の前を通りかかったミリとミルが見つける。

 

「おっ、何だ? 特訓か?」

「はい、そうですかねー?」

「でも何で剣じゃないの?」

 

 斧を持っているトマトを不思議そうに眺めるミル。ミリが地面に視線を落とすと、そこには槍や短剣、鞭や弓など様々な武器が転がっていた。

 

「色々試しているのかい? 確かに家宝の剣が折れちまったのは残念だろうけど、無理して武器を変える事もないだろ」

「うん、うん。ルークに憧れたっていうのもあるんでしょ?」

 

 ミリとミルが不思議そうにしている。家宝が剣だったというのもあるが、ルークに憧れたというのも彼女が剣士の道を選んだ理由の一つだ。トマト爆裂アタックなる技を内緒で特訓しているのを以前ミリとミルは目撃している。あれは明らかにルークの真滅斬の影響を受けているだろう。

 

「いやー……何故だか唐突に、自分には剣の腕が無いのではと思ってしまったですかねー。2月の24日くらいに」

「2月……?」

「はい。でもでも、一度はやっぱり剣の腕はあるよって言われたんですかね。7月の6日くらいに。それでやったーって喜んでいたら、8月の3日くらいにやっぱ剣の腕ねーからって言われた気がしたんですかねー」

「なにそのピンポイントな日付。それに今8月なのに、なんで2月とか7月とか……?」

「あれ? 言われてみればそうですかねー!?」

 

 ミルの突っ込みに首を傾げているトマト。それを見ながらミリは頭を掻く。

 

「いつもの電波か? でも、俺も何故だか唐突に満面の笑みでピースサインの写真を撮っておかなきゃいけない気がしていたんだ。昨日まではそんな事思っていなかったんだけどな……」

「今日は8月26日だね。大丈夫? 二人ともお薬飲む?」

 

 ミルが困惑しながらカレンダーに目を移す。トマトとミリが謎の発言をし始めた為、二人を心配したのだ。不安げに二人に薬を差し出すミル。薬屋を営んでいるため、いざという時の為に薬は常備しているのだ。良くできたお子さんである。

 

「うーん……ま、写真なんかどうでもいいか。トマト、気にしなくてもお前には剣の才能があるよ」

「そ、そうですかねー?」

「ああ、ある。絶対ある。何が何でもある。あるって事にするんだ。まかり間違っても斧と槍は使うなよ」

「きゅ、急に凄い迫力ですかねー……」

「お姉ちゃん、やっぱりお薬いる……?」

 

 トマトの肩に手を置いて励ましていたミリだったが、何故だか目を血走らせて矢継ぎ早に言葉を口にした。やはり病気かとミルが心配そうにしている中、少ししてミリが落ち着く。一体何だったのか。トマトの肩に手を乗せたまま、俯いて静かに口を開くミリ。

 

「大丈夫……トマトには剣の才能がある……そう思わないと、やってられない……」

「何で少し悲しげなんですかねー!?」

「でも、トマト爆裂アタック使ったんでしょ? それが何よりの証拠じゃない。それも、大活躍だったって聞いたよ!」

 

 偶然とはいえ、あのディオにダメージを与えたトマト。リーザス解放戦時のジルといい、大物食いには定評がある。特に丁度ディオを爆発させる光景を目の当たりにしたナギの評価は異常に高く、あの爆発は彼女の必殺技が引き起こしたものだと信じ込んでいた。それもあって地上に降り立った際、ゼスに来ないかとナギからスカウトを受けている。前回のリーザスへのスカウトに続き、二度目のスカウト。それも、トマトは知らなかったが四天王直々のものだ。だが、ナギがドラゴンの上で行った蛮行にご立腹であったトマトはそれを拒否。三大国中二国からのスカウトを蹴った女、トマト。こう言われると大物っぽいから不思議である。

 

「えへへ……そんなでもないですかねー……」

「お前には剣が似合っているよ。ほら、アイテム屋なんだから高い剣仕入れちまいなよ。それが届くまでの間は、ドラゴン・スレイヤーかバスターソードでも使っておいてさ」

 

 ひょい、とミリがトマトの持っていた斧を奪い取り、トマトの店の中を指差して剣を持つように示唆する。若干斧を握る手に力が入っており、何が何でもトマトに渡さないようにして見えたのはきっと気のせいだろう。

 

「剣ですかー? でも、仕入れは必要ないですかねー」

「ん、どうしてだい?」

「実は、ルークさんがカスタムにお礼参りに来た際に新しい剣を持ってきてくれるって約束してくれているですかねー。知り合いに武器を沢山持っている人がいるから、良いのを貰ってきてくれるって言っていたですかねー!」

 

 くねくねと身をよじらせながらそう宣うトマト。

 

「お知り合いのお古とはいえ、ルークさんからのプレゼント。これは新・家宝の剣誕生の瞬間ですかねー?」

「なーんだ、他の武器に乗り換える気なんてないんじゃない」

「ただの暇潰しか」

 

 ミルとミリが呆れたようにトマトを見ている。トマトは顔を赤らめながら、更に妄想を繰り広げる。

 

「トマト、君へのプレゼントだ。ルークさん、お返しはトマト自身です……きゃー!」

「そんな展開は聞き捨てならないわね」

「うおっ!? 真知子、いつの間に……」

 

 突如トマトの後ろに真知子が現れる。ルークの話になると突然現れる事に定評のある真知子。そんな事に定評があるのもどうかとは思うが。

 

「そもそも剣のプレゼントも聞いていないわよ。酷いわ、トマトさん。親友である私に隠し事なんて……」

「おおぅ……真知子さんから凄まじい迫力が……」

「さあ、洗いざらい吐いて貰いましょうか」

 

 真知子から発せられる迫力に身じろぎするトマト。ミルはミリの背中に隠れて震えている。そのままトマトの肩に手を置き、詳しい話を聞こうとし始める。ルークがハーレムを築くことは認めているが、女性関係の情報は全て掴んでおきたいと考えている真知子。情報屋の性という事にしておこう。

 

「それにしてもさー……」

 

 ミリの後ろに隠れていたミルがボソリと呟く。

 

「トマト爆裂アタックって……名前的にはランスアタックっぽいよね」

 

 ビシッ、と石化するトマト。あー、と口を開けながら納得するミリと、とっくに気が付いていたのか口元を抑えながら笑いを堪える真知子。三者三様の反応だ。すぐに石化の解けたトマトが涙目で騒ぎ出す。

 

「ほ、ほ、本当ですかねー!! い、今から改名って間に合いませんかねー!? クーリングオフ期間はいつまでですかねー!?」

「あら、駄目よ。一度作った必殺技なんだから、大事に使ってあげなさい」

「何でこんな名前にしてしまったですかねー!!」

「うふふ……」

 

 ゴロゴロと地面を転がるトマトと、それを静かに笑いながら見下ろす真知子。その光景を見ながらミリが口を開く。

 

「真知子がそんな風な反応するってのも珍しいよな。壁……とまではいかないけど、他の奴らとは一歩引いた感じの付き合いなのにな」

「あら? 別にみんなを嫌っている訳じゃないのよ」

「それは判ってるって。でも、トマトとだけは妙に仲が良いよな」

 

 それはミリが以前から抱いていた素朴な疑問だ。特段仲が良いとは思っていなかったが、カスタム四魔女事件くらいから急に仲の良くなった二人である。

 

「うふふ……同じ人を好きになった者同士ですもの」

「のぉぉぉぉ! 時間は何故戻らないですかねー!!」

 

 嘆きながら転がり続けるトマトと、それを微笑まし気な瞳で見守る真知子。これもまた、一つの親友の形。

 

 

 

その5 真の敵は……

-カスタムの町 マリアの工場-

 

「早々に戻ってきてしまい、お恥ずかしい限りです」

「いえ、気になさらないで下さい! むしろ嬉しいくらいで……」

 

 マリアの工場で香澄に手甲の整備をして貰いながら、申し訳なさそうにするアレキサンダー。数日前カスタムから旅立ったアレキサンダーだったが、鍛錬に良く使っていたMランドのなぐりまくりたわぁに向かったところ、何故か臨時休業中であった。住民に聞いたところによると、18禁のアダルトコースを利用していた客の知り合いがそれを知って激怒し、その客を店でお仕置きしたという。その影響は凄まじく、なぐりまくりたわぁは半壊、暫く営業は不可能だとの事。仕方なくゼス方面で鍛える事にしたアレキサンダーは、通り道であるカスタムに再度寄ったのであった。

 

「困った客もいたものですね」

「青髪の男と、黒髪の女性だったらしいです。女性の方はカラーだったという噂もあるのですが、眉唾物ですね。髪の色が逆なら信憑性もあったのですが」

 

 カラーの髪は青で統一されている。黒髪の男と青髪の女だったらカラーの可能性は十分にあったが、逆では常識的に有り得ない。

 

「さて、そろそろ……」

「あ、あの……もう遅いですし、今日はカスタムに泊まっていきませんか?」

 

 手甲の整備が終わったため腰掛けていた椅子からスッと立ち上がり、そのまま町を後にしようとするアレキサンダー。だが、香澄がそれを引き留め、アレキサンダーは外の景色を眺める。確かに既に日も暮れているし、今から旅立っても碌に鍛錬を積む間もなく、すぐに野宿をする事になるだろう。

 

「……そうですね。では、エレナ殿の酒場に泊めさせて貰う事にします」

 

 少し思案したアレキサンダーだったが、確かに今から旅立つメリットも少ないと考えたのか、宿泊施設を併設しているエレナの酒場に泊まる事を決める。

 

「それじゃあ……その、夕飯はウチで食べませんか?」

「それはご家族にご迷惑では?」

「だ、大丈夫です! ウチには妹しかいませんし、妹はそういうのを気にしませんから!」

 

 香澄のアピールが続く。流石にウチに泊まれとは言えるはずもないので、せめて夕食くらいはと考えての発言であった。ロゼがいたらきっとヘタレと言っていただろうが、これが香澄の精一杯である。アレキサンダーは遠慮して断ろうとするが、香澄の必死の説得により最終的には折れる形になった。

 

「う、腕によりをかけて作りますね!」

「お気を使わずに。普段通りで構わないですよ」

 

 張り切りながら道案内をする香澄。その後に続きながら優しく微笑むアレキサンダー。ルークやランスと違い、他にライバルはいない。一番カップル成立に近いのは、案外この二人なのかもしれない。香澄の家の前まで到着し、扉を開けてアレキサンダーを招き入れる香澄。

 

「ただいまー」

「おかえりなさーい」

 

 奥からパタパタと駆けてくる音が聞こえる。香澄の妹だろう。

 

「あ、妹は私と髪の色が違うけど、気にしないで下さいね」

「髪の色が?」

「私たちの両親、父がJAPAN出身で母が大陸出身なんです。私が父親似で、妹が母親似」

「そういえば名前がJAPAN風でしたね」

 

 言われてみれば、香澄という名前は大陸では珍しい。両親がJAPAN出身だったのかとアレキサンダーが納得していると、目の前に件の妹が現れる。

 

「あ、お客様? もしかして、噂のアレキサンダーさん?」

「こ、こら! 美香!!」

 

 アレキサンダーの姿を見てにんまりと笑う妹。それを恥ずかしそうにしながら咎める香澄。だが、アレキサンダーは妹の髪の色を見て呆然としていた。

 

「ピンク……だと……」

 

 そのとき、ピンク髪の女性がドストライクのアレキサンダーに電撃が走る。最大のライバルは意外と近くにいる。そんな話。

 

 

 

その6 魂を継ぐ者

-自由都市 とある森中-

 

「それでアダルトコースに進んでいるのがばれて、ハンティに建物ごと吹っ飛ばされたのか!? はっはっは、馬鹿だな」

「笑い事じゃねぇよ。死にかけたんだぞ」

 

 森の中にある小屋の前。そこで男二人は汗を流しながら談笑していた。パットンとヒューバート、ヘルマン国内では死んだとされている男たちだ。生きていると信じ続けていた親友と再会したヒューバートは、以前にも増してよく笑う。

 

「それにしても……剣、止めたんだな」

「ああ。どうやらこっちの方が合っているみたいでな」

 

 ヒューバートが不知火を振りながらそう尋ねる。パットンは愛用していたスターブラスターを握っていない。代わりに、今は拳に手甲がつけられている。暫く見ない間に、親友は剣士から武闘家へと転身していた。だが、以前よりも明らかに強くなっているのが判る。彼の言うように、拳での戦いの方が合っていたのだろう。

 

「ようやく自分に合った道を見つけられた。今まではお前やアリストレスに置いていかれてばかりだったが、これからは違う。すぐに追いついてやるから待ってな」

「ふっ……期待しないで待っていてやるよ。だが、ただ待つだけじゃない。俺も先に進みながらだがな」

 

 不知火で素振りしながらヒューバートがニヤリと笑う。それを見てパットンもニヤリと笑うが、すぐに申し訳なさそうな顔になる。

 

「すまないな……スターブラスター、不知火、そしてボナパルド。この三つを持った俺たち三人でヘルマンを変えると、あの日約束したっていうのによ……」

「ん? 合っていない武器を使い続けても仕方ないだろ?」

 

 武闘家に転身したパットンであったが、スターブラスターを使わなくなった事を気にはしていた。ヒューバートの父であり、自らの師匠であるトーマから譲り受けた大切な剣。それを手に取り、あの日三人で誓った約束。武闘家への転身は、それら全てを無に帰す行為だ。

 

「だが、スターブラスターはトーマの……」

「……そうだな。ちょっと貸して貰えるか?」

 

 パットンが言い淀む中、ヒューバートが不知火を右手に持ちながら左手を差し出す。パットンは側に置いてあったスターブラスターをヒューバートに手渡すと、それを持ったヒューバートはすぐに構える。右手に不知火、左手にスターブラスター。そのまま素振りを始めるヒューバートを見ながらパットンは目を見開く。

 

「お前……まさか……」

「どうだ? 案外様になっているだろう?」

「全然じゃな。動きがぎこちなさすぎるわい」

 

 ガサッと後ろで物音がし、振り返る二人。そこにはフリークが立っていた。どうやらヒューバートの素振りを見ていたようだ。

 

「ロレックスの真似事か? 元々一刀でも未熟であったお主には百年早いぞ」

「うるせえやい。今はまだぎこちなくても、いずれロレックス将軍だって抜いてやるよ」

 

 フリークの言葉に返事をしながらヒューバートがパットンに振り返る。

 

「いずれアリストレスも味方につけちまえば、三人、三つの武器。あの時の誓いは何も変わっちゃいねぇぜ、パットン」

「ふっ……随分と無理矢理な解釈だがな」

 

 これよりヒューバートは二刀の道を歩む事になる。それは一刀よりも更に険しい道。強さを求めるヒューバートには障害にしかならないかもしれない。それでも尚、その道を行くというのか。フリークはその決意を問う。

 

「そこまでして果たすほどの約束か?」

「ああ。じいさんが言っていたのと同じ、ここに誓った約束だ」

 

 フリークの問いにヒューバートが自身の胸に親指を当てながら答える。それは、フリークが闘神都市で見せたポーズと同じだ。フリークには一瞬だけだが、ヒューバートの後ろに亡きトーマがダブって見えた。魂は受け継がれている。ルーンやセルジオの魂を受け継いだフリークのように、トーマの魂もまたヒューバートやパットンへ受け継がれているのだ。

 

「ふん……精々無駄にならんようにな……」

「それはじいさんの目で確かめて欲しい所だな」

「俺らよりも長生きしそうなじいさんだからな。嫌でも見る事になるだろ」

 

 フリークの呟きに、ヒューバートとパットンが笑って返す。この瞬間、フリークはヘルマンに帰還しない事を心に決めた。この若者たちがどこまでいけるのか、見届けたい。そんな思いがフリークの胸にはあった。

 

「(トーマよ、お主の魂は確かにこの二人が受け継いでおる。後はハンティの言うように、パットンが王になるだけの器があるかどうかを見極めさせて貰うかのう……)」

 

 共に闘神都市を生き抜いたヒューバートと違い、まだ完全にパットンの事を信頼した訳ではないフリーク。真の王たる器かどうかを、これから見極めていく。共に肩を並べる仲間として。

 

「ほら、メシが出来たよ」

「こ、こかとりすが運良く捕まっただ……」

 

 すると、昼食の仕度をしていたハンティとデンズが三人を呼びに来る。顔に似合わず料理も出来るデンズ。模型作りを趣味としている為、手先は器用なのだ。万能な男である。

 

「よっしゃ、メシだ、メシだ」

「デンズ、俺の分は多めによそってくれよ」

 

 パットンとヒューバート。親友という言葉が相応しいであろう二人の背中を見ながら、フリークも亡き友を思い、空を見上げた。

 

「(セルジオよ……お主の魂もまた、JAPANで今も受け継がれておるじゃろう……)」

 

 闘神ユプシロンこと、セルジオ。彼がいなければ、闘神都市を生きて脱出する事は叶わなかっただろう。彼の亡骸は闘神都市と共に墜落し、今は大地にあるはずだ。だが、フリークは彼の事を思い出すとつい空を見上げてしまう。今もまだ、あの雲の向こうに彼が守護していたイラーピュがある、そんな気がしてしまうのだ。セルジオの子孫は魔人戦争後にJAPANに渡ったはず。彼の魂もJAPANで正しく受け継がれている事を願いながら、我先にと昼食に駆けていく二人の後を歩くフリークであった。

 

 

-JAPAN アフリカ地方-

 

 ここはJAPAN南西部のアフリカ地方。大陸との唯一の繋がりである天満橋がある地域であり、大陸との交易も盛んに行われていた。今ここに、四人の男たちが向かい合う。

 

「この俺の」

「魂にかけて!」

「黒姫は……」

「僕が手に入れる!!」

「はぁ……」

 

 深いため息をつく肌の黒い女性と、その彼女を奪い合う男四人。彼女を手に入れる前哨戦として誰が一番モテるかを競っていた彼らは、どんどんアフリカ地域を統一してしまい、もうすぐ全土を統一するところにまで至っている。セルジオの魂は、かなり間違った方向に受け継がれていた。彼らの道がルークの道と交差するのは、まだもう少し先の話。

 

 

 

その7 妹のことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!!

-ケイブリス城外-

 

「あー、ようやく終わった。ケイブリスの小言が長い、長い」

「お嬢様、お疲れ様ですじゃ」

「あー、腹減っちまった。むぐむぐ……」

「ケケケケke。メロンパン食いながら言う台詞じゃねーですぜ」

 

 ケイブリス城からぞろぞろと数人の魔人が出てくる。それを出迎えるのは、各々の使徒たち。本日はケイブリス城で『第27回、ホーネットをけちょんけちょんにする為の会議』が開かれていたのだ。最近は小競り合いでも負けが続いていたため、気の立っているケイブリスの小言は数時間にも及んだ。また、それを見越していた魔人たちの多くは色々と理由をつけてこの会議を欠席しており、その事がケイブリスの苛立ちに拍車を掛ける事にも繋がっていた。

 

「馬鹿正直に来ないで、あたしもサボればよかったわ」

「あまり身のある会議にはなりませんでしたしねぇ……」

「お疲れ様です、ジーク様!」

 

 ため息をつく妖艶な美女の魔人、メディウサがそう口にすると、隣に立っていた全身が黄色い異形の魔人、ジークが使徒のオーロラからタオルを受け取りながら今日の会議を振り返る。具体的な案も出ず、ただただケイブリスが苛立っていただけであった。あまりの内容にケッセルリンクは途中退席してしまった程だ。因みに、他の魔人がそんな事をすればケイブリスは怒り狂う。そんな行為が許されている魔人は、その彼の信頼をしっかりと得ていて、ある程度自由な行動を許されているケッセルリンクと、ケイブリスの思い人であるとある魔人くらいなものだろう。

 

「むぐむぐ……俺ら以外は全員サボりだからな。ひでーもんだぜ」

「ずっとメシだけ食ってた奴は、サボってんのと大して変わらないわよ」

 

 メロンパンが大量に入った袋を手に持ちながら、既に十個目をぺろりと平らげた暴食の魔人、ガルティアがそう口にすると、即座にメディウサから突っ込みが入る。会議に参加した魔人はケイブリスを除いて五人。ケッセルリンクは途中退席をしたため、今この場には四人の魔人がいた。メディウサ、ジーク、ガルティア、そして、彼ら三人の後ろで俯きながらとぼとぼと歩いている一人の美女。彼女は魔人ラ・サイゼル。ホーネット派に所属するハウゼルの姉であった。その彼女の様子を訝しげに見ながら、メディウサはサイゼルの使徒であるユキに声を掛ける。

 

「ねぇ、何かあったの? ずっとあの調子だったんだけど」

「ケケケ毛ケ。ユキちゃんも詳しく知りませんが、ちょっと前からあんな様子が続いていますね」

 

 不気味な笑い方をしながらそう答えるユキ。少し前から主であるサイゼルはずっとあの調子だ。

 

「まあ、どうせいつもの発作でしょうけど」

「ああ、そういう事」

「あん? 腹でも減ってんのか?」

「難儀なものですね……」

 

 ユキの言葉にメディウサが頷き、その周りではジークの使徒のオーロラや彼女自身の使徒のアレフガルドも頷いていた。ガルティアは判っていない様子だったが、彼女がこんな風に思い悩む理由など一つしかない。不器用なサイゼルにジークは難儀なものだと声を漏らす。その全員の生暖かい視線にも気が付かず、サイゼルはとぼとぼと歩いていた。思案するのは、少し前の出来事。

 

「(ずっと考えていたけど、あの日に走った痛みはやっぱりただ事じゃない……ハウゼルに何かあったんだわ……)」

 

 少し前、サイゼルは全身に走る痛みに悲鳴を上げていた。姉妹であるサイゼルとハウゼルは互いの感覚をいくらか共有しており、その中には痛みの感覚もある。そして、彼女が感じたのは紛れもなくハウゼルの痛み。何者かから妹がダメージを受けていたのだ。そしてその時期、ケイブリス派はホーネット派に攻め込んでいなかった。では、一体誰がハウゼルを傷つけたのか。不安が胸に宿るサイゼル。

 

「(魔人にダメージを与えられるって事は、魔人よね……)」

 

 その予想は当たっている。彼女を傷つけていたのは、同じ仲間であるパイアール。だが、闘神都市での戦いを彼女は知らない。片腕を切断されたパイアールは魔人界に帰還して早々研究室に引きこもっているからだ。となれば、彼女がこういう結論に達するのは必然であったのかもしれない。

 

「(ハウゼルはホーネット派の中で虐められている……!?)」

 

 残念ながら大ハズレである。だが、サイゼルの顔色はどんどん青ざめていく。

 

「(もしかして、私のせい? 姉であるあたしがケイブリス派だから、きっとアイゼルとかサテラに虐められているんだわ……そういう事しそうな二人だし……)」

 

 想像の中のアイゼルが酷い顔つきでハウゼルを平手打ちし、サテラが三流悪役のような顔で鞭を振るう。

 

「(そういえば、随分前にシルキィに対して野球が下手よねって言った事があったっけ……シルキィ、凄い根に持ちそうなタイプだから八つ当たりしているかも……それと、メガラスってどこかムッツリっぽいし、え、エッチな事を強要されたりとか……)」

 

 野球が好きだがあまり上手くはないため、自分の作ったチームでレギュラーになれないシルキィ。それを随分前に馬鹿にしてしまったのだ。想像の中のシルキィが地獄の千本ノックをハウゼルに仕掛け、メガラスが両手を広げてジリジリとハウゼルににじり寄っていく。

 

『私は姉妹フェチなのだよ、使徒も三姉妹だしな! さあ、従順になれ、パシーン!』

『良い子ちゃんでむかつくんだよ。サテラがお仕置きしてやる、パシーン!』

『さあ、途中で一本でも落としたら初めからやり直しよ! そーれ、一本、二本……』

『……やらないか?』

『うう……助けて、姉さん……』

 

 こんなの、みんなの知っているホーネット派じゃない。そんな突っ込みが入りそうな光景を思い浮かべたサイゼルはその場で立ち止まる。何事かと声を掛けるジーク。

 

「どうしましたか?」

「……ちょっと、ホーネット派に殴り込んでくる!」

「って、何を言っているんですか!?」

 

 急に飛び立ったサイゼルの足を勢いよく掴むジーク。ナイスな反応である。

 

「行かせて! あいつらド外道よ! 今すぐ行かないと……」

「何を想像したかは知りませんが、その想像の九割は間違っています! それに、単身で突っ込むなど愚かな事です。えぇい、見てないで貴方たちも止めてください!」

 

 サイゼルの足を必死に掴みながらジークが後ろを振り返るが、まるで加勢に入る気のない二人がそこにはいた。

 

「えー、行かせりゃいいじゃん。面白そうだし」

「腹減った、何か食わせろ」

「駄目だ、頼りになる魔人がいない!?」

「ジーク様、お手伝いします!」

「流石に見過ごせませんのぅ……」

 

 衝撃を受けるジーク。ケッセルリンクの途中退席がこれ程まで響くとは思ってもいなかった。すぐさま加勢に入るのは、使徒であるオーロラとアレフガルド。魔人よりも使徒の方が頼りになるという意外すぎる光景の中、サイゼルが喚き立てる。

 

「離してー! 行かせてー!」

「ケケケケケ。駄目な上司を持つと下っ端は苦労するぜ」

「使徒の中で唯一加勢に入ってないくせに何を言うんだか」

 

 自分の主であるにも関わらず、使徒の中で唯一加勢に入っていないユキをメディウサはジト目で見る。随分と変わった主従関係もあったものだ。

 

「メガラスの変態!!!」

「メガラスは紳士ですよ!?」

 

 妹の心配をしているのかと思ったら、まさかのメガラス。結局サイゼルを落ち着かせるのには小一時間かかり、魔人の中ではジークただ一人が疲労困憊となるのだった。

 

 

 

その8 リーザスの怪談 前哨戦

-リーザス城 会議室-

 

「それでは、本日の議題はここまでじゃな」

「遅くまでお疲れ様でした」

 

 バレスがそう口にし、マリスが会議を締めくくる。部屋の中にいるのはアスカを除いた各色の将軍、副将軍とマリス。時刻は既に12時。闘神都市の報告やその間の地上側の報告、更には明後日訪問予定のルークに関する話など、会議は大いに盛り上がってしまい、気が付けばこんな時間になってしまったのだ。

 

「早く帰って寝るとするかの……」

「あ、失礼。一つだけ伝え忘れた議題が」

 

 早々に切り上げてしまった黒の軍副将三人に続くように、バレスが欠伸をしながら部屋を後にしようとするが、エクスが何かを思い出したかのように手を挙げる。

 

「明日でもいいのではないですか? ドッヂ殿、サカナク殿、ジブル殿の三名も帰られた事ですし」

「いえ、出来れば本日中に。それに、この時間の方が盛り上がるかもしれませんし」

 

 早く帰りたいキンケードが明日にするよう提案するが、エクスは口元に笑みを浮かべながら答える。

 

「この時間の方が盛り上がる? なんだい、そりゃ?」

「最近城で話題になっている噂ですよ。ですが、噂も放置しすぎると厄介な事になりかねませんからね」

「噂? もしかして……」

 

 こんな時間に話して何が面白いのかと不思議そうにするコルドバ。それに答えるようにエクスは手帳をパラパラと捲り、目当てのページを探す。噂と聞いてレイラは何かに思い至る。親衛隊は女性だけの部隊であるため、噂話にも事欠かないからだ。すると、目当てのページを見つけたエクスがメガネを光らせながら口を開く。

 

「図書館の幽霊」

 

 エクスの言葉にビクッ、と明らかに二人ほど大きな反応をする。それを確認し、愉快そうな笑みを浮かべるエクス。エクスの言葉を受けて最初に口を開いたのは、意外にもマリス。

 

「それならば、最近噂になっていますね。メイドたちの間でもその話で持ちきりのようで、気の弱いメイドは図書館の掃除を誰かに代わって貰っているとも聞きました。頭の痛い話です」

「あ、それならかなみも言っていました。確か深夜に徘徊しているんですよね。怖いなぁ……」

「幽霊の噂が盛り上がるというのは、いつの時代も変わらないものですね」

 

 マリスが頭を抑えながら困ったようにしていると、メナドも丁度今日の昼にかなみと幽霊の話をしていたため、それを口にする。一応彼女も怖がってはいるが、普通に会話に入れている時点でまだ軽傷と言えるだろう。この時点で既に二人ほど黙り込んでしまっているのだから。キンケードがちょび髭を弄りながら口を開くと、それまで興味を示していなかったバレスも会話に加わる。

 

「そうじゃのう。何年かおきに幽霊騒動は話題に上がるのう」

「そうでしたな。俺がまだ入隊したての頃にも、一度大騒ぎになりましたよね」

「ああ、コロシアムに夜な夜な現れる、死を操る幽霊の噂。懐かしいですな。ムシ使いに無残に殺されたウィング・シードマンという男の幽霊でしたかね」

「そうじゃ、そうじゃ。あの時はペガサスの腰が引けていてのう」

 

 バレス、コルドバ、キンケードの古参組がかつての幽霊騒動を思い出しながら昔を懐かしむ。因みに幽霊退治に息巻いていたペガサスだったが、実際に幽霊を目撃して腰を抜かしてしまったのは一部の者しか知らない秘密の話だ。結局、その幽霊は前赤の軍将軍のアルトが退治したのだった。

 

「最近だと、妃円屋敷の幽霊なんかが話題になりましたよね。あれ、解決したのはルークとランスくんらしいわよ」

「えっ!? 本当ですか!?」

「本当ですよ、メナド。一応極秘事項だから言いふらさないようにね。でも、かなみになら言ってもいいわ」

「やった。明日話してあげようっと」

 

 レイラが去年話題になった妃円屋敷の幽霊騒動を思い出す。一部ではルークとランスがその屋敷に入っていった後で幽霊騒動が収まったという情報、因みにその情報を流したのはパルプテンクスと朝狗羅由真なのだが、そういう情報もある為レイラがそう付け加えると、今まで怖がっていたメナドが急に話に加わってくる。リアの拷問の末に生まれてしまった幽霊であるため、公には出来ないマリスが少しだけ困ったようしながらメナドに口止めをしていた。何だかんだで女性陣も盛り上がっている。

 

「ふふ。どうやらこの時間に話題を振ったのは正解だったみたいですね」

 

 そう笑うエクスの横には、無言で下を向いている女性が座っていた。よく見ると、小刻みに震えている。

 

「(何故、何故こんな話に……父上も父上だ、私がこういう話を嫌いなのは知って……いや、もしかして知らないのか……? そういえば話した記憶が無い。これでは今夜眠れないではないか。ぬいぐるみ……せめてぬいぐるみがあれば……)」

 

 白の軍副将、ハウレーン・プロヴァンス。22歳。

 

「幽霊と言えば、最近はペトロ山脈の首を求める幽霊とかが噂になっていますよ」

「あら? それは初耳ですね」

「どんな話なの?」

 

 メナドが話題を振ると、マリスとレイラが乗ってくる。二人とも何だかんだでノリノリであったが、そのすぐ側に座っていた男は無言。机の下では、尋常じゃないほどに足が震えている。

 

「(何故、何故僕はこんな日に限って兜を部屋に置いてきてしまったんだ……恐れを知らない奴は獣と変わらないと父上は言っていたが、今の僕は獣になりたい……)」

 

 赤の軍将軍、リック・アディスン。27歳。

 

「ペトロ山脈に引き寄せられるように少年たちが集まっていくんですけど、誰一人として戻ってこないらしいんですよ。気になった麓の住人が見に行ってみたら……」

「行ってみたら?」

「何かあったのかい?」

 

 レイラとコルドバがメナドに問いかける。いつの間にかバレスたちも話に加わっていた。

 

「そこには……首の無い少年たちの死体が!!」

「「っ!?」」

 

 更に大きく震え出すリックとハウレーン。将軍と副将のプライドからか、すんでのところで悲鳴を上げるのは我慢する。これさえ我慢すれば、帰る事が出来るという思いもあったのだろう。だが、その希望は打ち砕かれる。

 

「首の無い死体に住人が驚いていると……後ろから気配を感じるんです。さっきまでは誰もいなかったはずなのに……」

「「(まだ続くのか!?)」」

 

 メナド・シセイ。16歳。天然の鬼畜である。

 

「存在するはずの無い気配に怯える住人。すると、肩を叩かれるんです。トン……トン……って。住人は覚悟を決めて振り返ったらしいんです。するとそこには、少年たちの首を持った髪の長い女が!! 女は叫ぶ、『首を置いてけぇぇぇぇぇ!!!!』」

 

 メナドがそう叫んだ瞬間、部屋の明かりが突如消える。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 部屋に絶叫が木霊する。他の者もざわついていると、数秒後に部屋の明かりが戻る。電気のスイッチの前にはエクスが立っていた。

 

「演出はいかかでしたか?」

「もう、ちょっと驚いちゃったじゃないの」

「うむ。タイミングが素晴らしかったの。メナドの喋り方も見事じゃったぞ」

「ふむ……意外に楽しめましたな」

 

 レイラが文句を言うが、口元に笑みが浮かんでいるためそれ程怒ってはいないようだ。バレスがエクスとメナドの二人に感心し、キンケードもそれなりに楽しめていたようで部下にでも話してやるかと思案している。

 

「さて、もう遅いですし解散しましょうか」

「そうじゃな。ハウレーン、帰るぞ……むっ!?」

「どうされました?」

 

 マリスも肩の力を抜いて楽しめたようであり、その顔には笑みが浮かんでいた。時間を確認し、解散する事にする一同。バレスが立ち上がって娘のハウレーンに話しかけるが、ようやく異変に気が付く。

 

「気を失っておる……」

「リック将軍もです……」

「……少しやりすぎましたかね」

「(それでも好きよ、リック!)」

 

 これより数週間、リックは兜を着けたまま、ハウレーンはぬいぐるみを強く抱きしめながら眠る日々が続いたという。当然、図書館には暫く近寄らなかったとか。

 

 

 

その9 ルークの知られざる大人な日々

-レッドの町 居酒屋 愛ポン7-

 

「ごめんなさい、突然呼び出してしまって……」

「いや、大丈夫だ。リーザスには明後日までに到着すればいいんでな」

 

 レッドの町にある居酒屋に二人の男女が向かい合って座っている。テーブルの上には酒と料理が並んでいるが、あまり口をつけていない。闘神都市から戻ってきたルークは自宅に届いていた郵便物を確認。大した内容の物は殆ど無かったが、その中に一つだけ気になる手紙があった。かつてギルド仕事で依頼を受けた会社の女社長からの物で、直々に相談があるというのだ。彼女の家は通り道であるレッドの町であったため、ルークは少し早く出発して寄り道をしているのだった。

 

「それで、夢を捨てきれなかった君は会社を他の者に譲り、今は放浪の身か」

「ええ……本当は銀行の経営に携わりたいのだけど、中々雇ってくれる所がなくてね……それならって事で経営再建請負人として仕事を集めたの。ほら、銀行って経営が危ない所沢山あるでしょ。だけど……」

 

 既に話も終盤にさしかかっている。ルークはかつて彼女が社長の時に、実は銀行に携わりたいという話を聞いていた。世界を動かしているのはお金であり、それは人を幸福にも不幸にもする代物だ。だからこそ、少しでも多くの人が幸福になる為に、自分が銀行の経営に携わりたいという信念を彼女は持っていたのだ。

 

「話が来たのは居酒屋の経営再建だけ……この店、実は私が再建したのよ」

「そうか……もしかしたらと思っていたが」

「気付いていたの!?」

「店の装飾が君の社長室の雰囲気とよく似ている。落ち着ける暖かみのある空間だ。あの花も君が好きだったものだろう?」

「良く覚えているのね……」

 

 落ち込んでいた女性に少しだけ笑顔が戻る。そのままルークを見つめ、言葉を続ける。

 

「そうしたらね……今度は倒産寸前のケーキ屋さん。アペペケーキってところなんだけどね、経営再建してくれって頼まれちゃった。銀行の経営に携わりたいのに、遠回りしているんじゃないかなって……どうしようかなって思って……」

「だが、受けるんだろう?」

「どうしてそう思うの?」

「君はそういう人だ。お金で不幸になっている人を放っては置けない」

「ふふ……何でもお見通しなのね」

 

 氷の溶けてしまった酒をチビリと飲みながら笑う女性。

 

「私のやっている事……全部無駄なのかな……」

「無駄なんかじゃないさ。君の経営再建の手腕はいずれ必ず銀行の耳にも届く。仕事をこなしていれば、必ず夢に辿り着く」

「それが途方もない道でも……?」

「そう信じて進むしかないな。間違った道ならば、正す必要がある。だが、聞く限り君の道は間違っていない。途方もなく見えても、その先には君の夢が叶う場所があるはずだ。だから、今の君の行為を無駄だなんて言わないで欲しい」

「夢が……」

 

 女性が目を閉じて自分の夢を思い出す。人々をお金で苦しませたくない。それは、この居酒屋もアペペケーキも同じ事だ。それを無駄と言ってしまっては、それに携わっている人たちの幸福はどうなるというのか。

 

「ごめんなさい……無駄だなんて、この店にもケーキ屋さんにも悪いことだわ」

「俺もまた、途方もない夢を追っている身だからな」

「そういえば、以前にもそんな事を言っていたわね」

「ああ。だから、どちらが先に実現するか競争するとしよう」

 

 持っていたグラスを前に出すルーク。女性もそれに応じ、二人は酒の入ったグラスを合わせる。カラン、と音が響く中、ルークは真剣な表情で目の前の女性を見る。

 

「コルミック、必要ならゼスやリーザスに口利きをしてもいいが?」

「自分で勝負って言っておいて、それは塩を送り過ぎなんじゃない? それに、私は自分の力で勝ち取ってみせるわ」

「強いな」

「貴方には負けるわ」

 

 コルミック・パーパ。彼女はこれより二年後、アペペケーキ再建の腕が買われてゼス共同銀行に頭取としてヘッドハンティングされる事になる。彼女がその事を一番に知らせたのは、両親でも親友でもなく、とある冒険者であった。

 

「それで……今夜はレッドに泊まっていくんでしょ? 出来ればこのまま……」

「だが俺は……」

「以前にも聞いたわ。いつ死ぬかも判らない身だから、夢が叶うまで誰とも付き合う気はないんだったわよね。判っている……だから、今夜だけで良いの。貴方を感じていたいの……」

「…………」

 

 この日、ルークがどこに泊まったかは定かではない。

 

 

-カスタムの町 アイテム屋前-

 

「ルークさんに!?」

「女の気配が!?」

「お前ら、それ当たっていたらそろそろ人間辞めているからな」

 

 トマトと真知子が同時に叫び、ミリが呆れ果てる。人間を辞めかけている二人であった。

 

 




[人物]
マジック・ザ・ガンジー
LV 36/68
技能 魔法LV2
 ゼス四天王にして国王ガンジーの娘。四天王には実力で就任したが、親の七光りだという声も多く、それを悔しく思っている。学生であるため四天王の職務よりも学業を優先しており、千鶴子の心労は増えるばかり。親娘共々、千鶴子の寿命を減らしにかかっている。

アレックス・ヴァルス
LV 41/80
技能 魔法LV2
 ゼス四将軍の一人にして光の魔法団団長。まだ若いため実戦経験では一歩劣るが、魔法の才は四将軍でも随一。真面目で優しいが、芯は強い好青年。他の四将軍の良き弟分である。マジックの家庭教師をしており、現在交際中。だが、彼の性格も相まって中々発展できずにいる。

ムカーダー
LV 7/13
技能 剣戦闘LV1
 ペンタゴン兵。自分が上に立って威張りたいという性分であるが、ペンタゴンには強い者が多すぎるため威張れず、不満を抱いている。

バウンド・レス
LV 15/24
技能 剣戦闘LV1 シーフLV1
 盗賊を営むシャイラの兄。出て行ってしまった妹を心配しているが、それよりも危なっかしいソウルの面倒を見るだけで手一杯である。

ソウル・レス
LV 10/18
技能 剣戦闘LV1 シーフLV1
 盗賊を営むシャイラの妹。その生まれから読み書きも出来ない。出て行った姉の事を心配しているが、それ以上に兄貴と盗賊家業が大好きな為、捜しに行くつもりはないらしい。

美香 (オリモブ)
LV 1/24
技能 護身術LV1
 香澄の妹。ピンク髪でメガネをかけておらず、和服の良く似合う美人。名前はアリスソフト作品の「闘神都市」より。あちらでもKASUMIの妹、MIKAとして登場。髪の色は違うが。

図書館の幽霊
 リーザス城に出没する少女の幽霊。生前読めなかった本を探し求め、今日も元気に深夜の図書館を徘徊している。リックとハウレーンのトラウマ。

ウィング・シードマン (ゲスト)
 リーザスのコロシアムに夜な夜な現れた幽霊。かつてムシ使いの男に無残に殺された戦士。相手の死を操る事の出来る夢ノートを持っているという恐るべき相手である。前赤の将軍アルトの手により、既に成仏している。名前はアリスソフト作品の「闘神都市3」より。

コルミック・パーパ
LV 1/12
技能 経営LV2
 美人経営者。ルークに後押しされ、アペペケーキの経営を僅か一年で立て直す。その実力を買われ、LP4年には念願であった銀行の経営に携わる事になる。

ラ・サイゼル
LV 86/120
技能 魔法LV2
 ケイブリス派に属するエンジェルナイトの魔人。ジルによって魔人化する。優秀な妹と比べられるのを嫌うが、本当は妹の事が大好き。戦闘時は氷を操る。ケイブリス派についたのもハウゼルへの対抗心からでしかなく、内心後悔している。

ジーク
LV 59/156
技能 剣戦闘LV1 変身LV1
 ケイブリス派に属するまねしたの魔人。ジルによって魔人化する。変身を得意とする魔人であり、通常『魔人紳士』と呼ばれる程に紳士的な魔人である。ケイブリス派の苦労人枠。魔人の中では比較的ケッセルリンクと仲が良い。

ガルティア
LV 60/108
技能 剣戦闘LV2
 ケイブリス派に属する人間の魔人。スラルによって魔人化する。今は滅びたとされているムシ使いであり、かつては伝説のムシ使いと呼ばれていた。体内にいるムシのせいで常に腹ぺこと燃費は悪いが、その剣技は本物。また、ムシを使った戦闘も得意としており、ケイブリス派では一番手として真っ先に戦場を駆ける事が多い。因みに、魔人の中では割と古参。

オーロラ
LV 22/38
技能 変身LV0
 女の子モンスターのライカンスロープ出身であるジークの使徒。ジークを心酔。男は黄色くて大きくないといけないとは彼女の弁。変身が苦手なのは使徒化する前からであり、そのせいで人間に捕らえられて見世物にされていた。碌に食事も与えられず、死にかけていたところをジークに救われる。因みにこのオーロラの過去話、二次創作から公式設定にまで昇華した奇跡の作品です。興味のある方は調べてみて下さい。素晴らしい作品です。

ユキ
LV 34/47
技能 格闘LV1 魔法LV1
 女の子モンスターのフローズン出身であるサイゼルの使従。言動はあれだが、主への忠誠心は高い。サイゼルがあまり使徒を作るのが上手くなく、元のモンスターとは似ても似つかない性格に。その代わり、戦闘能力は使徒の中でもかなり高い。


[モンスター]
マグボール
 緑の皮膚で覆われた巨大な眼球のモンスター。素早い動きで敵を翻弄し、鋭利な爪や怪光線で攻撃してくる。それ程強いモンスターでは無いが、一般人にとっては十分に脅威。

メイジマン
 丸い頭巾を被ったモンスター。初級光魔法を放ってくるが、戦い慣れた者にとっては雑魚でしかない。


[技能]
護身術
 自分の身を守る技能。薙刀使いにこの技能保有者が多いとされている。

経営
 商才技能の一つ。LV2ともなれば、倒産寸前の企業もみるみる内に立て直す事の出来るほどの凄腕である。


[その他]
2011年8月26日
 ランスクエスト発売日。遺えーい。ミリファンは泣いていい。

2012年2月24日
 ランスクエストマグナム発売日。トマトの剣の知識消滅。嫌な事件だったね……

2012年7月6日
 公式ブログにてトマトに剣技能LV0が設定される。宴じゃ、宴の準備じゃ!

2012年8月3日
 公式ブログにて「あ、あれ間違いだったわ、てへぺろ」となり、トマトの剣技能が消去。トマトは二度死ぬ。

2012年11月8日 (おまけ)
 公式ブログにて3の時点ではメナドは赤の軍副将でない事が設定される。Oh……

ペトロ山脈の首を求める幽霊
 6編に続く。多分。
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