ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第124話 命のウェンリーナー

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 南東の小部屋-

 

「あーっ! どうして一人じゃないのよ!? 約束違反よ!」

「約束? ふん、あんな勝手すぎる約束など聞けるか」

「むきーっ!」

 

 セェラァからの手紙に書かれていた部屋へやってきたランスたち。扉を開けて中に入ると、部屋の中央にはセェラァが佇んでいた。すると、こちらの面々を見てすぐに怒り出すセェラァ。ランスと一対一の勝負を望んでいたのだから、その反応は当然とも言える。

 

「戦士なら堂々と一対一の勝負をしなさいよ!」

「キサラ、あてな、ついでに言裏。全力で掛かれ」

「ラ、ランスさん……いいのですか?」

「はーい、なのれす!」

「はっはっは、拙僧、燃えておるぞ」

 

 セェラァが剣の切っ先をこちらに向けながらランスを挑発するが、ランスは全く聞く耳を持っておらず、四対一という構図が出来上がる。どうあっても一対一には応じて貰えないと判り、歯噛みをするセェラァ。

 

「くっ……こうなったら奥の手よ……出来れば使いたくなかったけど、最近覚えた超必殺技! この技に恐れおののくがいい!!」

「必殺技ぁ? お前如きが使う技など、どうせ大した事……」

「ぶんしーん!!」

 

 ランスの挑発を遮るようにセェラァが叫ぶと、その姿が少し霞み、横に広がり始める。まるで白昼夢のような光景に全員が我が目を疑う中、部屋の中に四人のセェラァが仁王立ちする。

 

「よ、四人に増えた!? 凄い技です!」

「あっはっは、恐れ入ったか!」

「うーむ、四人もいれば一人くらい拙僧に回していただけるかもしれんでござるなぁ……」

 

 キサラが素直に驚いているのを見て、セェラァは得意満面といった顔をする。だが、ランスは冷ややかな視線をセェラァに送る。

 

「ふん、そんなかなみ程度のへっぽこ忍者でも出来る技を、自信満々に使われてもなぁ……」

「な、なんだとぉ!? 何故驚かない!? す、凄い技だろ!? ほら、どれが本物か判らないでしょ!?」

 

 闘神都市でのユプシロン戦でかなみが分身の術を使っているのをランスは見ていたため、特に目新しい驚きはなく、ポリポリと頭を掻く。だが、セェラァにとってはその反応は非常に予想外であったらしく、目に見えて動揺し始める。

 

「かなみにも使える時点で三流の技だ」

「がーん……バ、バカにしてぇ……四人攻撃の強さ、思い知らせてやる!!」

 

 そう高らかに宣言しながら、剣を握りしめるセェラァ。それに続いて横の三体も剣を握るが、唐突にあてなが口を開く。

 

「さっきから喋っているのは真ん中の奴だけなのれす。本体丸わかりなのれす」

「ぎくっ!」

「むっ!?」

「あっ、そういえば……」

「はっはっは、あてな殿、やるでござるなぁ!」

 

 そう、四体に増えはしたが、先程から喋ったり怒ったり焦ったりしているのは真ん中にいる一体のみ。他の三体は無表情で立ち尽くし、その一体が指示を出すとようやく動き出すといった形だ。ニヤリと悪そうな顔をしたランスが他の三人に指示を出す。

 

「よし、本体を集中攻撃だ」

「ち、違うぞ! 私は本体じゃない! ほら、お前たち、自分の名前を言え!」

「ゼェラァです」

「セィラァです」

「セェラァァです」

「よし、あいつがセェラァだ」

「いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 部屋にセェラァの絶叫が響く。彼女の技は未完成も良いところであった。

 

 

 

-リーザス城 訓練場-

 

「……なんだろう? 良く判らないけど、無性に腹が立った」

「かなみ、どうしたの?」

 

 リーザス城での訓練場でメナドとの手合わせをしていたかなみ。分身の術を使ってメナドを包囲していたが、何故か唐突にランスに対してむかっ腹が立つ。その理由は彼女の知るところではない。とりあえず言える事は、リーザスの将軍、副将ともまともに戦える今のかなみをへっぽこ扱いなのはあんまりだという事だけだ。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 南東の小部屋-

 

「うぅっ……」

「がはははは、バカめ。俺様に逆らうからこんな事になるのだ」

「ランス殿。そろそろ拙僧にも……」

「いや、これから俺様が二発目をヤるのだ」

 

 再会したときの自信は一体何だったのかと言いたくなるほど呆気なく敗れたセェラァ。その後の流れはいつも通りといったところで、既にランスには一発ヤられている。セェラァが好みのタイプだという言裏は選手交代を要求するが、ランスがそれを却下する。すると、部屋の外で情事が終わるのを待っていたキサラが慌てて部屋に駆け込んできた。

 

「ラ、ランスさん……きゃっ!?」

「お、どうした? キサラちゃんも混ざりたくなったか?」

「ち、違います……敵が……」

「おっと、やっぱり間に合わなかったか」

 

 ランスのハイパー兵器を見てしまい、顔を真っ赤にするキサラ。ランスがその初々しい反応に満足していると、キサラの後ろからゆっくりと巨漢の男が現れて部屋に入ってくる。引き締まった肉体に厳つい顔つき、頭頂部には僅かばかりの緑色の髪が乗っかっており、手には鉄球を持っている。部屋に入るや否や、犯されているセェラァを見てため息をついている。

 

「なんだ? 誰だ、貴様」

「俺の名はスパルタン。死ぬ前によーく覚えておくんだな」

「エーックス、なのれす!!」

「なんだそりゃ?」

 

 スパルタンと名乗った男が巨大な鉄球を軽々と肩に担ぎながらそう宣言する。名前を聞いた瞬間あてなが奇声を上げたが、それは放っておいて話を続けるランスたち。ぐったりとしていたセェラァを放し、スッとランスが立ち上がって口を開く。

 

「貴様如きが俺様を殺す事など、天地がひっくり返っても不可能だな」

「へっ、口だけは達者だな」

「拙僧たちを殺す……ふむ、依頼主は誰ですかな?」

 

 言裏が顎に手を当てながら問いかけるが、それを鼻で笑うスパルタン。

 

「こっちはプロだからな。そりゃ言えねぇな」

「ずばり、エンジェル組だな!」

「ぐっ……何故それを……」

「状況的にそれしか有り得ないのれす」

 

 依頼主を言い当てられた事に驚くスパルタンであったが、あてなの言うように状況的にはエンジェル組以外有り得ない。見た目通り、頭はあまり回らないようだ。

 

「ちっ、知られたからには仕方ねぇ。皆殺しにさせて貰うぞ!」

「最初から殺す気だっただろうが!」

「まさか連戦とは……拙僧のこのナニの高まりをどこへ向けたらいいんでござるか!? のう、キサラ殿」

「し、知りません!」

 

 言裏から軽くセクハラを受けて真っ赤になるキサラを横目に、スパルタンが鉄球を高々と持ち上げて構える。

 

「行くぜ!」

「ふん、身の程を教えてやる!」

 

 ランスが剣を構え、他の三人もそれぞれ武器を構える。部屋に緊迫した空気が張り詰める中、スパルタンが大地を蹴ってランスに迫った。瞬間、キサラが驚愕の声を上げる。

 

「は、速い!?」

「おいおい、嬢ちゃん。でかい奴は動きが鈍いって先入観は死を招くぜ? うおらっ!!」

 

 巨漢でありながらスパルタンの動きは想像以上に速く、あっという間にランスの目の前まで迫っていた。そのまま鉄球を振り下ろすが、ランスはすんでのところで後方に跳んでそれを躱す。ドゴッ、という音と鉄球が地面にめり込むのを見てキサラの背中に冷や汗が流れる。あんなもの、一撃食らっただけでも致命傷になりかねない。

 

「ふんっ!」

「喝っ!」

 

 鉄球の一撃を躱したランスが即座に斬り掛かるが、スパルタンはその剣撃を鉄球で受け止める。睨み合う二人。その瞬間、言裏が前に飛び出し、スパルタンの首筋目がけて錫杖を振るう。だが、その一撃をスパルタンは首だけ後ろに動かして躱した。

 

「なんとっ!?」

「おらっ!」

 

 目を見開いて驚愕している言裏に向かってスパルタンは強烈な蹴りを見舞う。なんとか鉄の錫杖で蹴りを受け止め直撃は避けたが、あまりの威力に言裏は後ろに吹き飛ばされてしまう。

 

「とべー、あたれー!!」

「我がカードよ、敵を焼き尽くせ! 爆炎カード!!」

 

 あてなとキサラが同時に援護攻撃を放つ。迫り来る燃えるカードと矢を前に、スパルタンは意外な行動に出た。カードを左手で掴み、あてなの矢を左肩で受け止めたのだ。自分から攻撃に当たりにいった姿にキサラが目を丸くする。

 

「ど、どうして……」

「この程度の攻撃、避ける必要などない! ふっ!」

 

 スパルタンが肩に力を入れると、刺さっていた矢が外に押し出される。カラン、という音と共に矢が床に落ち、左手の中で燃えている爆炎カードを強く握りしめる。

 

「もう一度名乗らせて貰おう! スピード&パワーのスパルタン、摩利支天暗殺組の切り込み隊長だ……って、熱っ!? なんだこりゃ、消えねぇのか!?」

「うわ、格好悪いでござるな」

「爆炎カードは握ったくらいじゃ消えませんよ」

「先に言いやがれ!」

 

 いつまでも手の中で燃え続ける爆炎カードの熱さに流石に耐えかね、スパルタンが文句を言いながら慌ててカードを放り投げる。自信満々に名乗りを上げていた直後であったため、その姿はあまりにも滑稽であった。

 

「しかし、摩利支天暗殺組の一員だなんて……」

「ふむ、拙僧も噂を耳にした事くらいはありますぞ。大陸でも随一の暗殺者集団であるが、悪人にしか手を下さないという信念の下に動いているとか……」

「な、なにぃ!? 何故俺が摩利支天暗殺組の一員だと判った!?」

「自分で思いっきり名乗っていたのれすよ」

「し、しまったぁぁぁぁ!!」

 

 両手で頭を抱えて絶叫するスパルタン。それを冷ややかな視線で見るランスたち。先程までの張り詰めた空気は、いつの間にか四散してしまっていた。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 司令室-

 

「ば、馬鹿かあいつは……」

 

 モニターの向こうで繰り広げられる漫才劇にアーニィの顔が引きつる。確かに実力は本物のようだが、こんなのが大陸でも随一の暗殺者集団の一員だと信じたくない何かが彼女の中にあった。後ろのソファーからは、ブラボーの笑い声が聞こえる。

 

「あひゃひゃひゃひゃ! スパルタンらしいねぇ!!」

「うふふ、本当に……」

「笑ってないであなたたちも行きなさいよ! どうして一人で敵に向かっているのよ!」

 

 バン、と机を叩いて抗議するアーニィ。その抗議は至極当然である。相手は四人、暗殺組も四人。それなのにスパルタン一人で戦いを挑む理由など、非効率甚だしいからだ。その抗議を受け、肩をすくめながら口を開くブラボー。

 

「ま、おれっちたちの方針でね。まずは一人で敵と戦う。その時点で依頼が完了したら、そいつの取り分は他の二倍。駄目なら次の奴……ってな具合で、最後までいって初めて、全員で敵を迎え撃つ」

「最後までって……その間に仲間が死んだらどうするのよ!?」

「離脱用の帰り木は各々持っていますので、ご心配は無用です。それに、最後まで行った事なんてこれまでありませんから」

 

 ブラボーの軽い物言いに抗議の声を上げるアーニィだったが、如芙花が冷静な口調で説明に補足を入れる。彼女の言っている事が真実ならば、彼らはこれまで全ての依頼を誰か一人で完了してきたのだ。

 

「それに、見てください。スパルタンが時間を稼いでいる内に、セェラァさんは部屋から無事離脱しましたよ」

「えっ……あっ!?」

 

 アーニィが慌ててモニターに視線を戻すと、コソコソと部屋を出て行って廊下を駆けていくセェラァの姿が映っていた。

 

「ま、まさか……スパルタンはこのためにわざと馬鹿な振りを……!?」

「いや、あれは天然だ」

「…………」

 

 一瞬でもスパルタンを見直した自分が情けなくなってくるアーニィ。ふと、ソファーの端に座り、黙ってモニターを見上げている摩利支天が視線に入る。眉間に盛大にしわを寄せ、険しい顔つきだ。部下の不甲斐なさに苛立っているのかもしれないとアーニィが考えていると、如芙花がその視線に気が付いて口を開く。

 

「あ、摩利支天のそれは、笑いを堪えているだけですから」

 

 ドンガラガッシャーン、という盛大な音をたて、アーニィが机と共にひっくり返った。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 南東の小部屋-

 

「くそっ……知られたからには皆殺しにするしか……」

「その台詞、さっきも聞いたでござるよ」

 

 摩利支天暗殺組のメンバーだと言う事を自分からバラしてしまったスパルタンは酷く狼狽していた。その様子を見て呆れた声を出す言裏だったが、それを押しのけるようにランスが一歩前に出る。

 

「ふん、何がスピード&パワーだ。貴様よりも速い奴などいくらでもいたし、貴様よりもパワーのある奴とも戦った事がある。まあ、全て俺様の敵ではなかったがな。そいつらに比べれば、貴様などどっちつかずの中途半端な雑魚にすぎん」

「なにぃ!?」

「それに、スピードもパワーも貴様なんぞより俺様の方が上だ。がはははは!」

「へっ。そんな柔な体つきで俺よりもパワーがあるだと?」

 

 ランスの体つきを見て馬鹿にするスパルタン。その反応に少しだけカチンときたランスは、真・氷山の剣を握り直す。

 

「教えてやろう。この超ウルトラスーパー大英雄の俺様の力を!!」

「お手並み拝見といかせて貰おうか!」

 

 ランスが大地を蹴り、スパルタンがそれを迎え撃つ。真っ直ぐ一直線に走ってくるランス目がけてスパルタンは鉄球を振り下ろすが、それをランスは横に避けて躱す。そのままランスは跳び上がり、スパルタン目がけて剣を振り下ろした。

 

「ふんっ!」

「ちっ……なにっ!?」

 

 すぐさまランスの一撃を鉄球で受け止めるスパルタンだったが、思わず声を漏らしてしまう。先程までと圧力が違う。ギリギリと鉄球がランスの剣に押されているのだ。

 

「そ、そんな細い腕のどこにこんなパワーが!?」

「真の英雄はスラッとした美形なのだ。貴様のように醜い筋肉お化けには判らん事かもしれんがな。ふんっ、ふんっ!!」

「ぐっ……ぐぅぅぅ……」

 

 ランスが二度、三度と剣を振り下ろす。その手数はルークやリック程ではないが、それでもスパルタンよりは上。対応策が無く、鉄球でガードし続けるしかないスパルタン。だが、強烈な打ち込みに鉄球がミシミシと悲鳴を上げ始める。

 

「(一度俺の体で受けて反撃を……駄目だ、これ程の一撃をまともに受けては……)」

 

 スパルタンのパワーは十分一流である。だが、ランスは見た目に反し、剛剣の使い手。そのパワーは超一流の域と言える。そのうえ、これまでランスはスパルタン以上のパワーの持ち主と何度となく戦ってきている。シーザー、ノス、ボォルグ、ユプシロン。いずれも強敵であったが、最終的にランスはそれらの強敵を見事打ち破ってきてここに立っている。しかも、闘神都市の一件からまだ日が経っていないため、ランスのレベルはまだ下がりきっていない。そのランスがスパルタンに遅れを取る道理がない。摩利支天暗殺組の失策は、ランスをこれまでの一冒険者と同様にしか見ず、一人ずつ勝負を挑んだ事だ。

 

「これで決まりだ! ランスアタァァァック!!」

「っ……!?」

 

 ランスの剣に強烈な闘気が集まり、必殺の剣が振り下ろされる。それを受け止めたスパルタンの鉄球は粉々に破壊され、目を見開いているスパルタンの肩から腰に掛けて剣線が走り、血飛沫が舞う。そのまま床に打ち付けられた剣から強烈な闘気が膨れあがり、小爆発となってスパルタンを壁に吹き飛ばした。

 

「ぐっ……がっ……」

「す……凄い……」

「うーむ、何度見ても強烈な技ですなぁ」

 

 既にパーティ戦などでランスアタックを目撃しているキサラと言裏だが、そのあまりの威力に再度驚いている。

 

「がっはっは! 大勝利!!」

「ご主人様、格好良いのれす! ぱちぱち!!」

 

 剣を高らかに上げ、ポーズを決めて勝利を宣言するランス。その横であてなはどこから取り出したのか、紙吹雪をばらまいている。その様子を壁に背中を預けながら悔しそうに見るスパルタン。肩から腰に掛けて受けた斬り傷から、ダラダラと血が流れている。

 

「ちっ……くそっ……てめぇ、強いな……」

「ふん、身の程を知ったか?」

「……認めよう、俺の敵う相手ではない。だから、ここは一度退かせて貰う」

「えっ……あっ! 帰り木を!?」

 

 スパルタンが手に帰り木を持っている事に気が付き、キサラが声を上げる。それと同時にスパルタンは帰り木を折り、その効果を発動させる。ワープが始まり、スパルタンの姿が霞んでいく。

 

「だが、安心するなよ。我ら摩利支天暗殺組の四本柱。貴様はその内の一つを破ったにすぎぬ。大陸最強の暗殺者集団の恐怖は、まだまだこれからだ!」

「へぇ……摩利支天暗殺組って四人組だったんですね」

「うぉっ!? しまった!? 知られたからには、皆殺しにするしか……」

 

 言い終える前にスパルタンの姿が消える。最後まで間抜けな男であった。それを見送った後、キサラがランスに向かって駆けてくる。

 

「大丈夫ですか、ランスさん!? すいません、全然お役に立てなくて……」

「がはは、気にするな。俺様が強すぎるから、戦闘についてこられないのも無理はない」

「そう言っていただけると助かりますぞ」

「お前は次に役立たずだったら殺す」

「なんと!?」

 

 キサラと言裏の二人に真逆の反応を示すランス。あんまりな反応に言裏が絶句している中、キサラはスパルタンが先程までいた壁を見つめて不安そうに声を漏らす。

 

「ですが、まだ三人も暗殺者がいるなんて……他にもブレザァとジャンスカ、それにエンジェル組の幹部も……」

「なに、どんな奴が来ても俺様の敵ではない」

「あっ……」

 

 不安そうなキサラの肩をランスはスッと抱き寄せ、自信満々の顔でキサラの顔を覗き込む。

 

「安心して俺様の隣にいろ」

「は、はい……」

「うぅむ、羨ましいでござるなぁ……」

 

 顔を赤らめているキサラを見て言裏が羨ましそうにしている。ランスも当然その視線に気が付いてはいるが、むしろ見せつけるように肩を抱く手に力を入れ、優越感に浸っていた。

 

「マップ描き描き……ご主人様、ここまでの地図が出来たのれすよ」

「うむ、ご苦労。では探索を続けるぞ」

「うーむ……」

「言裏さん、どうしたんですか?」

 

 ランスがキサラの肩を抱いたまま部屋を出て、エンジェル組本拠地を奥へと進んでいく。あてなと言裏もそれに続くが、何やら難しい顔をして言裏が唸っているのにキサラが気が付き、何事かと声を掛ける。

 

「いや、摩利支天暗殺組といえば、先程も申しましたが悪人相手にしか手を下さないとの事。となると、我らが悪人という事に……」

「あっ!? そういえば……」

「どうせエンジェル組に騙されているんだろう」

「いえ、依頼受領前に入念な調査をし、義はどちらにあるのかを調べてから受けると聞いた事が……うーむ……」

 

 言裏の言う通りならば、此度の戦いの義はエンジェル組にあるという事になる。とすれば、悪に当たるのはランスたちか、あるいはハピネス製薬なのか。

 

「まあ、考えても仕方がない。向かってくる奴は皆殺しにすればいいだけだ」

 

 特に深く考えずに先に進むランス。その問題がハピネス製薬で解明されようとしているとは、夢にも思っていなかった。

 

 

 

-ハピネス製薬 4階 第一研究室-

 

「女の子モンスターを原材料に何かを生み出すのは、罪なんですか?」

 

 ジョセフの真剣な声が部屋に響き渡り、ドハラス社長が難しそうな顔をしている。同じ研究員として、そして経営者として、何か思うところがあるのだろう。

 

「モンスターを材料にする事の是非、か……」

「それはまた、難しい質問ですね……私たちが普段口にしている物も、突き詰めれば多くの命を奪っている訳ですし……」

 

 ジョセフの問いにフェリスが頭を掻き、エムサが真剣に悩み始める。コナンは話の難しさについて行けず、ただただ呆然としている。部屋を静寂が包む中、ジョセフの後方にあるカプセルの中から泣き声が聞こえてくる。

 

「ひっく、ひっく、いじめないで……」

「きゅぴん、きゅぴん」

 

 良く見れば、カプセルの中にいるのはウェンリーナーだけではない。ピンク色の小型モンスターが数匹入っており、少しとがった鼻でちくちくとウェンリーナーを突いている。カプセルに捕らえられた孤独と、モンスターからの突きによる痛みから、ウェンリーナーは涙を流していた。その涙がストローのような物を使って集められ、パイプを伝って四角い機械の中に流れている。

 

「その涙が幼迷腫の原材料って訳か?」

「はい。命を司る聖女モンスター、ウェンリーナー。彼女の涙にはそれだけで世色癌を上回る治癒能力がありました。それを使い、幼迷腫を作り上げたんです」

 

 フェリスの問いに素直に答えるジョセフ。先日ルークとエムサがドハラスから受け取った幼迷腫は、そういった経緯で作り上げられた物であった。

 

「確かに、人間に近い形状をしている女の子モンスターを材料にするのは気が引けます。でも、この幼迷腫が市場に出回れば、多くの人の命を救う事が出来るんです! 何もウェンリーナーを殺して材料にしている訳じゃない。ちょっと涙を拝借しているだけじゃないですか! 僕は悪くない! この薬は、人類にとって必要な……」

「……ジョセフ。とりあえずそのモンスターを止めろ」

 

 すると、これまで黙っていたルークが口を開く。少しだけ重く、冷たい言い回しのそれが普段とは違う事にいち早く気が付いたのは、付き合いの長いフェリス。

 

「どうしてですか? 別に女の子モンスターを傷つけてはいけないなんて法律、どの国にも……」

「……止めろ」

「ひっ!?」

 

 ジョセフが言い終える前に、ルークが冷たく睨み付ける。その言葉は先程よりも重く、あまりの威圧感に思わず後ずさりしてしまうジョセフ。そのままカプセルに備え付けられているボタンを操作したと思うと、何やら小型モンスターたちが一カ所に集まっていく。どうやら臭いでモンスターたちをおびき寄せたようだ。全てのモンスターがその場所に集まると、ガシャンと檻が出てきてモンスターたちを閉じ込める。その光景をぼんやりとカプセルの中から見ているウェンリーナー。ふとルークと視線が合い、首を傾けながら問いかけてくる。

 

「助けてくれるの?」

「ああ、少し待っていてくれるか?」

「うん!」

 

 先程までと違い、ルークはウェンリーナーに優しく語りかける。その答えが嬉しかったのか、ウェンリーナーは元気よく頷いた。そのままルークはジョセフに向き直り、真剣な表情で口を開いた。

 

「ジョセフ。確かに現在、女の子モンスターに対しての明確な法律は無い」

「昨今でも悪徳魔物使いの女の子モンスター売買は問題視されていますが、それを取り締まる法はありません。人間と魔物、保護すべき存在と駆逐すべき存在、その線引きは曖昧なままです」

「線引き……か……」

 

 ルークの話にエムサが続く。その二人の言葉を聞いて、フェリスは少しだけ思案する。人類と魔人の共存を目指すルーク。それは、今ある線引きを変えようとしている事に他ならない。そして、悪魔である自分を仲間だと言ったのも、常人の線引きでは無い。

 

「確かに……我がハピネス製薬では生き物を使わないようにしていますが、他の製薬会社ではモンスターを材料に使えないか研究しているところもあります」

「そうです! なら、女の子モンスターを原料に使うのは……」

「確かにそちらの罪を問うのは難しい。だが、お前の明確な罪ならある。エンジェル組という団体に保護されていたウェンリーナーを攫ってきた事だ」

「っ……!?」

 

 自分でも気が付いていたのだろう。ルークの言葉を聞いたジョセフは目を見開き、ダラダラと汗を掻き始める。

 

「そうですね。誘拐に当たるか、窃盗に当たるかは地方によって違いますが、少なくとも罪にならない地方はありませんね」

「人の物を勝手に盗ってはいけません……って奴だな。まあ、悪魔の私はあんまり上から言えたもんじゃないけどな」

「それを言うなら冒険者も似たようなものですけどね。ダンジョンの宝箱とか、割とグレーゾーンですし」

 

 フェリスとエムサがそう話しながらジョセフに向き直り、ドハラスとコナンもジョセフに視線を送る。特にコナンは非難したような目をしており、その視線がジョセフに突き刺さる。その刺すような視線は、ジョセフにある事を思い出させてしまう。結果が出せず、非難の声が日常的に聞こえてきた、かつての研究室。

 

「止めろ……僕をそんな目で見るな! 僕は……僕は結果を出さなきゃいけなかったんだ! 学校をトップの成績で合格し、このハピネス製薬に入社した。でも、全然結果が出せなくて……そのうちに周りの人たちの目が僕を蔑んできて……悔しかった……悔しかったんだ!!」

「ジョセフくん……」

 

 ドハラスが沈痛な面持ちでジョセフを見ている。社長として、何か責任を感じているのだろう。

 

「ルークさん、確かに僕がウェンリーナーを攫ったのは罪かもしれない! でも、ここから彼女を連れ出す必要は無いでしょう? 貴方だってモンスターは殺すでしょう? モンスターを材料にする事の何が悪いんですか!?」

「野性のモンスターならまだしも、保護されていたモンスターならば返す必要がある」

「でも、彼女の涙で多くの人が救われるんですよ!? 彼女を解放した場合としない場合で救われる人の数を計算してくださいよ! ここで彼女を解放するのは……」

「計算だけが全てではない」

「どうして!? どうしてウェンリーナーを助けようとするんですか!? 幼迷腫が……人類の未来が……」

「助ける理由なんて単純な事だ」

 

 涙目で食い下がるジョセフを見て、ルークが頭を掻きながら少しだけ思案する。確かに、幼迷腫という発明を反故にするのはあまりにも勿体ない。それこそ後々魔人との戦争を視野に入れているルークにとっては、ここでジョセフの行いを見逃して幼迷腫を市場に出回らせた方が良いのかも知れない。基本的には未来を見据え、利で動く事の多いルークだが、それらの事を考慮してもこの問題に対するルークの答えは一つだった。

 

「俺が気にくわないからだ」

「なっ……」

「泣いている彼女を見て、あぁ、可哀想だな、と思ってしまった。それを見過ごしたくなかった。ただそれだけだ」

「そ、そんな事で幼迷腫という発明を切り捨てるんですか!?」

「こう見えても、割と我が儘でな」

 

 ニッと笑うルークの横顔を見て、ある事に思い至ったフェリスは呆然としていた。

 

「(そうか……正反対だと思っていたけど、この二人、根本は似ているんだ……)」

 

 ルークとランス。フェリスの主人に当たる二人の冒険者は、その性質は真逆であるとこれまで考えていた。いや、それはフェリスだけでなく、彼らに関わる殆どの者が抱いているであろう感情だ。だが、その根本にあるのは自分勝手な望み。ランスは言わずもがな、ルークが抱く人類と魔人の共存という望みも、人類にとってははた迷惑な望みだ。だが、彼はそれを成すために動き続けている。その事を打ち明けぬまま、多くの強者を冒険に巻き込んでいる。なんと自分勝手なのだろうか。なんと似たもの同士の二人なのだろうか。

 

「ジョセフさん……貴方の言う通りならば、何故貴方は社長に全て打ち明けたのですか?」

「そ、それは……」

「貴方自身も、自分のやっている事に疑問を持っているのではないのですか? 本当に正しいのか……机上の計算だけでは量れない、人の感情が貴方を動かしたのでは……」

 

 エムサの言葉がジョセフに突き刺さる。彼が社長に打ち明けた一番の理由は、エンジェル組の襲撃でローズを巻き込んでしまった事による罪悪感。だが、それが全てではない。エンジェル組から攫ってきた当初からこれまでの間ずっと、ジョセフの中にはウェンリーナーに対する後ろめたさがあったのだ。

 

「違う……違っ……」

「ジョセフくん……」

「なっ!? ロ、ローズさん……」

 

 その言葉に全員が扉の方へと視線を向ける。そこに立っていたのは、第二研究室室長のローズ。廊下でルークたちの後ろ姿を見た彼女は、こっそりと後を付けてきていたのだ。その真剣な顔が、扉の向こうで話を全て聞いていた事を物語っている。一番知られたくなかった相手に自分の罪を知られてしまい、ジョセフの顔が青ざめる。

 

「うっ……あぁっ……み、見ないで……嫌わないで……僕は……僕は誰よりもローズさんに認めて貰いたくて……」

「…………」

 

 ジョセフが涙目で狼狽する中、無言でジョセフに向かって歩いて行くローズ。その顔つきを見たルークは何かを察したのか、スッと横にどいて道を空ける。ジョセフの目の前に無言で立ち尽くすローズ。嗚咽し始めたジョセフの顔を一度しっかりと見ると、ガバッと彼の体を抱きしめた。

 

「ローズ……さん……?」

「ごめんなさい、貴方が苦しんでいたのを気が付いてあげられなかった」

「っ……うっ……ううっ……」

「私たち大人が、貴方をこれだけ追い詰めてしまった。加害者は貴方だけじゃないわ。私たちも同罪よ。本当にごめんなさい……」

「うっ……あぁっ……うわぁぁぁぁん! ごめんなさいぃぃぃぃ!!」

 

 ローズの胸の中で泣きじゃくるジョセフ。そこには天才の姿は無く、年相応か、あるいはもっと幼い印象を与える男の子の姿しか無かった。

 

「貴方はまだ若いの……焦らないで……薬の開発は何年も掛かるものなんだから……」

「でも……でも……」

「いいの、大丈夫。一緒に開発していきましょう」

「ひぐっ……うわぁぁぁん!!」

 

 ローズに優しく抱きしめられて一層泣きじゃくるジョセフを見て、ドハラス社長が無念そうに口を開いた。

 

「ルークさん……私は社長失格です。社員の苦しみに気が付いてあげられなかった……いや、それどころか、室長などに抜擢したせいで余計な重圧を与えてしまった……」

「俺も……何度か陰口を叩いちまったな……」

 

 社長が猛省している横で、コナンも泣いているジョセフを見て自分の頬を掻いている。天才と言われようが彼はまだ子供であり、大人がしっかりと導いてあげなければいけないのだ。

 

「ウェンリーナーを連れて行っても構わないかな?」

「勿論です。エンジェル組の方々に返し、心からの謝罪をお願いします。あちらからの抗議や責は、全て私が被ります」

「しゃ、社長!?」

「良いんです。それが私の責任ですから。なので、出来ればジョセフくんの事は許してあげて欲しいのですが……決して悪気があった訳ではないと思うんです……」

「ま、それを決めるのは俺じゃないさ」

 

 ルークが真っ直ぐと歩いて行き、カプセルの前でその歩みを止めると、剣を素早く抜いて真円にカプセルを斬る。パカリ、と丸く斬り抜かれたガラスが前に落ち、大きく開いたその穴からウェンリーナーが外に出てきて、目の前のルークに抱きついてくる。

 

「助けてくれてありがとう! ずっと悲しかったの。ルークおにいちゃん、好き!」

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

「真面目な話をしてるのにトリップすんな!!」

 

 おじさんではなくお兄ちゃんと呼ばれた事を噛みしめているルークの後頭部をフェリスがスパーン、と叩く。最早慣れた手つきである。

 

「おねーちゃんたちもありがとうね。好きー」

「わっと……いきなり抱きつくな」

「あらあら……」

 

 続けてフェリスとエムサにも抱きついてくるウェンリーナー。どうやら彼女の中ではこの三人が救ってくれた恩人という事になったようだ。

 

「それで、君はそこにいるジョセフに攫われたんだな?」

「うん。エンジェル組の基地で寝ていたはずなのに、起きたらカプセルの中に入れられていたの。もう、ぷんぷんだよ」

「そうか。それで、そのジョセフが目の前にいるが、君は彼をどうする? 出来れば、程々にしておいてあげると嬉しいんだが」

「うーん……そうだねー……」

 

 ルークに言われてジョセフを見るウェンリーナー。その視線にビクッと反応を示すジョセフに、ウェンリーナーはプカプカと浮いたまま近づいていく。目の前に迫るウェンリーナーに恐怖し、ジョセフは思わず目を瞑るが、そのジョセフの頭にポカリと優しい拳骨が降りてくる。

 

「めっ!」

「えっ……それだけ……?」

「悪い事をしたら拳骨だって、ベゼルアイちゃんが言ってたの。だから、めっ!」

「……ごめんなさい」

「はい。ごめんなさいが出来たならいいの。えへへ……」

「で、これが俺からの分な」

「あがっ!?」

 

 呆然としているジョセフにルークが強めの拳骨を落とす。あまりの痛みにジョセフが涙を流して頭を抑えている中、ウェンリーナーの口から飛び出した名前にエムサが反応を示す。

 

「ベゼルアイ……力を司る聖女モンスターですね」

 

 この世界には、聖女モンスターと呼ばれる四体の存在がいる。命のウェンリーナー、時のセラクロラス、地のハウセスナース、力のベゼルアイ。彼女たちが全てのモンスターを生み出した母であり、人類に知られていないが、分類的には神に属する存在だ。そんな存在とここで出会えたのは、奇跡に近い。彼女たちは通常、人間の前に姿を現すような存在ではないのだ。

 

「えへへー。一件落着だよ」

「いや、まだ落着していないさ。君をエンジェル組に返さないとな」

「えー……別にそれはしなくてもいいよ」

「はぁっ? エンジェル組に保護されていたんだろ?」

 

 ルークの言葉に意外な反応を示すウェンリーナー。隣に立っていたフェリスも想定外の答えに目を丸くし、慌てて問いかける。

 

「だってー……アーニィおねえちゃんとか良くはしてくれるんだけど、特別扱いすぎるっていうか……自由に出来ないっていうか……別に帰りたくないっていうか……」

「なるほどな……」

 

 どうやらエンジェル組は彼女をあまりにも大切に扱いすぎ、逆に彼女の自由を奪ってしまったようだ。

 

「まあ、それならそうと言いにいかないとな。勝手に出て行ったら、良くしてくれたアーニィに悪いだろう?」

「うん……そうだね。じゃあ、エンジェル組に連れて行って。ちゃんとバイバイって言ってくる」

「そうだな。フェリス、エムサ、急ぐぞ。俺たちが到着すれば、この戦いは終わる。早くしないと、潰す必要の無いエンジェル組をランスが壊滅させかねんからな」

「はいよ」

「了解しました」

 

 ルークの言葉にフェリスとエムサが深く頷く。彼らが到着すれば、エンジェル組との争いは終わる。勿論、その後にウェンリーナーを攫った事をエンジェル組がハピネス製薬に抗議してくるかもしれないが、そこから先はドハラス社長の仕事だ。

 

「ルークさん、お願いします……」

「ああ。後の事は任せておけ」

「ルークさん!」

 

 ドハラス社長が頭を下げて頼んでくるのをしかと聞き、ルークたち一行は部屋から出て行こうとする。瞬間、後ろからの声に呼び止められる。声の主は、ジョセフ。

 

「本当にごめんなさい……それと、僕は必ずもう一度幼迷腫を作って見せます! 生き物を材料にせず、何年掛かっても……必ず!! そうしたら、ルークさん。市場に出回る前に、貴方に使って欲しい!」

「楽しみにしている。頑張れよ」

「はい!!」

 

 涙の跡がくっきりと残っているが、ジョセフの顔つきは先程までとは違う。いや、もっと言えばルークが出会ったときからの顔つきとまるで違う。何か憑き物が落ちたような、そんな晴れやかな顔をしていた。

 

 

 

-ハピネス製薬 正門前-

 

「お仕置き、割と少なかったな」

「部外者の俺じゃなく、ローズとドハラスがしっかりと言い聞かせるだろう。大人が導いてやれなかったのが一番の原因だからな。だがそれも、これからは大丈夫そうだ。それに、ウェンリーナーが良いと言っているのに、わざわざしゃしゃり出る事もあるまい」

 

 フェリスの問いかけにルークがそう答える。そんなものかね、とフェリスが肩をすくめる中、ウェンリーナーはルークの肩に抱きつくように浮いていた。

 

「えへへー」

「懐かれたな」

「ま、悪い気はしないがな」

「アルフラ、エリーヌ、ウェンリーナー……最近は随分と幼い娘にって、あ痛っ!?」

「冗談でも怒るぞ」

「……ごめん」

「あらあら、本当に仲が良いですね」

 

 フェリスにデコピンを飛ばすルーク。ルークにそんな趣味はないし、先のロリータハウスでの惨状を目撃しているので少し過敏になっているところがある。いつと違う反応を受けて少し地雷を踏んだ事に気が付き、フェリスがすぐに謝る。その光景を見て、エムサはルークとフェリスの関係性を微笑ましく思っているのだった。

 

「ねぇねぇ、おにいちゃん、おねえちゃん。好きだから、私が一年に一度しか使えない特殊技能を使ってあげようか?」

「特殊技能?」

「あら? 何かしら?」

 

 唐突なウェンリーナーの提案に三人が興味を示す。一年に一度しか使えないという特殊技能とは、一体何なのか。

 

「命を司る私だけが使える能力。ねぇ、ルークおにいちゃん。誰か生き返らせてあげたい人はいない?」

「……まさか!? いや、そんな事が……」

 

 ウェンリーナーの言葉を受けてルークがその能力に思い至り、絶句する。そんな事が許されるのか。それは、人類が望むにはあまりにも過ぎた願いではないのか。思考が定まらず、自然と唾を飲み込む。そんな中、ウェンリーナーは無邪気にその能力を口にした。

 

「うん。おにいちゃんの考えている通り、私の能力は人を生き返らせる事。たとえ肉体がどんな状態でも、ちゃんと生き返らせる事が出来るよ」

「「なっ!!?」」

 

 フェリスとエムサが絶句しているが、その言葉がルークの耳にはしっかりとは入ってこない。死人を蘇らせる。考えた事がなかった訳じゃない。だが、それはあまりにも過ぎた願い。しかし、目の前にはその願いを叶えられるという少女がいる。

 

『『ルーク……』』

 

 幼い頃に自分のせいで殺された両親の声が聞こえる。

 

『……もし君たちが嫌でなければ、しばらく一緒に暮らしてもいいと思っている』

『夫婦二人で暮らすには少し大きい屋敷なの。遠慮しなくていいのよ』

 

 瞳が濁っていた自分に手を差し伸べてくれた夫妻の声が聞こえる。

 

『おじ様の最期、聞かせてよ……』

 

 約束を果たす前に目の前で殺された、美しき復讐者の声が聞こえる。

 

『兄貴のその能力はさ、きっと人々を救うために授かった能力なんだと思う』

 

 そして、死に目に会えなかった最愛の妹の声が聞こえる。

 

「死者を蘇らせる……だと……」

 

 ルークが微かに絞り出した声にウェンリーナーが深く頷く。一陣の風が吹く中、ルークの額には一筋の汗が流れていた。

 

 




[人物]
見当かなみ (4.X)
LV 37/50
技能 忍者LV1
 リア王女付きの忍び。出番はこれだけ。

メナド・シセイ (4.X)
LV 37/56
技能 剣戦闘LV1
 リーザス赤の軍副将。しっかり鍛錬しています。

スパルタン
LV 28/36
技能 槌戦闘LV1
 摩利支天暗殺組のメンバー。巨漢ながらその動きは素早く、パワー&テクニックを自負する切り込み隊長。少し抜けているところがあり、ペラペラと秘密を喋ってしまうという欠点もあるが、特に他の三人はその欠点を気にしていない。

セェラァ (4.X)
 ランスに復讐を誓うレア女の子モンスター。分身という必殺技を身につけてきたが、未完成のそれはあまりにもお粗末な出来であり、返り討ちにあう。


[モンスター]
ウェンリーナー
 命を司る聖女モンスター。ルーク、フェリス、エムサの三人に恩義を感じており、何とか恩返しをしたいと思っている。その力は死者をも蘇らせる事が出来、人類にはあまりにも過ぎた能力。
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