ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第121話 急襲、うさぎさんチーム

 

-ハピネス製薬 5階 社長室-

 

「流石はランスさん! あの高名なキースギルドのエースなだけあります。本当にありがとうございました!」

「がはははは! 当然だ、俺様はこの無能なバカ共とは違うからな」

「くっ……」

「はっはっは、耳が痛いでござるな」

 

 社長室には生き残っている冒険者である、ランス、あてな、バード、キサラ、言裏、エムサの六人が集まっている。というのも、ランスが召喚ちゃんを倒して今回の依頼を解決したと報告したからだ。その報告を受けてコナンとコンタマが確認したところ、本当に迷宮からモンスターが現れなくなっていたのだ。ドハラス社長が感激しているのを見ながら、ランスはバードと言裏を見下して勝ち誇る。適当に笑って流す言裏とは対照的に、バードは非常に悔しそうな顔をしている。

 

「これで私共も無事に工場の運転を再開する事が出来ます。それでは、これが約束の報酬です」

 

 ドハラス社長がそう口にすると、すぐ横に立っていたコナンがアタッシュケースをランスの目の前にある机の上に置く。ドスン、という重厚感のある音が部屋に響く。

 

「中身は15万GOLDです」

「ふむ、では確かめるぞ」

「えっ? 確かめるって……15万GOLDなんて確かめていたら、凄い時間が掛かってしまいますよ? 銀行の方に入れていただいたので、間違いはありません」

「俺様は他人を信用しない事にしているんだ。信用しすぎると、いつ騙されるか判ったもんじゃないから。バードなんかは、いつも可愛い女の子を騙してばかりの詐欺師だ」

「人聞きの悪い。そんな事、僕はしませんよ!」

「どうかしら……」

「なっ……キサラ!?」

 

 ランスの言葉を否定するバードだったが、隣に立つキサラが冷ややかな視線を送る。何故ここまでキサラに嫌われているのか理解出来ないバードは戸惑うが、キサラはすぐにバードから視線を逸らしてしまう。何か取り繕おうにも話し掛けられない、そのような雰囲気をキサラは纏っていた。

 

「(ふーむ、やはりランス殿の言う通り、男の腐ったような輩でござるな)」

「私のいない間に、一体何があったのでしょうか……」

 

 言裏が繁々とバードとキサラを観察し、エムサが一変したバードとキサラの関係性に首を傾げる。

 

「本当に数えるつもりですか?」

「当然だ。あてな、数えろ。速攻でだ」

「はーい。ぺらぺらぺらぺらぺら!!」

「こ、これは……」

 

 ランスの指示を受けたあてながアタッシュケースを開け、中のお札をまるで電子両替機のような早さで数え始めた。これで本当に数えられているのかと目を見開くコナン。

 

「……1500。出来ました。100GOLD札が1500枚、ちゃんとあるのれす」

「す、すごい……」

「38秒。これは凄いですね……」

「ほう、数えていたのですか?」

「ふふ。見ての通り、時間を扱うのが得意ですので」

「ふむ……それは時間系の魔法がエムサ殿の奥義という事ですかな」

「さて、どうでしょう?」

 

 あまりの早さにドハラス社長だけでなく、部屋の中にいる全員が驚いている。時間を数えていた様子のエムサに言裏が反応を示すと、エムサは腰につけた巨大な懐中時計を手にとって言裏に見せてくる。特徴的なアクセサリーであるそれが示す通り、エムサは詠唱停止という時の流れに関係のある奥義を持っている。その事を言裏に指摘されるが、エムサは静かに笑ってそれを受け流す。

 

「がはははは、金だ、金だ。さて、何に使うとするかな」

「ご主人様、やりましたのれす。ぱちぱち」

「ランス殿。拙僧からもおめでとうと言わせて貰いますぞ」

「ふん、言ったところでびた一文たりとも分けてやらんぞ」

「はっはっは、それは残念」

 

 ペチン、と自身の頭を叩く言裏。次いでその隣に立っていたエムサがランスに向かって微笑みかける。

 

「おめでとうございます、ランスさん」

「エムサさんか。急に姿が見えなくなったから心配していたんだぞ」

「すいません……土砂のトラップからは何とか抜け出せたのですが、脳震盪を起こしてしまいましたので帰り木で先に脱出を……皆さんを放って先に脱出してしまい、本当にごめんなさい」

「気にする事は無い。それよりも、大金が手に入ったから俺様とメシでもどうだ? その後は宿で一発……ぐふふ……」

「ふふ。ご飯だけならご一緒しますが、その後はまたの機会で」

 

 やんわりとランスの誘いを断るエムサ。元々弟がいる事もあり、悪ガキの扱いには慣れているといったところだろうか。躱し方が上手かった事からランスも特には気にせず、くるりとバードに向き直る。

 

「残念だったな、バード。俺様に勝つとか世迷い言を言っていたが、今回も貴様の完全敗北だ。ま、才能の違いだと思って諦めるんだな」

「っ……」

「なぁ、キサラちゃん。こんな奴のパートナーでいるのは止めて、俺様の下にこないか?」

「……そうね。それも良いかもね」

「キサラ!!」

「呼び捨てないでよ!」

 

 意外にもランスの誘いに応じるキサラ。それ程までにバードとキサラの関係は崩壊していた。バードが慌てて口を開くが、キッとキサラが睨み付ける。ただ事ではない事態に、自然と部屋の空気が重くなる。そんな中、口を開いたのは言裏であった。

 

「まあ、これにて任務は完了。お疲れでござった、皆の衆。帰路に着きたいところではありますが、既に日も暮れそうというところ。今晩まで寮の方はお借りしてもよろしいでござるか?」

「勿論です。皆さん、本当にお疲れ様でした。報酬は総取りという契約だったのでお渡し出来ませんが、世色癌の詰め合わせをお土産に渡させていただきます」

「あら、すいません」

「今後ともご贔屓にお願いします」

 

 ペコリと頭を下げ、冒険者たちを労うドハラス社長。その後、二、三言葉を交わした後、冒険者たちは寮へと戻っていく。これにてハピネス製薬からの依頼は終了。後は明日、帰路に着くだけであった。

 

 

 

-ハピネス製薬 2階 警備室-

 

「で、一件落着ですか?」

「とはいかないだろうな」

「アーニィがあのまま簡単に引き下がるとは思えないね」

 

 エムサの問いにルークとフェリスが即答する。直接対峙したからこそ、彼女がハピネス製薬をどれ程悪く思っているかが判るのだ。因みに、フェリスは情報を纏めるためにルークが呼び出した。

 

「アーニィはエンジェル組の幹部だと言っていたな」

「エンジェル組……女の子モンスターの保護団体ですね。支部によっては、過激派とも呼べる活動をしているようですが」

「そんな団体が、何故ハピネス製薬を?」

「心当たりは無いのか?」

「まさか、ありませんよ。女の子モンスターを迫害したりなんて噂は聞いたことがありません」

 

 ルークがコナンに探りを入れてみるが、エンジェル組がハピネス製薬を狙っている事に本当に見当が付いていない顔をしている。

 

「とにかく、少し様子を見る事にしましょう。敵は必ず動いてきます。コナンさん、まだ報復がある可能性があると社長にお伝えください。警戒を怠らないよう、十分注意してくださいね」

「はい。社の安全は、ハピネス製薬の青い壁こと、このコナンにお任せを!」

「本気にしちまったか……」

 

 エムサがコナンに指示を出すと、ドンと胸を張りながらコナンが自信満々に応える。それを見て頭を掻くルーク。以前の話をかなり本気にしてしまっているようだ。正直、戦力としては当てにならないため、あまり前に出られると困る。しばらく話をした後、警備室を後にして寮へと向かうルークたち。綺麗な夕暮れの中、エムサがふと口を開く。

 

「……第一研究所の件の調査が途中ですし、依頼が長引くのはこちらとしてもマイナスではありませんね」

「社員の事を考えると、早く解決してやりたいがな」

「同感です」

 

 そのままルークたちは寮へと入り、玄関口でエムサと別れ、ランスに見つからないよう細心の注意を払ってルークは部屋へと向かう。何とか見つからずに割り当てられた部屋へと戻ったルーク。そして、その後ろにはフェリスが立っている。その表情は、先程からどこか緊張感を纏っていた。

 

「ルーク……少しいいか?」

「……多分、二人きりになったらそう言うと思っていた」

 

 ルークがフェリスに向き直り、部屋の壁に背中を預けて腕組みをする。その表情は、真剣そのもの。

 

「アーニィの件だな?」

「ああ。やっぱり、聞いていたんだな?」

「まあな……」

 

 それは、アーニィの一件。彼女はモンスターだけでは無く、悪魔であるフェリスとも平等にあるべきだと言ったのだ。それは、ルークと同じ狂人の考え。

 

「あいつ、悪魔と人間が平等だって言ったんだ」

「……ああ、聞いていた」

「それなら、あいつの中では魔人は……」

 

 フェリスがポツリと呟く。それは、ルークの夢を知るフェリスだからこそ出てきた言葉だ。

 

「……フェリス。俺はアーニィと二人きりで話がしたい」

「なら、もし次にあいつが姿を現したら、そういう場を作れるように努力をするよ」

「スマンな」

「別にいいさ。でも、魔人に対しての考えは違うかもしれないのは覚悟しておけよ」

 

 フェリスの言う通り、魔人と悪魔では人々の考え方が違う。高位の悪魔は人類にとってそれほど身近な存在では無く、実際に目にする事のある低位の悪魔は人類にあまり危害を加えてこない。対して、魔人は長い歴史の中で何度も人類を蹂躙してきている。近年でも、ゼスなどではその被害が大きい。となれば、アーニィの中で悪魔への考えと魔人への考えは違う可能性がある。

 

「判っているさ。元より、普通の考えでは無いからな……」

「そうか……」

 

 窓の外の夕焼けを眺めながらルークがそう漏らす。その表情は、どこか寂しげであった。ルークがこのような表情を見せるのは珍しい。それほどフェリスを信頼しているという事でもあるのかもしれないが、アーニィという自分の考えを理解してくれるかもしれない人物の登場に少し気が緩んでいたのかもしれない。

 

「……別に、アーニィが理解を示さなくても、お前の考えを知った上でついてきてくれる奴は他にもいるさ。かなみも志津香も、ちゃんと判ってくれている」

「そうだな。それに、フェリスもいるしな」

「私は悪魔だから、数に入れるなよ」

「アーニィに言わせれば、平等なんだろ?」

「ふん……」

 

 それは、フェリスなりに元気づけてくれたのかも知れない。綺麗な夕焼けが、恥ずかしそうにそっぽを向くフェリスと静かに微笑むルークを赤く彩っていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 ランスの部屋-

 

「がはははは! 祝勝会だ、食え食え、飲め飲め!!」

「いやっほー、なのれす!」

 

 寮の一室、ランスとあてなが寝泊まりしている部屋ではどんちゃん騒ぎが起こっていた。豪華な食事は小さな机の上には置ききれず、床にまで広がっている。

 

「あてな、酒だ。さっき高級な酒を頼んでおいたはずだ」

「はいれす。1本1万GOLDのファミホーなのれす」

「うむ。では早速……」

 

 報酬の15万GOLDから早速1万もの大金を使っているランス。稀少なワインをグラスに注ぎ、一気に飲み干す。

 

「……まず。これだったらシィルの入れた茶の方がずっと上手いぞ」

「あてなも飲むのれす。……うえー、変な味」

「高いだけのくだらん酒だ。残りは捨てるとしよう」

 

 まだ半分以上残っている高級ワインを躊躇無く窓から放り捨てるランス。無駄遣い、ここに極まれりといった感じである。

 

「うむ。飯も食って酒も飲んだら眠くなったな。今日は早めに眠るとするか」

「お休みなさいなのれす、ご主人様」

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮外-

 

「キサラ……一体どうして……」

 

 独身寮の外には、一人悩むバードの姿があった。何故ここまでキサラに嫌われているのか、皆目見当がつかないのだ。

 

「……ルークさんの言うとおり、女性を連れて歩くなら守れるくらい強くなければいけない。そう思って、義手を手に入れて強くなったつもりだったけど、もしかしてまだ足りていなかったんでは……」

 

 バードが自身の左腕に取り付けられている義手を眺めながらそう呟く。その表情からは、真剣に悩んでいることが窺える。

 

「そういえば、僕は今回の冒険でもキサラに守られてばかりだったかもしれない……もう一度、ちゃんと鍛え直した方が……」

 

 猛省するバード。キサラに嫌われた理由は別にあるのだが、ルークが期待していた方向に向かおうとしている。だが、その時バードの頭に上から振ってきたあるものが激突する。

 

「いたぁっ!? な、何だ……? これは、ワイン瓶……しかも、超高級ワインのファミホーじゃないか!?」

 

 バードの頭に命中したのは、ランスが窓から投げ捨てたワインであった。奇跡的に瓶は割れておらず、見ればまだ半分以上残っている。先程までの真剣な表情はどこかにいってしまい、急にそわそわとし出すバード。

 

「と、とりあえず、捨てられたものなら貰ってもいいかな……」

 

 ファミホーを懐にしまうバード。先程胸に抱いた決意は、すっかり四散してしまっていた。こうして夜は更けていく。

 

 

 

-明朝 ハピネス製薬 1階 受付-

 

「ふぁぁ……俺は青い壁、俺は青い壁、っと」

 

 コナンが受付の前で大欠伸をする。近い内に報復があるという話であったため、警備員たちは交代でいつもより厳重に警備をしているのだ。

 

「コナンさん。青い壁ってなんですか?」

「ふっ、俺はハピネス製薬最後の壁だからな!」

「?」

 

 同じく警備をしているコンタマの質問にまるで答えになっていない返答をするコナン。その時、突如敷地内のあちこちで騒がしい声が聞こえてきた。

 

「なんだ!? 一体どうした!?」

「コナンさん、助けてください。侵入者が……うわぁぁぁ!!」

「な、何だ貴様ら!?」

 

 慌てて逃げて来た寝間着姿の職員がコナンに助けを求めてくるが、後ろからバットで殴られ前のめりに倒れる。見れば、目の前にはバットを持ったサングラスの男が数名いた。腰の辺りには特徴的なうさぎの人形をつけている。

 

「ふふふ……ハピネス製薬の社員は皆殺しだ」

「貴様ら、エンジェル組だな? ふっふっふ、相手が悪かったな。ハピネス製薬の青い壁、コナン・ホカベン、参る!!」

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 ルークの部屋-

 

「……!? 来い、フェリス!!」

 

 外で騒ぎの声が上がると同時に、ルークが飛び起きる。すぐにベッドの横に置いてあった剣を取り、そのままフェリスを呼び出す。目の前の空間が裂け、そこからヌッとフェリスが姿を現した。

 

「どうした? こんな時間に……」

「敵だ! 状況は判らんが、敷地内で敵が暴れている!」

「なんだって!? まさか……」

「確かにアーニィの手口にしては大胆すぎる。だが、形振り構っていられないのかもしれん。とにかく行くぞ!」

 

 近い内に動きがあると踏んでいたルークたちだったが、まさか明朝に会社を襲撃してくるとは思っていなかった。これまでのアーニィの手口にしては、あまりにも大胆すぎる。

 

「とりあえずエムサを起こして……」

「その必要はありません」

 

 ルークが扉を開けながらそう口にした瞬間、廊下の向こうからエムサが駆けてくる。彼女もルークとほぼ同時に異変に気が付き、こうして取るものもとりあえずやってきたのだ。

 

「流石だ。行くぞ!」

「ええ!」

「はいよ!」

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 キサラの部屋-

 

「なに……? 外が騒がしい……」

 

 ルークたちよりも少し遅れて、キサラも異変に気が付く。傷心から昨晩は早めに眠っていたため、少しの騒ぎですぐに目が覚めたのだ。窓から外を眺めてみれば、バットを持った男たちがハピネス製薬の職員たちを襲っているのだ。

 

「いけない!?」

 

 すぐにタキシードを着て、外に飛び出すキサラ。まだ心の傷が癒えたわけではないが、彼女の中の正義感が体を動かしていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 言裏の部屋-

 

「んっ……どうしたの、言裏さん」

 

 言裏の部屋のベッドの中には、言裏が念力を使って落とした受付嬢がいた。昨晩は一緒に過ごしていたらしい。寝ぼけ眼の受付嬢の視線の先には、既に着替え終えている言裏の姿。手には武器の錫杖を持っている。

 

「少しゴミ掃除を。扉に人払いの結界を付与していくでござるから、拙僧が戻るまで決して部屋の扉を開けてはいかんでござるよ」

「えっ?」

 

 そう言い残し、颯爽と部屋を出て行く言裏。その後ろ姿は、淫の念力とは関係無く、少しだけ格好良く彼女の目には映っていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 ランスの部屋-

 

「ぐがー、ぐがー……んっ、騒がしいな……」

「ご主人様、外で何か騒ぎが起こっているのれす」

「んー、面倒だ。放っておけ」

「きゃー、助けてー!!」

「むっ!? 女の声!!」

 

 先の三組から更に少し遅れて、ランスが外の騒がしさに気が付いて目を覚ます。だが、特に気にせず寝直そうとする辺り、流石はランスといったところか。しかし、扉の外から聞こえてきた女の悲鳴に飛び起きる。

 

「行くぞ、あてな!」

「はいなのれす!!」

 

 すぐに身支度を調え、廊下に飛び出していくランス。見れば、玄関の辺りにバットを持った男が三人ほどいる。その中心には、顔はよく見えないが女性の姿がある。

 

「待て待てぇい! そこの雑魚共、全ての美女はこの俺様の……」

「きゃぁぁぁ、助けてぇぇぇ!!」

 

 そこにいたのは、伝説級のブス、シルバレル。

 

「ランスアタァァァック!!」

「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!」」」」

 

 一瞬の躊躇も無く、シルバレルごと敵を吹き飛ばすランス。むしろ、攻撃の中心はシルバレルであったと言っても過言では無い。

 

「ふう、悪は去った」

「ご主人様、まだ息があるのれすよ。トドメは刺さなくて良いのれすか?」

「……剣が汚れる。あてな、矢を放っておけ」

「はいなのれす」

 

 ブスッ、と気絶しているシルバレルの尻に矢が命中する。その姿がまた醜さを際立たせていた。少しだけ気分が悪くなったランスは、シルバレルを無視して外に出る。見れば、そこかしこでバットを持った男たちが暴れている。

 

「ふむ……アーニィの仕業か?」

「ご主人様が正体を見破ったから、きっと自棄になったのれす」

「だが、これは金になるな。あの社長、困っているに違いない。ぐふふ、今助けてやればもっと大金をせしめられるはずだ」

「おぉ、悪い顔なのれす」

「行くぞ、あてな! 目指すはハピネス製薬本社ビルだ!!」

 

 

 

-ハピネス製薬 独身寮 バードの部屋-

 

「ぐー、ぐー……うぅん、キサラ……ここは僕に任せて下がるんだ……」

 

 バード、ワインの飲み過ぎにより熟睡中。夢の中では大活躍だった。

 

 

 

-ハピネス製薬 1階 受付-

 

「ひぃぃぃ、お助けぇぇぇぇ!」

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 コナンが無様に命乞いをしている横で、コンタマは必死に敵に体当たりをしていた。小柄だが体重があるため、それなりに威力のある突進に敵がふらつく。

 

「ちっ、アマチュアが。我らうさぎさん組戦闘兵を舐めるなよ!」

 

 コンタマを睨み付け、バットを振り上げるうさぎさん組戦闘兵。恐怖で目を瞑るコンタマだったが、いつまで経ってもバットが振り下ろされてこない。恐る恐る目を開けると、そこには三人組の冒険者が立っていた。

 

「コンタマ、大丈夫か? 良く頑張った!」

「ブ、ブラック仮面さん! それにエムサさんも!!」

 

 コンタマがブラック仮面の登場に歓喜する。迷宮の門番をしていたコンタマは、何度かブラック仮面との面識もあったのだ。フェリスがブラック仮面の横で敵の首を刈り、エムサが震えているコナンに駆け寄る。

 

「コナンさん、ここは私たちに任せて避難してください」

「あう、すいません……」

 

 コンタマの方が頑張っていたことは誰も口にしない。ランスならバカにしたかもしれないが、この場にいるのは全員大人な対応を取れる者たちである。比較的騒ぎが起こっていない方へと去っていくコナンとコンタマの背中を見送り、三人はハピネス製薬本社を見上げる。

 

「中でも騒ぎが起こっているな。行くぞ!」

「階ごとに手分けをするか?」

「社員も多く取り残されているし、急ぐためにもそうするか。俺は五階に向かう。フェリスは四階……」

「いえ、四階にはローズさんがいます。私が四階に向かいます」

 

 エムサが静かにそう口にする。友人の事が心配なのだろう。

 

「そうか。ならエムサが四階、フェリスは三階へ。二階は……」

「拙僧が行きましょう」

「では、私は一階を」

 

 早急に全階を回りたいが、手が足りないため振り分けに悩むブラック仮面。だが、背後から声がしたため振り返ると、そこには言裏とキサラが立っていた。こちらを見ながら言裏とキサラが口を開く。

 

「エムサ殿もこの騒ぎで起きてきたのですな?」

「そちらの方は?」

「こちらはブラック仮面さん。正体は明かせませんが、凄腕の冒険者です。そして、こちらはフェリスさん。ランスさんの使い魔です」

「ふむ……」

 

 二人と面識がないため、言裏とキサラはまじまじとブラック仮面とフェリスを眺める。何やら含みを持った笑いを浮かべていた。それを受けながら、ブラック仮面は本社ビルを見上げて口を開く。

 

「モタモタしている暇はない。行くぞ!」

「はい!」

 

 キサラを一階に残し、階段を上っていく一同。社内には昨晩から残っていた者や、今朝早くに出社してきた者が取り残されているようであった。早急に助け出さなければならない。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第一研究室-

 

「おら、開けろ!!」

 

 外からはバットで研究室の扉を叩く音が聞こえる。その中では、今朝早くに出社してきたジョセフが震えていた。

 

「エンジェル組……間違いない、嗅ぎつけられている……もう少しなんだ、こんなところで全てを台無しにされる訳には……」

 

 エンジェル組の襲撃に何か心当たりがあるのか、意味深な事を呟くジョセフ。だが、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。どんなに天才でも、まだ13歳。目の前に迫る恐怖に、ジョセフは震えを止められずにいた。

 

 

 

-ハピネス製薬 1階 受付-

 

「爆炎カード!!」

「ぐぁぁぁ!!」

「くっ……敵の数が多すぎる……」

 

 1階の社員は完全に避難させ終えたが、気が付けばキサラは敵に囲まれてしまっていた。戦闘員との単純な強さの比較では圧倒的にキサラの方が上だが、流石に息も切れてくる。そのキサラの様子にニヤニヤとしながら、三人の戦闘員が一斉に跳び掛かってきた。キサラが慌てて爆雷カードを取り出したが、それよりも早く三人の戦闘員が吹き飛んだ。

 

「ランスアタァァァック!!」

「ギガボウ、乱れ撃ちなのれす!!」

 

 現れたのは、ランスとあてな。少しだけ起きるのが遅かった二人は、丁度良いタイミングでキサラの窮地を救ったのだ。

 

「キサラちゃん、大丈夫か?」

「え、ええ……大丈夫です。助かりました」

「がはは、それは良かった。では上の階に向かうぞ。キサラちゃん、来るか?」

「は、はい。それよりも、バードさんは……?」

「あいつなら、部屋からイビキが聞こえてきたぞ。まだ夢の中だろう。本当に使えん男だ」

 

 ランスの言った事は口から出任せであり、バードのイビキなど聞いていないが、まさかの的中だったりする。キサラはその言葉を素直に信じてしまい、彼女の中でのバード評価は正にストップ安であった。

 

 

 

-ハピネス製薬 2階 廊下-

 

「南無阿弥陀仏! ふん!!」

「ぐぁぁぁ!!」

「こいつ、強いぞ!? ここは撤退を……」

「天志の加護よ、今我に力を与えよ……もたもた!!」

 

 言裏の強さに恐れおののき、戦闘兵が逃亡しようとする。だが、何やら言裏が呪文を唱えたと思うと、突如自身の足が鈍りのように重くなってしまったのだ。思うように動けず、逃げることが出来ない。

 

「な、なんだこれは!? こんな魔法聞いた事がないぞ!? く、来るなぁぁぁ!!」

「その程度の力では、戦国乱世は生き残れんでござるよ。喝!!」

 

 手に持っていた錫杖を横薙ぎに振るい、戦闘兵の頭に命中させる。鈍い音が廊下に響き渡り、血が壁を彩る。

 

「ふむ、あらかた片づいたでござるな。……いや、まだ向こうに残っていたでござるか」

「ひ、ひぃぃぃ! こっちにも敵がいる!?」

「ん?」

「がはは、逃がさん! 死ねぇぇぇ!!」

 

 こちらに向かってくる敵を見て錫杖を握り直した言裏だったが、その敵は自分の姿を見ると酷く驚いていた。何やら様子がおかしい。すると、次の瞬間戦闘兵は剣で斬り捨てられ、前のめりに倒れた。それをやったのは、彼らを追いかけて廊下を駆けてきたランス。後ろにはあてなとキサラを引き連れている。

 

「おう、ランス殿ではありませんか」

「ちっ、生きていたのか……というか、この騒動は貴様の仕業か?」

「滅相もない。なにやらエンジェル組とかいう輩の仕業らしいですぞ」

「ふん、やはりか」

「なんと、予想していたのですか。流石はランス殿、いやはや素晴らしい」

 

 先程倒した戦闘兵から聞き出した情報をランスに話してみる言裏。ランスはアーニィがエンジェル組である事を知っているため、特に驚きはせず予想が当たったことに深く頷くが、その行動は襲撃を予想すらしていなかった言裏とキサラを驚かせるには十分であった。豪快に笑い、自身の頭をペチンと叩く言裏。

 

「面白い事態になりもうしたな。拙僧、わくわくしているでござるよ」

「ふん、破戒僧が」

「罰当たりなのれすよ」

「はっはっは、耳が痛い。それよりもランス殿、一人よりも二人、三人よりも四人、ここからはお供しますぞ」

 

 錫杖を華麗に手の中で操りながら言裏がニヤリと笑う。

 

「ふん、足を引っ張ったら殺すぞ、それに、手柄は分けてやらんからな」

「構いませんとも。ランス殿と共にいれば、何やら楽しい事に出会えそうですからな」

「貴様、ホモじゃあるまいな。もしそうなら、今この場で殺すぞ」

「とんでもない。拙僧、三度の飯よりも美女が好きでござるよ」

 

 そんな事を話しながら、ランスたちは三階へと向かう。その背中を自然と追ってしまうキサラ。最初の印象は最悪だった。口が悪く、バードの事を悪く言う乱暴な男。それがランスに抱いた印象だった。

 

「(でも、ランスさんの言っていた事は本当だった……)」

 

 バードが最低な男だと思い込んでいるキサラは、相対的に最初から警告をしてくれたランスがいい人だったのではないかと思い始めてしまう。また、社員を助け出すためにこうして危険を顧みずに戦う姿も好感が持てた。

 

「(それに、この人凄く強い。私、勘違いしていたのかな……)」

 

 

 

-ハピネス製薬 3階 廊下-

 

「フェリス!? 何でお前がここに? 俺様は呼んでいないぞ」

「へ? いや、その、なんだ……昨晩、お前が寝ぼけてカモーン、フェリスって言ったんだよ。それで呼び出されて、えっと、その、散歩していたら、敵が来たっていうか……」

「ふむ、まあ丁度良い。手伝え」

「あ、ああ……」

 

 3階では圧倒的な力でフェリスが敵を蹂躙していた。ランスに見つかった瞬間はドキリとしたが、何とか誤魔化せ、ホッと息を吐くフェリス。こうしてランスたちはフェリスもパーティに加え、更に強力な部隊となって5階の社長室を目指す。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 廊下-

 

「助けてぇぇぇぇ」

「ほら、覚悟して捕まれ!」

 

 逃げ回るドハラス社長を追いかけるうさぎさん戦闘兵。それを率いるのは、この作戦を打ち立てた女、パーティ。

 

「ふふ、順調ね。これならアーチボルト様に褒めて貰えるわ」

「パーティ様。後ろから侵入者が近づいています」

 

 作戦が順調な事にパーティがニヤリと笑う。その時、一人の部下が報告に駆けてくる。

 

「は? 人数は?」

「一人です。謎の仮面の男が、この五階に上がる階段で大立ち回りを……」

「一人!? わざわざ報告に来ないで、自分たちで止めなさい!」

「は、はい!」

「ふん。まあ、どんな冒険者が来ても、この私は止められないけどね!」

 

 自信満々にそう語るパーティだったが、彼女はまだその仮面の男の実力を、更にはその後ろから近づいてきているランスたちの実力を知らずにいた。敗北の足音が近づいてきているのも知らず、パーティは勝ち誇った笑みを浮かべるのだった。

 

 




[技]
淫の念力
使用者 言裏
 言裏の秘技。指先から飛ばした念力でどんな女性でも濡らす事が出来、戦闘時にも相手が女性ならば集中力を下げる事にも使える。天志教の教えには反する念力であるため、この技に関してはあまり口外していない。

もたもた
 相手の素早さを下げるお祈り。効果があるかは使用者とのレベル差に依存し、強者にはあまり通じないが、強力な技である。
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