ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第131話 ミリの治療

 

-ゼス ノクタン鉱山-

 

「ねぇ、ルーク。まだなの?」

「この辺のはずだが……っと、いたぞ。エムサ!」

「あ、ルークさん。それと……そちらの方がミリさんとミルさんですね?」

 

 ここはゼス北東部にあるノクタン鉱山。その場所の山肌を歩くのは、ルーク、ミリ、ミルの三人だ。歩き疲れたミルが不満を口にするが、丁度目当ての場所に到着したルークは目の前に見えた人物たちに手を上げて呼びかける。そこにいたのは、エムサと二人の子供であった。こちらに気が付いたエムサが頭を下げてくる。

 

「初めまして、エムサ・ラインドと申します」

「あんたが闘神都市で一緒に戦ったっていう魔法使いか。話はマリアたちから聞いているよ。俺はミリ。で、こっちが妹のミルだ」

「よろしくー! ……わっ、本当に見えてないんだ」

「こらっ!」

「うふふ、お気になさらないでください」

 

 エムサが盲目である事はマリアたちから聞いていたようだが、実際に目の当たりにしてミルが驚く。一つ一つの動作が淀みなく、盲目とはとても思えなかったからだ。失礼な発言にミリがコツンとミルの頭を叩くが、エムサは特に気にしていない。すると、エムサの横に立っていた子供の一人がトコトコと前に出てきた。

 

「私はエリーヌ・ハピネスって言います。よろしくお願いします」

「おう、よろしくな。良くできたお子さんだな」

「あれ? ハピネスってどこかで……」

「ハピネス製薬社長の一人娘だ」

「マジかよ……ミルの遊び相手に知り合いの子供を連れてくるっていうから誰かと思えば……相変わらずとんでもない顔の広さだな」

「なに、たまたまだ」

 

 二人の子供の内の一人はエリーヌ・ハピネス。先日約束した通り、年の近いミルを遊び相手として紹介しようと思い、エムサに連れてきて貰っていたのだ。少し緊張している様子のエリーヌだったが、ルークの顔を見て嬉しそうに微笑む。

 

「えへへ。ルークさん、また会えたね」

「約束だっただろ。ミル、仲良くしてやってくれ」

「勿論。ね、後で一緒にお話ししよう」

「えっと……うん!」

 

 精神年齢の高いミルがエリーヌを引っ張る形ではあるが、早速仲良くなる二人。それを微笑ましく見ている三人だったが、ルークがもう一人の子供に視線を向ける。他の二人とは違い、車椅子に乗っている少年。

 

「君がエムサの……」

「ユーリ・ラインドです。姉が色々とお世話になったみたいで……」

「…………」

 

 青髪のエムサとは違い、特徴的な金色の髪をした美少年。彼がエムサの弟であるユーリだ。だが、見るからにやせ細っており、少し握っただけで折れてしまいそうな腕。これが、彼が患っている弱体病によってもたらされたもの。ミリがユーリを真剣な表情で見つめる。

 

「(この子も、俺と同じ理由でここに……?)」

 

 ルークからここへやってきた理由は事前に聞かされている。当然、ミルには内密にだ。だが、まだミリは半信半疑であった。ルークの事は信頼しているし、それが叶うのであればこれ以上の喜びはない。だが、本当に実現するのか。多くの医者にさじを投げられたというのに。

 

「ねぇ、ルーク。それで、どうしてこんなところにまで来たの?」

「ここに、どんな病気でも治す事の出来る聖女モンスターがいるからさ」

 

 ミルの問いかけに、ルークは静かに笑いながら答えた。

 

 

 

-ゼス 聖女の迷宮-

 

 エムサが立っていた側には洞穴があり、そこに入っていくルークたち。その洞窟の正体は、かなり深い迷宮。ここから少し行ったところにウェンリーナーがいるのだ。ミリと弟の治療を約束していたウェンリーナーは、先日の事件の際、眠る少し前にエムサに治療をするならばこの場所が良いと指定していたのだ。曰く、聖女モンスターの能力が最大限に発揮される洞窟らしく、治療による反動の眠りが短くて済むとの事。また、二人の治療後はこの洞窟で生活を送る予定らしい。エムサたちと共に先に到着したウェンリーナーは、先に洞窟に入って治療を行うのに良さそうな清らかな場所を探しているのだ。

 

「ふーん、治るといいね、ユーリ」

「治ったら一緒に遊ぼう!」

「うん……でも、本当に……」

 

 エムサがユーリの車椅子を押し、ミルとエリーヌが彼に話し掛けている。彼女たちは、治療をするのはユーリだけだと聞かされているのだ。ミルには、ここに連れてきた理由はエリーヌやユーリと仲良くなって欲しかったからだとのみ伝えている。まさか自分の姉が不治の病だと思ってもいないミルは、その言葉を素直に信じてしまっていた。

 

「それにしても、ルークが町に来たときはみんな大騒ぎだったなぁ。うふふ」

「あら? 何かあったんですか?」

 

 ミルが意味深に笑うのを聞き、エムサが何事かと尋ねる。待ってましたといわんばかりの笑みを浮かべたミルは、そのまま話を続けた。

 

 

 

二日前

-カスタムの町 酒場-

 

「よっ。ミリはいるか?」

「いらっしゃい……って、ルークさん! お久しぶりです」

「トマトの耳はその単語を聞き逃さないですかねー!!」

 

 酒場の扉を開けて男が中に入ってくる。いつも通りに接客をしようとしたエレナだったが、やってきたのがルークだと気が付くと驚いた表情で声を出す。瞬間、アイテム屋のある方角から砂煙を上げ、トマトが猛スピードでこちらに駆けてきた。相変わらずの人外能力である。ルークを視線に捉えると、満面の笑みを浮かべて歓喜する。

 

「本当にルークさんですかねー! なんだか長い事会っていなかった気がするですかねー!! これで勝つるです!!」

「久しぶりだな、トマト。元気そうで何よりだ」

「トマトは今日も元気ですかねー!!」

 

 久しぶりのルークとの再会にいつも以上にはしゃぐトマト。といっても、闘神都市での一件からまだ二ヶ月程しか経っていないのだが、恋する乙女にとっては十分長い期間だったようだ。トマトを見て微笑んでいるルークにエレナが問いを投げる。

 

「で、ルークさんは突然どうしたの?」

「ミリに用事があってな。薬屋に行ったら昼食中という札をぶら下げて閉まっていたから、ここじゃないかと思って来たんだが……」

「当たりだぜ、ルーク」

 

 と、奥のテーブルからこちらに向かって手を振ってくる女性がいる。ミリだ。そのうえ、志津香、マリア、香澄、ミルの四人も一緒に食事をしている。

 

「やっほー、ルークさん」

「ん」

 

 マリアもミリに続いて手を振り、その横に座っていた志津香が軽く左手を挙げる。カスタムメンバー勢揃いといった状況であったが、惜しいことに二人足りない。

 

「ロゼとランは?」

「ロゼさんは私用でどこかに出かけています。ランさんはお仕事ですね」

「そうか……まあ、仕事なら邪魔するのも悪いか」

 

 ルークがポリポリと頭を掻いていると、隣に立っている女性が口を開いた。

 

「とりあえず座りましょう、ルークさん。エレナさん、ワインをお願いします」

「はーい……って、真知子さんいつの間に!?」

「うふふ……さっきからずっといましたよ? 正確に言えば、ルークさんが酒場に入ってきたのと同時に」

「気が付かなかったな……だが、言われてみれば足りないのはロゼとランだけだと思っていた。無意識に視界に入っていたと言う事か……」

 

 いつの間にか隣にいた真知子に驚く一同。曰く、酒場に一緒に入って来たとの事。ルークすら気が付かなかった神出鬼没ぶりは相変わらずである。自分よりも早く来ていた事を知り、トマトが悔しさにプルプルと震え始める。

 

「ト、トマトよりも早くルークさんに気が付いていたとは……まだまだトマトでは真知子さんに勝てないって事ですかねー……」

「名前を聞いて反応していたのでは遅いわ、トマトさん。空気の微妙な流れを感じ取り、ルークさんがカスタムの町を訪れた瞬間に気が付けるようにならなければこの道を極めたとは言えないわ」

「誰かあの二人をさっさとリーザス軍に入隊させてこい。あの人外二人がアイテム屋と情報屋やっているんじゃ勿体なさすぎる」

「はぁ……」

 

 ミリが呆れたような視線を送り、志津香が額を抑えてため息をつく。だが、非常に見慣れた光景であった。騒がしいが、落ち着ける。そんな感想をルークは抱きながら、ミリたちが座っているテーブルへと合流する。

 

「久しぶり。闘神都市後のディナーの一件以来だな」

「そうね」

「うんにゃ、その後一回会ってるよ」

「ん? そうだったか?」

「……会ってないでしょ?」

「「「「「あっ……」」」」」

 

 ミルの言葉に心当たりがないルークと志津香は同時に答えるが、他の者たちはある結論に達して思わず声を出す。次の瞬間、マリア、トマト、香澄の三人の顔が真っ赤に染まる。脳裏に浮かんでいるのは、温泉での一件。禍々しくも気品さを兼ね備えた、とあるモノ。

 

「えっとー、温せ……むぐっ!?」

「ミル。それ以上は駄目だ」

「あらあら……」

「「?」」

 

 ミリに口を抑えられてむぐむぐとするミル。他の三人に比べて冷静であった真知子は頬に手を当てて困ったような声を出し、未だ見当のついていないルークと志津香の二人は互いに顔を見合わせるのだった。その後、なんだかんだで全員で食事を取ることになり、しばしの時が流れる。まったりとした雰囲気の中、志津香がチラリとルークを見ながら口を開く。

 

「で、ミリに用事って何? 言いにくいことなら席を外すけど?」

「いや、大丈夫だ」

 

 ルークが志津香の問いにそう答え、真剣な表情でミリに向き直る。マリアが丁度口に食べ物を入れた瞬間、その言葉は発せられた。

 

「ミリ、付き合ってくれ」

「ぶぅぅぅぅぅ!!」

「きゃぁぁぁ! マリアさん、汚いです!!」

 

 マリアが口内の物を噴出し、正面にいた香澄が多大な被害を受ける中、トマトが盛大な音と共に椅子から転げ落ち、前のめりに倒れる。

 

「よ、予想外な刺客ですかねー……これは正に、射程外からの強装弾……」

「マズイよ!? トマトの意識がどっか飛んでる!」

 

 虚ろな目をして訳の判らない事を宣っているトマト。流石のミルもこれには焦り、トマトの肩を揺すりながらミリに助けを求める。

 

「……ルーク、本気なの?」

「ん、何がだ?」

「っ……」

 

 志津香が若干目を見開いて尋ねてくるが、なんのことか判っていないルークは平然としている。その反応を見て、志津香は何とも言えぬ表情になっていた。隣に座っていたマリアと、飛んできた食べ物をメガネから拭き取った香澄の二人がミリに詰め寄る。

 

「ミ、ミリ? その……ど、どうするの?」

「つ、付き合うんですか……?」

「んー……」

 

 マリアと香澄の顔を交互に見ながら、ミリが困ったように頭を掻く。すると、それまで平然とワインを飲んでいた真知子がクスクスと笑い出した。

 

「うふふ……みなさん、勘違いなさっていますよ。まあ、ルークさんの言い方が悪いですけどね」

「勘違い?」

「で、俺はどこに付き合えばいいんだ?」

「「「「「……あっ!」」」」」

 

 ミリが苦笑しながらそうルークに尋ねると、真知子以外の五人が示し合わせたように声を漏らした。

 

「ゼスのノクタン鉱山だ」

「了解」

「即答だな……」

「お前が誘ってくるって事は、それなりに理由があるんだろ? ならオッケーさ」

「それよりも、ルークさんも言い回しに気を付けてくださいね。少し付き合って欲しい、とか言うべきですよ。皆さんデリケートなんですから」

「……っ、ああ、そういう事か。これは俺が悪いな」

 

 真知子に窘められ、ようやく皆が何を勘違いしていたのか気が付いたルークは困ったように顎に手を当てた。場の空気が一気に弛緩する。

 

「ああ、驚いた。流石にミリはないとは思ったんだけどね」

「ビックリしました……」

「半分逝きかけましたですかねー……」

「比喩じゃなくて本当に逝きかけてたからね。お薬いる?」

 

 マリアが苦笑し、香澄がずり落ちたメガネを直す。トマトはフラフラと立ち上がって椅子に腰掛け、ミルは持ち歩いているバッグから薬を出そうとする。ルークの発言の本当の意味に気が付けたのはミリと真知子だけであり、他の者たちは思いっきり勘違いしてしまったのだ。ミリと真知子は二十代であり、他は十代。その辺りの心の余裕の差というものだろうか。

 

「参ったな……っ!?」

 

 困ったように苦笑しているルークだったが、突如強烈な殺気と悪寒を感じる。見れば、椅子に腰掛けている志津香がこちらを激しく睨んでいた。

 

「紛らわしいのよ!」

 

 ガン、と机の下でルークの足が激しく踏まれる。激しくもどこか久しぶりな痛みを感じ、ルークは悶絶するのだった。

 

「営業妨害……」

 

 そんなやりとりを、エレナが泣きそうな目で遠巻きに見ていた。相変わらずの不幸ぶりである。だが、もっと不幸な女性が役所にいた。友人の長柄亮子とお弁当をつついていたランが、何かを感じ取る。

 

「なんだか知らないけど、チャンスを思いっきり逃したような……」

 

 出番のチャンス。恋の発展チャンス。色々と逃したランであった。

 

 

 

-ゼス 聖女の迷宮-

 

「……っていうやりとりがあったの」

「あらあら。それはルークさんが悪いですね」

「面目ない」

 

 エムサが笑いながらルークの非を責め、ルークも軽く頭を下げ謝罪する。あの後、ルークはミリにノクタン鉱山を訪れる理由を説明し、ミルの同行も取り付けた。当初ミリはミルの同行を拒んだが、病気の事は絶対に話さないと約束し、こうして連れてきたのだ。

 

「やっぱりモテるんだ……」

「ふーん、なるほど。ねっ、後でルークの事を色々話してあげようか?」

「えっ!? ……う、うん!」

 

 少し寂しそうにしているエリーヌを見て、ミルがある事に気が付きそっと耳打ちをする。それを聞いたエリーヌは思わず声を漏らし、自身の想いを知られてしまった気恥ずかしさに頬を染めるが、ミルの提案にゆっくりと頷くのだった。

 

「それにしても、ゼスの国境はかなりピリピリしていましたね」

「そうだな。越えるのに審査だなんだでかなり時間を取られた。それと、アダム砦でサイアスに会ってから来ようと思ったんだが、緊急で首都に呼ばれたとかで不在だった」

「どうもペンタゴンの動きが活発化しているようで、近々大規模なテロがあると噂です。恐らく、それが原因でしょう」

「ペンタゴンか……」

 

 エムサの言葉にルークが眉をひそめる。頭に浮かぶのは、闘神都市を共に戦い抜いたセスナの顔と、おまけにシャイラとネイの顔。大規模なテロともなれば、ペンタゴンに身を置いている彼女たちが参加する可能性も高い。そして、ロリータハウスの一件で顔を合わせた、フットやビルフェルムなども同様だ。

 

「下手をすれば、知り合いと知り合いが争うことになりかねませんからね。そして、それは私も同じです」

「…………」

 

 エムサはこの一件の後、ゼスに仕える事が決定している。となれば、部外者であるルークと違い、エムサは当事者であると言っても過言では無いのだ。何とも言えぬ空気が二人を包む中、何かを発見したユーリが口を開く。

 

「あ、お姉ちゃん。あそこに光が……」

「ん……どうやら着いたみたいですね」

 

 ユーリが指差す方向に視線を向けると、そこには掌大の光の球がぷかぷかと浮いていた。そしてそれが段々と大きくなっていき、人の形を成していく。最終的にその光から現れたのは、聖女モンスターのウェンリーナーだった。

 

「待ってたよ、ルークおにいちゃん、エムサおねえちゃん! わざわざこんな奥まで来て貰ってごめんね」

「いや、気にしなくていいさ。これからこちらが世話になるんだからな」

「彼女が聖女モンスターのウェンリーナーか……」

「ねえ、ミリお姉ちゃん。聖女モンスターって何?」

「…………」

 

 嬉しそうにエムサに抱きついてくるウェンリーナー。だが、彼女からどこか発せられている神々しさにミリが息を呑む。横を見れば、同じような心境であろうユーリも息を呑んでいる。いや、ミリとユーリだけではない。エムサもまた、弟を心配させないよう平然と振る舞っていたが、その実不安な思いがその胸を占めていた。ミリが聖女モンスターの事をミルに説明し、ユーリが全裸のウェンリーナーを見て顔を赤くする中、ウェンリーナーはミリとユーリをチラリと見る。

 

「ねえ、おにいちゃん。この二人でいいんだよね?」

「ああ。先に彼の治療を頼む。彼女の方は、しばらく黙っていてくれ」

「はーい」

 

 ウェンリーナーとルークがヒソヒソと話をする中、エムサがユーリの車椅子を押してウェンリーナーに近づいていき、目の前で立ち止まる。

 

「お姉ちゃん……」

「大丈夫……大丈夫だから……」

 

 不安そうにしているユーリの手をそっと握るエムサ。だが、彼女の手もまた震えていた。ウェンリーナーの力は判っている。まず治るであろう事も理解している。それでも、不安は拭い去れない。だが、それは当然の反応だろう。エムサは一流の冒険者であると同時に、一人の姉なのだから。一度息を吐き、絞り出すように声を出す。

 

「ウェンリーナーさん、お願いします」

「弱体病だったよね……うん、弱体病だ。これなら治せるよ」

 

 ウェンリーナーが軽くユーリに向かって手をかざし、彼女にしか感じ取れない何かを感じ取る。一度頷き、ユーリの症状が弱体病だと確信したウェンリーナーは治療が可能だと断言する。息を呑むエムサとユーリ、そしてミリ。

 

「それじゃあ行くね! なおれー、なおれー、ちちんぷいぷいの、ぷい!」

「あっ……」

 

 ウェンリーナーがそう言うと、突如ユーリの体が光に包まれる。眩しすぎて何も見えなかったランスとは違い、ユーリの周りを包むような淡い光。それが一瞬輝きを増したと思うと、大気中に四散した。心配そうに見守るエムサと、呆然としているユーリ。だが、自身の腕を二、三度見た後、ユーリがゆっくりと車椅子から立ち上がる。

 

「お、お姉ちゃん……」

「ユーリ!?」

「ずっと、ずっと感じていた体の重みが引いたよ。それに、体を支える足が弱体化してまともに立てなかったのに、今は普通に立てる! 歩けるよ!」

「っ……本当に……ユーリ!!」

「お姉ちゃん!!」

 

 泣きながら、されど歓喜に打ち震える声でユーリがそう言ったのを聞くと、光の失われたエムサの瞳からも涙が零れる。そのまま抱きしめ合う二人。二人の瞳から、止めどなく涙が溢れる。

 

「長い事使わなかった所為で衰えていた筋力もついでに治しておいたの」

「そんな事も出来るのか。凄いな」

「えっへん」

 

 ルークに褒められて胸を張るウェンリーナー。そのウェンリーナーの手を、先程までユーリと抱きしめ合っていたエムサが強く握る。

 

「本当に……本当にありがとうございました……」

「いいの。助けて貰ったお礼なんだから」

「凄いね。お薬形無しだよ」

「ウチの世色癌なんかよりも全然凄いなー。あれくらい効果のあるお薬とか作れないかなー」

 

 ミルとエリーヌが素直に感嘆する中、エムサとユーリの喜びは続く。何度も頭を下げ、二人の涙が完全に止まりきるまで数分の時間を要した。

 

「これで終わりだよね。良かったね、ユーリ!」

「うん、ありがとう」

 

 ユーリしか治療をしないと思っているミルがそう口にする中、ルークはミル、エリーヌ、ユーリの三人を一度ずつ見た後、ミルに向かって声を掛けた。

 

「ミル。俺たちはウェンリーナーとちょっと話があるから、先にエリーヌとユーリを連れて洞窟から出ていてくれ」

「エムサは判るけど、お姉ちゃんも?」

「ああ、大人同士の話し合いだ。近くに茶屋があったから、そこで待っていてくれ」

「はーい。行こう、エリーヌ、ユーリ!」

「うん、それじゃ先に行ってますね、ルークさん」

「本当にありがとうございました!」

 

 ルークの言葉に素直に従い、先に洞窟を出るミルたち。ミルやエリーヌは子供同士で遊びたいという気持ちもあったのだろう。この辺りはモンスターが殆ど生息しておらず、出てきてもぷりょやきゃんきゃんといった雑魚モンスターなので、ミルが後れを取ることはない。更に、念には念を入れて防敵スプレーも掛けてある。そういった安心感から、ルークは三人だけで洞窟から返したのだった。因みに、ルークとミリだけでなくエムサも残ったのは、全てが終わった後にもう一度礼を言いたいというエムサの希望であった。ミルたちの姿が見えなくなってから数秒後、ルークが一度ため息をつく。

 

「さて、今度はこちらの番だな。ミリ、準備はいいか?」

「ああ……」

 

 そのルークの言葉に、ミリは何度目が判らないが息を飲み込む。先程、目の前で奇跡のような光景が起こっていた。ならば、自分の病気もとミリは無意識に胸が高鳴る。

 

「うん、うん……お話し通りゲンフルエンザだね」

「いけるか?」

「勿論。おねえちゃん、もっとこっちに来て」

「ああ……」

 

 ルークの問いかけに強く頷き、ミリを数歩前に出させたウェンリーナーはそのまま何か力を溜めるような動作をし、先程と同じように声を上げる。

 

「なおれー、なおれー、ちちんぷいぷいの、ぷい。えーいっ!」

「うっ!?」

 

 瞬間、ミリの体を光が包んだ。先程よりも若干眩しさを増している。もしかしたら、治療相手の深刻具合で光の量が変わるのかもしれない。ルークがそんな事を考えているうちに、ミリの体を包んでいた光がシュルシュルと収束していく。呆然としているミリだったが、何かに気が付いたように口を開く。

 

「気怠さが消えた……それに、何だか体が軽い」

「はい、これで完全にゲンフルエンザは治ったよ」

「そうか……ありがとうな、ウェンリーナー。それに、ルークも……これで俺は、ミルの成長をまだまだ側で見られる……」

 

 ミリが歓喜に打ち震えながら声を絞り出す。愛する妹とまだまだ一緒にいられる事が何よりも嬉しいのだ。こうして、ミリとユーリの治療は大成功に終わった。依頼者であるルークとエムサが、ウェンリーナーに再度礼を言う。

 

「本当にありがとうな、ウェンリーナー」

「ウェンリーナーさん。貴女に最大限の感謝を……」

「えへへ……二人とも、気にしないで。それよりも、おねえちゃんは目の治療をしなくて本当に良かったの?」

「ええ。特に不自由はしていませんし、これ以上ウェンリーナーさんの時間を奪うわけにはいきませんから」

「別にいいのに……」

 

 エムサの目は生まれついてのものであり、元の状態に治療するという事は出来ない。そのため、彼女の瞳に光を宿そうとするのならば、無理矢理中の機能を弄る必要が出てくる。それはウェンリーナーにとってもかなりの労力を必要とするらしく、能力を使えば半年は眠ってしまうらしい。事前にその話を聞いていたエムサは、これ以上ウェンリーナーに迷惑は掛けられないという思いから、自身の目の事は諦めたのだ。

 

「これから私は洞窟のもっと奥に進んで、そこに暮らすつもりだから、何かあったらまたいつでも尋ねてきて」

「ああ、特に用が無くても、また会いに来るよ」

「うん!」

 

 ウェンリーナーはここで生活をするため、ルークたちとはここでお別れである。最後にもう一度ルークとエムサはウェンリーナーと握手を交わし、洞窟から出ようとミリの方を振り返った。

 

「さあ、出るか……って、なんで脱いでるんだ、お前は!?」

「ん?」

「えっ、ミリさん脱いでいるんですか!?」

「きゃっ……」

 

 振り返れば、ミリは何故か下着姿であった。どうやらルークたちがウェンリーナーに礼を言っている間に鎧を脱いだようだ。心眼ではそこまで判らないらしく、エムサがルークの言葉に驚き、ウェンリーナーは顔を手で覆うが指の間を大きく開けているため丸見えの状態である。

 

「いやぁ、ここまでして貰ったからには何か礼をしないとマズイと思ってな」

「礼って……お前、まさか……」

「ああ、躰で払わせて貰う。ウェンリーナーがもうちょい大きければ3Pでも良かったんだが、流石にまだ小さいから駄目だな。よし、ヤるぞ、ルーク!!」

 

 ブラを脱ぎ捨て、隠す気もなくババンとパンツ一丁で仁王立ちするミリ。ルークが困ったように声を出す。

 

「いや、ウェンリーナーの見ている前でそれは……」

「気にしないよ、うん、気にしない。どきどき……」

「ほら! 気にしないって言ってるぞ」

「ミルたちを待たせているし……」

「子供たちは少しくらい放っておいても勝手に遊んでるよ」

 

 何かを期待するようにこちらを見てくるウェンリーナー。逃げ場が絶たれた形となったルークの横で、エムサも流石にあわあわと困惑している。これまでルークと恋仲であるかなどの質問は軽くスルーしてきたが、まさか目の前で情事を始めようとするとは思ってもいなかったためである。そのエムサにミリがゆっくりと近づいていき、上半身の服をガバッと脱がす。胸が露わになり、エムサが軽く悲鳴を上げる。

 

「きゃっ……ミ、ミリさん……」

「いやぁ、あんたも美人だから一緒にどうかなって? 俺はどっちもいける口でね」

「おい、ミリ!」

 

 流石にエムサを巻き込もうとするミリの行動を窘めようとするルークだったが、ミリはそのままエムサに耳打ちする。

 

「見ていた感じ、あんたもルークの事は嫌ってないんだろ? いや、むしろ……」

「そ、それは……」

「単なるお礼だよ。引きずる必要もないし、女に出来る最大級のお礼はこれだ。あんたもルークに世話になった事があるんなら、今ここでお礼した方が良いんじゃないか?」

「で、でも……」

「ほら、ほら。ルークと思い出を作りたくはないか……」

「…………」

「おい、ミリ! エムサ、悪かったな。気にしないでくれ」

 

 ルークがエムサに絡んでいたミリを引っぺがし、そう口にする。だが、エムサは少し俯いていたと思うと、ゆっくりと頭を上げてルークの方に顔を向ける。その頬は、赤く染まっている。

 

「ふ……」

「ふ?」

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします……」

「エムサ!?」

 

 エムサは混乱している。

 

「よっしゃ決まりだ!」

「うおっ!?」

 

 エムサの反応を喜びながら、ミリがルークに跳び掛かって押し倒してくる。ルークの上に馬乗りになりながら、舌なめずりをするミリ。

 

「なぁに、本当に単なるお礼だ。引きずる気もないし、志津香たちにも黙っていてやるよ」

「お前な……」

「こ、こ、子供は何人ほどが理想でしょうか……」

「どきどき、わくわく……」

 

 エムサの混乱は未だ続き、退路を失うルーク。その後この洞窟で何があったかは定かではないが、ルークたちが出てくるまで不自然に時間が掛かったというのはミルの談である。

 

 

 

-ゼス ノクタン鉱山 茶屋-

 

「駄目駄目。いつまでも白パンツなんて履いてちゃ。それじゃあエロ可愛い女にはなれないよ。いつまでも若さに甘えてちゃ駄目なんだからね。スパッツも喜ぶのは一部のマニアだけだよ。女なら見せていかなきゃ!」

「そ、そうなの?」

「うふふ……私なんて、今黒の紐パンだよ」

「黒……王子様とピッタリかも……」

「ふ、二人とも僕より年下だよね……進んでるなぁ……」

 

 ミルがエリーヌにいい女とは何かという話を始めたかと思うと、あっという間にとんでもない方向に突き進んでいた。年上であるはずのユーリが頬を赤らめる中、ミルのありがたい話はその後もルークたちが戻ってくるまでたっぷりと続くのだった。やはりこの二人、姉妹である。

 

 

 

二日後

-ハピネス製薬 社長室-

 

「ただいまー」

「お帰り、エリーヌ。ルークさんとの旅行は楽しかったかい?」

「うん!」

「ルークさんもありがとうございました!」

「いや、良い子にしていてくれたからまるで手が掛かりませんでしたよ。それでは、この辺で失礼します。エリーヌちゃん、またね」

「うん、またね!」

 

 ルークに送り届けて貰ったエリーヌがハピネス製薬へと戻ってくる。出迎えたドハラス社長に軽く挨拶をし、ルークはそのまま立ち去っていった。遠くなるその背中を見送りながら、エリーヌは父であるドハラスへと頼み事をする。

 

「ねえ、お父さん。欲しいものがあるの」

「ん、なんだい? ゲームかな? それともまた経営学の本かな?」

「スケスケの黒いパンツ」

 

 ドハラスが盛大にこけた。ミルの影響、ここにあり。

 

 

 

-ゼス 首都-

 

「さて、まずは王者の塔へ行って千鶴子様に挨拶をしないと……」

 

 エムサがゼスの首都を歩きながらそう呟く。弟の病気が完全に治ったため、明日から約束通りゼスに仕えるつもりなのだ。だが、エムサの中には一つだけ罪悪感があった。

 

「キューティさんと会うの……少しだけ気まずいですね……」

 

 付与魔法の個人レッスンも約束してしまっているため、キューティと会うのは避けられない。だが、とある理由からエムサの胸には気まずさで一杯だった。

 

 

 

-カスタムの町 酒場-

 

「ただいまー! はい、お土産のノクタン煎餅」

「お帰りなさい!」

 

 町へと戻ってきたミリとミル。元気よく酒場の扉を開けたミルがお土産を掲げると、鼻息を荒くしたランがミリに近寄ってきた。

 

「ね、ねえ、ルークさんは?」

「ルークなら来てないぞ。別の子供を親元に届けるってんで、途中で別れた」

「そ、そんな……」

 

 四日前に出会えなかったランは今日会えることを楽しみにしていたのだろう。だが、ルークが来ていないことを知ってへなへなとその場に座り込んでしまう。

 

「お帰りなさい。旅行は楽しかった?」

「うん!」

「煎餅とは渋いお土産ですかねー」

「ねぇ、鉱山に行ったんだからヒララ鉱石をお土産に持ってきてくれてるとかないの?」

「あるわけねーだろ」

「マリアさん……」

 

 わいわいと集まってくる一同。ミルも年の近い子たちがいたお陰で、かなり楽しめたようだ。大人びているとはいえ、ミルはまだまだ遊びたい盛りの子供なのだ。

 

「ん?」

「はぇ?」

 

 と、ミリが志津香とトマトの肩にポンと手を置く。

 

「ま、あれだ、頑張れ」

「はぁ?」

「何の話ですかねー?」

 

 一体何の事だか判っていない様子の二人。トマトは目を丸くし、志津香は訝しむような視線をミリに向ける中、真知子がゆっくりとミリに近づいていく。

 

「ミリさん、もしかして……」

「ま、そういう事だ。真知子に激励は必要無いだろ?」

「……ご存じでしたか」

「なんとなくな」

「?」

「志津香、お煎餅美味しいわよ」

 

 二人の会話を聞いて、ますます訳が判らなくなる志津香。詳しく追求したいところだったが、マリアに呼ばれたためそちらに歩いて行く。

 

「で、首尾の方は?」

「完敗だ。まさか俺が負けるとはな……」

「その辺りの話は、今晩飲みながらお話ししませんか? 丁度良いワインがあるんです」

「おっ、いいな!」

 

 射程外からの強装弾。トマトの予想は、図らずも的中することになるのだった。

 

 




[人物]
ミリ・ヨークス (4.X)
LV 22/28
技能 剣戦闘LV1
 カスタムで薬屋を営む女戦士。不治の病を患っていたが、ウェンリーナーの力により完治。ルークには感謝しているが、恋仲になろうという気はないらしい。というのも、若干の遠慮が彼女の中にあり、知り合いが誰もルークの事を好いていなかったら判らなかったとかなんとか。

ミル・ヨークス (4.X)
LV 16/34
技能 幻獣召喚LV1
 ミリの妹。エリーヌの心の師匠になる。これからもずっと姉と一緒。

エレノア・ラン (4.X)
LV 20/30
技能 剣戦闘LV1 魔法LV1
 カスタム四魔女の一人。彼女が輝ける日は来るのだろうか。それは誰にも判らない。

香澄 (4.X)
LV 11/34
技能 新兵器匠LV1
 マリアの助手。アレキサンダーとの仲に進展はない。

エレナ・エルアール (4.X)
 カスタム酒場の看板娘。なんだかんだで2、3、4、4.Xと出番がある。チサは泣いていい。

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