ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第4.2章 お薬工場を救え!/エンジェル組
第114話 お薬工場からの依頼


 

LP0002 10月

-アイスの町 ランス宅-

 

 闘神都市の戦いが終わって早二ヶ月。元の生活に戻りつつあったランスとシィルであったが、幸せそうな表情のシィルとは対照的にランスは不満顔であった。

 

「シィル。俺様の知らない間に世界の物価は急上昇したのか?」

「いえ、ランス様。物価はまるで変わっていません」

「では何故金がないんだぁぁぁ!」

 

 シィルの返事を聞いたランスがドタバタと暴れ始める。目の前にあった机を蹴りで叩き壊し、タンスを正義の鉄拳で破壊する。

 

「あーん、ランス様! 暴れないでください」

「馬鹿者。俺様が破壊した物は、後でお前が掃除して新しい物を買い直せば済む事だろうが!」

「ひんひん……でも、そのお金がないんですぅ……」

 

 止めに入ったシィルの頭をポカリと殴り、理不尽な事を言ってのけるランス。だが、それをする金が無いからランスは暴れていたのだ。堂々巡りである。この二ヶ月でランスはすっかり元の自堕落な生活に戻っていた。キースに文句を言われているにも関わらず、仕事をする気はゼロ。当然収入は無く、こうして来るところまで来てしまった次第だ。

 

「ランス様、もうちょっと、その、普通の人と同じくらいの生活を送ってくだされば……」

「馬鹿者。英雄である俺様が一般庶民と同じ生活など出来るか!」

「ランス様ぁ……」

 

 シィルが泣きそうな顔でランスを見上げてくる。因みに、今シィルは内職をしている。内職の定番、折り薔薇だ。興味深げにしながらランスはシィルが手に持つ薔薇を見る。

 

「……シィル、その仕事はいくら入るんだ?」

「はい。200GOLDです」

「にひゃくごーるどぉ? そんなはした金では、飲みにも行けんではないか!」

 

 またバタバタと暴れ出すランスを必死に抑えるシィル。そのシィルを振り払おうとするランスだったが、突如名案が浮かんだとばかりに表情を変える。

 

「そうだ! リアに金を工面して貰えば……」

「ランス様。先日届いたお手紙が……」

「ぐっ、そうだった……」

 

 ランスが先日リーザスから届いた手紙の内容を思い出し、一気に表情を落とす。それはリアからの文句の手紙であった。闘神都市へ救助部隊を派遣したにも関わらず、ランスからはご苦労の一言、それもかなみ伝いである。同じく救助して貰ったルークはわざわざ礼に来た事を考えれば、リアが不機嫌になるのも無理はない。

 

「ダーリンのばかばかばか、大嫌い。もうダーリンなんか知らない。と、言いたいところだけど、ダーリンがリアと結婚してくれるなら許してあげ……」

「わざわざそんな気の滅入る物を読み直すな、馬鹿者!」

 

 いつの間にかリアから来た手紙を手に持ち、口に出して読み直していたシィルの頭をポカリと殴るランス。今リアを頼ったら、以前の誘拐事件の時のように結婚しろと追い回される事だろう。それは非常に面倒だ。

 

「うーむ……そうだ、ルークだ! 俺様のナイスな財布係!」

「ルークさんは今仕事で町を離れているみたいです。回覧板を届けに行ったらお留守でした」

「なにぃ!? あいつ、この大事な時に……では、カスタムだ。ランをちょっと突いてやれば金くらい……」

「こちら、ロゼさんからの手紙です」

 

 シィルが申し訳なさそうにランスに手紙を差し出す。それは先日、ロゼから届いた手紙。ロゼの事が苦手なランスはそれを読んでおらず、届くや否やシィルに放ってあったものだ。ロゼと聞いて一瞬身構えるランスだったが、渋々受け取った手紙に目を通す。

 

「なになに、ランスが金の事で騒ぎ出したら読ませる事。普通に遊びに来るなら志津香以外の住民は歓迎するけど、ランスに貸すお金はないんで悪しからず……えぇい、シィル、仕度をしろ! 今からカスタムに乗り込むぞ!」

「ランス様、裏を……」

「ん?」

 

 ランスお断りというコミカルな看板イラストがわざわざ描いてある事に怒りを覚え、ランスが立ち上がってカスタムに出発しようとするが、シィルが手紙の裏を読むように示唆してくる。それに従い手紙を裏返すランス。

 

「もし乗り込んできたら、多分ランが手首切って自殺するから。こう、バッサリ、ブシャーって感じで……生々しいわ!」

 

 裏面に書いてあった内容を読んでランスが怒鳴り声を上げる。何故だか判らないが、その光景がまざまざと想像出来てしまい、カスタムに乗り込む気が一気に失せてしまったのだ。

 

「だからあいつは苦手なんだ! えぇい、忌々しい!!」

 

 ロゼからの手紙を破り捨てるランス。ミリ以上に苦手な相手であり、天敵と言っても過言では無い。

 

「他に金を工面出来そうなのは……ゼスの下僕共だ!」

「ランス様……あちらの方々は殆どルークさんのお知り合いで、どなたの連絡先も知りません」

「えぇい、使えん! セルさんは……駄目だ、説教が飛んでくる。闘神都市の連中は……遠すぎて行く気にならん。他に金を差し出してくれそうな相手は……」

 

 ランスが金を工面してくれそうな知り合いの顔を思い浮かべる。パルプテンクスの顔が浮かぶが、彼女はリーザス城下町にいるため却下。リアに見つかる可能性が高すぎる。次いで浮かんだのがリス&ローラ夫妻。あの二人から金を巻き上げようとも思ったが、彼らは今新婚旅行中であった。因みに先日行われた結婚式にはルークは出席、ランスは寝坊し、シィルもそれに巻き込まれて欠席という有様であった。その状況にリスは残念そうにし、ローラはこれ以上ないほどの清々しい笑顔であったらしい。そして最後に、赤い髪の武闘家の姿が浮かぶ。

 

「……誰だ、こいつは?」

 

 だが、すぐにその顔が四散する。ランスの記憶にアレキサンダーという名前は無かった。解放戦、闘神都市と共に戦い抜き、香澄の寝言を聞いた際には足蹴にしたというのに、あんまりな話である。

 

「仕方ない、働くか。キースギルドに行って仕事を見てくる」

「それがいいです、ランス様!」

 

 至極当然の事を最後の手段であるかのように言ってのけるランス。色々と残念な思想である。その言葉を聞いてパッと明るくなるシィル。よっぽどランスが働いてくれる事が嬉しいのだろう。普段の冒険の際には家に帰ろうと言葉にするシィルだが、やはりランスが働かないと生活は苦しい。いや、慎ましい生活を送っていれば十分食べていけるのだが、ランスの辞書に慎ましい生活など載っていない。

 

「それでは、私は準備をして待っていますね」

「……いや、お前は留守番だ」

「えっ?」

「花でも折って留守番していろ」

 

 うきうきと準備を始めようとするシィルだったが、それをランスに止められる。てっきり連れて行って貰えるとばかり思っていたシィルは呆気に取られてしまう。

 

「そんなぁ……ランス様、連れて行って下さい」

「駄目だ。また死なれたりしたら困……迷惑だからな。今回の冒険にはあてなを連れて行く」

「はーい、あてな頑張るのれす!」

 

 ランスの言葉を待っていたとばかりに、奥の部屋からあてな2号がやってくる。

 

「という訳で、お前は留守番だ。行くぞ、あてな」

「くるくるー、はいなのれす」

「ランス様ぁ……」

 

 あてなを引き連れて出て行ってしまうランスとあてな。その背中を寂しそうに見送るシィルだったが、出て行ったと思ったランスが戻ってきて扉から顔を覗かせる。

 

「俺様のいない間に他の男といちゃついたら、タダではおかんぞ」

「そんな事はしません」

「……ふん」

 

 こうしてランスは家を後にし、キースギルドへと向かう。その周りをくるくると回りながら歩くあてなだったが、ランスの持っている剣がいつもと違う事に気が付く。

 

「あれ? ご主人様、剣が違うのれすよ?」

「ああ、こいつか。これは闘神都市の脱出のドサクサで拾ってきた剣だ。黄金の剣はとっくに売った。黄金だから高く売れたぞ、がはは!」

「がはは、なのれす!」

 

 ランスが手に持っていたのは闘神都市で使っていた黄金の剣ではなく、氷山の剣と呼ばれる魔法剣であった。闘神都市の脱出の際、ルークと合流前に発見し、火事場泥棒的に頂いてきた代物だ。キースギルドに到着したランスは、扉を開けるや否や大声で叫ぶ。

 

「キース! 金払いの良い楽な仕事を教えろ! 寝ているだけでも金の入る仕事だ!」

「んなもんあったら、俺がやってるわ! ……ん、シィルちゃんはどうした?」

「あいつは足手まといだから留守番だ」

「……ふーん、珍しい事もあったもんだ」

 

 闘神都市でシィルが死にかけた事を知らないキースは不思議そうにしている。そのまま話を続け、ランスにとある仕事を依頼する事になる。成功報酬15万GOLDという破格の仕事。薬市場の50パーセントを占める大企業、ハピネス製薬からの依頼である。適当に準備を済ませ、即日出発していったランスとあてな。それを悲しげな瞳で見送る影が一つ。

 

「ひんひん……ランス様……」

 

 ランスが町を立った後も、シィルは一人部屋で泣いていた。思えば冒険中に離れる事はあっても、こうして置いていかれたのは初めての事である。

 

「闘神都市の一件で、私なんてもう必要無いと思われてしまったのでしょうか……側にいたいです……側にいさせて下さい、ランス様ぁ……」

 

 シィルの不安が膨らむ。ここまでシィルがネガティブになったのは、かつてカスタムの事件の際、マリアと戦った後以来かも知れない。あの時はルークに悩みを聞いて貰って少しは楽になったが、今はそのような話をする相手もいない。シィルが一人悲しみに暮れていると、家の扉がノックされる。まさかランスが帰ってきたのかとシィルは淡い期待を抱き、すぐさま駆けていって扉を開ける。だが、そこに立っていたのはランスではなく、普段からお世話になっているギルド長であった。

 

「キースさん……?」

 

 キースがニッと笑い、とある物を差し出してくる。それは、ピンク色の蝶型メガネであった。

 

 

 

-三日後 ハピネス製薬 社長室-

 

「という訳で、地下のモンスターを退治して欲しいのです」

「うむ。英雄である俺様には簡単すぎる依頼だな」

「依頼だな、なのれす」

 

 アイスの町を旅立ってから三日後、ランスはハピネス製薬の社長室のソファーにふんぞり返っていた。そのランスに仕事の説明をする小太りメガネの中年男。この男こそ、大企業ハピネス製薬の社長、ドハラス・ハピネスである。見た目はどこにでもいる中年親父であり、威厳というものはまるでない。

 

「気を付けてくださいね。これまで多くの冒険者が……」

「なぁに、そいつらはただの雑魚だ」

 

 今から二週間ほど前、ハピネス製薬の工場地下に突如地下洞窟が出来た。更にそこからモンスターが大量発生し、工場で働く職員を襲ったのだ。なんとか工場と洞窟を繋ぐ穴は封鎖したものの、またいつモンスターが現れるか判らない事による不安から、職員の作業能率は目に見えて落ちていた。そこで、モンスターが発生している原因を突き止め、それを取り除いて欲しいというのが今回の依頼だ。成功報酬は破格の15万GOLD。但し、これは成功した冒険者によって総取りされる。失敗すればただ働きだ。これまでランスたちを含め8組の冒険者がこの仕事を受けたが、既に4組の冒険者がモンスターに敗れ、帰らぬ人となっている。

 

「可哀想に。この俺様が受けたからには、他の冒険者はただ働き決定だ、がはは!」

「がはは!」

「それでは俺様は行くぞ! 早い者勝ちの仕事だからな」

「あ、ちょっと待ってください!」

 

 部屋から出て行こうとするランスを引き留めるドハラス社長。

 

「洞窟内のモンスターの事やその他諸々の情報は、警備隊長のコナン課長に聞いて下さい」

「男か?」

「はい。立派な戦士な上、仕事も真面目で頼りにしております」

「社長さん、一つ冒険者として大事な忠告しておいてやろう」

「ゴクリ……な、なんでしょうか?」

 

 急に真剣な表情になったランスを見てドハラスが息を呑む。これが本物の冒険者の顔つきなのかと思い、それまでランスに抱いていた評価を一変させる。ドハラスの頬を自然と汗が伝う中、ランスがゆっくりと口を開いた。

 

「警備隊長は美女にするべきだ」

「(……大丈夫か、この人?)」

 

 キースギルドはリーザス解放戦の英雄が所属する事もあり、最近では業界でも注目を集めている。だが、そのギルドから来たのがこのような男ではドハラスも気が気でない。内心では、キースギルドに依頼をしたのは失敗だったかと首を捻るのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 廊下-

 

「えぇい、あのコナンとかいう警備隊長、いつか簀巻きにしてわんわんの餌にしてやる」

「それは美味しそうなのれす」

 

 ランスが腹を立てながら廊下を歩く。社長の忠告通り、警備隊長のコナンという男にあったのだが、これがまた堅物。そもそも警備隊である自分たちを差し置いて冒険者を雇っている事が気に入らないらしく、非常に適当な対応をされたのだ。大した情報も手に入れられず、その場で叩っ斬ってやろうかと真剣に悩んだが、流石に自重した。成果を上げた後ならまだしも、現段階で警備隊長を、それも会社の中で殺すのはよろしくない。

 

「とりあえず、適当な理由をつけて洞窟に呼び出すか。そこで後ろから……」

「ちょっと、そこの人。ここから先は立ち入り禁止です!」

 

 ぶつぶつと言いながらランスが歩いていると、目の前に女性の警備員が立ちふさがる。ランスがその容姿を覗き込む。評価は中の下。不細工ではないが、相当飢えてでもいない限りランスが手を出すほどではない。普段であればそれなりに優しく対応するところだが、今のランスは虫の居所が悪かった。

 

「邪魔だ!」

「きゃっ!?」

 

 いきなり警備員の女性に足払いを放つランス。女性は勢いよく倒れ、そのまま気絶してしまう。そのままズカズカと立ち入り禁止エリアへと進んでいくランス。普段であればシィルが怒りを宥めていてくれる頃だが、そのシィルは今いない。その為、いつも以上に傍若無人な振る舞いを行っているのだ。

 

「警備員がいたくらいだから、何か金目の物があるはずだ」

「おぉー、ご主人様、人が一杯いるのれす」

 

 あてながとある部屋を覗き込みながらそう口にする。ランスもそれに続き、部屋の中を覗き込む。そこには、研究者と思われる者たちが大勢いた。

 

「第1研究室と第2研究室……なるほど、ここで薬の開発をしている訳か」

 

 左手側にあるのが第1研究室、それと向かい合うようにしてあるのが第2研究室。まずは第1研究室を覗き込むランス。

 

「うーむ、男ばかりだな。中の中、中の下、下の中、下の下……女も不細工が多い」

「ご主人様、子供がいるのれす」

 

 研究室の中では職員が急がそうに動き回っている。そんな中、あてなは研究室の中に子供の姿を発見する。ランスもそちらを見てみると、あてなが口にした通り、大人たちの中心には青い髪の少年が立っていた。

 

「なんだ? ハピネス製薬は子供を働かせているのか? 敗戦国じゃあるまいし、けしからん」

「ご主人様、あてなも子供れすよ」

「人工生命体は関係無い。ふん、つまらんな。次だ、次」

 

 美女がいなかった為、第1研究室には入ろうともせず、向かいの第2研究室を覗き込むランス。第1研究室同様、職員が忙しなく動いている。その殆どが男性職員であったが、その者たちに指示を出しながら忙しそうにしている女性が目に止まる。

 

「むっ!? あれは中々……」

 

 ランスが目に止まったのは、メガネをかけた三つ編みの美女。その女性に部下の男が話しかけている。スッと聞き耳を立てるランス。

 

「ローズ室長、また失敗しました。こちらの配合は、やはりレキポポでは駄目なのでは?」

「諦めちゃ駄目よ、山田君! 研究というのは失敗の繰り返しなんだから。レキポポの量を30パーセント落として、その代わりに砂糖を5パーセント上げて」

「はい!」

 

 何やら難しい話をしており、その内容はランスやあてなには理解出来ない。

 

「うーむ、何を言っているか判らんが、あのローズさんは気に入ったぞ。仕事をしている女は凛々しくて良い。これはお近づきにならねば……」

 

 そう口にしたランスは静かに第2研究室の扉を開け、中に入っていく。何人かの研究員からは何事かという視線を受けるが、肝心のローズには気が付かれていない。そのまま後ろに回り込み、白衣の上から尻をなで回す。

 

「きゃっ!? な、何なんですか?」

「やあ、こんにちは。俺様はランスだ」

「ふふふ、あてな2号なのれす」

 

 尻を触った直後だというのに、何故か決め顔のランスとあてな。ローズもそのような返しをされるとは思っていなかったようで、呆然としている。そこに、先程までローズと話していた部下の山田が駆けてくる。

 

「お、お前! ローズ室長のお尻に……」

「ランスキィィック!!」

 

 速攻でヤクザキックを放つランス。そのまま山田の体は跳ね飛ばされ、壁に激突して気絶してしまう。警備員にした足払いとの差は、男女の差という事だろう。いきなりの事態に騒然とする研究室内。

 

「だ、誰なんですか!? 早く出て行って下さい! これ以上暴れると警備の者を……」

「俺様は、偉大な冒険者のランス様だ」

「……え? 冒険者の方?」

「うむ。モンスターの退治に来てやったのだ」

「……あれは工場の方の事件なので、研究室は関係無いと思うのですが」

「素人は黙っていなさい。ここはプロの仕事だ。俺様のプロの勘が、研究室を調べるべきだと言っているのだ」

 

 訝しげにしているローズにそう断言するランス。勿論、口から出任せである。ローズも怪しんでいたが、ランスという名前の冒険者が実際に依頼を受けている事を確認してきた部下から報告を貰い、一応調査という事を信用する。となれば、協力しない訳にもいかない。

 

「で、君がここの責任者だな?」

「はい。第2研究室室長のローズと言います」

「うむ、おっと手が滑った!」

「きゃっ!」

 

 挨拶早々、いきなりローズの胸を鷲づかみにするランス。ローズが顔を赤らめながら後ろに飛びずさる。

 

「や、止めて下さい……」

「がはは、赤くなるローズさんも可愛いぞ」

「……もう、私がブスだからってあまりからかわないで下さい」

「へっ?」

 

 ローズの発言に呆けるランス。ローズは誰が見ても美人の部類に入る女性だ。マリアやメリムに大人の色気を纏わせたような姿とも言うべきか、とにかくランスには今の言葉が理解出来なかった。

 

「あまり年上をからかわないで下さい。冗談は嫌いです」

「いや、冗談では……まあいいいか。それでは色々と質問させて貰うぞ。調査に関わる大事な質問だ」

「はい!」

 

 ランスの言葉に張り切るローズだったが、すぐさまその顔に後悔の色が浮かぶ。

 

「スリーサイズは? 好きな体位は? そもそも処女か?」

「そ、それのどこが調査に関係のある質問なんですか!?」

「がはははは! 非常に重要な質問なのだ! 早く答えないと、他の職員にある事無い事言いふらしてしまうぞ」

「うぅ……」

 

 メリムに通じる弄りやすさに生き生きとし出すランス。だが、ランスがこのように遊んでいる間にも、生き残っている三組の冒険者たちは迷宮探索を続けていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 YY地点-

 

「ふう……中々手強いモンスターが多い迷宮だ。怪我は無いかい?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 焚き火の前で暖を取る二人の冒険者。美男美女のコンビだが、心なしか心配しているはずの男冒険者の方が傷を負っている。彼が極力前に出ていたのであればそれも頷けるが、ここまで倒したモンスターの数は女性の方が倍近く多い。だが、それを突っ込む事もなく、女冒険者の方は柔らかい笑みを男に向けていた。

 

「安心してくれて良い。何があっても、君は僕が守り抜く」

「ありがとう。頼りにしています」

 

 グッと拳を握りしめながらハッキリと口にする男冒険者。脳裏に浮かぶのは、かつて自分に道を示してくれたある男の姿。

 

『強くなるまでは女を連れるのは止めておけ。守る力もないのに弱い者を巻き込むのは……罪だ。これから先、そういった覚悟のない女性と共に冒険をするつもりなら、命がけで守れ。』

「(確かに昔の僕は弱かった。だけど、今は違う。力のない女性を守る事が出来る。だからこうして、女性と旅をしても良いんですよね、ルークさん!)」

 

 色々とギミックの付いた義手を触りながら、地下洞窟の天井を仰ぐ男冒険者。かつてルークに道を示されたその男は、かなり自分勝手な解釈の下に突き進んでしまっていた。その強い決心は、女冒険者の方が多くのモンスターを倒している時点で色々と台無しであった。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 X地点-

 

「南無三!」

「ガッデムー……」

 

 大きな発声と共に僧兵から繰り出された鉄拳がカーペンターに命中し、そのまま絶命する。

 

「ふむ、参った……」

 

 そう呟く僧兵。坊主頭の頭頂には特徴的な斬り傷があり、どことなく卑猥な物を連想させる形となっている。ペチン、と自身の頭を叩き、僧兵が豪快に笑い飛ばす。

 

「ちっとも調査が進まんでござる。ははは!」

 

 彼が二組目の冒険者である。陽気な笑いとは裏腹に、その周りにはモンスターが大量に倒れていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 地下迷宮 ZZ地点-

 

「良い? ちょっと死にすぎて怪しまれているから、少し抑えめにする事。下手に冒険者を増員されたら困るからね」

「あいやー。判ったー」

 

 緑色の髪に特徴的なクマの髪留めをしている女冒険者。彼女が残った最後の冒険者である。だが、どこか様子がおかしい。モンスターを退治するはずの彼女が、何故かグリーンハニーに何か指示を出しているのだ。

 

「ふふふ……」

 

 これがランス以外の冒険者面々である。一癖も二癖もありそうな連中であり、この事件が簡単には終わらないであろう事を示唆していた。

 

 

 

-ハピネス製薬 2階 食堂-

 

「ちっ。来客があるとかでローズさんに逃げられてしまった」

「うどぉぉぉん!! うどん、うどん、カレーうどん! うどーん、かれー、るる。るるのるー、ららー」

「うるさい、踊るな」

 

 ランスがカレールーとうどんを合わせてカレーうどんを作っている横で、あてなが異常に興奮している。カレーうどんの歌なる謎の歌を口ずさみ、小躍りしているのだ。それを咎めながら、ランスは先程そそくさと逃げて行ったローズの事を思い出す。

 

「ふん。タイミングの悪い来客だ。もし会ったら、俺様の剣の錆にしてくれるわ」

「斬ってこねてカレーうどんの肉にしてやるのれす。あ、でも、カレーうどんは肉なしが美味しいのれす」

 

 グッと二人して拳を握りしめるランスとあてな。なんだかんだで息は合っている。先の3組にランスたちを加えた総勢4組が、現在生き残っている冒険者パーティーだ。だが、もう1組。依頼を受けている正式な冒険者ではないが、もう1組だけハピネス製薬には冒険者が訪れている。それこそが、ローズの言っていた来客者である。

 

 

 

-ハピネス製薬 3階 来客室-

 

「ごめんなさい、待たせてしまったわよね」

「大丈夫ですよ。お久しぶりです、ローズさん」

「久しぶりね、エムサさん。数ヶ月音信不通だったから、心配したのよ」

 

 ランスによって思わぬ足止めを食ってしまったローズは、研究を少しの間部下に任せ、急いで来客室へやってくる。部屋の中には二人の冒険者。だが、地下迷宮の依頼を受けにきた訳では無い。ローズの知人でもある女冒険者のエムサ・ラインドに、前々から頼まれていた薬を渡す約束であったのだ。本来ならもっと前に完成していたのだが、冒険者であるエムサは数ヶ月ほど音信不通になっており、ここまで伸びてしまっていたのだ。

 

「少しトラブルがありまして、ご心配をおかけしました」

「無事で何よりだわ。それで、そちらの方が……?」

「ええ、ご存じですよね?」

「勿論。新聞で読んだわ」

 

 ローズが視線を奥の男に向ける。黒髪に漆黒の剣。それは、少し前に新聞で読んだ、今リーザス及びその周辺の自由都市で話題の冒険者である。ゆっくりと男がこちらに近づいてきて、口を開く。

 

「わざわざ時間を作っていただき感謝する。ルーク・グラントだ」

「会えて光栄です。私はハピネス製薬第二研究室室長のローズと言います。後で社長のドハラスや警備隊長のコナンも挨拶に伺うと言っておりました」

「完全な私用なのに、わざわざご足労頂くのも申し訳無いな……」

「いいんですよ」

 

 軽く握手をして挨拶を交わすルークとローズ。これで今回の事件に関わる冒険者が全て出揃う。いや、正確にはもう一人。

 

 

 

-ハピネス製薬近辺 街道-

 

「はぁ……はぁ……ランス様、今参ります!」

 

 街道をピンクのもこもこが駆けていく。その素顔は特徴的なピンク色の蝶型メガネに隠されており、誰だか全く判らない。判らないったら、判らない。

 

 




[人物]
ランス (4.X)
LV 32/∞
技能 剣戦闘LV2 盾防御LV1 冒険LV1
 鬼畜冒険者。今回の冒険ではストッパーのシィルや、適度に気を逸らさせるルークが不在のため、いつも以上に傍若無人な振る舞いを行っている。闘神都市での冒険からそれ程立っていないため、レベルはまだそれなりに高い。

シィル・プライン (4.X)
LV 25/75
技能 魔法LV1 神魔法LV1
 ランスのパートナー。闘神都市で死にかけたのがランスの頭に残っており、今回は留守番。そのため、出番は殆ど無い。

あてな2号 (4.X)
LV 1/1
技能 弓戦闘LV1 ラーニングLV1
 フロストバインと真知子が協力して生み出した人工生命体。シィルが留守番のため、今回のパートナーを務める。普段は無駄飯食らいだが、高い戦闘力にマッピング機能等も備えているため、冒険では非常に役に立つ。

キース・ゴールド (4.X)
 キースギルドのギルド長。今回の冒険にシィルを連れて行かない事を聞き、色々と悪巧みをしている。

ドハラス・ハピネス
 ハピネス製薬社長。彼が世に送り出した世色癌は多くの冒険者に評価され、その名を大陸中、果てはJAPANにまで知らしめた凄いお人。だが、本人はその名声に増長する事無く、今なお新薬の研究に取り組んでいる。

ローズ
 ハピネス製薬第二研究室室長。メガネ美人であり、ランスに目を付けられる。エムサとは友人関係にある。


[モンスター]
カーペンター
 騎士風の装備で身を固めたモンスター。地味ながらも手強い敵であり、駆け出しの冒険者が殺されることも多い。


[装備品]
氷山の剣
 ランスが闘神都市から脱出する際に拾っていた剣。かつて聖魔教団が世に放った魔法剣であり、現存する本数が少なく、レア武器として認定されている。因みにアームズは既にゲット済み。


[その他]
ハピネス製薬
 製薬会社のトップに君臨する大企業。設立されたのは僅か8年前のGI1009年だが、売り出された世色癌はたちまち大ヒット。冒険者に広く愛用されている他、医療面などからもその功績が称えられており、今では薬市場の50パーセントを占める程にまでなっている。

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