ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第128話 夢の賛同者

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 大戸前-

 

「あっ……がっ……」

 

 ランスが目を見開き、目の前のアーニィを見やる。何が起こっているのか理解しきれない。ただ、喉が焼けるように熱いのだけは頭に届いている。アーニィの顔には何やら鮮血が飛び散っている。

 

「(あの血は……俺様の……?)」

 

 自身の喉をアーニィの短刀が貫通している事に未だに気付いていないランスは、呆然とそんな事を考えていた。対するアーニィは、ウェンリーナーの危機を自分が救った事に対しての達成感を覚えていた。

 

「あは……あはは……殺った……ウェンリーナー様を、アーチボルト様を、この私が守ったんだ!」

 

 深々と突き刺さっている短刀を見て、アーニィから笑みが零れる。そして、そのまま短刀を横に勢いよく引き抜こうとする。そうすればランスは確実に死ぬ。刺さっている位置的にも首と胴体が離れる可能性が高いし、もしそうでなくても大量の出血から導き出されるのは死という運命のみ。

 

「死ね、ランス!! ……っ!?」

 

 アーニィが勢いよく短刀を動かそうとした瞬間、その腕を掴まれ動かせなくなる。骨が折れるのではないかと思うくらいに強く握りしめられるが、アーニィは痛みよりも先に恐怖を感じた。剥き出しの殺意が自分に向けられているのだ。

 

「ブ、ブラック仮面……」

 

 アーニィが自身の腕を掴んでいる男を見上げる。瞬間、アーニィは何もかも捨て去ってこの場から逃げ出したくなる。それ程までにブラック仮面の殺気は凄まじいものがあった。だが、もし腕を掴まれていなかったとしてもアーニィにそれは出来なかっただろう。なぜなら、彼女はあまりの恐怖に身動きが取れなくなってしまっていたからだ。メガネのせいで顔はよく判らないはずなのに、ブラック仮面の表情は鬼のように思えた。

 

「は、速い……」

「なんと、いつの間に……」

 

 エムサと言裏が一瞬の内に移動したブラック仮面に驚愕する。人間の動きを凌駕したそれは、強敵との戦いの末に到達した速さの極地、韋駄天速。だが、その反動はブラック仮面の足に届く。筋肉の傷つく感触、骨の軋む音、それらが確かな痛みになってブラック仮面に襲いかかるが、ブラック仮面は表情一つ崩さずにアーニィの腕を掴んでいた。強く握られている事から、自然とアーニィは短剣から手を放してしまう。

 

「……はぁぁぁぁぁ!!」

「がっ……!?」

 

 瞬間、咆哮と共にブラック仮面がアーニィの腹部に強烈な拳を叩き込んだ。恐怖で身動きが取れなくなっていたアーニィはその一撃をモロに食らってしまい、その場に膝をつく。痛みが全身を駆け巡り、激しく咳き込むが、何よりも恐怖が彼女を支配していた。

 

「あっ……がっ……」

「ランスさん!」

 

 ドサリ、と後ろでランスが倒れる音が聞こえ、ブラック仮面がそちらを振り返る。短刀が喉を貫通しており、床に血が広がっていく。キサラたちが慌てて駆け寄り、エムサたちもそれに続く。

 

「ご主人様ぁぁぁぁ!!」

「ランスさん! ランスさん!! 誰か、誰かヒーリングを!! エムサさん!!」

「すいません……私は、回復魔法は使えないんです……」

「いや、意識は朦朧としており、徐々に冷たくなってきている……これでは回復魔法があっても間に合わんでござるよ」

「そんな……そんなことって……」

 

 あてなが泣きじゃくり、キサラが必死にエムサに助けを求める。だが、エムサは回復魔法の使い手ではない。その横から言裏が歩み寄り、スッとランスの体に触れる。床に広がる大量の出血と、熱を失っていく体。人の死に慣れているのであろうか、他の者たちよりも幾分冷静さを保っている。真剣な表情で首を横に振る言裏を見て、キサラの目には涙が浮かぶ。

 

「っ……」

 

 ブラック仮面の脳裏に浮かぶのは、後悔の二文字。ランスの強さならば大丈夫というその信頼が、今回は裏目に出たのだ。ハピネス製薬に戻った事、一度合流したのに摩利支天の相手をするため先に行かせた事。もしあの時こうしていれば、もしあの時こうしていなければ、そんな思いが頭の中に浮かんでは消える。

 

「俺は……また……」

 

 妹が死んだとキースに聞かされた際には激しく後悔した。魔女パンドーラと戦わなければ、自分がホーネットとの生活にうつつを抜かしていなければ、もっと早く人間界に戻っていれば。

 

「あいつの……残した者も……守れないのか……」

 

 ランスと冒険を共にするようになり、その戦闘スタイルから妹の姿を重ねるようになっていた。真実を知り、それまで以上にランスに肩入れするようになった。仲間としての思いもある。友とも思っている。だが、それ以上に妹の忘れ形見として見ている面が確かにあった。その命が今失われようとしている。

 

「……す」

「あっ……あぁっ……」

 

 ブラック仮面が床に膝をついているアーニィを見下ろす。その瞳は、これまで仲間たちが見たこともないような濁り方をしていた。今のこの姿を仲間たちが見たら、一体どのように感じ取るだろうか。ブラック仮面の脳裏に浮かんだのは、今の状況を笑うであろう二人の姿。

 

『あれ程の事をされ、何故人々の為に戦える? あの魔法使い夫婦と会ったときは、いい感じに瞳が濁っていたではないか。憎悪はないのか?』

 

 自分の過去を知っている魔王の問いかけが頭に響く。かつてはこの問いに首を横に振れた。だが、今同じ問いをされれば、同じ返答をする自信がない。

 

『ククク……私と貴様は似ているよ。同じ狂人だ』

 

 自分を狂人と見抜いた宿敵の言葉が頭に響く。もし奴が生きていたら、今の自分を見てなんと言うだろうか。恐らく、奴は歓喜の笑みを浮かべ、今の自分を肯定する。それでこそ狂人だ、と。否定したい。奴の言葉を否定したい。だが、ブラック仮面の胸に込み上げるのは、抑えきれない殺意。

 

「……ろす」

 

 ゆっくりとアーニィに近づいていくブラック仮面。剣を抜き、高々とそれを掲げる。殺気を持って見下ろすのは、恐怖で身動きの取れないアーニィ。

 

「あっ……ひっ……」

「お前は殺すぞ!」

 

 冷酷なその言葉と共に、ブラック仮面の握っていた剣がアーニィの頭に向かって振り下ろされた。

 

「「アーニィ様!!」」

 

 ファルコンとアホビッグマンの叫び声が部屋に響き渡り、ランスに意識を向けていたキサラたちがようやく異変に気が付く。だが、間に合わない。今ようやく異変に気が付いたキサラたちでは、ブラック仮面を止められない。唯一止められるとすれば、最初から異変に気が付いていた者のみ。

 

「ひっ……えっ?」

 

 死を覚悟したアーニィが目を瞑るが、聞こえてきたのはガキン、という金属音のみ。いつまで経っても自分に剣が振り下ろされないのだ。恐る恐る目を開けると、そこにはブラック仮面の剣を鎌で受け止める悪魔の姿があった。

 

「フェリス……」

「馬鹿野郎……」

 

 ブラック仮面が呆然とし、剣を握る力を緩める。それを感じ取ったフェリスは即座に鎌を横に振ってブラック仮面の剣を弾き飛ばし、呆然としているブラック仮面の胸ぐらを掴む。

 

「ルーク! お前はアーニィと話をするんじゃなかったのかよ!!」

「っ……」

 

 フェリスがそう叫ぶのと同時に、ブラック仮面の後ろから眩い光が放たれる。部屋中に広がるその光に気が付き、ブラック仮面が振り返ると、そこにはウェンリーナーが倒れているランスを優しく包み込むように立っていた。眩い光は、そのウェンリーナーから発せられている。優しく温かい、まるでこの場にいる者全ての母であるかのような不可思議な光。慈悲の眼差しをランスに向けるウェンリーナーが、そっと口を開く。

 

「なおれ、なおれ、かいふくして……」

 

 瞬間、ウェンリーナーから発せられていた光が更に勢いを増し、ランスの体が見えなくなる。全員が思わず目を瞑る中、二度と起き上がるはずのなかった者の声が部屋に響いた。

 

「ん……いてて、なんだ? 首が痛いぞ……」

「えっ!?」

「ご主人様が、ご主人様が立ったのれす!」

 

 ゆっくりと起き上がるランスに驚愕する一同。見れば、喉に突き刺さっていた短剣は外れ、その傷は完全に塞がっている。以前ロゼが使った大回復を遙かに上回る驚異的な威力。それは、人類が到達し得ない神の領域であった。

 

「ん? 何だ? 何が一体どうなった?」

「ランスさん!!」

 

 事態が飲み込めず、キョロキョロと辺りを見回しているランスにキサラが抱きついた。顔中を涙で濡らしながら、ランスをジッと見つめて必死に言葉を発する。

 

「ランスさん……良かった、本当に……私、ランスさんが死んでしまったら……私……」

「死ぬ? 俺様がか?」

「キサラちゃんだけズルイのれす! ご主人様ぁぁぁ! にゃんにゃん」

「それじゃあ拙僧も。ランス殿ぉぉぉ! ぐはっ!!」

 

 キサラに続き、あてなも満面の笑みでランスに抱きつく。何故か言裏もそれに続こうとしたが、顔面をランスに蹴り飛ばされて床とキスする事になった。

 

「フェリスおねえちゃん、これでいい?」

「ああ。ありがとうな」

 

 ウェンリーナーのその言葉を受け、ブラック仮面が驚いたようにフェリスに向き直る。

 

「フェリス……お前……」

「私はランスの使い魔だからな。主人のために動くのは当然だろう?」

 

 静かに微笑みかけるフェリス。そう、彼女は保留していたウェンリーナーへの頼み事をランスの治療に使ったのだ。全員が狼狽していたあの状況で即座にウェンリーナーに治療を願い、アーニィを殺そうとするブラック仮面を止めに入ったのだ。それは、死というものに慣れているからこその行動だったのか、あるいはまた別の要素があったのかは誰にも判らない。

 

「つまり、俺様はアーニィに刺されて死にかけていたという事か。で、お前が俺様を回復してくれたという訳か。ふむ、中々可愛いじゃないか」

「え? 可愛い? 本当? えへへ……」

 

 先程まで死にかけていたというのに、早くもウェンリーナーに目を付けているランス。だが、それこそがいつもの光景。歓喜が部屋を包む中、ふとブラック仮面の側から呆然とした声が聞こえてきた。

 

「どう……して……」

 

 それは、アーニィの声。虚ろな瞳でウェンリーナーを見ており、その視線にウェンリーナーも気が付く。

 

「あ、アーニィおねえちゃんだ。やっほー」

「ウ、ウェンリーナー様……無事だったんですね……いや、それよりも、どうしてその男を……」

「フェリスおねえちゃんに頼まれたし、喧嘩しちゃめっ! なんだよ」

「わ、私は……ウェンリーナー様を取り戻そうと……」

 

 アーニィが激しく困惑する。全てはウェンリーナーを助けるための行動であった。だが、そのウェンリーナーは敵であるランスを治療したのだ。その事がアーニィに大きなショックを与えていた。

 

「その事なんだけど……私、ここを出て行くね」

「あ、私もなのー」

「なっ!? ウ、ウェンリーナー様。それにざしきわらし様も……ど、どうして!?」

 

 保護していたウェンリーナーとざしきわらしから立て続けに出て行くと言われ、更に狼狽するアーニィ。

 

「んー、ちょっと自由になりたいなーと思って。別にエンジェル組が嫌になった訳じゃないんだけど、ちょっと堅苦しいし」

「もっと幸せにしたい人が出来たから、その人の家に住み着くのー!」

「そ、そんな……外は危険なんです。我々が人間とモンスターが共存出来る世を作りますから、ここにいてください!」

「んー、私は自由に生きたいなー」

「なっ……」

 

 ウェンリーナーとざしきわらしの返答を理解出来ていないアーニィに、フェリスが静かに口を開く。

 

「保護の名の下に相手を縛り付けて自由を奪うのは……少し違うんじゃないか?」

「あっ!?」

 

 その言葉はアーニィに衝撃を走らせ、床に手をついて声を絞り出す。

 

「わ、私は……自分の理想の為に……ウェンリーナー様を縛っていたというのか……」

「んー、アーニィおねえちゃんは優しいけど、自由にさせて欲しい事もあるかなー」

「わ、私は……うそ……私は今まで何を……私のやってきたことは、全て間違いだったの……」

「アーニィ様……」

 

 自分の理想が間違っていたのかという思いに駆られ、呆然自失となるアーニィ。そのアーニィを悲しげな瞳で見るファルコン、アホビッグマン、そしてブラック仮面の三人。

 

「諦めるのか?」

「っ!?」

 

 誰も声を掛けられない空気を破ったのは、フェリスであった。虚ろな目でフェリスを見上げてくるアーニィに、真剣な眼差しで言葉を投げる。

 

「人間とモンスターが共存出来る世界を作りたいっていうお前の思いは、その程度だったのかよ?」

「わ、私は……」

「悪魔の私とも判り合える世が作れるかもっていうのは?」

「そ、それは……」

「私も、そんな世界に少し期待していたんだぞ」

「っ……!?」

 

 アーニィが目を見開き、フェリスの顔を見る。悪魔にとって、人間など下等な生き物であるはず。それなのに、彼女は自分の以前の発言に期待してくれていたというのだ。

 

「あ、悪魔さん……」

「フェリスだ。私だけじゃない。このブラック仮面も……」

「おーっと。よく判らんどうでもいい話はそこまでだ。アーニィ、俺様を殺しかけた罪、その体でしっかりと払って貰おうか!!」

「げっ……このタイミングかよ……」

「流石はご主人様! 空気を読んでいないってレベルじゃないのれす!」

 

 とんでもないタイミングで割り込んできたランスにフェリスがため息をつき、あてなは何故か嬉しそうにしていた。

 

「アーニィ様には手出しさせんぞ!」

「ん? なんだ貴様は?」

 

 ランスとアーニィの間に割り込むファルコン。事情はなんとなく飲み込めていたが、それでもアーニィに手出しさせる訳にはいかない。

 

「どけ。俺様の邪魔をするなら殺すぞ。逆にアーニィを捕まえるのを手伝うなら、命だけは助けてやろう」

「巫山戯るな! この不死身のファルコン、そう易々とは……」

「きゃっ!?」

 

 ファルコンが剣を握りしめた瞬間、後ろからアーニィの悲鳴が聞こえてくる。驚き振り返って見れば、アーニィをエンジェル組の戦闘員四人が取り押さえているのだ。それは、先程までアーニィの部下として戦っていた者たちだ。

 

「お、お前らぁぁぁ!!」

「へ……へへ……化け物は黙ってな。これで俺たちは見逃して貰えるんだ」

「あ、貴方たち……」

 

 咆哮するアホビッグマンだったが、傷が深く立ち上がる事が出来ない。そのアホビッグマンを化け物と罵り、ランスに縋るような視線を向ける戦闘員たち。

 

「ちっ……」

「う、動くな! 俺たちはランス様に助けて貰うんだ!」

 

 フェリスが不機嫌そうに鎌を抜こうとしたが、床に転がっていたアーニィの短剣を拾って戦闘員が脅しをかける。

 

「くっ……」

 

 ブラック仮面が唇を噛む。剣は先程フェリスに弾き飛ばされてしまったし、何よりも足に激痛が走っているため上手く動けない。韋駄天速は強力だが、やはり長期的な戦闘には向かないクセのある技である。

 

「へへ……ふぎゃ!?」

 

 そのとき、アーニィを取り押さえていた戦闘員が吹き飛ぶ。後方の大扉から何かが飛んできたのだ。ランスたちを目の前にしているため、戦闘員たちは完全に後方に注意を払っていなかった。いや、払うはずがない。なぜなら、大扉の向こうには自分たちの仲間しかいないはずなのだから。

 

「ぐおっ!?」

「うがっ!?」

 

 更に二人が吹き飛ばされる。それと同時に、ブラック仮面に向かって剣が投げられる。それを行ったのは、見覚えの無い小型の精霊が二体。一体いつの間にここにいたのだろうか。ブラック仮面が大扉へと視線を向ける。大扉の向こうに少しだけ見えた人影は四人。その内の一人、先程から二翼の闘気を飛ばしていた男が、ニヤリと笑った気がした。

 

「あいつ……」

「く、くそ……」

 

 最後の一人となった戦闘員が、最初に吹き飛ばされた男の持っていた短刀を拾い上げる。それを見たブラック仮面は弾き出されるように前へと進んだ。一歩踏み出した足からは、痛みが感じられない。ズタズタになっていたはずの足が、いつの間にか完治しているのだ。ふと視界の隅にウェンリーナーが飛び込んでくる。その彼女は、満面の笑みでピースサインを送っていた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

「えっ……うぎゃぁぁぁ!!」

 

 短刀をアーニィに向けようとしていた男がブラック仮面によって吹き飛ばされる。そのままブラック仮面はアーニィを抱き上げ、大扉の方へと全力で駆けていく。

 

「あ、こら、貴様! アーニィはこれから俺様がたっぷりとお仕置きをしてやろうと思っていたのに!」

「悪いな! 俺もアーニィに話があるんで、早い者勝ちってところだ。キースギルドの信条でもあるだろう? エムサ、後の事情は説明しておいてくれ」

「了解です」

 

 エムサが微笑みながら頷く。ウェンリーナーの事情を話せば、もうエンジェル組とやり合う必要も無いからだ。

 

「フェリス!」

「ん?」

「……スマン、ありがとう」

「ふん……」

 

 フェリスが少しだけ笑いながら手をヒラヒラと振り、そのままブラック仮面はアーニィと共に大扉の向こうへと姿を消した。お姫様だっこのような体勢で抱きかかえられているアーニィが、ブラック仮面へ疑問を投げる。

 

「何故私を助けたの……さっきまで殺そうとしていたのに……」

「それは……すまなかった」

「いや……仲間を殺した相手を恨むのは当然よ。だからこそ判らないの。なんで私をランスから助けたの?」

 

 アーニィの声には、若干の怯えが含まれている。先程当てられた殺気の影響がまだ残っているようだ。

 

「話をしたかった。人類とモンスターの共存を考えているお前と……」

「私と……?」

 

 ランスに向かって言っていたのは、自分を連れ去るための口実ではなく本当の事であったのかと目を丸くするアーニィ。そのままブラック仮面はエンジェル組基地の奥へと進んでいくのだった。

 

「ア、アーニィ様……」

「大丈夫だ、イーグル。あの人ならば信用が出来る」

 

 アーニィを連れ去られて困惑するアホビッグマンに、そう言葉を掛けるファルコン。彼は完全にブラック仮面を信頼しきっていた。

 

「むかむか……ブラック仮面の奴め。俺様の獲物を横取りしやがった」

「あ、あの、ランスさん……もしそういう事がお望みでしたら、その……私が代わりに……そ、その、今晩にでも……」

「むっ……がはは、キサラちゃんも遂に身も心も俺様のものになるという訳だな」

「あうっ……」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめているキサラを見て、少しだけ溜飲が下がるランス。そのままスタスタと歩みを進め、先程アーニィを人質に取っていた隊員に剣を突き刺す。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

「お、お前……助けてくれるって話じゃ……」

「ふん。お前らはなんかむかついたから駄目だ。死ね」

「うぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 四人の戦闘員を次々と絶命させていったランス。その様子を呆然として見ていたファルコンとアホビッグマンだったが、事を終えたランスと目が合い震え上がる。

 

「……ま、お前らは許してやろう。寛大な俺様に感謝するがいい」

 

 その言葉にエムサがホッと息を吐き、ランスに向かって話し掛ける。

 

「ランスさん。もうエンジェル組と争う必要はありません。彼らの目的は、ここにいるウェンリーナーさんなのですから」

「ん? エムサさん、どういう事だ?」

 

 こうしてようやくランスに事情を話せる事になったエムサたち。エンジェル組との対決は、もう間もなく終わりを迎える事になる。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 Q奥の小部屋-

 

「小さい頃、両親とピクニックに出かけた私は一人はぐれてしまったの。気が付けば、モンスターが出るから絶対に立ち入ってはいけない森の中を彷徨っていたわ。幼い頃だったから、訳も判らずがむしゃらに歩いていたからね……」

 

 基地の小部屋に入り、一息ついたアーニィが椅子に腰掛けてポツポツと自分の過去を語り始める。ここに来るまでの間にブラック仮面と話し、多少警戒は解れたようである。狂人の考えでもある自分の話を聞きたいと真剣に言ってきたブラック仮面に、アーニィは自分の過去を語る気になったのだ。

 

「モンスターに出会わないように、モンスターに出会わないように、って祈ったわ。でも、私の目の前に現れたのは、探しに来てくれた両親ではなく、モンスターの群れだった。デカント、ぶたバンバラ、へびさん、まじしゃん……ああ、私はここで殺されるって思ったわ。さっきと同じようにね」

「ん……」

「ふふ、冗談よ……」

 

 頭を掻くブラック仮面を見て微笑むアーニィ。先程から微妙に続く気まずさを払拭するための冗談であったようだ。

 

「でも、殺されなかった。モンスターたちは泣きじゃくる私を温かく迎え入れ、保護してくれたの。それから数時間は、まるでおとぎ話のような一時だったわ。程なくして両親が雇ったと思われる冒険者の声が聞こえてきて、一体のモンスターが私の手を取ってその冒険者の下へ連れて行ってくれたわ。薬箱を背中に抱えた、優しい瞳の女の子モンスター。後から調べたけど、クスシっていう女の子モンスターだったわ」

「モンスターが人を殺さなかった……?」

 

 ブラック仮面がその話に違和感を覚える。確かにきゃんきゃんやハニーなど、割合人間とは友好的にしているモンスターも存在するが、デカントやぶたバンバラなどは友好的とは言いがたいモンスターである。

 

「うん。それには理由があったの……」

 

 アーニィが、遠い過去を思い出しながらそう呟いた。それは、彼女の行く道を決めた出来事。

 

 

 

GI1002

-自由都市 とある森中-

 

「なっ……モンスターか!? 参ったな、最悪の事態みてぇだ……」

「待て、冒険者殿。儂は争うつもりはない。この娘を返しに来ただけじゃ」

「なんだと?」

 

 アーニィの手を引いていたクスシは、目の前に現れた筋肉質の冒険者と何やら話を始めた。何を話していたのかはアーニィには判らなかったが、男冒険者も理解のある人間だったようで、持っていた大剣を背中に差し直した。どうやら、戦闘する気はなくしたらしい。話を終えたクスシがアーニィの前までやってきて、視線をアーニィの高さに合わせながら口を開く。

 

「娘よ。あの冒険者殿と共に両親の元へ帰るのじゃ」

「うん。ねえ、また会いに来てもいい?」

「駄目じゃ。次にここを訪れれば、今回のようにはいかぬ。お主は殺されてしまうかもしれん」

「えっ……? でも、みんな優しくしてくれたよ……?」

 

 訳が判らないといった風に首を傾げるアーニィを見て、クスシは静かに微笑んでからアーニィが背負っていた鞄に手を伸ばす。表面に取り付けられたポケットから覗いている金色のコンパスを指差し、優しく問いかける。

 

「娘よ。これはどこで手に入れたのじゃ?」

「えっ? 森を歩いているときに拾ったの」

「……これはコンコンパスというアイテムじゃ。これはモンスターを強制的に使役する事の出来るアイテム。これがあったから、お主はモンスターたちに優しくして貰えたのじゃ」

「そ、それじゃあ、私はこれを持ってまたみんなに会いに来る!」

 

 アーニィのその返答に、クスシはゆっくりと首を横に振る。

 

「それは儂らの心を強制的に操っているに過ぎん。儂らも自分たちの意思を勝手に押し潰されてはいい気はせんのじゃ。お主も、自分の心を勝手に操られるのは嫌じゃろう?」

「あっ……」

 

 何かに気が付いたように声を漏らすアーニィ。自分が間違ったことを言っていた事に気が付いたのだろう。その後ろから、筋肉質の冒険者が疑問を投げる。

 

「強制的に操っているのに、どうしてお前はそんな風にコンコンパスの能力を説明できるんだ?」

「儂は元々人間とは友好的なモンスターじゃからな。その分、コンコンパスによる強制力が弱いのじゃろう」

「なるほどな」

「だが、デカントやぶたバンバラなんかは明らかに洗脳状態に近いものがあった。もしコンコンパスがない状態で再び奴等と会えば、間違いなく奴等は怒り狂うじゃろうな」

 

 その話を聞き、冒険者がコンコンパスを眺めながらため息をつく。

 

「とんでもねぇアイテムだな、これは……」

「うむ。人の手には余る代物じゃ。故に、さっき言った通りに……」

「判っている。この森から出たら、俺が責任を持って廃棄する。破壊しちゃまずいんだったよな?」

「うむ。この強制力は呪いに近い。破壊すれば、その呪いが跳ね返ってくる可能性がある」

「となると、廃棄迷宮にでも捨てに行くかね……」

 

 どうやら先程二人はコンコンパスについて話をしていたようだ。因みに廃棄迷宮とは、ゼスにある有名な物捨て場である。そこにある巨大な穴は地獄の底に繋がっているとも言われており、捨てた物は絶対に戻ってこないと評判の観光地だ。

 

「という訳じゃ。娘よ、今日のことは忘れ、お父さんお母さんと平穏に暮らすのじゃ」

「いやだ……」

「ん?」

「忘れたくない! 今日の事を絶対に忘れたくない! 私、今日みたいに人間とモンスターが仲良く暮らせるような世界を作る!!」

「なっ……」

「ははっ、こりゃ大した嬢ちゃんだ」

「……ふふ、本当にそうじゃな」

 

 驚いていたクスシだったが、冒険者の言葉に微笑みながら頷く。目の前のアーニィは、幼いながらも真剣な眼差しで自身の夢を語っていた。

 

「もしそんな世界になったら、それはとても楽しい世界じゃな」

「絶対にする! 私が絶対に実現させる! そうしたら、また会いに来てもいいよね?」

「うむ。楽しみにしておるぞ」

 

 これが、アーニィの夢の始まり。その後、冒険者に連れられて森を抜けたアーニィは、心配そうにしていた両親に抱きしめられる。

 

「アーニィ……ごめんね、お母さんたちが目を離したから」

「ごめんなさい、お父さん、お母さん……」

「お疲れ様、ボーダー」

「ん……なに、中々面白ぇ依頼だった」

「面白い?」

 

 冒険者が美人のパートナーに労われている中、アーニィが自分を抱きしめている両親を真剣な眼差しで見つめた。

 

「お父さん、お母さん、私、将来の夢が決まったの!」

 

 その後、アーニィは周囲の反対を押し切り、モンスターとの共存の為に何をすべきかを必死に学び始めた。そして、その一番の近道はエンジェル組をより巨大な組織にする事だと考えた彼女は、高等学校を卒業後エンジェル組に所属。支部とはいえ若くして幹部にまで登り詰め、今に至る。全ては、あの日の約束の為に。

 

 

 

LP0002

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 Q奥の小部屋-

 

「それが、私がモンスターとの共存を目指すようになった理由……ふふ、狂っているって笑ってもいいのよ? 慣れているから……」

「笑わないさ……俺は絶対に、その夢を笑わない……」

「そう……」

 

 どれだけの嘲笑を浴びてきたのか、アーニィは自嘲気味に笑いかけてきたが、ブラック仮面は真剣な表情でそれに答えた。

 

「コンコンパス……そんなアイテムがあったとはな……」

「そのときの冒険者が廃棄迷宮に捨てたらしいから、もう人の目に触れる事はないと思うけどね」

「廃棄迷宮に捨てた物が再びこの世に戻ってくる可能性は、0.02パーセントほどと言われているからな」

「ええ。流石にそれなら大丈夫でしょうしね」

 

 ブラック仮面とアーニィはそう言っていたが、これより数年後、コンコンパスは再びこちらの世界に戻ってきてとある少女の手に渡る事になるのだが、それはまだ先の話。

 

「私は……モンスターの心を縛り付けるのが嫌だったから、コンコンパスには頼らない共存の道を探した……でも、私は知らず知らずの内に、ウェンリーナー様たちの自由を奪っていた……とんだお笑いぐさよ……」

「それでか……」

 

 これでブラック仮面は先程の出来事に合点がいった。ウェンリーナーから束縛されていると言われたアーニィは、いくらなんでもショックを受けすぎなように思えた。それは、かつてクスシから言われた事を思い出してのショックだったのだろう。

 

「それで、夢は追い続けるのか?」

「……正直、心が折れたわ」

「…………」

「でも、フェリスさんにその心を繋いで貰った。私はモンスターとの共存を諦めない……絶対に、何年かかっても実現してみせる……いえ、モンスターだけじゃないわ。モンスターとの共存が実現したら、その次は悪魔との共存を目指してみせる!」

「そうか……」

 

 アーニィの瞳は先程までの弱々しいものではなく、初めて出会ったときの力強さが戻っていた。それは、フェリスがもたらしたものだ。話には聞いていたが、本当にモンスターとの共存を目指しているその姿を見てブラック仮面は一度だけ息を吐き、静かに口を開いた。

 

「魔人は……」

「えっ?」

「魔人との共存は、どう思う?」

 

 問いかけたブラック仮面の手に汗が滲む。それは、モンスターとの共存以上に有り得ない、狂人の質問だからだ。

 

「……魔人は、死後に魂を回収するのが基本の悪魔と違って、人間を蹂躙する生き物。到底判りあえる存在じゃないわ」

「…………」

 

 その返答に、ブラック仮面は目を瞑り、天を仰ぐ。いや、これこそが普通の返答なのだ。だが、ブラック仮面はどこか期待してしまっていた。彼女なら、判ってくれるかもしれないと。

 

「でも……」

「……?」

 

 だが、その期待は実現する。

 

「もし本当に判り会えたら、それは素晴らしい事だと思う。人類と魔人の共存……素晴らしい夢だと思う……」

「っ……」

 

 その言葉を受けたブラック仮面は自身の付けていたメガネを外し、アーニィに向き直る。その顔にどこか見覚えのあるアーニィは、呆けたような顔になる。

 

「あら? そんな顔をしていたのね……って、その顔、どこかで……」

「俺の名はルーク・グラント。聞いた事くらいはあると思う」

「なっ!? リーザス解放戦の英雄!? 貴方が……!?」

 

 なんと、ブラック仮面の正体はルークであった。衝撃の事実に驚愕するアーニィを前に、ルークは更に驚くべき言葉を続ける。

 

「俺の目指すものは、人類と魔人の共存だ」

「なっ!? そう、さっきの話は、貴方の……」

「アーニィ。一緒に来る気はないか?」

「……えっ?」

「俺の仲間になるつもりはないか? 共に、夢を実現させるために」

「貴方の……仲間に……?」

 

 目を見開くアーニィを、ルークは真剣な表情で見やる。これまでこのようにストレートな物言いで仲間に誘ったことなど、ルークにはない。だが、同じような夢を見ている彼女を、ルークはどうしても放っておけなかったのかもしれない。

 

「貴方の……仲間に……」

 

 アーニィがもう一度だけその言葉を反芻する。目の前にいるこの男も、自分と同じような夢を持つ狂人である。もし彼と肩を並べて旅をするとしたら、誰にも判って貰えないという自身の心はかなり晴れることであろう。それに、彼と一緒にいればフェリスと共に旅をする事にもなる。先の件でフェリスにかなりの恩義を感じているアーニィにとって、それは魅力的な事柄であった。しばし考えた後に、彼女はゆっくりと口を開く。

 

「……ごめんなさい」

 

 アーニィの出した答えは、拒否であった。

 

「多分……貴方と一緒に行動していれば、私の心は楽になると思う……でも、私と貴方の夢は、微妙に異なっている。両方を実現しようとすれば、多分無理が生じる。その負担は、私じゃなくて貴方が請け負う事になるわ。力関係的にもね」

「それは……」

「誰かの足を引っ張りたくないの。貴方についていって、夢を実現してもらって、それで私が夢を実現したんだって、胸を張ってクスシに会いに行くなんて……私には出来ないわ。夢は自分で叶えるものなんだから」

「すまん、こちらが勝手に誘ったばかりに……」

「気にしないで。これは私の意地だから」

 

 ルークの謝罪にアーニィが微笑みながら答える。これは、アーニィの意地。今の自分ではルークと共に行動をしても、足を引っ張ることしか出来ない。それで夢を実現しても、それはルークが叶えた夢でしかない。彼女は、自分自身の手で夢を実現したいのだ。全ては、幼き頃に交わした約束のために。

 

「振られちまったな」

「当たり前よ。直前まで殺されそうになっていた相手に、簡単になびくわけないでしょ」

「ふっ、それもそうか」

 

 互いに笑い合うルークとアーニィ。互いに狂人の夢を持った二人の道は、ここで一度交わり、また分かれる事になる。椅子から立ち上がったアーニィは、ルークの目の前に立って真っ直ぐにルークを見つめる。

 

「もし、私が貴方の足を引っ張らないくらいになったら……貴方と一緒にいても、私が夢を叶えたんだって胸を張って言えるくらいに強くなったら……そのときは、仲間に加えて欲しい。魔人の部下にもたくさんのモンスターがいるから、魔人と共存することは、私の夢の近道でもあるから」

「待っているさ。そのときを」

「ありがとう」

 

 固い握手を交わし、ルークとアーニィの道は分かれた。いつの日か、もう一度交わる日が来ることを願いながら。

 

「それで、これからどうするつもりだ?」

「アーチボルト様についていくわ。女の子モンスターに対しての情熱が凄い、尊敬できるお方だからね!」

「アーチボルトか……」

「えっ? どうしたの、難しい顔をして……」

 

 アーニィからアーチボルトの名前が出た途端、ルークが険しい顔を浮かべる。まさかそんな反応を示されると思っていなかったアーニィは、困惑しながら真意を問う。

 

「いや……ウェンリーナーとざしきわらしから聞いた話なんだが、奴は……」

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 大戸前-

 

「女の子モンスターをはべらして王様気分を味わっているぅ? アーチボルトとかいう奴がか?」

「そうなの。セェラァちゃんとか、スカートの中をこっそり覗かれたって文句言っていたの」

「私もいっつも視線を感じた。別に裸を見られるのは慣れているけど、あれだけジロジロと見られるとちょっと……」

「そ、そんな……アーチボルト様が……」

「心当たりはありませんか?」

 

 ざしきわらしとウェンリーナーの証言に驚いているアホビッグマン。エムサが情報収集のために問いかけると、何やら思い出しながらアホビッグマンがそれに答え始めた。

 

「いや、俺が知っているのは、アーチボルト様の部屋にはアーニィ様やパーティ様といった幹部ですら立ち入り禁止な事、女の子モンスターを連れ込んでいる事、たまにイヤーンとかの声が聞こえてくることくらいしか……」

「真っ黒すぎんだろ!」

「はっ!? た、確かに……」

 

 フェリスのツッコミを受けて驚いた様子のアホビッグマン。アホというランスのあだ名は、案外間違っていないのかもしれない。

 

「可愛い女の子モンスターの敵となれば、俺様の敵だな。ぶちのめすぞ。それに、アーチボルトを倒したら、部屋にいる女の子モンスターたちが感謝して股を開くかもしれんからな、ぐふふ……」

「って、一応俺たちもエンジェル組なんだから、そういう話を堂々とするな」

「ん、なんだ? 邪魔するつもりか?」

 

 ウェンリーナーに治療して貰い、立ち上がれるようになったアホビッグマンがそう口にすると、ランスがジロリと睨みを効かせた。だが、アホビッグマンは首を横に振る。

 

「……いや、その話が本当なら、ほとほと愛想がつきた。元々、俺たちはエンジェル組って言うよりも、アーニィ様に忠誠を誓っていたからな」

「という事は……」

「通れ。俺たちはもう邪魔をしないさ」

 

 キサラの問いかけにアホビッグマンがニヤリと笑い、大扉を指差す。ブラック仮面たちが先に進んだが、あの最深部にアーチボルトの部屋があるのだ。

 

「ま、俺たちは邪魔しないと言っても、この場で邪魔できそうなのはアホビッグマン殿だけでござるがな」

「ああ、そうだったな……可哀想に……」

 

 言裏の言葉を受け、全員がファルコンへと視線を向ける。そこには、青かったはずの甲冑が真っ白に染まり、灰のようになってしまったファルコンがいた。

 

「そんな……リソラール……」

「クール&ビューティーなみの豆腐メンタルなのれす」

「いや、あれは誰でもショックを受けるかと……」

 

 互いの情報交換をしている間に、ランスがファルコンの恋人であるリソラールを犯した事を知ってしまい、こうしてファルコンは真っ白な灰になっていた。哀れである。

 

「それじゃあ、先に進むぞ」

「ふぁぁぁぁぁ……」

 

 ランスがそう言った瞬間、ウェンリーナーが大きな欠伸をした。

 

「うーん……力を使い過ぎちゃったみたい。ランスおにいちゃんを回復させたのが大きかったかなぁ……」

「眠るのですか?」

「四日か五日くらい眠ると思う。約束の日と丁度良い感じだから良いよね? エムサおねえちゃんの側で眠って、時間が来たら勝手に起きるから大丈夫だと思う……弟さんを呼んでおいて……それじゃあ、おやすみなさい……」

「あっ、消えた!」

 

 ウェンリーナーが姿を消し、キサラが驚いたように声を上げる。四日か五日という言葉を聞いたフェリスが、ホッと息を吐く。

 

「危なかったな。確か死者を蘇らせると、一年眠るとかだったよな。タッチの差で間に合ったか」

「フェリスさん。冷静な状況判断、本当にありがとうございました」

 

 一年も眠るとなると、一刻も早く治療をしたいルークやエムサにとっては非常に困る事になりかねない。エムサが深々とフェリスに頭を下げるが、フェリスは気にするなと軽く手を上げて合図をする。

 

「ふむ、よく判らんが、とにかくアーチボルトをぶちのめすぞ!」

「そうなの! 女の子モンスターの敵なの!」

「それでもって、無理矢理部屋で奉仕させられている女の子モンスターと一発ヤるぞ!!」

「そっちが本命でござるなぁ」

「ひっ……」

 

 ざしきわらしが自身の体を隠すように両手で押さえ、ランスから距離を取る。

 

「ざ、ざしきわらしのことも狙っているの?」

「ん?」

 

 ランスがジロジロとざしきわらしを眺める。比較的小柄な体型の女の子モンスター、ざしきわらし。ランスにとってはストライクゾーンギリギリであり、個体差で若干大きなざしきわらしには手を出したりするが、目の前のざしきわらしはその種族の中でも比較的小柄な体格の個体であった。つまり、ランスにとってはボール球である。

 

「ガキに興味はない」

「ガキじゃないのー!」

 

 ポカポカと叩いてくるざしきわらしを無視し、ランスたちは基地の奥へと進んでいく。目指すは、アーチボルトの部屋。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 Q奥の小部屋-

 

「そんな……まさか……でも、アーチボルト様は私たちを部屋の中には絶対に入れようとしなかった……それに、決まって特に可愛い女の子モンスターを部屋に連れ込んでいた気が……夜には、アーチボルト様のエッチーとか聞こえてきた気が……」

「真っ黒すぎるだろ、それは……」

 

 アーニィが床に膝をつき両手をついているのを見て、ルークはため息をつく。どう考えても、アーチボルトは黒であった。

 

「……この目で確かめます。アーチボルト様は、そんな事をする人じゃないわ!」

「あっ!?」

 

 ガバッと立ち上がり、アーニィはそのまま部屋を飛び出していってしまった。

 

「……とりあえず、ランスたちと合流するか」

 

 頭を掻き、ランスたちと合流する事にしたルーク。再びメガネを装着したのは、言うまでもない。

 

 

 

-エンジェル組 アイス支部秘密基地 長い廊下-

 

「この先にアーチボルトがいるんだな?」

「そうなの」

「レッツゴーなのれす!」

 

 ざしきわらしの案内の下、迷うことなく基地を進んでいけたランスたち。この奥にアーチボルトの部屋があるようだ。先頭を走るのは、ランス、あてな、ざしきわらしの三人。その少し後ろを走るのは、キサラとエムサ。何やらキサラの持っているカードをエムサが手にとって調べていた。

 

「これは凄いですね……炎の魔力を先に封じ込めておくなんて……でも、これは扱いが難しそうですね……」

「そうなんです。それなりの魔法使いじゃないと扱いが難しくて火傷とか感電とかのクレームが入って……逆にこれを簡単に扱えるくらいの魔法使いには威力が低すぎて見向きもされず……在庫の山なんです……」

 

 しくしくと家にある段ボールを思い浮かべながらキサラが独白する。このカード事業の失敗が、キサラたち姉妹を不幸へと追いやった一因である。

 

「これが爆炎カード……これが爆雷カード……あら? これは?」

「あっ、ごめんなさい。それはただのトレーディングカードゲームです」

「トレーディングカード……? 魔力を感じますけど……」

 

 エムサが手に取ったカードは、爆炎カードや爆雷カードとは違う、何やら異質な魔力を感じる代物であった。

 

「ゴーレムマスターって判りますか?」

「勿論。通称ゴーマス、数年前から爆発的なヒットを飛ばし続けている人気のトレーディングカードゲームですよね。弟もファンなんです。最近ではゴーレムギャルと呼ばれる美少女プレイヤーが人気を集めているとか……」

「そのゴーマス人気にあやかって、ウチもトレーディングカードを作ったんです。全248種類の絵柄それぞれに違う魔力をこめて、大量生産して売り出したんです……びっくりするくらい売れませんでしたけど……」

「あら……」

「絵柄がグロテスク過ぎて子供向けじゃなかったとか、違う魔力がこめられていたら魔法使いにはサーチ行為が簡単に出来るとか……もう駄目な要素しかなくて……」

 

 因みにこのカードが最も段ボールを積み上げているカードだ。それを思い出して、遠くを見つめるキサラ。

 

「……でもこれ、少し興味深いですね。研究したら、何か面白い事が判るかも。キサラさん、このカードっておいくらですか?」

「248枚の全種セットで10GOLDです」

「……よく判りませんが、それは安い上にトレーディングカードの売り方ではないのでは?」

「少しでも在庫を減らしたくて……」

 

 一度で全種揃うトレーディングカードなど聞いた事がないが、どうやらそうでもしてでもキサラは少しでも売りたいらしい。売れてないのだが。

 

「……それでは、5セットほど買わせていただきます。お金と送料は先払いしますので、後で送っておいていただけますか?」

「い、いいんですか!?」

「ええ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 キサラが歓喜に打ち震えている更に後方を走るのは、フェリスと言裏という異質の組み合わせだ。

 

「いやー、フェリス殿は美人でござるなぁ。どうですかな、拙僧と夜明けの念仏でも」

「断る。あんまりしつこいと首を刎ねるよ」

「おおっと、これは手厳しい」

 

 言裏がひたすらナンパをしているが、フェリスは全く相手にしていない。一応後方から誰かが来ないか監視も含めて最後尾を走っていたが、特に気配も感じないため、エムサと併走するかと前に出ようとした瞬間、言裏の口から耳を疑うような言葉が発せられた。

 

「しかし、ブラック仮面殿の正体が巷で話題の解放戦の英雄とは思わなかったでござるよ」

「……!?」

 

 フェリスが目を見開き、言裏の顔を見る。

 

「冷静なようでいて、フェリス殿も案外焦っていたんでござるな。うっかりルーク、と名前を呼んでいたでござるよ」

「……あのときか」

 

『ルーク! お前はアーニィと話をするんじゃなかったのかよ!!』

 

 ブラック仮面の胸ぐらを掴んだとき、確かにフェリスは一度だけルークと叫んでしまっていた。ランスの傷に慌てていたキサラやあてなには気が付かれていなかったのだが、言裏だけはしっかりとその言葉を聞いていたのだ。

 

「ちっ……やっぱりあんた、食えないね」

「いえいえ。拙僧はただの破戒僧でござるよ。しかしそうなると、ますますJAPANに来ていただきたくなったでござるなぁ……」

「いつか行くつもり、とは言っていたよ」

「うーむ……ま、気長に待つでござるかね」

 

 カラカラと笑う言裏。ブラック仮面の正体で脅しをかけるつもりもないようだ。だが、フェリスは何となく感じていた。この男は、いずれルークとまた出会う、と。恐らく敵ではなく、味方として巡り会うことになると。

 

「……見えた。あの部屋だな!」

「ご主人様、誰かいるのれす!」

 

 先頭を走っていたランスたちが、遂に小さくだがアーチボルトの部屋を視界に捉える。だが、その少し前にある広い通路の柱の陰に何やら人が隠れているのをあてなが見つける。その言葉を受けてランスたちが立ち止まると、柱の陰から四人の男女が姿を現した。

 

「待っていたぞ……」

「ハロー。ちょっと付き合ってくれるかい?」

「ま、リベンジマッチってところだ」

「今度は負けませんよ」

「摩利支天暗殺組……」

 

 現れたのは、摩利支天暗殺組の四人。一度敗れた彼らは、今度は四人でリベンジマッチにやってきたのだ。

 

「待ってください。貴方たちと争う理由はもう……」

「ああ、先程雇い主から聞いた……」

「えっ?」

「ウェンリーナーさんの件は完了。私たちの契約は終わり、とアーニィさんご本人から聞きましたわ」

 

 摩利支天の言葉を如芙花が補足する。どうやら、ルークと別れた後アーニィは摩利支天たちと会い、契約の終了を伝えていたようだ。

 

「故に、我らがアーチボルトを守る義理はない。通りたければ通れ。だが、貴様にはリベンジに付き合って貰うぞ。我らのプライドにかけて!」

「むっ、俺様か?」

「ブラック仮面!」

「んがっ!?」

 

 肩透かしを食らったランスが振り返ると、そこにはブラック仮面の姿があった。どうやらいつの間にか追い抜いており、摩利支天たちと会話をしている間に追いついてきたらしい。

 

「あ、こら、ブラック仮面! アーニィはどうした!?」

「逃げられた」

「なにぃぃぃ! 貴様、俺様はまだアーニィとヤっていないんだぞ!!」

「ラ、ランスさん……落ち着いてください……敵が目の前にいます……」

 

 キサラが懸命にランスを抑える中、フェリスがブラック仮面の横に来て問いかける。

 

「逃げられたって……」

「大丈夫。話したい事は話したさ。その上で振られただけだ」

「……ぷっ、そりゃ笑えるね」

 

 ブラック仮面の返答にフェリスが吹き出す。これまでと変わらない自然な笑いだ。フェリスは感じ取ったのだろう。ブラック仮面が先程まで若干引きずっていた殺気はもう無く、今までと変わらない様子である事を。

 

「あーあ、俺っちたちはランスが良かったのになぁ……」

「ジャンケンで負けたのでは仕方ありませんよ」

「両方相手にするっていうのはどうだ?」

「間違いなく負けますから駄目です」

「けっけっけ。その時点でプライドもクソもないけどな」

 

 ブラボー、如芙花、スパルタンの三人が摩利支天の後ろでブツブツと言っている。

 

「受けるか? ブラック仮面」

「……さっきの恩もあるしな。受けよう」

「そうこなくては!」

 

 返事を聞き、ニヤリと笑う摩利支天。ここにリベンジマッチが決定する。それを見た如芙花が、ランスに向かって口を開く。

 

「という訳です。ランスさんたちは先に進んでいいですわよ」

「待て、待て! 俺様はお前とも一発ヤりたいのだ! 俺様もその勝負……」

「奥には、美人の女の子モンスターさんが一杯ですよ。急がないと、アーチボルトさんに先を越されてしまうかも……」

「むっ……」

 

 如芙花の言葉にランスが悩む。確かに如芙花は美人だが、奥には沢山の女の子モンスターがいる。両方ヤりたいが、如芙花に時間を掛けていたら女の子モンスターがアーチボルトにヤられてしまうかもしれない。それは非常に面白くない。しかし、ここをブラック仮面に任せれば、まさかブラック仮面が如芙花を犯すという事はないだろう。深い付き合いはないが、何故だかそう思う。ならば、ひとまず奥へと進んで女の子モンスターと楽しみ、後で戻ってきてから如芙花と楽しむのが一番ではないかとランスは考える。この間、2秒。

 

「よーし、ここは任せたぞ、ブラック仮面! 俺様は奥へと進む!!」

「流石はご主人様、単純なのれす!」

「っ……いや、それは……」

 

 奥へと進もうとするランスを引き留めようとするブラック仮面。先行させたがために、アーニィに殺されかけた事を思い出しているのだ。だが、その様子を見た摩利支天が口を開く。

 

「心配するな、アーチボルトは雑魚だ……万が一すら起こらんさ……」

「……了解した。お前を信じよう」

「ふっ……甘いな……」

 

 今の発言をまるで疑いもせずに笑みを浮かべるブラック仮面を見て、摩利支天もつられるように笑みを浮かべる。その二人を余所に、ランスたちは奥へと走り去っていった。宣言通り、ランスたちが通り過ぎるのを黙って見過ごす摩利支天たち。こうして通路に残されたのは、摩利支天暗殺組の四人とブラック仮面のみとなった。

 

「それで、勝負の方法は?」

「私と貴様の一騎打ちだ。そちらは一人しかいないからな」

「人数揃ってりゃ、俺っちたちも戦いたかったんだけどな」

「なら、お前らも戦えそうだぞ」

「むっ!?」

 

 その声は、ランスたちが進んだ通路から聞こえてきた。全員がそちらに視線を送ると、そこに立っていたのはフェリス、エムサ、ざしきわらしの三名。

 

「適当に理由つけて引き返してきた。ま、どっちかっていうとこっちのパーティーだからな、私たちは。最後の戦いもこっちに加わるのが道理ってもんだろ」

「これで四対四。人数的には丁度良いですよ」

 

 フェリスとエムサがそう口にしながら静かに微笑む。二人とも、ランスを上手い事言いくるめて戻ってきてくれたのだろう。

 

「いやいや、ざしきわらしを人数に数えるのはちょっとあれだろ。精々、俺っちのカメ子ちゃんと同じ扱いだから、三人と一匹対四人と一匹だ」

「むー、心外なの!」

 

 ブラボーの言葉にプクッと頬を膨らませるざしきわらし。そのとき、通路に新たな人物の声が響き渡った。

 

「ならば、私が加われば四人と一匹対四人と一匹ですね!」

「だ、誰だ!?」

「とうっ!!」

 

 スパルタンの声に反応するように、柱の上から飛び降りてきたピンクの影。その姿を見た瞬間、何故かフェリスが頭を抱えだした。華麗に着地し、摩利支天たちに向かってポーズを決める謎の女。

 

「私はピンク仮面! 義によってブラック仮面を援護します!!」

「ピ、ピンク仮面だと……」

「くっ……一体何者なんだ……」

 

 新手の登場に身構える摩利支天暗殺組。その登場に驚いたのは彼らだけではない。ブラック仮面もまた、同じように驚いていた。

 

「ピンク仮面……どうして……」

「私たちは共にランスを陰から見守る者。いわば同士です!」

「……すまん、助かる!」

「(陰からじゃねーよ! 二人とも思いっきりいつも一緒にいるよ!!)」

 

 フェリスが柱を叩いている中、ブラック仮面たちと摩利支天暗殺組が相対する。

 

「これで人数は揃ったな。五対五のパーティーバトルといくか」

「ふっ……それは大きなミスだぞ、ブラック仮面。我らと違い、そちらは急造のパーティー。特にそこのピンク仮面と、すぐに連携が取れるとは思えん」

「やってみなければ判らないさ」

「(判るよ! 絶対連携取れるよ! 何回一緒に戦った事あると思ってるんだよ!!)」

 

 フェリスが地団駄を踏む中、ブラボーがある事に気が付いたように口笛を吹く。

 

「ヒュー。ブラックとピンクだけと思ったら、案外色がカラフルな感じで分かれているねぇ」

「あら、本当ですね」

「えっ……」

 

 フェリスが慌てて仲間たちを見ると、確かに良い感じに色が分かれている。

 

「レッドなのー」

「あらあら、私はブルーですね」

「本当だな……」

「なんだか楽しいですね」

 

 ざしきわらしの着物の色は赤、エムサは全体的に青い。そして、自分は緑。なんだか嫌な予感がフェリスの頭を過ぎる。

 

「そこの悪魔はグリーンだな。全員揃ってカラフル仮面……ってか? って、うぉぉぉ!?」

「次言ったら殺すぞ」

 

 ブラボーの首下に鎌を突きつけるフェリス。どうやらよっぽど嫌だったようだ。ブラボーが慌てて後ずさりする中、如芙花が自分たちを眺めて口を開いた。

 

「私たちは色が被っていますね。私はブルー、スパルタンは髪の色のグリーンか服の色のブラウンでいけますけど、カメ子ちゃんとブラボーがイエローで完全に被っています」

「使えねぇ奴だぜ」

「おい、おい、おい、ちょっと待ってくれよ。俺っちは服の色が黒だから、ブラックでも全然いけるぜ!」

 

 モヒカンの色からイエローに任命されたブラボーがそう抗議してくる。スパルタンの使えない発言は心外であったらしい。

 

「ブラックじゃ摩利支天と被るでしょ」

「リーダーはマフラーの色が赤だ。そこを主張してレッドでいこう!」

「何の話で盛り上がっているんだよ……」

 

 フェリスがげんなりしている中、ガン、という音が通路に響き渡った。全員がそちらに注目すると、摩利支天が剣で柱を叩いた音であった。激しい闘気を纏い、ギロリとブラボーたちを睨み付ける摩利支天。

 

「お前ら……いい加減にしろ……」

「(やった! まともな奴がいた!)」

 

 フェリスが内心ガッツポーズを取る中、摩利支天が次の言葉を続けた。

 

「ブラックは私だ……」

「す、すまねぇ、リーダー……」

 

 ドンガラガッシャーン、とフェリスが盛大に転げる。それを不思議そうに眺めた後、摩利支天がブラック仮面に剣を突きつけながら口を開いた。

 

「ブラック仮面よ、ブラック同士、決着をつけるぞ!」

「ああ! ブラックを名乗る者として、受けて立とう!」

「駄目だ……まともだと思っていた奴が実は超ノリノリだった……」

 

 最後の希望を絶たれたフェリスが絶望感を覚えながら、フラフラと立ち上がってルークの横に立つ。瞬間、フェリスは気が付いてしまった。お互いに横並びに一直線に並んでいる。これは、互いに名乗り合うであろう状態。そして、今自分たちがどのような名乗りを上げるかというと、一つしか有り得ない。

 

「粉砕する破壊神! スパルタングリーン!!」

「かーめー (カメ子イエロー)」

「飛び回る暗殺者! ブラボーイエロー!!」

「戦場に咲く一輪の花! 如芙花ブルー!!」

「究極なる闇! 摩利支天ブラック!!」

 

 ババン、とポーズを決めながら叫ぶ摩利支天暗殺組。まるで後ろが特殊効果によって今にも爆発しそうな勢いだ。イエローが被っているのは、ご愛敬であろう。対するブラック仮面たちも、フェリス以外が一斉に一歩前に出る。

 

「ブラック仮面、颯爽と参上!」

「ピンク仮面、華麗に参上!」

「エムサブルー、ミステリアスに参上!」

「ざしきわらしレッド、愛くるしく参上なのー!」

「…………」

 

 一斉にポーズを決める中、フェリスのみが棒立ちであった。全員の視線が一斉にフェリスに注がれる。

 

「どうした、グリーン!?」

「何があった、グリーン!?」

「調子でも悪いんですか、グリーンさん!?」

「グリーン言うな!!」

 

 敵味方双方に心配されるフェリス。だが、その呼び名はグリーンであった。フェリスはそのままへなへなと柱に手をつく。

 

「もうやだ……家に帰りたい……」

「流されてしまえば、案外楽しいものですよ」

「絶対に嫌だ!」

 

 エムサからの忠告をどうしても受け入れる気になれないフェリス。彼女の胃は今、急速に痛みを増していた。ある意味、最終決戦前に一人ダメージを負っている状態である。頑張れ、フェリスグリーン。

 

 




[人物]
ボーダー・ガロア (4.X)
LV 35/65 (当時)
技能 剣戦闘LV2 冒険LV1
 旅の冒険者。どこにでも現れるフットワークの軽さと、ベテランという事でとりあえず過去話に出しても矛盾が生じないのが魅力の男。


[モンスター]
クスシ
 三つ星女の子モンスター。薬箱を背負った和風のモンスターで、自身が作った薬を売り歩いている。比較的人間にも友好的な種族。アーニィの恩人でもある。


[その他]
コンコンパス
 モンスターを強制的に支配下における黄金のコンパス。その威力は呪いに近いものがあり、世界のバランスを崩しかねないとしてAL教が危険視しているアイテムである。
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