ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第10話 未だ見ぬ宿敵

 

-ピラミッド迷宮-

 

「これはまた、随分と様子が変わったな……」

 

 結局、頑なに帰ることを拒んだマリアを渋々引き連れ、三人は地下三階まで下りてきていた。そこに広がっていたのは、二階までのいかにもな洞窟という風景から一変した景色。しっかりとした石造りの床や壁。それも適当に連なっているのではなく、全ての石が均一に並べられているのだ。明らかに人工の迷宮である事が判る。

 

「ここからはピラミッド迷宮になっているわ」

「ふむ、言われて見れば砂がそこら中に落ちているな」

「こんなに突然迷宮の内部が変わるものなのか?」

 

 ランスがしゃがみ込んで砂を手に取り、サラサラと手の平から零れさせる。ルークは壁に触れ、石をコンコンと叩きながらマリアへと問いかける。ここまで迷宮の作りがガランと一変するのは流石に珍しい。

 

「それには理由があるの。カスタムの町の側にあった迷宮は、元々は私が支配していた第二層までしかない小さな迷宮だったのよ」

「ほう……」

「で、ラギシスを殺した後にこの迷宮を拠点にする事にしたんだけど、それには少し小さかったから魔法で迷宮を拡張したの」

「では、このピラミッド迷宮は貴様らの誰かが作ったという事か? 砂っぽくて趣味が悪いぞ」

 

 ランスがそう文句を口にするが、マリアは首を横に振ってそれを否定する。

 

「ううん、一から作り出した訳じゃなくて、他の場所から魔法で持ってきて追加した迷宮なの。迷宮を一から作り出すのはもの凄い大魔法だから、ちょっと難しくて……」

「他の場所からワープさせてくるのも十分大魔法の域じゃないか?」

「まあ、その辺はフィールの指輪のお陰ね。流石に素の状態じゃあこんな真似は出来ないわ」

 

 マリアが壁をペタペタと触りながら答える。元々あった迷宮を改造するのは多少腕に覚えがある魔法使いであれば可能だが、一から迷宮を作り出すとなると話は別。それこそ、伝説に名を残すような魔法使いでないと不可能な魔法だ。魔法大国ゼスにも、そんな真似を出来る人物は一人しか確認されていない。

 

「このピラミッド迷宮はリンゲル王のピラミッドを改造したものよ。そして、この第三層の支配者はミル」

「幻獣魔法の使い手か……マリアから見て、ミルは厄介な相手か?」

「ええ、戦いにくさでは下手すれば一番かも。普段なら長期戦に持ち込んで魔力切れを狙うって手も取れるんだけど、今は指輪の力で殆ど無尽蔵に幻獣を呼び出せる状態だから、長期戦を挑んだら間違いなく先にこっちが参っちゃうわね」

「となると、短期決戦か」

 

 こちらがもっと人数のいるパーティーであれば多勢に無勢でミルを押し切る事が出来るかもしれないが、三人では無尽蔵に湧き出てくる幻獣を押しやってミルを倒すのは難しい。ランスが顎に手を当てながらマリアに問いかける。

 

「不意打ちで決めるのが一番楽だな。おい、ミルはどこにいるんだ? 裏道とかがあるならそれを使って回り込むとか……」

「ごめんなさい。ずっと自分の研究室に引きこもっていたから、他の迷宮の事は詳しく知らないの」

「ちっ、役に立たん奴め。戦闘が出来ないうえに情報面でも役立たずとはな」

「むかー! 親切で教えたのにー!」

「ほらほら、喧嘩してないで進むぞ」

 

 ランスとマリアが仲良く口喧嘩をし始めたので、それをルークがなだめながら迷宮の奥へと進んでいく。迷宮の中には燭台があちこちにあり、その全てに灯が点っているため迷宮内はかなり明るい。

 

「探索しやすい迷宮だな。だが、これだけ灯りを点すのは無駄じゃないか?」

「ああ、ミルは暗いのが苦手なの」

「ほう、子供みたいだな」

「ええ。だってミルは……」

「おっ、高そうな宝石発見!!」

 

 そんな事を話しながら迷宮内を歩いていた三人だが、ランスが目の前に宝石が置いてあるのを発見して駆け出す。ルークとマリアもそちらに視線を向けると、確かにその部屋には四色の宝石が並んでいた。ランスはその宝石に手を伸ばし、持って帰ろうと引っ張るが、宝石は台座にしっかりと固定されているようで持ち上げる事が出来ない。

 

「ぐぬぬぬぬ……なんだ、抜けんではないか!」

「魔法か何かで固定化されているな。わざわざおあつらえ向きにこんな事をするとなると、何かの仕掛けか?」

「ん、マリア、そうなのか?」

「全然わかんにゃい」

「ほら、帰り木をやるからもう帰れ。道案内にもならん」

「むきー!」

 

 後ろでまたもランスとマリアが喧嘩を始めるが、ルークはそれを無視して宝石の台座を調べ始める。色々と試してみたが、特に何かの仕掛けが発動するような素振りもない。

 

「別に仕掛けという訳では無いのか……?」

「この最低スケベ男! ……って、あら? 誰かいるわ!」

「なにぃ!?」

 

 ルークが宝石を見ながら思案していると、後ろで口論をしていたマリアが人影を発見してそう呟く。すぐさまそちらに視線を向けるルークとランス。確かにうっすらとだが人影が見えたため、そちらへと駆け寄っていく。すると、あちらの人影もそれに呼応するようにこちらへと駆け寄ってきた。

 

「おっ、絶世の美男子が目の前に! 俺様以外にもこんな美男子がいたとは……」

「お前だ、お前」

「わっ、大きい鏡……」

 

 そこにあったのは、壁に埋め込まれた巨大な鏡であった。どうやらルークたちは鏡に映り込んだ自分の姿を人影と勘違いしてしまったらしい。マリアは自身の身長よりも遙かに高い鏡を見上げながらため息を漏らし、ランスは鏡の前でポーズを取っている。

 

「すごーい……こういうのって高いのよねー……」

「ふっ、はっ! がはは、鏡に映る俺様も格好良いな!」

「……ん? 部屋の隅に石版が置かれているな」

 

 部屋の隅に堂々と置かれていた石盤を拾い上げるルーク。見れば何か文字が書いてあるのだが、薄汚れていて良く読めない。ルークは石版の表面を手で擦り、その汚れを散らしながら書いてある文字を読み上げていく。

 

「道に迷えし子羊よ。ここに汝らの進むべき道を示す……」

「おお、なんだか迷宮の奥へと進む方法が書いてありそうな始まり方ではないか!」

「ルークさん、その先はなんて書いてあるんですか?」

 

 ルークの読み上げた言葉を聞いたランスとマリアが期待した顔で近寄ってくるが、先に石版に書いてある文字を読み切っていたルークは呆れた表情になっており、言いにくそうにしながらマリアの問いに答える。

 

「あー……誤解しないで欲しいが、俺は書かれている事をそのまま読むだけだからな」

「はぁ? いいから早く読め」

「ふむ……鏡の前で少女のパンティーを露出するべし。さすれば宝石の装置が起動するであろう」

「……なんなの、それ?」

 

 マリアが冷たい視線をルークに向けてくる。明らかに軽蔑の眼差しだ。ただ書いてある事を読んだだけのルークからしたら、理不尽極まりない。と、マリアがルークに視線を向けている隙にランスはゆっくりとマリアの背後に回り込み、マリアのスカートに手を伸ばした。

 

「がはは、仕方がない。これも他の三人を救うためだ。とぉー!!」

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ランスが一気にマリアのスカートをまくり上げる。水色の下着を白日の下にさらされ、マリアが迷宮中に響くのではという程の大きな悲鳴を上げる。

 

「ばっ、ばかぁ! こんな事で本当に装置が起動するわけ……」

『ぴんぽんぱんぽーん! 第一のワープ装置、解除されました』

「……起動したな」

 

 怒り心頭でランスに食ってかかるマリアだが、その言葉を遮るように鏡から音声が響き渡る。呆れた表情で鏡を見上げるルークと、チューリップ1号を両手で持ちながら振りかぶるマリア。

 

「最低だわ、この鏡! 叩き割ってやる!」

「がはは、中々見所のある鏡ではないか。こら、鏡を割ろうとするな」

「離してー! 割らせてー!!」

 

 ランスに取り押さえられたマリアが喚いている横で、ルークは鏡を見上げながらボソリと呟いた。

 

「第一の、って言ったよな。宝石は四つあったな。つまり……」

「やめてー! ルークさん、考えさせないでー! 私も気がついてはいたけど、気がつかない振りをしていたんだからー!」

「がはは。鏡のスケベな要求は後三回変身を残しているぞ」

 

 頭を抱えてブンブンと首を振るマリアを引っ張り、ルークたちは宝石の間へと戻ってくる。すると、先程までと違い一番左端に置いてある宝石が薄い光を帯びていた。それにルークたちが手を触れると、三人を眩い光が包み込む。次の瞬間には、ルークたちは先程までとは別の場所にワープしていた。すぐさまルークが後ろを振り返ると、そこには台座に置かれた宝石が一つある。

 

「ふう、良かった。これを使えばいつでもさっきの場所に戻れるようだな」

「戻れなければ後三回分の要求を見られんからな」

「ない! そんな要求はきっとない! 私、そう信じてる!!」

「あまりにも儚い希望だと思うが……?」

「やーめーてー!」

 

 よっぽど鏡の要求が嫌なのだろう。マリアがげんなりとした顔で頭を抱えていると、突如迷宮の奥の方から金属音が聞こえてくる。すぐさま真剣な表情になるルークとランス。

 

「ランス、聞こえたか!?」

「うむ、誰かが戦っているな。ミルかもしれん、行くぞ!」

「あっ、ちょっと! ……あら、あれは?」

 

 駆け出す二人の後を追うように、マリアも音のした方向へ駆け出そうとする。が、そちらとは別の方向にある部屋がマリアの視線に入る。キラリと光る鉱物、その形にマリアはハッキリと見覚えがあった。

 

 

 

-ピラミッド迷宮深部 小部屋-

 

「くっそ……がぁぁっ!!」

 

 ピラミッド迷宮の深部にある部屋。その部屋には、薄紫色の髪に軽装の鎧を身に纏った一人の女戦士がいた。咆哮しながら女戦士が剣を振り下ろし、目の前にいたグリーンハニーを斬り伏せる。パリン、という音と共にグリーンハニーが砕け散るが、ハニーに気を取られていた隙にラーカイムの接近を許してしまう。

 

「きしゃぁぁ!」

「ぐっ……何するんだい!!」

 

 鋭利なハサミが女戦士の脇腹に突き刺さり、血がぐじゅりという嫌な音と共に滲み出てくる。激痛に顔を歪めた女戦士だったが、すぐさま剣を振り下ろして頭頂部の岩ごとラーカイムを粉砕する。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 女戦士が荒い息を吐きながら周囲を見回す。部屋の中にはまだまだ大量のモンスターがおり、その女戦士を取り囲んでいた。右手に持った剣を構えながら、腰の傷を左手で触って確認する。出血はしているが、大事には至っていない。すぐさまマントで血を拭うと、ふと床に倒れている仲間の姿が目に入る。

 

「ルー、チョルラ、アリーヌ……巻き込んじまったね……すまない……」

 

 夥しい量の血溜まりの中に倒れ伏した三人の女冒険者。彼女たちは既に息を引き取っている。彼女たち四人は、とある理由から四魔女の迷宮に挑んでいたのだ。挑むと決意したのは、満身創痍ながらまだ生き残っているこの女戦士。自身が三人を巻き込んでしまったと後悔しながらも、まだ死ぬ訳にはいかないと女戦士は剣を握り直す。この剣は元々彼女のものではない。彼女が愛用していたロングソードは既に折れ、部屋の隅に転がっている。

 

「ルー……あんたのアリスソード、自慢していただけの事はあるよ。ラーカイムの固い装甲を一撃で粉砕なんて、並の剣に出来る事じゃない。悪いけど、もうちょっとだけ力を貸してくれ……」

 

 そう、この剣は息を引き取った仲間が愛用していた剣。生前から何かと自慢していた剣だったが、言うだけの事はありかなりの斬れ味である。

 

「ハニー……」

「撃たせるかい! はぁっ!!」

 

 ハニーフラッシュを放とうとしていた近くのグリーンハニーを横薙ぎに両断する。無防備に晒されたその背中にラーカイムが跳びかかってこようとするが、すぐさま女戦士は向き直って体勢を整え直す。その対応の早さにラーカイムは跳びかかれず、女戦士の周囲をゆっくりと徘徊するに留まる。

 

「簡単にゃぁ殺されてやらないよ……はぁ……はぁ……」

 

 女戦士の実力は本物であり、この場にいるモンスターなどまともに戦えば相手にならない。だが、敵の数があまりにも多すぎるのだ。今は亡き三人と協力してなんとか残り十数体まで減らしたが、既に彼女の体力は限界寸前。だが、彼女は逃げ出す事も出来ない。この部屋の入り口はいつの間にか巨大なグリーンスライムがへばりついており、通ることが出来なくなってしまっているのだ。逃げ道は塞がれ、仲間は倒れ、満身創痍の体。普通であれば絶望に打ちひしがれ、命を投げ出してしまってもおかしくはない状況である。だが、まだ彼女の目は死んでいない。

 

「ルーも、チョルラも、アリーヌも……泣き言一つ言わずに最後まで勇敢に戦ったんだ。それなのに俺が諦めちまったら、あの世で何を言われるか判ったもんじゃないんでね……」

「うぉぉぉぉ」

 

 目を細めながら、ポツポツと独り言を呟く女戦士。その姿は、明らかに限界。今ならば倒せると判断したのか、モンスターのこんにちわが一気に女戦士に迫り、触手を伸ばす。だが、女戦士はすぐさま身を屈めてそれを躱し、剣を横薙ぎに振るう。

 

「あいつらのためにも……妹のためにも……まだ俺は死ねないんだよぉぉぉぉ!!」

「こんにちわぁぁぁぁ……」

 

 一閃。女戦士の咆哮と共にこんにちわが両断されるが、同時に先程マントで拭った腰の傷から血が噴き出す。それを見たモンスターが一斉に彼女に跳びかかろうとしたそのとき、けたたましい程の爆音が部屋に響き渡った。

 

「なんだ!?」

 

 女戦士もモンスターたちも、一斉に音のした方向を見やる。音のした方向にあるのは、部屋の入り口。見れば白い煙が立ち上がっており、通路を塞いでいたグリーンスライムが周囲に飛び散っている。煙の向こうに見える影は三つ。援軍か、はたまた敵の増援か。女戦士に緊張から唾を飲み込んでいると、今の状況にそぐわない明るい声が部屋に響く。

 

「きゃー、やったー! 見た? 見た? これがチューリップの威力よ!!」

「凄い威力だな……」

「まさかピラミッド内にヒララ鉱石の採掘場があるだなんて思わなかったわ。ねっ、持っていないアイテムは迷宮内で手に入るものだって言ったでしょ!」

 

 そこに立っていたのはルーク、ランス、マリアの三人。マリアが手に持っているチューリップ1号の砲身から煙が立ち上っているのは、たった今砲撃したからに他ならない。ワープ装置で飛んだ先でマリアが発見したのは、ヒララ鉱石の採掘場であった。そこで大量のヒララ鉱石を手に入れたマリアは一気に戦力としても申し分ない状態になり、グリーンスライムを吹き飛ばして戦闘音のする部屋の中へと入ってきたのだ。

 

「……案外、三人の内の誰かが迷宮を改造して採掘場をワープさせておいてくれたんじゃないか?」

「あっ、もしかして志津香が……?」

「どうやら、敵って訳じゃあなさそうだねぇ……それにしてもこの声、どこかで……」

「むっ、部屋の中に傷だらけの美女を発見!」

 

 状況の変化に頭の回転が追いつかない女戦士だが、どうやら敵ではないらしいことを感じ取り安堵する。視界が朦朧とし始めているため少しばかり遠くにいる三人の顔はよく見えないが、どうも先程から歓喜している少女の声に聞き覚えがある気がする。一体どこでこの声を聞いたのかと女戦士が首を傾げていると、女戦士が美人である事に気がついたランスが鼻息を荒くする。

 

「行くぞ、ルーク、マリア! 困っているときにはお互い助け合う。それが冒険者の正しい姿だ!!」

「もし襲われているのが男だったら?」

「一文の得にもならんから立ち去るに決まっているだろう」

「予想通りの発言、ありがとう。まあいい、さっさと仕留めるぞ!」

 

 群れを成しているとはいえ、部屋の中にいるモンスター一体一体は大した強さを持ち合わせていない。モンスターの死体が部屋の中に大量に散らばっている事から、部屋の中にいた女戦士たちが相当数減らしてくれたのだろう。その代償として三人が息を引き取ってしまったのだが、女戦士は心の中で散っていった仲間たちに深く感謝していた。彼女たちがここまで敵の数を減らしていてくれなかったら、恐らく女戦士は三人の到着まで生き残れてはいなかっただろう。

 

「はぁっ! 大丈夫か? 後は任せて下がっていろ」

「加勢すまない、恩に着るよ。でも、まだ下がる訳にはいかないさ」

「どりゃぁ!!」

「いっけぇ、チューリップ!」

 

 ルークに感謝の言葉を述べつつも、女戦士に引く気はない。最後まで戦い抜く。それが散っていった仲間への手向けと感じていたからだ。部屋の中にいたモンスターはみるみるその数を減らしていく。

 

「これでラストだ!」

「くけぇぇぇぇ!!」

 

 女戦士が最後に残ったこかとりすを両断し、モンスターが全滅する。すると、緊張の糸が切れたのか、女戦士はそのまま床に座り込んでしまった。慌てて駆け寄るルークとランス。マリアも駆け寄ろうとするが、チューリップ1号の砲身にヒララ鉱石の破片が詰まってしまったらしく、その場で立ち止まって破片の処理をしている。

 

「おい、大丈夫か!? これだけの美女でありながら俺様とヤル前に死ぬなぞ許さんぞ!」

「心配すんな、死にゃしないさ……ちょっとばかし、疲れただけだ……なんだか眠くなってきたよ……」

「思いっきり死ぬ直前の奴が言いそうな言葉ではないか!!」

「世色癌と血止めだ。自分で出来るか?」

「ああ、それくらいはな……悪いね……」

 

 ルークから受け取った世色癌を一飲みし、体力を回復させる女戦士。そのままスプレータイプの血止めを出血の酷い腰に吹き付けていると、ようやく破片の処理が終わったマリアがこちらへと歩み寄ってきた。

 

「うーん、エネルギーに変えた後のヒララ鉱石をどうするかはこれからの課題ね。それで、その人の怪我は大丈夫……って、ミリじゃない!?」

「お、お前はマリア・カスタード!? てめえ、俺の妹をどこへやった!!」

 

 先程までは目が霞んでいたため気が付かなかったが、目の前に立っているのが四魔女の一人であるマリアである事に気がついた女戦士は、口元に付いていた血を拭い怒りで目を見開きながらマリアに食って掛かろうとする。が、世色癌での体力回復など気休めでしか無いため、すぐさま咳き込んでしまう。

 

「げほっ……げほっ……」

「無理をするな。マリア、妹というのは?」

「その人は……」

「俺の名前はミリ。ミリ・ヨークスだ……」

「ヨークス? なるほど、ミル・ヨークスの姉ちゃんか」

「ああ。俺は姉として、あんだけの事をしでかした妹の始末をつけるためにこの迷宮に潜ったんだ……他の誰でもない……俺があの馬鹿の始末をつけなくちゃいけないんだよ……」

 

 女戦士の名前は、ミリ・ヨークス。四魔女の一人であるミル・ヨークスの実姉だ。彼女は実妹の起こした事件に姉として黙ってはおれず、自身の手で妹を介錯するために迷宮へと挑んだのだ。ヨークス姉妹の両親は既に他界しており、ミリは姉と親の両方の役割を果たしていたため、その姉妹仲の良さは町でも有名である。その愛する妹を殺す決断をしたミリの覚悟に賛同し、ルー、チョルラ、アリーヌの三人は共に迷宮へと挑んだのだ。

 

「マリア、吐け! ミルの馬鹿はどこだ!?」

「これは誤解を解いておく必要があるな」

「うん。ミリ、落ち着いて聞いて。今から全てを話すから」

 

 マリアが今回の事件の全貌を話す。元凶であるラギシスの事、指輪の影響で悪の心に染まっている事、ミルはまだ悪に染まったままだという事、その全てを。初めこそマリアを疑いの眼差しで見ていたミリだが、ルークやランスも話が真実であると口にし、町長であるガイゼルもこの事を信用したという話を受け、少しずつ安堵の表情へ変わっていった。

 

「そうか……ミルは、指輪の魔力に操られているんだな……?」

「ええ。私たちのやった事は簡単に許されるような事じゃないのは判っているわ。でも、ミルを殺すとか、そんな悲しい事はもう言わないで……」

 

 ミリが大きくため息をつく。妹が自分の意志で事件を起こしたわけではないという事が判り、ホッとしたのだろう。だが、すぐに真剣な表情へと戻し、マリアの顔をジッと見据えながら口を開く。

 

「事情は判った。だとしても、このまま手を引く訳にはいかないな。目的が変わるだけさ。馬鹿な妹の始末をつけるって事から、操られている妹を救出するっていうのにな」

「その怪我で探索を続ける気か?」

「無茶よ。後は私たちに任せて、ミリは町で待っていて」

「……妹は放っておけないもんさ。だけど、俺の仲間は見ての通り全滅だ。流石に一人で探索を続けられるとは思っちゃいない。頼む、俺も一緒に連れて行ってくれ!」

 

 マリアの言葉にミリは首を横に振り、剣を杖代わりにしながらゆっくりと立ち上がる。世色癌と血止めの甲斐あって多少は回復したようだが、それでも万全の状態には程遠いだろう。マリアが心配そうな視線を向けるが、ルークは一度だけ天井を仰いでミリの言葉を噛みしめていた。

 

「妹、か……そうだな、放っておいては……いけないな……」

「連れて行ってくれるかい?」

「……俺は構わない。ランスは?」

「がはは、俺様に任せておけ。だが、ついてくるからには役に立てよ。弱い奴はいらんからな」

「ありがとよ、ルーク、ランス! 話の判る奴らは好きだぜ!」

「がはは、そのまま惚れてしまっても構わんのだぞ!」

「……もう、無茶だけはしないでよね」

 

 ルークとランスはミリを連れて行くことに賛成してしまったため、マリアは困ったような表情を浮かべながらも小さく頷いた。自分も無理を言ってついてきた身であるため、今のミリを止める事は出来ないし、気持ちも十二分に判ったからだ。

 

「さあ、探索を続けるよ!」

「待った。一緒に行くのは構わないが、ひとまず町へ戻ろう。ワープ装置を動かせるから、ここまでならすぐに戻って来られる」

「なんだい、ルーク!? 俺の怪我の治療のためとか言うなら、そんなもんはいらないよ!」

「そうじゃないさ……」

 

 率先して先頭に立ち、迷宮の探索を続けようとしたミリをルークが止める。出鼻を挫かれた形のミリが眉をひそめながら抗議の言葉を口にするが、ルークは治療のためという理由を否定しながら視線を床へと落とす。ミリたちもつられるように視線を落とすと、そこにはミリにとっては掛け替えのない仲間たちの亡骸があった。

 

「葬ってやらんとな。戦士の定めとは言え、大事な仲間なんだろう?」

「……すまない」

 

 こうして、ルークたちは遺体共々一度帰り木で外へと脱出し、三人の亡骸を丁重に埋葬したのだった。

 

 

 

-ピラミッド迷宮 鏡の間-

 

「今度は鏡の前で少女が胸を見せる、だとさ」

「いーーーーーやーーーーー!!」

 

 迷宮にマリアの絶叫が響き渡る。再び迷宮へと舞い戻っていたルークたちは勝手知ったるや、すぐにワープ装置の場所まで戻って来られた。一つ目のワープ装置を起動させようとしたルークたちだったが、先程戦闘があった部屋の奥は行き止まりであったというミリの証言からその先の探索を中止し、二つ目のワープ装置を起動させるべく鏡の間までやってきていた。偶然にもその行き止まりの場所に置いてあった宝箱からミリが石版を発見しており、見ればそこには二つ目のワープ装置の起動方法が書かれていたのだ。その内容をルークが読んだのが今。結果としてもたらされたのは、マリアの大絶叫という事だ。

 

「なんなの、この装置……ピラミッドを建造した人って馬鹿なんじゃないの……そうだ! 一つ目は私がやったんだし、今回はミリさんが……」

「嫌だぜ、馬鹿馬鹿しい。それに、一つ目は俺たちもしっかり起動させたんだ。だからこそ、あの場所にいたんだしな」

「うぐっ……そう言われてみれば……」

 

 マリアの提案を一蹴するミリ。実は一つ目の装置を起動させるために下着を見せたのはアリーヌなのだが、その辺の詳しい事情は伏せてマリアに説明をするミリ。マリアはまんまと誤魔化されてしまい、ぐぬぬと爪を噛みながら鏡を睨み付けている。

 

「がはは、全く持ってけしからん鏡だ! だが、これも三人を救うため。頑張るのだ、マリア! カスタムの未来はお前の両乳にかけられたぞ!!」

「ぜっっったい、いやっ!!」

「ええい、我が儘言うな! 早く見せんか!!」

「きゃああ! ちょ、いやぁぁぁ!!」

「南無南無……」

 

 頑なに胸を見せる事を拒否していたマリアに痺れを切らしたランスは彼女を後ろから羽交い締めにし、服をずり下げてその胸を露出させる。ただ、彼女が胸を見せないと先に進むことが出来ないのは事実であるため、止める訳にもいかない。ルークに出来る事は、そっぽを向いて彼女の痴態を見ないようにしてあげる事だけだった。

 

「うふふ、可愛い胸だね」

「さあ、鏡様にお前の胸を見て貰うんだ! ほら、上下に揺すって乳揺れのサービスだ!」

「こんなのひどすぎるーーー!」

『ぴんぽんぱんぽーん! 第二のワープ装置、解除されました』

 

 マリアの悲鳴と第二のワープ装置解除の放送が迷宮内に空しくこだました。

 

「あと二回か……」

「ルークさん、その通りですけど不吉な発言しないでください!」

 

 

 

-妖体迷宮 通路-

 

『……すぎるー!』

「んっ? 今なにか声がしなかったかな?」

「えっ!? 気が付きませんでした。誰か近くにいるんでしょうか……?」

「ああ、ごめん。怖がらせる気はなかったんだ」

 

 一方その頃、テレポート・ウェーブにてどこかへと転移させられてしまったシィルとバードは迷宮内を彷徨っていた。床や壁がぶよぶよとした感触の、気持ちの悪い迷宮である。その異様な雰囲気からシィルは若干怯えてしまっている。バードが自身の不用意な発言を謝罪していると、迷宮内にまたも声が響き渡る。

 

「いやぁぁぁ!!」

「バードさん、女性の声です!」

「さっきの声とは違う気がするけど……行こう、シィルさん!」

 

 声が聞こえたのはすぐ近く。バードとシィルは急いでそちらへと駆け出すと、そこには古びた鍵の掛かった小部屋があった。バードが扉に手を伸ばすが、開ける事が出来ない。

 

「くっ……鍵開けはゼウスが得意だったんだが……」

「バードさん、どいてください」

「えっ?」

 

 離ればなれになってしまった冒険団の仲間の事を思い出しながらバードが歯噛みをしていると、後ろに立っていたシィルが真剣な口調でそう声を掛けてくる。振り返ると、シィルの両手には燃えさかる炎が集まっている。

 

「ファイヤーレーザー!!」

 

 シィルが両の手のひらを前に突き出しながらそう叫ぶと、強力な熱光線が一直線に扉へと向かっていき、轟音と共にその扉を吹き飛ばした。ファイヤーレーザーは炎属性の魔法でも上位に位置する強力な魔法であり、炎属性と氷雪属性を主に扱うシィルにとっては得意魔法の一つでもある。まさかシィルがこれ程強力な魔法を使えると思っていなかったバードは、ただただ唖然とする事しか出来ない。

 

「なんだ貴様らは?」

「拷問戦士!? どうしてこんな強いモンスターが!?」

 

 部屋の中には、強力なモンスターである拷問戦士と、その拷問戦士に鞭で叩かれている一人の女性。バードが驚くのも無理はない。これまで迷宮内で出会ったモンスターとは格の違う相手だからだ。

 

「いや……助けて……」

「酷い……」

「貴様らが次の拷問相手か? ラン様から何の連絡も受けていないが……」

 

 少女は身体には生々しいアザがついている。拷問戦士の鞭によって付けられたものだろう。シィルが悲痛な声を漏らす中、バードが剣を抜きながら一歩前に出る。

 

「違うな。もうお前が拷問する事は無い。僕の手で倒されるのだから!」

「ふん、青瓢箪が……死ねぇ!」

 

 拷問戦士が鞭を振るうと同時にバードが前に駆け出す。バードたちはまだ知らなかったが、拷問を受けていた少女は以前に連れ去られたカスタムの町の住人である。ルークたちの知らぬ所で、攫われた少女たちを救う戦いが始まっていた。

 

「ぐぁぁぁぁ! くっ、まだまだ!」

「ああ、バードさん! 頑張ってください!!」

 

 

 

-ピラミッド迷宮 棺の間-

 

「いやぁ、いかにもピラミッドって感じの部屋だねぇ」

「確かにな」

 

 ミリが周囲を見回しながらそう呟くのを聞き、ルークはそれに頷く。二つ目のワープ装置を使ったルークたちは、棺が大量に置かれた部屋へと辿り着いていた。

 

「うーむ、棺の中には金目の物はないな」

「ちょっと、バチが当たるわよ」

「シィルのバカがいればあいつに調べさせるのだが、全く使えん奴隷だ。今頃ぬくぬくと遊んでいるに違いない。戻ったらお仕置き決定だな」

 

 今正に拷問戦士との激闘を繰り広げているところなのだが、ランスがその事を知る訳も無く、理不尽にもシィルのお仕置きが決定してしまう。あまりにも不憫である。そのとき、ルークが奥に何者かの気配を感じてそちらに目を凝らす。部屋の最奥、他の棺に比べて多少豪華な装飾が施されている棺に、一人のミイラ男が腰掛けていた。

 

「構えろ、何かいるぞ!」

「きゃっ!? み、ミイラ男!?」

「おいおい、ピラミッドだからってそんな変わったもんまで出て来なくていいっていうのに……」

 

 すぐさま身構える四人だったが、件のミイラ男は棺に座ったまま落ち着いた様子でこちらに声を掛けてくる。

 

「ああ、そう身構えんでいい。戦うつもりなんてないんね」

「なんだ、貴様は?」

「なーに、ただのミイラ男さね」

「……ただ者には見えないが?」

「え? ルークさん、どういう事?」

 

 声を聞く限りは中年の男。包帯に隠れており容姿はよく判らないが、体格はでっぷりとしており、外見からはとても強そうに見えない。だが、ルークの目にはこの男がただ者には映らなかった。その発言を聞き、からからとミイラ男が笑う。

 

「おんやまぁ。死んでから200年、こんだけ鈍っちまった体なのによく気がついたね」

「纏う雰囲気がな……座り方も隙だらけのようでいて、その実まるで隙がない。生前はかなりの実力者とお見受けしたが?」

 

 緊張感は保ったままだが、ミイラ男に戦意がない事を確認してルークが剣を下ろしながらそう尋ねると、ミイラ男はポリポリと頭を掻きながらそれに答える。

 

「そんな大したもんじゃねぇーよ。おいちゃんは、リンゲル王ザーハードス6世に仕える親衛隊副隊長、バ・デロス・ガイアロードじゃ」

「親衛隊副隊長!? うわ、凄い人だ!」

「なんつー大層な名前だ。まあ、今はただのミイラだがな。がはは、情けない」

「そうか。この迷宮はリンゲル王のピラミッドを改造したんだったな……」

 

 リンゲル国。今から200年程前に滅んだ国だ。魔法大国のゼスと隣接した砂漠の中で栄えていた国であり、近隣諸国との関係も良好であったと文献には残されている。このピラミッドも、国の滅亡後に関係を築いていた近隣諸国がわざわざ建ててくれたものだという。埋葬されている死体も、王とそれに近しかった人間の遺体を集められるだけ集めて埋葬したものである。

 

「砂漠の真ん中にあったはずなんじゃが、いつの間にか地下におった。不思議な事もあるもんじゃ」

「あ、ごめんなさい。それは私たちが魔法で移動させたせいなの」

「ん? ほー、お嬢ちゃん若いのに凄い魔法を使えるんだのぉ……」

 

 ミイラ男が感心した様子でマリアを見据える。魔法大国ゼスと付き合いがあったため、ピラミッドの一角を丸々移動させる魔法がどれだけ凄い魔法なのかはしっかりと理解出来ている。

 

「あんな広大な砂漠の真ん中にあったのかい? リンゲル国ってのは、随分とへんぴな国だったんだねぇ……」

「うむ。相当な田舎国だったのだろう」

「広大? うんにゃ、小一時間も歩けば渡りきれるちっぽけな砂漠さね」

「はぁ? 死んでいる期間が長すぎてボケたのか?」

 

 ミイラ男の言葉に首を傾げるランスとミリ。ゼス北部位置するキナニ砂漠は、毎年多くの死亡者を出している広大な砂漠だからだ。だが、ルークとマリアの二人はガイアロードの言葉をしっかりと理解出来ていた。

 

「違うわよ、ランス。あの砂漠はね、昔はなかったの」

「へぇ、初耳だねぇ。そうなのかい?」

 

 ミリが腕組みをしながら問いかけてきたため、ルークはそれに答える。

 

「ああ。今から200年程前、ゼスとヘルマンの間で大規模な戦争があった」

「へぇ、相変わらず戦争吹っかける国だねぇ」

 

 大陸の北部に位置する大国、ヘルマン。寒波が激しく、人が生活するには多少厳しい環境であるその国は、古くから広大な大地を求めて近隣諸国へ戦争を吹っかけているのだ。その被害に最も遭っているのが、リーザス国である。元々ヘルマンから独立した国であり、現在ではかなり裕福な国である事からも、何かと因縁を付けられているのだ。

 

「それにしても、ゼスに喧嘩を売るのは珍しいんじゃないかい?」

「その頃のゼスは酷く衰退していたの」

「へぇ。そりゃあなんでだい?」

「数年前に魔人の襲撃を受けたばかりでな。国も人もボロボロの状態だったんだ。それをチャンスと踏んだヘルマンは、大軍を持ってゼスに侵攻。まともにぶつかっては勝てないと考えたゼスは、禁断とも言われた秘術を持ってそれに対抗した」

「禁断の秘術? 道行く美女が全員全裸になるような魔法か?」

「そんな魔法、ある訳ないでしょ!」

 

 ランスが茶々を入れてくるが、マリアがしっかりとそれにツッコミを入れてくれる。シィルのいる頃には無かった反応であり、今まではルークが担当しなければならなかった役回りだ。マリアのツッコミとしての重要性を確認しつつ、ルークは話を続ける。

 

「それが、砂漠化だ。ゼスは北部にあった広大な大地を秘術で砂漠化する事により、ヘルマンの目的であった大地を失わせると同時に、以後ヘルマン軍がゼスに侵攻するのを難しくさせたんだ。なにせ、ゼス中心部に攻め込むためにはその広大な砂漠を通らなきゃいけないんだからな」

「それがキナニ砂漠の始まりか。あんな砂漠、おいそれと横断する気にはならないね」

「その秘術を使う際に媒体となったのが、それより数年前に滅んでいたリンゲル国の砂漠だったと伝わっている」

 

 世界の中心部に位置するキナニ砂漠。専門の案内人なしに越えるのは自殺行為とも言われるほどの広大な砂漠の誕生には、こういった背景があった。ルークの説明にランスが鼻をほじり、ミリは納得したように頷くが、一番驚いた様子なのはミイラ男であった。

 

「あんれま! 今、砂漠はそんなことになっとんたんか」

「200年の間に世界は大きく変わっていますよ。そう、200年前には無かった新兵器がこのチューリ……」

「話が脱線するから黙ってような」

「むぐっ……」

 

 マリアが目をキラキラと輝かせながらチューリップを掲げようとするが、その口をミリが後ろから抑える。元々カスタムの住人であるためマリアと付き合いがあったからか、その扱いはかなり手慣れた調子であった。

 

「200年か。言われてみりゃ長いもんじゃ。あの時代が懐かしいわい。アホな隊長とノー天気な部下に挟まれた日々は大変じゃったが、楽しかったなぁ……モエモエ国の行方不明だった騎士隊長はその後見つかったんだろうか……娘のリスガドールはどうしとるかのう……」

 

 昔を懐かしみ、遠い目をするミイラ男。ゼスとヘルマンの戦争から三年前、平和な国であったリンゲル国を突如悲劇が襲ったのだ。ソレは無抵抗な民を虐殺した。ソレは抵抗する親衛隊を全滅させた。ソレはわずか二日で国を滅ぼした。

 

「200年も前じゃ、騎士隊長も娘もとっくにじじぃばばぁになって死んでいるだろうが!」

「それもそうか、はっはっは!」

 

 ランスに苦言を呈されながらも、ミイラ男は楽しそうに笑う。どうやら人間と会ったのは久しぶりの出来事らしく、話を聞いて貰える事がかなり嬉しかったようだ。

 

「それよりも、ミルという娘を捜しているんだが、何か心当たりは無いか?」

「ミル? その娘かどうかは判らんが、四つ目のワープ装置の先で娘の話し声が最近よくするぞい。その部屋はこの部屋と壁挟んだ隣でな。それなりの大きさで話していると、ここまで声が響くんじゃよ」

「……誰と話しているんだろう? ランかしら……」

「幻獣かもしれねぇな。あいつにとっちゃ、良い遊び相手だしな」

 

 マリアとミリがミルの話し相手を分析する。そのどちらも当たっている辺り、流石は同門と実姉であると言えよう。

 

「で、貴様は四つ目のワープ装置を起動させる方法を知っているのか?」

「勿論。ワープコードは、鏡の前でレズ行為じゃ」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 想像以上にえぐいワープコードに絶叫するマリア。それとは対照的に、何故かウキウキとしだすミリ。

 

「おっ、それは俺の出番でもあるな。頑張ろうぜ、マリア」

「なんで張り切っているんですか!?」

「そりゃま、俺は男も女もいけるクチだからな……ふふ、楽しみだねぇ」

「し、知らなかった……!?」

 

 ミリの性癖を知らなかったマリアが絶句していると、ランスがだらしなく歪みきった顔をキリリと引き締めながら口を開く。

 

「がはは、楽しみ……いや、町の平和のためだ、仕方ない行為なのだ。じゅるり」

「もういや……なんで私ばっかりがこんな目に……」

「マリア、前向きに考えろ。三回で済んで良かったじゃないか!」

「全然良くありません!!」

 

 ルークの精一杯のフォローが空振りに終わる。ランスとミリは既に行為を想像しているのか、ランスの表情はまたもだらしなくなり、ミリの表情は妖艶なものになっていた。

 

「情報感謝する。暫くしたら必ず元の場所に戻すから、少し待っていてくれ」

「おお、ちょっと待った。これを持ってけ」

 

 部屋を後にしようとするルークたちを呼び止め、ミイラ男は何かを放り投げてくる。ルークがそれを受け取ると、投げられたそれは剣であった。王の棺同様、高そうな装飾が施されているが、その装飾は武器を振る邪魔にはならない位置をしっかりと考えて配置されていた。剣の斬れ味はそこそこといった印象だが、言葉では説明しにくい異質の何かをルークは感じ取っていた

 

「それはおいちゃんが生前使っていた愛剣、幻獣の剣だ。一緒に棺に納められていたんだ。あんたらが使ってくれ」

「いいのか?」

「このままここで腐っているよりマシってもんじゃよ」

 

 ミイラ男がそう明るく答える中、ランスがズカズカとルークに近寄ってくる。

 

「がはははは! ルーク、俺様に寄越せ!」

「お前はこの間新しい剣を買ったばかりだろうが。しかも人の金で!」

「はっはっは、誰が使ってくれても構わんね。おいちゃん、あんたらが気に入ったからな。やる」

「豪快なおっさんだねぇ。でも、そういうの嫌いじゃないよ。貰えるもんは貰っておこうぜ。まあ、俺はルーのアリスソードがあるからいらないけどな」

 

 ミリはあのまま仲間の使っていた愛剣を使い続けていた。手に馴染むというのもあるが、それ以上にこれを使っていると今も仲間たちと一緒に戦っている気になれるからだ。

 

「さて、行こうぜ」

「うぅ……鏡の間……嫌だな……」

「すまない。大事に使わせて貰う」

 

 ミルがいるであろう部屋への行き方を教わったルークたちはその事を感謝しつつ、早急にミルを救うべく部屋を後にしようとする。まずはランスが部屋から出て行き、鏡の間へ向かうのを渋っているマリアをミリが引きずっていく。最後に残ったルークがもう一度剣の礼を言って部屋から出て行こうとするが、ミイラ男がポツリと呟いた一言が耳に入りその歩みを止める。

 

「……今、なんて?」

「ああ、聞こえてたんかい。そりゃ申し訳ねぇ。あんた……ケイブリスって……知っているかい……?」

 

 ケイブリスダーク。その事件は、今より200年前にゼスに侵攻した魔人、ケイブリスの名前を取ってそう呼ばれている。多くの人間が虐殺された地獄の三ヶ月。ゼスと隣接していたリンゲル国も、この事件の際に魔人ケイブリスの手によって滅ぼされたのだ。

 

「……ああ、知っている。見たことはないが、かつて何度も聞いた名前だ……」

「そうかい……あれに出会っちゃいけねぇ、ありゃ化け物だ……おっちゃんもちょっとは腕に覚えがあったが……一分も持たなかったよ……ははっ……」

 

 リンゲル国親衛隊副隊長であったガイアロードは、国へと攻め込んできたケイブリスに果敢に勝負を挑んだ。だが、それは勝負とは呼べない代物。一方的な蹂躙により親衛隊は壊滅。ガイアロード自身も、まるで相手にされないまま虐殺されたのだ。200年経った今でもあのときの恐怖が魂に刻み込まれている。

 

「そうか……だが会うなというのは無理な話だな……」

「ん? そいつはどういうことだんね?」

 

 ルークは一瞬だけ振り返り、静かに笑う。それは、己が身に過ぎたる事を言うことへの自嘲か、あるいはもっと別の何かか。

 

「いずれ、必ず戦わねばならない相手だ。あんたのその無念、俺がこの剣と共に持って行く」

「戦う……? 魔人と……?」

 

 幻獣の剣を掲げながら部屋を後にするルーク。その目に見据えるものの正体を、ミイラ男には最後まで読み取る事が出来なかった。

 

 




[人物]
ミリ・ヨークス
LV 15/28
技能 剣戦闘LV1
 ミル・ヨークスの姉。腕の確かな女剣士で、Hの腕はそれ以上。その性豪ぶりは異常であり、ランスがヤルのを躊躇う数少ない女性の一人。町を沈めた妹にその責任を取らせるため、仲間たちと共に迷宮に潜っていた。また、自身もまだ気が付いていないが、重い病を患っている。

バ・デロス・ガイアロード
LV 25/33 (生前)
技能 剣戦闘LV1
 リンゲル国親衛隊副隊長。平和な国、尊敬できる王、信頼できる仲間、美人の妻と愛娘、その全てを魔人ケイブリスに奪われた。現在はピラミッドの中でミイラとして暮らしている。この生活もそれなりに気に入ってはいるようだ。

ルー (オリモブ)
 ミリの仲間の女戦士。迷宮探索中に戦死。ミリとは三人の中でも一番性格が合い、飲み友達でもあった。ミリが持っているアリスソードは彼女の愛剣である。名前はアリスソフト作品の「DALK」より。

チョルラ (オリモブ)
 ミリの仲間の女戦士。迷宮探索中に戦死。ミリ、ルーと共によく一晩中飲み明かしていた。名前はアリスソフト作品の「DALK」より。

アリーヌ (オリモブ)
 ミリの仲間の女戦士。迷宮探索中に戦死。普段から飲み過ぎな三人に頭を抱えていた苦労人。名前はアリスソフト作品の「DALK」より。


[モンスター]
こかとりす
 鳥系モンスター。肉の味が絶品で、冒険者によく狙われている。ランスの好物であるへんでろぱの材料でもある。

こんにちわ
 顔が三つある球体のモンスター。怨念が深いと、倒された際こんばんわというモンスターとして復活することがある。

ラーカイム
 ヤドカリに似たモンスター。岩を背負い、鋭いハサミを持っている。意味も無く岩を押している姿をたびたび目撃されているが、その真意は不明。

グリーンスライム
 緑のねばねばしたモンスター。物理攻撃を無効化する。

拷問戦士
 女の子の拷問を生き甲斐とする残忍な戦士。剣の他に雷撃などの魔法も使用してくる強敵であり、シィルの援護付きとはいえこれを倒せる時点でバードの実力はそれなりに高い。水の彫像戦も、もう少しまともな援護があったのならば勝てたのかもしれない。


[技]
ファイヤーレーザー
 両手から追尾能力のある高熱光線を放つ炎系上級魔法。ある程度の才能がなければ使用することが出来ない強力な魔法である。


[装備品]
ロングソード
 ごく一般的な剣。値段の割にはそこそこ攻撃力もあるため、とりあえずこれを装備している冒険者も多い。

アリスソード
 柄に女神アリスをモチーフにした紋章が飾られている剣。攻撃力は高いが見た目以上に軽く、力のない魔法使いや神官でも装備可能。ミリが今は亡き友から譲り受けた愛剣でもある。


[都市]
リンゲル国
 自由都市。近隣諸国と良好な関係を築いており、特にゼスやモエモエ国との親交が深かった。200年ほど前、魔人ケイブリスによって二日で滅ぼされる。


[その他]
GI0802 魔人の後押しを受けゼス建国 モエモエ国騎士隊長、行方不明に
GI0808 モエモエ国、ゼスに併合され滅びる
GI0813 ケイブリスダーク発生 リンゲル国滅びる
GI0816 ゼスヘルマン戦争勃発 キナニ砂漠が誕生
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