ランスIF 二人の英雄   作:散々

124 / 200
第122話 作戦Nを敢行せよ

 

-ハピネス製薬 4階 研究室前廊下-

 

「エアレーザー!! 石飛礫!!」

「うわぁぁぁ! な、なんで二つの魔法を同時に!?」

 

 第二研究室の扉を背中越しに守りながら、エムサは左手からエアレーザーを、右手から石飛礫を出して両方向から攻めてきた敵を同時に攻撃する。これは事前に詠唱停止でエアレーザーの魔法を溜めていたからこそ出来る戦法。だが、その効果は絶大である。魔法は同時に二つ以上使えないという常識を覆され、敵は困惑して攻めあぐねている。これこそがエムサの狙い。

 

「雷撃!」

「くっ、一時撤退を……」

「させんわ、死ねぇぇぇ!」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 エムサのあまりの強さに撤退を考えていた下っ端兵だが、突如後ろから現れた男に斬り伏せられ死亡する。やったのは、勿論ランス。後ろにはあてな、言裏、キサラ、フェリスの四人を引き連れている。

 

「て、敵の増援だ!」

「がはははは! 皆殺しにしろ!」

「承知!」

 

 エムサ一人にすら手こずっていたというのに、更に手練れと思われる者たちの増援。敵は完全に混乱し、指揮などというものは崩壊する。ランスが剣先を向けながら命ずると、言裏、フェリス、キサラの三人が飛び出していった。あてなはその場に留まり矢を発射している。

 

「ランスさん、助かりました」

「うむ。この階にはローズが取り残されている可能性があるから、急いで来てやったぞ。ローズ、いるか!?」

「こ、この声はランスさんなの?」

 

 エムサが守っていた第二研究室の扉を叩き、中にいるかもしれないローズに向かって声を掛けるランス。すると、中から恐る恐るといった感じのローズの声が聞こえてきた。やはり取り残されていたらしい。

 

「うむ。俺様が助けに来てやったぞ。下の階の連中は皆殺しにしたし、敵はもう上の階にしかいない。とりあえずこのまま扉に鍵をかけて隠れていろ」

「一体、何が起こっているんですか……?」

「地下迷宮でハピネス製薬を襲っていた連中が、事件を解決された腹いせにもう一度襲ってきたんだ、多分。まあ、俺様がとっちめてやるから安心しておけ」

「……ありがとうございます。ランスさん、その、頼りにしています」

「がはははは! 良い子にしていたら、また可愛がってやるぞ」

「ランスさん!? そんな、エムサさんの前で……」

 

 研究室の扉は思ったよりも頑丈であり、下手に連れ出すよりも安全だろうと踏んだランスはこのままローズを残していく事に決める。そんな中で飛び出したランスの言葉にローズは狼狽する。恐らく、扉の向こうの彼女の顔は羞恥で赤く染まっているだろう。

 

「ローズさんと良い仲になっていたんですね」

「ふっふっふ。溢れ出る男の魅力という奴だ。エムサさんも一緒にどうだ?」

「またの機会で」

「ちっ。しかし、四階にはエムサさんがいたか。となると、五階にも誰かいるのか?」

「いますよ。とても頼りになる方が」

「誰だか知らんが、ここまで来てそいつに先を越されるのも癪だな。急ぐか」

「ランス殿、こちらは片づいたでござるよ。それと、状況を知っていそうな敵を一人捕獲しておいたですぞ」

 

 エムサが五階にいる人物の事を思い浮かべながら静かに笑う。流石に敵の数は一番多そうだったが、その人物ならば特に問題はないだろう。だが、社長の事を考えれば急ぐのには賛成だ。すると、敵を全滅させた言裏たちがこちらに戻ってくる。その言裏の腕には、ボロボロの男が首筋を掴まれて運ばれていた。

 

「だ、だからこんな作戦は無理だって言ったんだ。アーニィ様だったら、こんな強攻策は……」

「アーニィだったら? この作戦を指揮しているのはアーニィじゃないのか?」

「違う。この作戦を指揮しているのは、アーニィ様をライバル視しているうさぎさんチームの隊長、パーティ様だ。俺らくまさんチームは反対したのに、無理矢理駆り出されて……」

「そういえば、ここまでの敵はうさぎの人形を付けている敵が殆どだったのに、この人はくまの人形を付けていますね」

 

 目の前の男はくまの人形を身につけている。それは、アーニィが引き連れていた部下が身につけていたのと同じものだ。男は更に不満を続ける。パーティのやり方に相当不満が溜まっているのだろう。

 

「そもそも、今回の仕事は俺たちくまさんチームが主体だったのに、うさぎさんチームの連中が後からしゃしゃり出て来やがって……どうせ手柄を立てて、アーニィ様を見下すつもりなんだ」

「派閥争いか。くだらん、死ね」

「ぎゃっ!?」

 

 話は聞き終わったとばかりにランスが目の前の男にトドメを刺す。

 

「さて、五階に急ぐぞ。どうせ奴等の目的は社長だ」

「うぅむ、あの美人のアーニィ殿が敵だったとは……」

「あ、そういえば言っていませんでしたね……」

 

 アーニィの襲撃に関して殆ど蚊帳の外であった言裏は今更ながらにアーニィが敵であったことを知り、驚いている。そのままランスたちは四階を後にし、五階へと突き進むのだった。数秒後、第一研究室の扉がゆっくりと開き、中からジョセフが顔を出す。

 

「……行ったのか? 良かった、何とかなりそうだ……」

「おい」

「ひっ!?」

 

 ランスたちが走っていったであろう方角を見ていたジョセフだが、突如後ろから声を掛けられる。慌てて振り返ってみれば、そこに立っていたのは悪魔フェリス。

 

「あ、悪魔!?」

「安心しな、あいつらの仲間だよ。別にお前に危害を加える気はない」

 

 驚いて扉を閉めようとするジョセフだったが、フェリスは足を突き出して閉まる扉を止める。そのままジョセフの肩に手を回し、小声で呟く。それは、ルークとエムサから聞いた情報。

 

「あんたが何を隠しているか知らないが……今回の事件に関係があるのか?」

「っ……!? し、知らない。僕は何も知らない!」

「……そうかい。まあ、良いけどな。でも、もし何かを知っていて、少しでも罪悪感があるなら自分から言いな」

「おい、フェリス、何をしている! さっさと来い」

「はいよ!」

 

 廊下の向こうからランスの怒鳴り声が聞こえてきたため、フェリスはジョセフの肩から手を放し、廊下を飛んでいく。それを呆然と見送るジョセフ。

 

「少しでも……罪悪感があるなら……」

「ジョセフくん、早く研究室に隠れて! こっちへ!」

「ローズさん……」

 

 廊下で突っ立っているジョセフを咎めるように、ローズが第二研究室の扉から少しだけ顔を出してくる。そのローズの顔を呆けたように見つめてくるジョセフを見て、ローズはジョセフが不安だったのかも知れないと思い、扉から出てきてジョセフを抱きかかえ、そのまま第二研究室へ戻っていく。

 

「大丈夫よ、ジョセフくん。きっとランスさんたちが、悪い人を追い払ってくれるから」

「…………」

 

 そう言って自分を安心させるために抱きしめてくるローズだったが、その腕が震えている事にジョセフは気が付いてしまう。ローズも恐くないはずがないのだ。そして、その原因を作ったであろうものに思いを巡らせる。

 

「罪悪感……僕は……でも……」

「大丈夫。心配しなくても大丈夫だから……」

 

 ローズの暖かさを感じながら、ジョセフは先程のフェリスの言葉を噛みしめていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 階段-

 

「うぉっ、凄い数だな……」

「敵が一杯倒れているのれす」

「やはり狙いは社長のようですな。しかし、これ程の敵の数を一人で押しのけて進むとは、あの仮面の御仁、出来るでござるな……」

 

 階段を駆け上がりながらランスが思わず声を漏らす。倒されている敵の数が尋常ではないのだ。やはり、敵の狙いは五階にいるドハラス社長に間違いない。

 

「仮面?」

「黒い蝶型のメガネをかけた人です。えっと、確か名前は……」

「ブラック仮面さんですよ」

「なにぃ!? あいつがここに来ているのか!? というか、エムサさんは知り合いか?」

「うふふ。ええ、良く知っている人です。ねぇ、フェリスさん」

「私に振るなよ……ああ、なんで今回の事件は志津香がいないんだ……」

「何故、志津香?」

 

 ランスの反応を感じ取って意味深に笑うエムサ。少しだけ意地悪そうな顔をしながら話題を振られ、嫌そうな反応を示すフェリス。この場に志津香でもいれば突っ込んでくれるであろう事を考え思わず口に出してしまい、そんなに志津香と仲が良かったのかとランスが不思議そうにフェリスの顔を見ている。

 

「しかし、これならば進むのが楽でござるな」

「うむ。さっさと社長室を目指すぞ!」

 

 邪魔する敵は軒並みブラック仮面が倒していたため、ランスたちは特に足止めを食らうこともなく通路を進んでいくのだった。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 廊下-

 

「こいつ、化け物だ!」

「どけ、真空斬!!」

 

 並み居る敵を押しのけ、ブラック仮面が廊下を駆けていく。ようやく目の前に社長室が見えてきた。だが、ハピネス製薬侵入からそれなりに時間は経ってしまっている。まだ社長は無事だろうか。

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

「っ……この声は!?」

 

 そのとき、社長室の横にあった部屋から悲鳴が聞こえてくる。その声はこの部屋の主、エリーヌのものに間違いない。目の前に社長室はあるが、エリーヌを放っておくわけにもいかないため、ブラック仮面はエリーヌの部屋へと駆け込む。

 

「いやだぁぁぁ! 誰か助けてぇぇぇ!!」

「いい加減黙れ! 悪の組織であるハピネス製薬。その社長の娘であるお前も同罪なんだよ!!」

「おい、殺す前に少しだけ楽しまないか?」

「まだガキだぞ?」

 

 部屋の中にいたのは三人。一人がエリーヌの腕を掴んで取り押さえており、後の二人がその様子を見ているという状況だ。三人ともうさぎの人形を身につけている。その中の一人、仲間がエリーヌを取り押さえているのを見ていた男がふいに下卑た事を口にする。その瞬間、ブラック仮面の脳裏に思い出されたのは、少し前に訪れたロリータハウスの惨状。

 

「小さいけど、かなり可愛いぞ。これなら……っ!?」

 

 その言葉を言い終える前に、男は意識を手放す。ブラック仮面の持っていた漆黒の剣が、男の首を跳ね飛ばしたのだ。残りの二人が状況を飲み込めずに呆然としている隙に、ブラック仮面は即座に前進してエリーヌの腕を掴んでいた男の腕を切断する。

 

「ぐっ……あぁぁぁぁ!? 俺の腕がぁぁぁ!!」

「きゃっ!?」

 

 激しい痛みに男が絶叫しているのを横目に、ブラック仮面はエリーヌを自分の胸に抱き寄せて視界を塞ぎ、これから起こる惨状を見せないようにする。残っていた一人がようやく我に返り、バットを両手で握りしめてブラック仮面に向かってくる。だが、男がバットを振り上げた瞬間、それを持っていた両腕が斬り飛ばされる。

 

「あぁぁぁぁぁ!?」

「…………」

 

 絶叫している男二人に強烈な殺気を向けつつ、ブラック仮面は剣を横薙ぎに振るって二人の首を飛ばす。ドサリ、と床に倒れ込む男たち。これで部屋の中から敵はいなくなった。

 

「もう大丈夫だ。恐い人はいない」

「えぐっ……えぐっ……うわぁぁぁん!」

 

 胸の中で泣きじゃくるエリーヌをブラック仮面が優しく抱きしめていると、部屋の外からドタドタと走る音が聞こえる。それも、複数名。この部屋の前を通過したと思われる瞬間、その足音の主の声が聞こえてきた。

 

「急げ! ブラック仮面なんぞに先を越されるな!」

「この声はランスか」

 

 足音の主はどうやらランスたちのようだ。複数名という事を鑑みれば、恐らく途中でキサラや言裏、エムサ辺りと合流したのだろう。ブラック仮面はエリーヌの視線に三人の死体が入らないよう細心の注意を払いながら、諭すように口を開く。

 

「エリーヌちゃん、俺は君のお父さんを助けに行かなきゃいけないんだ。もう悪い人はいないから、ベッドの下に隠れて待っていてくれるかい?」

「……うん。絶対にお父さんを助けてね、お兄ちゃん」

「ああ。後はこのブラック仮面に任せておけ」

 

 目にはまだうっすらと涙を浮かべているが、ブラック仮面の言葉に素直に頷くエリーヌ。もぞもぞとベッドの下に隠れるのを見送った後、ブラック仮面もランスたちの後に続かんとばかりに部屋を飛び出る。

 

「っ!?」

「おっと……フェリスか、どうしてこんなに遅れているんだ?」

「それはこっちの台詞だ! なんでまだお前がここに……」

 

 部屋を飛び出したブラック仮面は廊下を猛スピードで飛んでいたフェリスと激突しそうになる。その一瞬の間にフェリスはブラック仮面の首筋に鎌を、ブラック仮面はフェリスの心臓付近に剣の切っ先を向けている辺りは、互いに流石の反応といったところか。フェリスはジョセフと話していたため、ブラック仮面はエリーヌを助けていたためにランスたちよりも遅れてしまったのだが、今はそれを細かく説明している暇はない。そのとき、隣の社長室から声が響き渡る。

 

「動くな! 一歩でも動いたら、この短剣を社長の喉に突き刺すわよ!」

「……!?」

「不味い状況みたいだな……」

 

 フェリスとブラック仮面が真剣な表情をして社長室の方向を見やる。どうやら、状況は芳しくないようだ。次いで窓の方に視線を向けたブラック仮面は何かを思いついたように一度頷き、フェリスに向き直って口を開く。

 

「フェリス、ここは作戦Nだ!」

「なんだよ作戦Nって!? なんでそんなノリノリなんだよ!! 仮面か、仮面のせいなのか!?」

 

 キリリとした表情で今まで聞いた事の無いような事を平然と口にするブラック仮面に盛大にツッコミを入れるフェリス。

 

「因みにNはノスのNだ」

「作戦ノス……おい、最悪な想像が浮かんだんだが……本気か?」

「当然だ、行くぞ!」

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 社長室-

 

「がはは、突撃ぃぃぃ!!」

 

 話は少しだけ前に遡る。ブラック仮面がエリーヌを優しく諭している頃、ランスは社長室の扉を蹴破って中に入ったところだった。

 

「このクソ社長! 早くウェンリーナー様をどこに隠したのか吐きなさい!」

「な、なんの事ですか……さっぱり判りません……」

「んっ……お前は確か……」

「誰だ!?」

 

 部屋の中では、うさぎの髪飾りを付けている女性がドハラス社長の首筋に短剣を押しつけ、何やら口を割らせようとしているところだった。まだドハラス社長にこれといった危害は加えられていないため、間一髪間に合ったようだ。その女の顔に見覚えがあったランスが口を開くと、パーティがこちらに視線を向ける。これだけ激しくドアを開いたというのに、これまで気が付いていなかったようだ。

 

「あんたは通信機の前にいた、確かランスとかいう奴……」

「ランス様だ。よく覚えておけ、アーニィの仲間のパーティちゃん!」

「ふん、あんな無能な子と一緒にしないで欲しいわ」

「無能ですか……そうとは思えませんでしたけどね……」

「社長、今すぐ助けに……」

「動くな! 一歩でも動いたら、この短剣を社長の喉に突き刺すわよ!」

「くっ……」

 

 パーティの物言いにエムサが小さく呟く。アーニィを警戒していたにも関わらず、罠にはまってしまった事を少し気にしているようだ。キサラが社長を助けるために飛び出そうとするが、パーティに恫喝されてすぐに止まる。下手に動けば社長の命はない。すると、短剣を向けられているドハラス社長が泣きながらランスに助けを求めてくる。

 

「ラ、ランスさん、助けてくださいー」

「やだ」

「ええっ!?」

 

 まさかの反応に後ろに控えていたキサラが驚愕の声を上げる。それを気にせず、ランスは言葉を続ける。

 

「俺とお前の契約は終わったんだ。今は関係無い」

「そ、そんな……助けてくださいー」

「……そうだな、助けてやってもいいが、いくら出す?」

「お、お金ですか……それなら、1万GOLDで……」

「あてな、帰るぞ」

「はいれす」

 

 くるりと身を翻し、本当に帰ろうとするランスとあてな。慌ててドハラス社長が言葉を続ける。

 

「ま、待ってください、2万……いえ、3万GOLD!!」

「駄目だ。お前、自分の命が掛かっている事を判っているのか?」

「で、でもこれ以上は会社の運転資金に影響が……」

「なら死ね」

「死ねなのれす」

「死ぬしかないでござるなぁ、はっはっは!」

「ひ、酷い……やっぱり最低な人だったのね……」

「……っ!? ふふ、キサラさん、もう少しだけ状況を見守った方が良さそうですよ」

「えっ?」

 

 ランスとあてなだけでなく、何故か言裏までもが笑いながらドハラス社長を脅し始める。今正に絞りどころと考えているランスを面白がり、乗ってくれているのだろう。キサラがランスの行いを非難するが、何かに気が付いたエムサが静かに笑いながら口を開く。

 

「5万GOLD!! これでどうですか!!」

「やれやれ、自殺志願者だったようだ。あてな、帰るぞ」

「南無三」

「ああ……じゅ、10万GOLD!!」

「ふむ、中々判ってきたじゃないか。その辺で手を打ってやるか」

「お、お願いします!!」

「ちょっと、私を無視して何を騒いでいるのよ。状況が判っているの? 有利なのはこの私なのよ」

「そうしたら、貴女は終わりですけどね」

 

 痺れを切らしたパーティがランスたちを睨み付けてくるが、何故かエムサが一歩前に出ながらパーティを挑発する。彼女にしては珍しい行動だ。

 

「動くな!」

「そいつは悪手だな!!」

 

 パーティがドハラス社長に向けていた短剣の切っ先をエムサの方に向けた瞬間、パーティの後ろにあった社長室の窓が盛大に割れて一人の仮面の男が飛び込んでくる。それは、ブラック仮面。目を見開いて後ろを振り返ったパーティの短剣を即座に剣で弾き飛ばす。

 

「なっ!? 何者だ!?」

「ブラック仮面だ! 社長は返して貰うぞ!」

「ああ、ルー……じゃなかった、ブラック仮面さん! ありがとうございます!」

「くっ……」

「ま、まさかランスさんはブラック仮面さんの事に気が付いて、時間稼ぎを……」

「(いえ、多分それは違いますけどね……)」

 

 パーティの腹部に強烈な蹴りを入れて吹き飛ばし、ドハラス社長を取り返すブラック仮面。ドハラス社長が別の名前を言いかけるが、正体を隠して活動をしているとはコナン経由で聞いていたため、慌てて言い繕う。苦しそうにブラック仮面を睨み付けながらも、パーティは鞭を二本取り出して構え直す。その光景を見ながら、キサラは先程までのランスの行動はこのために意識を逸らしていたのだと盛大な勘違いをしてしまう。いち早くブラック仮面が外にいる事に気が付き、本当に注意を引いていたエムサは心の中でボソリと呟く。

 

「ブラック仮面が空を飛んできたのれす!」

「まさか空まで飛べるとは、一体何者なんだ……まあいい、片付けるぞ!」

「くそっ、うさぎさんチーム隊長、パーティを見くびらない事ね! 私はアーニィとはひと味違うんだから! あんたたち、始末するわよ!!」

「「「はい、隊長!!」」」

 

 部屋の隅に控えていた部下たちに指示を出し、パーティが両手に持った鞭を動かしてランスたちに跳び掛かってくる。

 

「この私の華麗な鞭捌きをとくと味わ……」

「ランスアタァァァック!!」

「ギガボウ、連射なのれす!」

「爆雷カード!!」

「喝!!」

「エアレーザー!!」

「真滅斬!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 五秒で片が付いた。憐れパーティ。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 廊下-

 

「ぜひっ……ぜひっ……絶対私はもっと評価されても良いと思うんだ……」

 

 フェリスが息も絶え絶えな状態で苦しそうな声を上げる。作戦Nとは、フェリスに持ち上げられて空を飛び、有り得ぬ方向から奇襲を掛けるという作戦だ。その効果は絶大であり、あの魔人ノスにも有効であった。代償はフェリスの体力。剣二本と鎧を含めたブラック仮面の体重は、100を越えていたりする。頑張れフェリス。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 社長室-

 

「ふん、悪の組織ハピネス製薬が! これで終わったと思わないでよね、アーチボルト様が絶対に助けに来てくれるんだから!」

「その悪の組織というのは何なんですか? 身に覚えがないのですが……」

「ふん、しらばっくれないでよ! 絶対に正義の鉄槌が下るんだから!!」

「この状況でよくもまあこれ程強気な言葉を吐けるもんだ」

 

 ブラック仮面が呆れた様子でパーティを見やる。彼女は今縄で縛られており、全員に囲まれた状況なのだ。因みにエムサとキサラは今この部屋にはいない。隠れていた社員にもう大丈夫だと報せにいったのだ。

 

「よう、社長。まだまだ厄介ごとは終わっていないみたいだが、どうする? 今なら地下迷宮の依頼をあっさりと解決したこの俺様が、この事件も解決してやらんでもないが?」

「判りました、では20万GOLDでお願いします」

「……もっと出せんのか?」

「無理ですよ。これ以上をお望みでしたら、別の人に依頼します」

 

 チラリとブラック仮面に視線を移すドハラス社長。ランスがそれを見て舌打ちするが、搾り取るのはここが限界だと感じて20万GOLDで手を打つことにする。

 

「判った、判った、それで引き受けてやる。さっきの10万GOLDと合わせて30万GOLD、耳を揃えて用意しておけよ!」

「うぇっ!? さ、さっきの10万は別なんですか!?」

「当然だ! まさか大会社の社長ともあろうものが、約束を破ったりはしないだろうな? もしそんな事をしたら、ハピネス製薬の社長は依頼料を払わない強欲社長だって言いふらすぞ」

「や、止めてくださいよ……この業界は信用第一なんですから……」

「がはははは! だったら、金をちゃんと用意しておくんだな! まぁ、エンジェル組とやらは俺様が殲滅してやるから安心しろ」

「ところでランス殿、エンジェル組を倒す手立てはあるのですか?」

 

 それまで黙って様子を見ていた言裏が疑問を口にする。

 

「奴等の本拠地を叩く。こうやって何度も仕掛けてくる連中は、元を叩くのが一番だ」

「それはそうですが……手掛かりは何も……」

「手掛かりならあるさ」

 

 更に疑問をぶつけてきた言裏に向かって、ランスの代わりにブラック仮面が答える。その視線の先には、縄で縛られたパーティ。

 

「なるほど。拷問でござるか」

「まあ、楽しい拷問にするがな、がはは!」

「それは素晴らしい。拙僧もぜひ仲間に加えていただきたい」

「ふん! どんな拷問をされたって、私は何も喋らないんだからね!! 私の忍耐力を甘く見ない方がいいわよ!」

「社長、覚えておくといい。こういう奴ほど何でも喋る。ハピネス製薬なら某課長とかがそうだな」

「勉強になります」

「聞きなさいよ!!」

 

 自信満々のパーティを指差しながらブラック仮面がドハラス社長に切々と語り、社長は深く頷きながら真剣に聞いている。バカにされたと思ったパーティが金切り声を上げるが、誰も聞いていない。

 

「色々と拷問道具を準備するか。たっぷりと楽しまねばならんからな……ぐふふ……」

「では、拷問は昼過ぎにでもしますか?」

「そうだな。では楽しみにしておくんだな、がはははは!」

 

 こうして捕らえたパーティに交代で見張りを付け、ランスは一度寮へと戻っていく。言裏もそれに続き、部屋の中にはブラック仮面と社長、そして縛られた状態のパーティが残る。

 

「社長、本当に身に覚えは……?」

「ありません、一体どうしてこんな事に……」

「ふん、白々しい!」

 

 そう言う社長の顔は、本当に訳が判らずに困惑しているようなものであった。本当に社長は何も知らない可能性が高い。となると、ジョセフの暴走という可能性が高まってくる。それは逆に好都合だ。社長ぐるみであれば冷静に動かざるを得なかったが、ジョセフの単独犯であれば探りを入れやすい。

 

「ところで……なんとか値引きできませんかねぇ?」

「それはランスと交渉してくれ……」

 

 流石に依頼料までは面倒を見きれないブラック仮面であった。

 

 

 

-ハピネス製薬 1階 受付前-

 

「よかった! エリーヌちゃんも無事だったのね!」

「うん、ローズお姉ちゃん!」

 

 ガバッとローズの胸に飛び込んでいくエリーヌ。1階には会社の中に取り残されていた社員たちが集まっており、お互いの無事に胸をなで下ろしていた。

 

「あら? エリーヌちゃん、何だか嬉しそうね?」

「えへへー」

 

 こんな事件があったというのに嬉しそうな顔をしているエリーヌを不思議そうに見るローズ。その言葉を受け、エリーヌはにんまりと笑う。

 

「(あんなメガネで顔を隠しても、エリーヌには誰だかすぐ判っちゃったんだから! 見つけちゃった、私の王子様!)」

 

 恋する乙女の目をしているエリーヌと、状況を飲み込めていないローズの横で、ジョセフが沈痛な面持ちで地面を見ていた。頭の中で繰り返すのは、フェリスの言葉。

 

「少しでも罪悪感があるなら……か……」

 

 チラリとローズに視線を向ける。今はエリーヌと笑い合っているが、先程までの不安そうな顔が頭から離れない。

 

「大事な人には、笑顔でいて欲しいですものね」

「っ……!?」

 

 後ろからそう話し掛けてきたのは、以前研究室にやってきた事のある冒険者のエムサ。まるで弟にでも話し掛けるかのように、優しく言葉を発する。

 

「私も、いえ、みんな同じです。大事な人には笑顔でいて欲しい……」

「それが……」

「ウェンリーナー」

「……!?」

 

 突如エムサの口から飛び出した名前にドキリとするジョセフ。それは、パーティがドハラス社長を脅していた際に口にしていた名前だ。そのジョセフの反応を見て、エムサの中の疑念は確信へと変わる。

 

「ジョセフさん、出来れば自分から名乗り出てください。そうでなくとも、数日中に事件は解決します」

 

 そう言い残し、この場から立ち去っていくエムサ。だが、最後に発した言葉も責めるような物言いではなく、悪い事をした弟を諭すかのような物言いであった。

 

「僕は……」

 

 残されたジョセフが天を仰ぐ。その視線の先には、ハピネス製薬最上階にある、社長室が映っていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 1階 階段前-

 

「ぐふふ、バイブに蝋燭、鞭にローター」

「三角木馬に猿ぐつわ」

「拷問道具勢揃いでござるなー」

 

 あれから数時間。一度部屋で休み、軽く昼食を取ってからランス、あてな、言裏の三人はパーティが捕らえられている部屋を目指していた。ウキウキとしている三人が手に持つのは、様々な拷問道具、というよりはお楽しみ道具であった。

 

「というか、なんで貴様が一緒にいる?」

「つれないでござるよ、ランス殿。旅は道連れ世は情け、エンジェル組を潰すのに拙僧も協力しますぞ! その代わり、一緒に楽しもうではござらんか」

「ふん、金はやらんぞ」

「勿論、勿論。ちょっと暴れ足りないと思っていたんでござるよ」

「本当に破戒僧なのれすね」

 

 エンジェル組討伐に何故か言裏も参加することになる。むさ苦しい男ではあるが、自分の邪魔はしないし、戦闘力もそれなりにある事を考えてランスは渋々と同行を認める事にする。そうして階段を上って五階に行き、廊下の角を曲がろうとした瞬間、向こうから怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「おうおう、金が払えないとはどういう了見どすか?」

「すいません、借りたお金は必ずお返しします。その……もう少しだけ待ってください……」

「舐めとるんかい、われぃ!? 利子くらい払って貰わないと、話にならないでおまよ! こっちも慈善事業じゃないんどすよ!!」

「そ、それは……」

「ええでっしゃろ、ええでっしゃろ! なら約束通り、こっちはおみゃーさんの妹を売り飛ばして当面の金にあててもいいんどすよ?」

「それだけは……それだけは止めてください……私、私だったら何でも……」

「キサラはんには冒険者として金を貯める手段があるでっしゃろ? でも、レベッカはんにはそれは無理な話……なら、どっちが躰を売るかは決まったようなもんでっしゃろ?」

「止めて……止めてください……」

 

 廊下ではキサラが緑色の謎の物体に脅されていた。話を聞く限り、彼女には借金があるようだ。だが利子すら払えない状況になり、今正に妹が売り飛ばされるという逼迫した状況。その目には涙が浮かんでいる。

 

「ふむ……キサラ殿にはこういう事情があったのですなぁ」

「……ちっ、仕方ない、助けてやるか」

「なんと。流石はランス殿」

 

 その様子を廊下の角から見守っていたランスたちだったが、いてもたってもいられなくなったのか、ランスがスタスタと歩いて行く。

 

「おい、そこの変な生物!」

「ん? 誰でっか、あんた?」

「クズに名乗る名前はない。ほら!」

 

 バサ、と借金取りの前に札束が放り投げられる。それはランスが昨日受け取った依頼料の残りである13万GOLD。因みに2万は一晩で使い切っている。

 

「今回の集金分くらいには余裕で足りるだろう?」

「えっ、ラ、ランスさん……どうして……」

「ランス……あー、思い出したでごんす。あんた、リア女王と懇意にしているっていう……」

「リ、リア女王と!?」

「ふん、まあ俺様の名前を知っているんなら、これ以上騒ぐとどうなるかも判るな?」

 

 スッとランスが剣を抜いて借金取りを脅す。だが、そういった脅しに慣れているのか、借金取りは手をスッと上げて無抵抗であるポーズを取る。

 

「いやいや、これだけ貰えるんであれば、当面の利息分は大丈夫なんで引くでごわすよ。お金さえ貰えれば、こっちは何も文句はないでごんす。おいどんはプルーペットでごんす、以後お見知りおきを」

「クズの名前は覚える気はない。さっさと消えろ!」

「へいでごんす。キサラはん、当面の利息は頂いたでごんすが、まだ400万GOLDの借金がある事を忘れないようにでごんすよー」

 

 すごすごと引き下がるプルーペット。そのまま謎の乗り物に乗り込んでぷかぷかと空を飛び、キサラに一言だけ言い残してそのまま立ち去っていく。

 

「ご主人様、格好いいのれす!」

「がはは、一度こういう事をやってみたかったのだ」

「これは拙僧が女であったなら、股を濡らしているでござるよ!」

「ええい、気色の悪い事を言うな!!」

 

 廊下の角からあてなと言裏が飛び出してきて、口々にランスを褒め称える。言裏の言葉に気分を悪くしたランスが言裏を思い切り蹴り飛ばしていると、それまで後ろで押し黙っていたキサラがゆっくりと口を開く。

 

「あの……ご迷惑をおかけしてすいません。お金は必ずお返しします……」

「なぁに、あの程度の金など気にするな。俺様にとっては、ジュースを買う程度の小銭に過ぎん。それよりも、キサラちゃんが無事で良かった」

「ラ、ランスさん……」

 

 キサラが潤んだ瞳でランスを見つめてくる。その視線に気が付いたランスは、ここが落としどころだとばかりに言葉を続けた。

 

「俺様は君の味方だ。困ったことがあれば何でも言ってくれ」

「あっ……」

 

 そう口にしながら、ランスはキサラの肩を抱き寄せる。少しだけ驚いたような声を漏らしたキサラだったが、頬を赤らめながらランスの胸に頭を預ける。キサラ陥落。ランスは心の中で盛大にガッツポーズを取っていた。

 

「むぅ……ローズ殿に引き続き、キサラ殿も落とされるとは……受付嬢の事を考えても一勝二敗、ランス殿もやるでござるなぁ」

「ご主人様ぁ……あてなにも優しくしてほしいのれす……」

 

 言裏とあてなが状況を見守りながら思いを口にする。しばしランスに抱きしめられていたキサラは恥ずかしそうにしながらスッと離れ、決意を含んだ眼差しでランスを見つめる。

 

「あの……ご迷惑でなければ私も……私も仲間にしてください!」

「…………」

「足手纏いになってしまうかもしれません……でも、私も一緒にエンジェル組と戦いたいんです。ランスさんと一緒に……」

「俺様の言う事は聞いて貰うぞ?」

「っ!? そ、それじゃあ!?」

「仲間にしてやる、キサラ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 こうしてランスとあてなのパーティに、新たに言裏とキサラが加わった。目指すは、エンジェル組の本部。

 

 

 

-ハピネス製薬 5階 廊下-

 

「…………」

 

 盛大に笑うランスたちを見ながら、ブラック仮面がスッと廊下の陰に隠れる。ランスたちとは反対側の角にいたブラック仮面は、丁度今の会話を聞いていたのだ。

 

「意外なところを見ちまったな……それにしても、随分と嬉しそうな顔をしてるな」

「そうか?」

「一目瞭然だ」

 

 同じくブラック仮面と行動を共にしていたフェリスがそう口を開き、ブラック仮面の嬉しそうな表情を指摘する。それを指摘されたブラック仮面は静かに笑みを浮かべ、これからパーティを拷問するであろうランスたちに見つからないよう、廊下を歩いて行く。

 

「まあ、そうだな。少し気合いが入り直した」

「こりゃ、エンジェル組はご愁傷様って感じか?」

 

 気合いが漲っているブラック仮面を見て、ため息を吐きながらそう口にするフェリス。

 

「……だが、400万GOLDの借金とは尋常ではないな」

「払う気か?」

「流石に無理だ。だが、あれを見ると放っておくのもな……」

 

 ランスとキサラの顔を思い返しながら、フェリスにそう答えるブラック仮面。すると、道具袋からある紙を取り出した。それは、以前ある男から貰った連絡先。

 

「事件が終わったら、一度尋ねてみるか」

 

 その紙は、傭兵ルイス・キートワックの名刺。中央にでかでかと書かれた名前の下には、プルーペット商会の連絡先が書かれていた。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部本部-

 

「アーニィ様。パーティ様率いる部隊が全滅し、パーティ様が捕虜になったとの報告が……」

「……判ったわ。死者は?」

「襲撃に行った面々の殆どが死んだようなので、50、いえ、60は越えるかと……」

「そう……志半ばで散った仲間へ黙祷を」

「はっ!」

 

 報告を聞いたアーニィが目を瞑り、散っていった仲間へと黙祷を捧げる。報告に来た部下もそれに習い、数秒の黙祷の後に部屋を出て行く。

 

「パーティ……私とは折りが合わなかったけど、彼女も志を持った戦士。簡単にはこの場所は吐かないとは思うけど……」

「まあ、敵が乗り込んでくるのは時間の問題だろうな」

 

 部屋の隅、豪華なソファーに座った四人の人物の内の一人がそう呟く。ヘルマンのデンズとも並び立つほどの大男。その手には巨大な鉄球を持っており、見るからにこれまでの敵とは格が違う。

 

「けへへへへ。で、本当に義はあんたらにあるんだろうな? 俺たちは暗殺者集団だが、殺すのは悪人だけだと決めている」

「ええ。さっき渡した資料に全て書いてあるはずよ。正義はこちらにあるわ」

 

 大男の横に座っていたモヒカンがそう口にする。パンク風の格好をしており、黄色い亀の上に足を乗せている。この大きな亀は彼のペットであり、相棒である。アーニィが資料の事を口にすると、モヒカンの隣に座っていた、どこか気品のある女性がパサリと資料を机の上に置く。

 

「確かに、義は貴女たちにあるようですね。証拠も揃っている事ですし、この依頼に特に問題はないかと……」

「そうか……」

 

 その女性からの報告を受け、ソファーの一番端に座っていた男がゆっくりとその目を開ける。全身を黒いローブで覆い、口数は少ないが威圧感のある男。彼がこの四人組のリーダーであり、名うての暗殺者としてその名を大陸に知らしめる男、摩利支天。

 

「高い依頼料を払っているんだから、頼りにしているわよ」

「ああ……」

「お任せ下さい」

「俺たち摩利支天暗殺組に失敗無いぜ!」

「けへへへへ、このランスとかいう男の首は、間違いなく届けるさ!」

 

 そう答える四人組。その顔は自信に満ちあふれているが、パーティなどが浮かべていた根拠のない自信ではない。彼らの暗殺者としての経験から来る、確かな自信。この四人は、一筋縄でいく相手では無い。

 

「ふふふ、無敵の暗殺者集団に、エンジェル組の精鋭が100人。この基地に乗り込んできたとしても、飛んで火に入る夏の虫と一緒よ!」

 

 万全の体制で迎え撃つアーニィ。彼女の瞳もまた、自身に満ちあふれている。そんな部屋の様子をのぞき見る、四つの人影。

 

「聞いた?」

「聞きましたわー」

「どうするの?」

「そりゃもう、悪のランスは絶対に私たちの手で倒す!!」

 

 ざしきわらしの問いにグッと気合いを込めて答えるのは、闘神都市でランスに敗れたセェラァ。その横に立つブレザァとジャンスカも、グッと気合いを入れてランス討伐を心に誓う。彼女たちは闘神都市から脱出後、このエンジェル組に保護されていたのだ。

 

「もうちょっと情報を聞き出せないかしら……ひっ!?」

 

 コソコソと部屋の中をのぞき見ようとしたセェラァだったが、ソファーに座っていた摩利支天が強烈な殺気と共にこちらを睨んでくる。細心の注意を払っていたはずだが、あの男にはばれていたのだ。セェラァの額に、一筋の汗が流れる。

 

「ま、まずいわね……ちょっと本物っぽいのが混じってる。倒すなら急がないと……」

「では、各々準備をして突撃ですわね」

「うぇぇぇん、ランス倒すぅぅぅ!!」

「うーん、どうしようかなぁ……」

 

 リベンジを誓うレア女の子モンスター三姉妹。特にランスに恨みを持っていないざしきわらしだけが、どうしようかと考え込んでいる。アーニィ、制服三姉妹、そして謎の摩利支天暗殺組。真の決戦は、まだこれからである。

 

 




[人物]
キサラ・コプリ
LV 21/30
技能 格闘LV1 魔法LV1 フクマンLV1
 黒のタキシードに身を包む女冒険者。体術や通常魔法だけでなく、カード魔術という変わった攻撃方法も持つ手練れ。400万という莫大な借金を抱えており、借金のかたに身柄を抑えられている妹を助け出すために冒険者という仕事をしている。出会った当初はランスの事を嫌悪していたが、その評価は今では一転、既にほのかな想いを寄せており、完全陥落まで後一歩という状況。

パーティ
LV 15/18
技能 鞭戦闘LV1
 エンジェル組アイス支部、うさぎさんチーム隊長。アーニィをライバル視している鞭の使い手だが、実働は主にくまさんチームが行っているため、現在レベルには大きな差がある。

プルーペット (4.X)
LV 10/15
技能 商人LV1
 ポルトガル出身の大商人。キサラが逃げないよう、彼女の妹の身柄を拘束している。一応まだ売り飛ばしてはいないが、キサラが返せそうになければ最終的には姉妹仲良く売春婦にする予定である。


[技]
石飛礫
 魔力の籠もった石礫を放つ初級魔法。魔法でありながら物理的なダメージを与えられる珍しい魔法だが、石をぶつけるなんて見た目が格好悪いとゼスの民にはあまり人気の無い魔法。

爆炎カード
使用者 キサラ・コプリ
 炎の魔力を秘めたカードを弾き飛ばすキサラのカード魔術。カードは陰陽道で使われる式紙を元に開発されており、その特殊性にエムサが関心を持っている。別名、グライディング・ルージュ。

爆雷カード
使用者 キサラ・コプリ
 雷の魔力を秘めたカードを弾き飛ばすキサラのカード魔術。爆炎カードよりも威力は低いが、相手を麻痺させる付与効果を持っている。別名、ストラック・ジャッジメント。


[その他]
摩利支天暗殺組
 大陸にその名を轟かす暗殺者集団。少数精鋭ながら、その実力は本物。暗殺する対象は悪人のみという信念を持っており、一部では熱狂的な人気を誇っている。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。