ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第134話 小粒でもピリリと辛い小冒険

 

-洞窟内 砂漠地帯-

 

「オアシス、近くに見えて何と遠いことか……もうあれね、干涸らびるわ。書物に残されている伝説の女王、マミー・シルアビルⅧ世みたいに」

「後少しだ、我慢しろ」

 

 ロゼの軽口を流しながら、ルークたちは砂漠を歩いていく。目の前にオアシスは見えているのだが、砂漠では距離感が掴みにくく、歩いても歩いても中々到着しないのだ。先頭を歩くのは、地図を持っている凱場マック。ふとロゼの言葉が気になったのか、後ろを振り返ってくる。

 

「ほう、姐さん。マミーの伝説を知っているのか、博識だな。あいつとは以前に調査したピラミッドで会ったことがあるぜ。お湯をかけたら復活した」

「まぁね。っていうか、その女王って本当にいたうえにまだ生きてるの?」

「ピンピンしてるぜ。ミイラになって年を取らないようにしているらしい。好評発売中のラレラレ石、『凱場マックの大冒険part12-ピラミッドの謎-』にその様子が収録されているから、今度買ってくれ」

「いらないわー、超いらないわー。そんなもんより水が欲しいわー、ちらっ。あぁ、水が欲しいわ-、ちらちらっ!」

「口で言ってもやらん。さっき一本やっただろうが」

 

 ロゼがチラチラとルークを見て、ご丁寧に口でもチラチラ言いながら必死にアピールをしてくるが、ルークは手に持っていた缶ジュースをサッと後ろに隠す。既に半分近く飲んでいるが、ルークの手持ちもこれが最後だからだ。そのうえ、ロゼには既に一本あげている。特段緊急事態にも見えないため、簡単にあげる気にはならなかった。というよりも、あげなければいけない人物が他にいた。ルークがチラリと後ろを見ると、そこには紙パックの飲み物に差したストローを必死に吸っているシトモネの姿があった。

 

「の、飲めません……出てきません……」

「だからパワー塩水にしておけと言ったのに……」

 

 パワー塩水を買った他の面々と違い、シトモネはただ一人桃泥スーパーという飲み物を買っていた。だが、ストローでいくら吸えども中身が出て来ない。パッケージに書かれたどろり濃厚の文字が憎々しく映る。セシルが一応買う前に忠告していたのが、まさかここまでの飲み物とは思っていなかったのだろう。

 

「こんなものを飲める人は普通じゃないです。きっと背中に羽の生えた天使さんです……がお……」

「天使はこんなもん飲まんだろ……というか、それ以上は止めておけ」

「ほら、半分くらいしか残っていないが、飲んでおけ」

「あ、ルークさん。すいません……」

 

 本能的に危険を察知して突っ込むセシルと、水分を補給できずに頭がくらくらしてきているシトモネ。と、ルークが手に持っていたパワー塩水の缶をシトモネに差し出す。それを受け取って礼を言うシトモネだったが、すぐにある事に気が付いて頬を赤くする。

 

「(こ、これは間接キスになるのでは……ドキドキ……)」

「いえーい、一口いただき!」

「あっ!?」

 

 シトモネが硬直していると、ロゼがサッとその缶を奪い取って一口飲んでしまう。思わず声を漏らしてしまうシトモネと、呆れたようにため息をつくルーク。

 

「ロゼ、お前な……」

「大丈夫、大丈夫。一口しか飲んでないから。はい」

「あ、どうも……」

 

 ロゼから缶を手渡されて軽く頭を下げるシトモネだったが、ロゼがシトモネの肩を掴んで小声で話し掛けてくる。

 

「回し飲みなんて冒険者の常識よ。一々気にしてないで、さっさと慣れておきなさい」

「あぅ……すいません、精進します……」

「あと、アイツ競争率ハンパないから、狙うなら覚悟した方がいいわよー」

「や、やっぱりそうなんですか……?」

「ふっ、青いな……」

 

 ロゼとシトモネの会話が微かに聞こえたのか、あるいはシトモネの様子から予想がついていたのか、セシルが静かに笑う。グビッと缶を一飲みし、その意外な美味しさにシトモネが目を丸くする。

 

「あ、美味しい……パワー塩水なんて名前だから塩辛そうで避けたのに、全然そんな事無い……」

「当然じゃない。それ、塩入ってないもの」

「そうなんですか!?」

「常識だ」

「まあ、冒険者の間だけの常識だがな」

 

 ロゼの言葉に驚いたシトモネが慌てて缶を見直すと、そこには塩は入っていませんの注意書きが小さく書いてあった。セシルが小さく頷き、ルークが微かに笑いながらそう答える。まだまだ駆け出し冒険者のシトモネは知らない事だらけであった。

 

「マックは飲み物を買っていなかったが、大丈夫なのか?」

「ふっ……長い事冒険野郎をやっていると、これくらいの暑さじゃ何も感じなく……」

『ピコーン!』

「うおっ、残機が減った!? しまった、やっぱり塩水を買っておくのが正解だったのか……」

「なんのこっちゃ……」

 

 突如鳴り響いた電子音のような音に凱場が盛大に悔しがる。彼曰く、自身の命ともいえる何かが一つ減ったらしい。ロゼが呆れたような視線を向けていると、その凱場が何かを発見して声を上げる。

 

「おっと、遂に到着だぜ! 『凱場マックの大冒険part27-ギャルズタワー大崩壊-』も、ようやく話が動き出したってとこだな」

「勝手に崩壊させないでください!」

「まあ、塔の冒険をしたら、四回に一回は崩れ落ちるのが冒険者の常識だが……」

「そんな常識投げ捨ててください!」

 

 ようやくオアシスに到着したルークたち。ポキポキと指を鳴らす凱場にツッコミを入れ、平然と物騒な事を言ってのけるセシルにツッコミを入れ、大忙しのシトモネ。便利屋のキーハンターは、こういう面でも便利屋なのかとロゼが頷いていると、オアシスから誰かがこちらに歩いてくる。

 

「あーら、いらっしゃい。久しぶりのお客様ね」

「なんだい、あんたは?」

「あたちは、このオアシスでラブホテルを経営しているおたま男っていう者よん。以後、お見知りおきを」

「オアシスでラブホ経営とか、100パー潰れるでしょ」

「おたま男? その名前、どこかで……」

 

 マックに話し掛けてきたやせ細った色白の男。名前はおたま男というらしい。どこか聞き覚えのある名前にルークが一歩前に出て、おたま男の顔を見やる。しばし考え込んだ後、ポンと手を叩く。

 

「思い出した。一年くらい前に、リーザスコロシアムで……」

「あーら、ルークちゃんじゃないのん。お久しぶり! 闘技場では完敗だったわぁん」

 

 そう、この男はかつてリーザスコロシアムのトーナメント三回戦でルークと戦った武闘家である。正直あまり強くはなく、その後に戦ったアレキサンダーの印象が強かったため、ルークは中々思い出せなかったのだ。久しぶりの再会を懐かしむルークだったが、ふとおたま男の口調に違和感を覚える。

 

「どうしてこんな場所にいるんだ? それに、そんな口調だったか?」

「うーん、あたちも良く覚えてないのよねん。ルークちゃんに負けた後、やけ酒煽って闘技場の階段から転げ落ちたところまでは覚えているんだけど、その後気が付いたらこの砂漠にいたのよねん」

「気が付いたらここにねぇ……もしかして、宿を経営したいとか思っていた?」

 

 訝しむような目でおたま男を見ていたロゼが話に割り込んでくる。何を唐突にと驚く一同だったが、ロゼの言葉におたま男は頷くのだった。

 

「あら、良く判ったわね。あたちの小さい頃の夢って、ホテルの経営だったのよ。で、何故か砂漠にはボロボロのラブホテルがあったの。これはラッキーって事で、ラブホテルを掃除して綺麗にして、こうやって経営しているって訳」

「あー、なんとなく予想がついたわ」

「ん、どういう事だ?」

「後で話すわ」

 

 ロゼが何かに納得したように頷いている。その理由は他の者には判らなかったが、後で説明するという事であったので特に追求はしない事にする。すると、おたま男がラブホテルを指差して口を開いた。

 

「どう、立派でしょ。利用していかない? ご休憩は400GOLD、お泊まりは900GOLDよん」

「高いわね。相場の二倍はするわよ」

「こんな場所だからねん。これでも赤字なのよん」

 

 ラブホの相場を知っているロゼがそう文句を口にするが、おたま男が申し訳無さそうにしながら理由を口にする。確かにこんな砂漠では、相場以上の値段を取るしか経営を成り立たせる方法はないだろう。いや、多分それでも無理なのだろうが。

 

「ま、知り合いのよしみだ。利用していくか」

「えぇっ!? つ、使うんですか……?」

「ああ。どうせギャルズタワーは夜にならないと現れないし、ホテルで体を休めるとしよう。おたま男、夜までの休憩を二部屋分頼む。男と女で分かれる」

「あ、そういう使い方ですか……そうですよね、当然ですよね……」

 

 何故か深く反省するシトモネ。何を想像したかは全員予想がついていたが、あえて口には出さない。大人な面子が揃っていた。否、一人だけ悪戯好きの大人が混じっていた。

 

「いやー、てっきり5Pかと思ったわよね!」

「ぐはっ! わわわ、私はそんな事……」

「完全に言い切りやがった。すげーな、この姐ちゃん」

「相変わらず面白い人だ」

「やれやれ……」

 

 シトモネの肩を叩きながら笑うロゼ。想像を言い当てられたシトモネは顔を真っ赤にしながらそれを否定し、他の三人はそれを見て苦笑するしかなかった。すると、ホテルへ部屋の確認をしにいっていたおたま男がこちらに駆けて戻ってくる。

 

「ルークちゃん、二部屋の準備出来たわよーん。あ、それと、砂漠を歩くなら鬼ババアには気をつけてねん」

「鬼ババア?」

「砂漠の主。かなりの強さを持ったモンスターよ」

「ほぅ……それは楽しみだな」

「……あー、まあ心配ないでしょうね。ルークちゃんなら」

 

 ルークの強さを自らの身をもって体験しているおたま男は、余計なお世話だったと静かに笑い、ルークたちをホテルへと案内するのだった。

 

「あ、日記書いとかなきゃ。ルーク、男二人女三人の計五人でラブホテルに泊まる。月夜の砂漠に響く淫靡な嬌声は、一体何を意味していたのか……」

「没収」

「あん」

 

 カスタムの集団にとんでもない爆弾を落としそうなロゼの日記をスッと回収するルーク。ロゼはロゼでこの状況を満喫しているのだった。

 

 

 

-洞窟内 雑木林地帯-

 

「一体どうなっている? さっきまで洞窟の中だったはずなのに、なんで急に林が出てくるんだ?」

「不思議です。それに、少し寒気がします……」

 

 洞窟内を歩いていたランスとシィルだったが、突如目の前に雑木林が現れたのだ。ダンジョン内に海地帯や墓地地帯といった様々な場所があるのは良くある事だ。以前に志津香が作ったダンジョンも、ピラミッドエリアだったり、妖体エリアだったりと、様々な場所があった。だが、この雑木林は違う。ダンジョン内に雑木林がある、という風ではなく、本当の雑木林に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚えるのだ。そのうえ、嫌な気配までする。シィルがその気配を敏感に感じ取り、不安そうにランスに話し掛けた。

 

「……そうだな。なんだか嫌な感じだ。さっさと抜けるに限る」

「あ、待ってください。何かいます!」

 

 雑木林を突き進んでいこうとしたランスをシィルが止め、前を指差す。そこには、何かの集団がぞろぞろと歩いていた。数十メートルにも及ぶ、何やらモンスターのような集団。

 

「なんだあれは?」

「……あれ、きつねだと思います」

「きつね? ああ、あの獣臭い奴等か。シィル、適当に捕まえてきつねうどんを作ってくれ」

「ランス様……きつねはきつねうどんの材料ではありません」

「なんだと!? っと、あれは……」

 

 勘違いをしていたランスがショックを受けていると、ふときつねの集団の中心に何やら他とは違う存在がいる事に気が付く。集団の中心、きつねが押している台車に何やら人間が乗っているように見えるのだ。距離があるためあまりしっかりとは見えないが、白無垢姿の女性というのは判る。

 

「おお、女がいるぞ! きっときつね共に攫われてピンチな状態に違いない」

「女性……? きつねと女性……どこかで……」

「俺様が助ける。お礼に一発。うむ、このパターンに決定だな。では早速……」

「あっ、思い出しました! 駄目です、ランス様! あれはきつねの嫁入りという儀式で、絶対に邪魔してはいけません!」

「むっ!?」

 

 きつねの集団に跳び掛かっていこうとしたランスのマントをシィルが必死に掴んで踏みとどまらせる。思い出したある儀式通りのことをしているのであれば、ランスを行かせる訳にはいかないからだ。

 

「きつねの嫁入り?」

「はい。JAPANの山奥に伝わる風習で、きつねたちは毎年一人の女性を村から攫い、山の神の花嫁に捧げるそうです」

「ほう、やはりあそこにいるのは女に間違いないんだな。ならば人助けだ、ぐふふ……」

「駄目です。きつねの嫁入りには恐ろしい言い伝えがあるんです」

「言い伝え?」

「きつねの嫁入りを邪魔した者は、みんな死ぬんです。きつねというのは、普通のモンスターではありません。あれは妖怪なんです」

「マジか……」

「はい、昔世界の風習という図鑑で読みましたから、間違いありません」

 

 死ぬ、という言葉にランスがひやりとする。普段であれば目の前の女性欲しさに、シィルの言葉を無視して跳び掛かったかもしれないが、死というものが今のランスに取っては身近に感じられていた。というのも、先のハピネス製薬で死にかけた事がまだ記憶に新しいからだ。

 

「(むぅ……今はウェンリーナーがいないから死ぬのは駄目だ。シィルも真剣な目をしているし、殺されるというのは本当っぽいぞ)」

「ランス様……」

「……そうだな。良く見れば、あそこにいる女は中の下っぽい。うむ、所詮は田舎の村娘だ。俺様がわざわざヤる必要もないな」

「ほっ……」

 

 シィルが安堵のため息を漏らす。なんとかランスが思い留まってくれたからだ。そのまま二人は雑木林でジッと待ち、きつねの嫁入りが通り過ぎるのをやり過ごすのだった。

 

「行ったか。なんで俺様がこんなにヒヤヒヤしないといけないんだ。きつねめ、嫁入り以外のときに会ったらきつねうどんにして食ってやる!」

「だから材料じゃないんですってば……あ、ランス様。池です、池があります!」

 

 イライラとしているランスを不安そうに見ているシィルだったが、きつねの嫁入りの集団のせいで見えなかった雑木林の奥に池があるのを発見して指を差す。

 

「おっ、丁度喉が渇いていたんだ。行くぞ、シィル!」

「はい、ランス様」

 

 先程まできつねが横断していた場所を横切り、池へと駆けていくランスたち。池の水はキラキラと透き通っており、底が見える程の透明度であった。

 

「シィル、毒味をしろ」

「はい、物質調査! ……大丈夫です、問題のない水です」

 

 シィルが魔法で池の水を調べ、問題が無いことを確認してから両手で水を掬い、口へと運んでいく。

 

「冷たくておいしいです!」

「がはは、奴隷の分際で俺様よりも先に飲むとは不届き千万! ごくごく、うむ、美味い!」

 

 ランスとシィルが池の水で喉を潤し、しばしまったりとした時間を送る。休んでいたランスはともかく、シィルは洞窟内を数時間歩き回り、流石に疲れていたのだ。と、池の側の茂みに何かが横たわっているのを発見する。ジッとそちらを観察していたシィルが、その横たわっているものが死体である事に気が付いて声を上げる。

 

「きゃっ! ランス様、あそこに死体が……」

「なにぃ? がはは、それは良い。シィル、金目の物を持っていないか調べろ」

「は、はい……うぅ、ごめんなさい……」

 

 ミイラ化した男の死体。死んだのは最近ではなく、かなり古い死体なのだろう。だが、腐っていないところが若干不思議ではある。毎度の如くシィルに金目の物を漁らせるランス。シィルは死体に手を合わせて謝りながらも、慣れた手つきで死体を調べていく。

 

「……ランス様、これくらいしかありませんでした」

「鍵と日記帳? こんなものが金になるか!」

「すいません……とりあえず、鍵は何かに使えるかもしれないので持っておきますね」

 

 出てきたのは、十字架型の鍵と日記帳だけであった。ランスに謝りながらも、冒険者のクセで鍵はキープするシィル。それを見たランスはふん、と鼻を鳴らしながら、日記帳に手を伸ばしてパラパラとページを捲っていった。

 

「10月32日、これにて調教は完成。少女は俺の命令を何でも聞くようになった。どこでも股を広げ、俺の小便すら喜んで飲むようになった。ふむ……」

「少女……?」

 

 ランスが読み上げた日記の内容が酷い物であったため、シィルがトテトテとランスに近づいてきて日記を後ろから覗き込む。

 

「10月34日、少女が妊娠していた。ハラボテとやる趣味は無いので殴って堕ろさせた。泣きじゃくっていたが子供など不要」

「酷い……」

「10月36日、少女がどこかを見ながらぶつぶつと意味不明な事を口走っている。さすがに壊れたみたいだ。子供を堕ろさせたのが相当にショックだったらしい」

「そんなの……当然です……」

「10月40日、少女にも飽きたしこの城を出ることに決めた。南の道は鬼ババアと血達磨包丁がいるから、西から出る事にする」

 

 ランスが不機嫌そうな顔で日記を読み進めていく。後ろから覗き込んでいたシィルも、少女へのあんまりな仕打ちに悲しげな表情を浮かべていた。だが、少女への仕打ちはまだ続く。

 

「10月47日、明日は出発の日。最後だからたっぷりと少女の躰を楽しむ事にする。どうせ最後なのだから、死んでしまっても構わないくらいに色々と楽しむとしよう」

「死んでもって、そんなの……」

「10月48日、少女が泣いてすがってきた。置いていかないでくれ、一人にしないでくれ、何をされてもいい、何でもする、誰かと一緒にいたい、またあの孤独を何年も送るのはイヤだ、と。実に耳障りだったので、顔が腫れ上がるまで蹴飛ばして出てきた。実に有意義な三年間だった」

「さ、三年も……」

「10月52日、道に迷った。こんな事なら南の道から脱出をすればよかった。きつねの集団が女性を連れていたので、気になって後をつけてみたが見失った。明日また捜す事にしよう……日記はここで終わっているな。バカめ、きつねの嫁入りを邪魔して死んだようだな」

「そのようですね……」

 

 ランスが日記をバン、と閉じ、ジロリと横たわっている男の死体を睨み付ける。どうやら、きつねの嫁入りを邪魔して殺されたようだ。そのまま死体に一発全力の蹴りを見まい、シィルに向かって命令をする。

 

「シィル、燃やせ。こいつはクズだ。死体をこの世に残しておく事すらこいつには過ぎた事だ」

「……はい! ファイヤーレーザー!!」

 

 いつもであれば少し躊躇いを見せそうなシィルが、ランスの言葉に強く頷いて上級魔法を放つ。珍しく、シィルも目の前の死体に怒りを覚えていたようだ。轟々と燃えさかり、灰になっていく男の死体に向かってポイと日記を放り投げるランス。不愉快な日記が灰になっていくのを見ながら、ランスは大きな舌打ちをする。

 

「ふん、不愉快だな。シィル、水浴びをするぞ。俺様の背中を流せ」

「あ、はい、準備をします。石鹸と、タオルと、スポンジと……」

「スポンジはいらん。お前のボディスポンジで洗い流すのだ。泡泡の濡れ濡れだ、がはは!」

「(やっぱりそれもするんですね……)」

 

 シィルが少しだけ顔を赤らめながら、ランスの服を脱がしていく。日記で不機嫌になった気分を、シィルの躰を楽しんで吹き飛ばすランスであった。だが、日記に書いてあった少女は今どうしているのだろうか。ただその疑問だけが、二人の中に残っていた。

 

 

 

-洞窟内 鍾乳洞地帯-

 

「うーん……出口が見つからないなぁ……」

「(……大吉君なのにこんなに迷子が続くなんて、ちょっと失望やわ。こんなもんなんか?)」

 

 未だにランスたちと出会った鍾乳洞地帯をうろうろしているバードとコパンドン。周りの風景すら変わらないその迷いっぷりに、コパンドンが若干ガッカリしていた。捜し求めていた大吉というのは、この程度の運なのかという事に。その視線を敏感に感じ取ったバードがコパンドンに振り返る。

 

「大丈夫! 必ず僕が出口を見つけるから……って、うわぁっ!?」

「転んだよ……不吉ちゃうん……」

「あいててて……何かにぶつかった……」

 

 歩きながら急に振り返ったため、前方の小石に気が付けずに盛大に転ぶバード。そのうえ、目の前にあった何かに思い切り頭をぶつける。それを見たコパンドンの疑念が更に増している中、バードは頭を擦りながら目の前の巨大なものを見る。

 

「あ、これは宝箱!?」

「ほんまか? 流石は大吉君、転んでもただでは起きんな!」

 

 コパンドンの顔にパッと笑顔が戻る。バードの大吉を少し疑っていたが、宝箱を見事に見つけた事がその疑念を振り払ったのだ。

 

「随分と大きい箱ですね……」

「小さいより大きい方がええに決まっとるやん。さ、開けよ!」

「ええ、罠があると危ないからコパンドンさんは少し離れていてください。ふんっ……」

 

 巨大な宝箱の蓋を精一杯の力で開けるバード。ギギギ、という鈍い音がし、ゆっくりと箱が開かれていく。瞬間、箱の中がピカッと光ったと思うと、ピョコンと女の子が頭を出してきた。まさかの事態に思わずバードが後ずさる。

 

「わっ!?」

「なんや? 女の子……いや、モンスターか?」

「私、起動します。七回目の目覚め。今回は少し時を遡りました」

 

 バードとコパンドンが呆然としている中、スッと箱から立ち上がる女の子。フリフリのメイド服に、巨大なまち針を持っている。無表情であるが、かなり可愛い容姿をしている。どうやら女の子モンスターのようだ。寝起きでまだ眠いのか、目をごしごしと擦っている。

 

「私を起こしたのは誰ですか? ……人間ですか。これが使命ですから仕方ありませんね。出来る事ならば、前回のような人間である事を望むのですが……」

「えっと……」

「何訳の判らん事言っとんのや? あんた誰や!?」

 

 バードを見ながらつらつらと言葉を放つ目の前の女の子モンスターを見て、コパンドンが敵意剥き出しでそう問いかける。

 

「依頼主は貴女ではない。どいてください。依頼主は貴方」

「えっ、僕?」

 

 コパンドンを無視し、女の子モンスターがバードを指差す。突然話を振られたバードは、ただただ目を丸くするばかり。

 

「復讐したい人、殺したい人、憎い人、消したい人はいますか?」

「えっ!? 殺したい相手なんていませんよ……憎い人……あー、しいて言うならランスさん?」

「っ……」

 

 バードの口から飛び出したのは、ランスの名前であった。本気で殺したいとまで思っている訳では無いが、先程出会ってしまっていたため、つい口走ってしまったのだ。その名を聞いた瞬間、目の前の女の子モンスターが微かに動揺した素振りを見せるが、すぐに無表情に戻り口を開く。

 

「ターゲット、ランス。承りました。依頼を開始します」

「あっ……行っちゃった」

「なんやったんや、今の?」

「さぁ……」

 

 依頼を開始する、とだけ言い残し、女の子モンスターはどこかへと駆けて行ってしまった。呆然とそれを見送る二人だったが、ふいにコパンドンが口を開く。

 

「ランスって、さっきの男やろ? 憎いんか?」

「いや、その……そんなに憎い訳では……つい口に出てしまって、その、恥ずかしい事です」

「(ほんまやわ。憎い奴がおるってのは判るけど、それを初対面の相手や彼女の前で軽々と口に出すか? ちょっと幻滅やわ……)」

 

 コパンドンの中のバード評価がストップ安を起こしている中、洞窟をスタスタと駆けていく女の子モンスター。まち針をグッと握りしめ、ボソリと独り言を呟く。

 

「覚えている……無理ですね、時を遡っています。でも、もし覚えていたら、私は……」

 

 バードの前に立っているときは殆ど無表情であった女の子モンスターだが、今はどこか悲しげな顔をしている。だがその目だけは、まるで何かを期待しているかのような輝きがあった。

 

 

 

-洞窟内 霧地帯-

 

「ランス様、霧の向こうに建物があります!」

「おお!」

 

 雑木林地帯を抜けたランスとシィルは、霧の中をしばらく彷徨っていた。途中で拾った巨大なうちわで霧を晴らしつつ前へと進んでいくと、ようやく建物らしきものが見えてきた。まだ迷宮内ではあるが、人が住んでいるであろう場所を見つけて安堵する二人。

 

「行くぞ、シィル。あの建物のところに行けば、必ず誰かいる。この洞窟から抜け出す方法も、簡単に見つかるはずだ」

「はい、絶対に見つかります!」

「……ん? ところで、あの建物はなんだ? 変な形をしているな」

「ランス様、あれはお城です」

「城? リーザス城とは全然形が違うぞ」

「JAPANの城はああいう形をしていると、以前本で読んだ事があります。木で出来ていて、とても燃えやすいお城だそうですよ」

 

 シィルが以前読んだ本に載っていた城の形を思い浮かべながらそう話す。霧の向こうにある建物は、そのJAPANの城と瓜二つであったから、JAPANの城で間違いないだろう。

 

「……もしかして、俺様たちは迷い迷ってJAPANまで来ていたのか?」

「……絶対にない、とも言い切れませんね。次元の隙間に迷い込んで、ワープしたとも考えられますし」

「ふむ……まあいい。折角だからJAPAN観光を楽しむとしよう。がはは、突撃だ……と、その前に、洞窟を彷徨っている内にいくらかモンスターを倒したからな。ウィリスを呼んでおくか。カモーン、ウィリス!!」

 

 パチン、とランスが指を鳴らすと目の前の空間が歪む。レベル神、ウィリス。ランスとルークの担当をしている美人の女性、彼氏持ち。その彼女が呼び出されるはずだったのだが、目の前に現れたのはオレンジ色の髪をした少女。

 

「やっほー、ミカンだよー!」

「ぎゃぁぁぁぁ! 出たぁぁぁぁ!!」

 

 出てきた少女を見て珍しく悲鳴を上げるランス。彼女はレベル神見習い、ミカン。ランスが苦手にしている女性の一人であった。というのにも、深い訳がある。

 

「ランスちゃん、久しぶり。レベルを上げに来たよー」

「お前なんか呼んでないわ! 闘神都市のときに経験値を0にされた恨み、忘れてないぞ!」

「えー……ミカンちゃんと勉強したから、もうあんなミスはしないよ……多分」

「ボソリと恐いことを呟かれました……」

 

 そう、闘神都市での冒険時に、ランスはこのミカンの儀式失敗のせいで経験値を0にされているのだ。冒険者にとってこれ程恐ろしい事は早々無い。胸を張るミカンだったが、最後の呟きをしっかりと聞き取ったシィルが冷や汗を流す。

 

「チェンジだ! とっととウィリスを呼んでこい!」

「今、彼氏と温泉旅行でいないよ。休暇中」

「神様にも休暇があるんですね……」

「えぇい、それじゃあレベルアップの儀式は取り消しで……」

「うーらん めーたん はらはら うんぬん するする ぱんぱんだーっ とこんてん みらくるあんぱーーん!」

「勝手に儀式をするなぁぁぁぁ!!」

「あっ、やば……」

「うぉぉぉぉぉい!!」

 

 霧の中にランスの絶叫がこだまする。結局、儀式はなんとか成功し、レベルは普通に上がったのだが、代償としてランスは酷く疲れる事になった。ランスの天敵の一人、ミカン。恐るべき少女である。

 

 

 

-砂漠地帯 ホテルおたま-

 

「ベッドにどーん! ああ、ふかふかで安らぐわ……このままダ・ゲイルでも呼んじゃおうかしら。ラブホなんだし、本来の使い方をしないと失礼ってもんよね」

「そうしたら、私たちは男部屋に避難するからな。だが、砂を洗い流せたのには素直に感謝だな」

「身体中について嫌な気分でしたもんね」

 

 シャワーで砂を洗い落とした女性陣がまったりとする。ロゼはベッドにダイブし、セシルは椅子に腰掛けて剣の手入れをしている。同じくベッドに腰掛けて杖の手入れをしていたシトモネだったが、喉が渇いたので冷蔵庫から何か取り出そうと立ち上がる。瞬間、扉がノックされ、声が聞こえてくる。

 

「俺だ。今は大丈夫か?」

「あ、ルークさんです。皆さん、大丈夫ですよね?」

「ん、オッケー」

「問題ない。話の続きもあるから、来ると思っていたしな」

 

 女性部屋という事もあり、しっかりと確認のノックをするルーク。シトモネが一応二人に確認をし、扉を開ける。そこには、ルークと凱場が立っていた。そのまま部屋に入ってきて部屋の様子を軽く見る。

 

「だらけきっているな、ロゼ」

「働いたら負けだと思っている」

「さて。部屋に来た理由は夜の方針と、さっきのおたま男の件という事でいいかな、ルーク殿」

「話が早くて助かる。ロゼ、聞かせてくれるか?」

 

 先程のおたま男の話はセシルも気になっていたのだろう。剣の手入れをピタリと止め、立っているルークを見上げながらそう問いかける。ルークはそれに頷き、全員の視線がロゼへと集まる中、ロゼはベッドに寝っ転がりながら口を開いた。

 

「あれ、もう死んでるわよ」

「えっ!?」

「死んでいる……どういう事だ?」

「闘技場の階段から転げ落ちたって言っていたでしょう? 多分、そのときに死んでいるわ。後でリーザスに確認取れば、確証は取れると思う」

「ロゼ殿、それではここにいるおたま男は幽霊という事か?」

「ひっ……」

「幽霊か……Part3のときに一度扱ったが、久々に扱っても良い題材かもしれねぇな。確か、ゼスに魔女モヘカの館っていう心霊スポットが……」

 

 ロゼの回答にセシルが幽霊なのかと尋ね、シトモネが軽く怯える。凱場はかつての冒険で出会った幽霊を思い出しながら軽く頷き、次の冒険の題材にしても良いかと考えている。ルークも真剣な表情でロゼを見ているが、ロゼは首を横に振った。

 

「あー、幽霊じゃないのよね。あれは妖怪」

「妖怪? JAPANにいるあれか?」

「そう。想いや情念が形になった存在。多分、酒に酔って階段から転落なんて、死んでも死にきれなかったんでしょうね。で、妖怪になっちゃったって訳。本来はJAPANから出ては来られない存在なんだけど、大陸で妖怪化したから特別なのかもね。あるいは、他に理由があるのかもしれないけど、これ以上は考えてもしょうがない事だからパス」

 

 ヒラヒラと手を振ってさじを投げたアピールをするロゼ。だが、先程の少ないやりとりだけでそこまで考えが至っていたのだから恐れ入る。ルークが顎に手をやり、納得がいったように口を開く。

 

「情念……なるほど、それでさっきの質問か」

「いえーい、大正解! 生前やり残した事で一番の心残りがホテルの経営だったみたいね。それで、こうしてホテル経営をしているって訳」

「成仏はしないんですか?」

「妖怪になった原因の想いを遂げれば消えるわ。あいつの場合は、ホテルが大繁盛ってところかしらね。ま、一生無理だろうけど、これはこれで幸せそうだからいいんじゃない? 魂はない存在だから、神も悪魔も放っておくし」

「ふむ……無理に成仏させる必要もないし、放っておくのが一番か」

 

 シトモネにそう答えるロゼの言葉を聞き、セシルが一度だけ静かに頷く。彷徨っているものを浮かばせなければ、などという変な信念はセシルには無い。と、横に立っていたルークがポリポリと頭を掻く。

 

「しかし、間接的な原因は俺か。少しばつが悪いな……」

「試合での怪我が響いて死んだとかならまだしも、試合に負けて、やけ酒飲んで、階段から落ちて死亡なら気にしなくていいでしょ」

「酒は飲んでも呑まれるな。自業自得だ」

「まぁ、そうなんだけどな……」

 

 ルークが若干責任を感じていたが、ロゼとセシルは冷静にそれをフォローする。すると、凱場が何かを思い出したかのように口を開いた。

 

「口調が変わっていたって言っていたよな? それはどういう訳だ?」

「さあ? 頭ぶつけておかしくなったか、ホテル経営と同様にあれがあいつの知られざる願望だったのかもしれないわ。どっちかだとは思うけど、全部が全部判る訳じゃないって事で」

「出来れば前者であって欲しいところですね……」

「確かにな。夜這いなんてかけられちまったら、手加減出来ねえぞ。Part9でそういう敵と戦ったが、二度と相手したくねえ思い出だ」

「意外に経験豊富ね。ヤッたの?」

「ヤってねえよ! すんでのところで逃げた!」

「ちっ、残念。そのラレラレ石だけ買ってあげてもいいと思ったのに」

 

 凱場の回答が不満だったのか、寝っ転がりながら軽く舌打ちをするロゼ。それを見てルークが意外そうな顔をする。

 

「驚いたな。そういうのもいける口だったのか?」

「うんにゃ。ランにプレゼントしようと思って。いつもお疲れ様、とっても面白いから楽しんでね、って満面の笑みで爆弾投下」

「最低だな……」

「ラン……? ああ、カスタムの魔法戦士か」

 

 ルークがロゼに冷ややかな視線を送り、セシルは解放戦のときに一緒に戦ったランの事を思い出している。幸の薄そうなあの女性かと酷い思い出し方をしている中、話題はギャルズタワーへと移っていった。

 

「それで、タワー攻略の方針は?」

「地道に一階から攻略していくしかないな。作戦Nで一気に最上階を目指すという方法もあるにはあるが……」

「依頼時にも話したが、そいつは御法度だ。塔の攻略ってのは、ちゃんと一つずつ進むのがセオリーなんでな。いきなりゴールってんじゃ、冒険野郎の名が廃る」

「(作戦Nってなんなんでしょう……)」

 

 凱場が帽子のつばを軽く触りながらそう口にする。どうやら、そこは譲れない一線らしい。シトモネが作戦Nに首を傾げている中、セシルがニヤリと笑う。

 

「正攻法、望むところだな。久しぶりに楽しい戦いを楽しめそうだ」

「上の階には上級の女の子モンスターもいるらしいしな。後方支援は任せたぞ、二人とも」

「は、はい。頑張ります!」

「適当にやるわ」

「へっ、頼もしい奴等だぜ。段差以外は任せておきな。こう見えても、一応名の知れた冒険野郎なんでな」

 

 セシルが不敵に笑い、手入れの終わった剣を軽く突き出す。ルークがそれを見ながら静かに笑い、シトモネがグッと杖を握りしめ、ロゼが寝っ転がりながら適当な声を出し、凱場は親指を立てる。即興のパーティーではあるが、戦い慣れしている者が多いため不安要素は少ない。

 

「さて、一応レベル神を呼んで現在レベルを確認しておくか。それによって方針も微妙に変わってくるしな」

「ほう、専属のレベル神がいるのか。流石だな」

「セシルなんかはいてもおかしくないと思うが……」

「残念ながら、レベル屋で地道に上げている。実力は勿論だが、担当して貰えるかは運も絡むんでな。レベル神も担当が沢山いるから、タイミング良く依頼しないと後回しにされる」

「マリアは相当運が良かったって事になるわね。まあ、あのレベル神変わっていたし、担当が少ないのかもしれないけど」

 

 基本的にはレベルアップの機会が多い一流の冒険者にしか対応しないレベル神。だが、その振り分けをしてもなお神手が足りていないのが現状である。そのため、実力は文句なしなのにレベル神をつけられていない冒険者も存在する。セシルもその一人だ。マリアのように選り好みをしなければいるにはいるのだが、一流であればこそ変なレベル神に担当して貰いたくないというのが本音だろう。

 

「さて、呼ぶか。来い、ウィリス!」

 

 ルークがそう叫ぶと、目の前の空間が歪み、直後少女が現れる。それはウィリスではなく、見習いレベル神のミカンであった。

 

「ん?」

「あら?」

「やっほー、ミカンだよ。一日に二回も呼ばれるなんて、ミカン頼られてる」

「これがルーク殿のレベル神か?」

「随分と小さなお子さんですね」

 

 ミカンの事を知っているルークとロゼが思わず声を漏らし、セシルとシトモネはマジマジとミカンを見ている。ルークもランスの経験値0事件の事は覚えているため、出来ればミカンに儀式をして貰うのは避けたいという思いがある。

 

「ミカン、ウィリスはどうした?」

「えっと、今は彼氏と一緒に温泉りょ……」

「ここにいますよ!!」

 

 ミカンの言葉を遮るように空間が歪み、ボンという音と共にウィリスが現れる。若干息を切らしており、相当慌てて来たようであった。

 

「はぁ……はぁ……レベル神ウィリス、参上です。ル、ルークさん、レベルアップをお望みですか?」

「ウィリスおねーさま、温泉旅行は?」

「お花を摘みに行ってくるって言って少しだけ抜け出してきました。ルークさんから呼ばれたんじゃあ、来ない訳にはいきません」

 

 ミカンの疑問に息を落ち着かせながらそう答えるウィリス。何やら思うところがあるのかルークは困ったように顎に手を当てており、状況が飲み込めていない他の面々はただただ呆然とするしかない中、ウィリスがチラリとルークに視線を向ける。その瞳が若干の熱が帯びているのは、気のせいだと思いたい。

 

「それじゃあ、レベルアップの儀式を始めますね。えっと……それが終わった後は、その……あの時の続きを……」

「ラブホテルに追加で一人の女性を呼び出したルーク。それは、他に彼氏のいる女性であった。だが、彼女の瞳はルークしか映していない。背徳の恋に溺れ……」

「没収」

「ああん」

 

 ロゼの二冊目の日記を没収するルーク。闘神都市の一件で色々と変な方向に突っ走っているウィリスにため息をつきながらも、なんとかレベルアップの儀式をして貰うのだった。

 

「ルークさんはレベル61ですね。それでは脱ぎます! これはレベル神に課せられた伝統のサービス……」

「それはしなくて良いと言っただろう!」

「いやー、良い土産話が出来たわ。志津香の反応が楽しみね」

「本当に競争率高いなぁ……」

「ねえねえ、ミカンが担当になってあげようか?」

「遠慮しておく」

 

 脱ごうとするウィリスを必死に押さえるルーク、不穏な事を口走りながら爆笑するロゼ、どうしたものかと困るシトモネ、ミカンの申し出を丁重に断るセシル。ラブホテルの一室に、非常にカオスな状況が生み出されていた。ただ一つ判っている事は、次にカスタムを訪れた際に、ルークの足が無事では済まない事だ。

 

「凱場マックさんはレベル26ですね」

「意外に高い!?」

 

 凱場マック、一流の冒険者という言葉に偽り無し。

 

 

 

-玄武城 城下町-

 

「大きいですねー」

「がはは、大きい事は良いことだ」

 

 ランスたちが発見した城は非常に大きく、しっかりとその周りを塀で囲んでいた。ランスとシィルは城を見上げながら塀沿いに歩いて行き、数分の後にようやく中へ入る門を発見した。立派な塀とは裏腹に、何故かその門は開け放たれている。

 

「門番の姿すら見えんな。リーザスの牢番でさえ、居眠りはするがちゃんと番はしているというのに」

「JAPANの城はこういう特色があるのでしょうか……?」

「まあ、考えても仕方ないな。入るぞ」

 

 玄武城の門を潜り、城下町へと入っていくランスたち。だが、ランスはすっかり忘れてしまっていた。自分が連れてきたお供は、シィルだけではなくもう一人いるという事を。

 

 

 

-洞窟内 霧地帯-

 

「くんくん、くんくん……ご主人様の匂いがするのれす! こっちなのれす!!」

 

 洞窟内を全力疾走していく、忠犬あてな2号。ランスのいる玄武城までは、もうすぐそこまで迫っていた。相変わらずのハイスペックである。これにて役者はあらかた出揃った。玄武城に足を踏み入れたランスとシィル。それを追いかけるあてな。未だに洞窟内を彷徨うバードとコパンドン。その二人が宝箱から発見した謎の女の子モンスター。ギャルズタワー攻略のため砂漠地帯に留まるルークパーティー。そして、玄武城にいるひとりぼっちの女の子。小粒でもピリリと辛い小冒険は、いつの間にやら幕を開けているのだった。だが、まだ一人足りない。この冒険でその運命を大きく変える事になる一人の悪魔が、まだ舞台に上がっていない。

 

 

 

-悪魔界-

 

「はぁ、調子最悪……」

「フセイの日なんだから、家でゆっくり寝ていなさいよ」

「ん……そうする」

 

 同僚の悪魔にそう言われ、素直に頷く一人の女悪魔。それは、ランスとルークの二人と繋がりを持っている悪魔、フェリス。彼女の運命の歯車がもうすぐ狂ってしまおうとは、まだ誰も知る由がなかった。

 

 




[人物]
ロゼ・カド (5D)
LV 18/30
技能 神魔法LV1
 カスタムの町の不良神官。この依頼の前にも少しルークを手伝っていたため、若干だがレベルが上がっている。意外に博識な一面も持つが、本人曰く金儲けのため。

セシル・カーナ (5D)
LV 23/42
技能 剣戦闘LV1
 腕利きの傭兵。解放戦以来、二度目のルークとの冒険に若干何かを期待しているような素振りを見せる。見定めるような目でルークを見ているが、その真意は不明。

シトモネ・チャッピー (5D)
LV 13/30
技能 魔法LV1
 キースギルド所属の冒険者。まだまだ駆け出しだが、光る物はある。年の近いアームズにはため口であったが、今回は年上ばかりなうえに全員経験豊富な面子であるため、常に敬語で若干緊張している。

凱場マック (ゲスト)
LV 26/99
技能 鞭戦闘LV1 冒険LV2
 世界を股に掛ける冒険野郎。その足取りの数々はラレラレ石で好評発売中。売り上げは上々。次の冒険資金以外は、全て寄付をしているという。密かにとんでもない才能限界を持つが、彼の口癖である「残機は99が限界だ」、というのが関係しているのかもしれない。特に才能限界の高さに深い意味はないので、ネタという事で笑って許してやって欲しい。名前はアリスソフト作品の「大番長」より。

おたま男 (5D)
 砂漠でラブホテルを営む妖怪。かつてルークとコロシアムで戦った事があり、その直後に非業の死を遂げていた。130話ぶりに登場。彼の大活躍が見たい人は、第4話を読み直そう。因みに、3行で負けている。

ウィリス (5D)
 ルークとランスを担当するレベル神。彼氏とは今もラブラブ、でもあの日の事が忘れられない。そんな状態。

ミカン (5D)
 見習いレベル神。まだ危なっかしいところはあるが、しっかりと勉強したのでちゃんとレベルアップの儀式は出来るようになった。だが、ランスからの信頼は皆無である。


[技]
物質調査
 物の状態を調べる魔法。基礎魔法であり、冒険には欠かせない魔法である。


[その他]
パワー塩水
 脱水症状を防ぐのに最適な飲料水。こんな名前だが、塩は入っていない。

桃泥スーパー
 どろりとした食感が一部に熱烈なマニアを生んでいる飲み物。ピーチ味の珍味で、飲むのに相当コツがいる。女の子モンスターのたい焼きうぐぅとヒトデ配りがこれを飲んでいる姿が目撃されているとかなんとか。

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