ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第136話 動き出す運命

 

-玄武城 城壁内広場-

 

「んっ……」

 

 深いまどろみの中からランスが目を覚ます。痛む頭を抑えて周りを見回すと、そこにはシィルとあてな2号が倒れていた。

 

「なんだと……? おい、シィル! どうした!?」

「ランス……様……」

 

 シィルに近寄ってその体を抱き寄せると、シィルは苦しそうにしながらゆっくりと目を開いた。この死屍累々たる状況にも、自身の頭が痛んでいる理由にも全く覚えがない。

 

「一体何があった!?」

「……? 覚えていらっしゃらないのですか……?」

「覚えてって……あ!」

 

 シィルの言葉に眉をひそめていたランスだが、何かを思い出した様子で思わず声を漏らす。ランスたちがこの場所に辿りついたのは今から大体二時間以上前、そして、この惨状が出来上がったのはそのすぐ後の事であった。

 

 

 

二時間半前

-玄武城 城壁内広場-

 

「ん、あれは何だ? 楽しそうな事をしているぞ」

「ハニーたちが桜の前で宴会をしていますね」

 

 ランスたちが城門を潜って城壁沿いに歩いていると、桜が綺麗に咲いている広場が目の前に見えてきた。そこでは三体のハニーが楽しそうに宴会をやっている。すると、ハニーたちもランスの存在に気が付き、声を掛けてくる。

 

「あいやー、人間だー」

「本当だー。一緒にお酒を飲もうぜ、人間さん」

「うふうふ、宴会は沢山でした方が楽しいですからねー」

 

 グリーンハニー(男)、ブルーハニー(男)、ハニ子(女)の三体は既にかなり酔っ払っており、瀬戸物なのにその頬が赤い。元々人間と友好的な種族という事もあり、平然とランスたちを宴会に誘ってきた。

 

「ランス様、先を急ぎましょう。ランス様はあまりお酒が得意ではないですし」

「むっ、俺様は酒が苦手な訳では無いぞ。安酒が駄目なだけだ」

 

 シィルの言葉に少しだけカチンと来て反論するランス。だが、実を言うとシィルの方が正しい。ランスは酒の味をまだ良く判っておらず、飲んでいると格好良いからという理由で無理して飲んでいる節がある。また、あまり強くなく、シィルがこっそり薄めていなければあっという間に酔っ払ってしまうのだ。もう少し年齢を重ねれば酒の味も判るようになってくるのかもしれないが、なんだかんだでランスはまだ若い。

 

「まあ、ハニー共の飲んでいる酒などたかが知れているが……」

「おっ、聞き捨てならないねー。ひっく」

「おいらたちが飲んでいるのはこれだ!」

「こ、これは伝説と言われるJAPANの酒、『みどり14.才』ではないか!?」

「(どこかいかがわしい名前です……)」

 

 ランスが酒瓶を見て驚く。あまり酒に詳しくないランスでもこの酒の事は知っていた。というのも、厳選されたうら若き乙女だけで作っているというその筋では有名な酒であり、ランスは予てよりいつかこの酒を飲んでみたいと思っていたのだ。ランスが酒に興味津々な事を察したハニ子が言葉を続ける。

 

「おにいさん、一緒に酒飲み勝負をしない? おにいさんたちが勝ったら、とても良いものをあげますよ」

「良いもの?」

「はい、冒険に役立つグッズです。それで、もし私たちが勝ったら一緒に宴会を楽しみましょう」

「ふむ……」

 

 ランスは思案する。貰えるグッズというのがどれ程のものかは判らないが、貰えるものは貰っておきたい。目の前のハニーは既にへべれけ状態であり、更にはあてな2号は人工生命体であるため酒には酔わないのだ。これでは負ける方が難しい。悪い顔でニヤリと笑うランス。

 

「良いだろう、勝負してやる。人間様の強さをしっかりと教えてやろう」

「わくわくれす……」

「大丈夫でしょうか……」

 

 シィルの不安は的中する。その後、期待されていたあてな2号はおつまみで出ていた柿ピーで何故か酔っぱらい、早々に戦線離脱。残されたランスとシィルはどちらもあまり酒に強くないため、泥沼の勝負となってしまうのだった。結果として何とかランスたちは勝利をもぎ取ったが、その時には全員へべれけ状態。奇声を上げながら辺りを破壊するあてな。幸せそうに眠るシィル。ハニ子を口説き、他のハニーを素手で破壊し始めるランス。正しく惨状と呼べる光景が広場には広がるのだった。

 

 

 

二時間半後(現在)

-玄武城 城壁内広場-

 

「そうか、ハニーたちと飲み比べをしていたからか……えぇい、シィル! お前が使えんから!」

「ひんひん、ランス様、頭が痛いので今は叩かないでください……」

「世界が回っているのれす……真知子さんがいればこんな事にはならなかったのれす……」

「そうですね……お酒が強い方が一緒にいらっしゃればこんな事には……」

 

 あてなの言葉に涙目であったシィルが同意する。普段戦闘ではあまり役に立たない真知子だが、今日ほどパーティーにいて欲しかったと思うのも珍しい事だろう。

 

「知り合いで酒に強いのって誰だ?」

「あてなのデータにある程度入っているのれす。ピーピー、ガシャガシャ、Sランクがミリ、Aランクが真知子さんとルークとロゼ」

「因みに、そのデータを作ったのは誰だ?」

「真知子さんなのれす」

「ならダウト。真知子さんはSSだ」

「(奥ゆかしいのか、ルークさんと同じランクにいたいと思ったのか……多分後者ですね)」

 

 真知子のランクに即座に突っ込みを入れるランス。後ろではシィルも静かに頷いている。

 

「因みに、最低のGランクは志津香とレイラなのれす」

「それは聞かんでも判る」

「(ごめんなさい、お二人共……私も予想通りでした……)」

 

 その情報はあまりにも周知過ぎる。

 

「ちっ……無駄な時間を使った。先を急ぐぞ」

「うぅ……頭がまだ痛いです……」

「脳みそうにうになのれす」

 

 冒険に役立つというグッズも貰えそうな状況では無かったため、とりあえずハニーたちの持っていた金目の物を全てこっそり奪い、先に進む事にするランスたち。三人とも頭が痛いという状態であり、あまり強い敵とは出会いたく無い状況であった。だが、こういう時に限って強い敵とは現れるものである。

 

 

 

-玄武城 天守閣前-

 

「うむ、遂に着いたぞ」

「ぱちぱち、流石はご主人様なのれす」

「こうして側まで来ると、大きなお城だというのを実感しますね」

 

 ようやく玄武城の前まで辿りついたランスたちが城を見上げる。リーザス城とは趣が違うが、JAPANの城というのも中々に大きい。すると、城の方から一人の女性がこちらに歩いてくるのが見えた。黒い髪に和装、無表情だが艶のある美女だ。ランスがすぐに声を掛ける。

 

「おっ、俺様へのお出迎えか? うむ、中々に可愛いな。合格だ」

「…………」

「ランス様……あの人、何か様子が……」

「……玄武様、おかえりなさいませ。貴方様の妻、和華です」

「……? 何を言ってるんだ?」

 

 現れた美女はランスの顔を見るや否や、玄武と呼んできた。それはこの城の主である使徒の名前であったはず。困惑するランスたち。だが、目の前の和華も困惑した様子であった。

 

「……玄武様ではない?」

「うむ、俺様は英雄のランス様だ」

「そうですか……下郎の者、すぐに立ち去りなさい」

「急に冷たい口調になったのれす!?」

 

 それまでの丁寧な態度から一転、目の前の和華は急にこちらを見下すような態度を取り始めた。その対応にランスがイラッとする。

 

「なんだ、突然? どういうつもりだ?」

「我が身は玄武様のもの。それ以外の者には触れさせぬ。我が身に近寄れば、それ即ち敵対者」

 

 そう口にしながら、こちらを睨み付ける和華。それを見たランスがニヤリと笑う。

 

「がはは、生意気な。返り討ちにして犯してくれるわ!」

「やってやるのれす」

「玄武様以外に触れられる訳には参りません。そちたちを殺します」

 

 和華が臨戦態勢に入り、魔力を手の平に溜め始める。ランスたちも即座に武器を取り、魔法を放つ邪魔をすべくあてな2号に声を掛ける。

 

「あてな! やれ!」

「了解なのれす! ギガボウ、発射!!」

 

 あてな2号が魔法を溜めている和華に向かって矢を連射する。ハッキリ言って和華の戦法は悪手である。三対一という状況にも関わらず、詠唱時間の長い魔法を早々に使おうとしているのだ。今の和華は完全に無防備。これでは攻撃してくださいと言っているようなものだ。当然ランスたちは魔法を妨害すべく一気に畳み掛ける。だが、あてな2号の放った矢は一本も和華に当たらず、明後日の方向に飛んでいってしまった。

 

「何をやっているか、馬鹿者!」

「うぅ……まだ世界がぐるぐる回っているのれす……」

「げっ、こいつまだ酔っていやがる」

 

 あてなは酔っ払っている。

 

「仕方ない、シィル!」

「は、はい……炎の矢!!」

 

 あてな2号に見切りを付けたランスはすぐさまシィルに視線を向け、攻撃を促す。シィルは一瞬不安そうな顔をしたが、すぐに両手に魔力を溜めて詠唱の早い初級魔法を放った。だが、それはいつもの炎の矢ではない。まるでにんじんのような形状のひょろひょろと力のない炎が放たれ、和華に届く前に地面に落ちてしまう。

 

「シィル、お前もかぁぁぁぁ!!」

「す、すみません……」

 

 シィルは酔っ払っている。

 

「仕方ない、この俺様自ら倒してやろう。くらえぇぇぇ!!」

 

 ランスがそう言いながら和華に向かって駆けていく。和華の詠唱はまだ完了しておらず、駆けてくるランスをただただ無表情で見ている。そのままランスは無防備な和華に目がけて飛び掛かった。

 

「ランス大根斬り!」

「和華様、危ない!!」

「なにぃ!?」

 

 だが、ランスの一撃は突如この場に駆けてきた者に邪魔されて弾かれてしまう。ランスの剣を邪魔するように和華の前に突き出されたのは、一本の薙刀。ランスが不愉快そうにその持ち主に視線を向けると、それは女の子モンスターのとっこーちゃんであった。

 

「不埒そうな男め、和華様に何をしようとした!」

「ちっ、あいつらも玄武城の守り手か……まあ、良い。全員とっちめて5Pの刑にしてやる」

「ふ、ふ、ふ、不埒な!!」

 

 ランスの言葉に顔を真っ赤にして怒るとっこーちゃん。だが、シィルは首を横に捻る。

 

「あいつら……? 5P……? ランス様、それは私とあてなちゃんも入って……?」

「何を言っているんだ。目の前に三体のとっこーちゃんがいるではないか」

「……へ?」

 

 ランスは酔っ払っている。

 

「玄武様の敵は全て痺れさせましょう。電磁結界」

「あんぎゃぁぁぁぁ」

「しび、しびび……」

「ぷしゅー……」

 

 流石に和華の詠唱も終わり、中級広域魔法をランスたちに向かって放ってくる。直撃したランスたちは見事に痺れてしまい、多大なダメージを負ってしまった。ハッキリ言って平常時であれば相手ではないが、三人共が酔っ払っているという状況のためまさかの苦戦を強いられてしまうのだった。

 

 

 

-砂漠地帯 ホテルおたま-

 

「何だかんだでもうすぐ夕方か。もうそろそろ出発するか?」

「そうだな……そろそろ準備を始めておいてくれ」

 

 ルークが窓の外を眺めながらそう口にすると、ベッドの上に荷物を広げて冒険の準備をしていた凱場がそう返す。ホテルに入ってから既に数時間、先程話し合ったとおり夜になる少し前に出発する予定であるため、もうそろそろ良い頃合いなのだ。

 

「それじゃあ、女部屋の方にも一声掛けてくるか」

「おう、頼む。っと、いや、俺も一緒に行こう。最終確認をしておきたい」

「流石に念入りだな」

「俺の勘がビシビシ告げてるんだ。こんだけの豪華面子が集まったからには、今回の冒険はそれに負けねぇくらい大冒険になるってな」

「それも冒険野郎の勘か?」

「まあな」

 

 凱場がニヤリと笑いながらそう答え、そんなものかとルークも静かに笑う。そのまま二人は女部屋の前まで行き、扉をノックする。

 

「ロゼ、俺だ。そろそろ出発の準備を……」

「あ、ルーク。入って来て良いわよ。それと先に謝っておく、ごめん」

「…………」

 

 その返事にルークは頭を抱え、後ろの凱場は苦笑する。間違いなくロゼが何かやらかした。嫌そうな顔をしながら扉をゆっくりと開けると、そこには床に倒れているシトモネの姿があった。近寄って抱き上げると、ほのかに酒臭い。

 

「お前ら……今から冒険なのに飲んだのか?」

「一杯だけね」

「気持ちが高揚させるために、私も一杯だけ飲んだ。ルーク殿、これに関しては止めなかった私も悪いし、ロゼ殿をあまり責めないでやってくれ」

「なんだ、この姉ちゃんは一杯でこうなっちまったのか。そりゃ流石に想定外だわな」

 

 凱場が目を回しているシトモネを見下ろしながらそうため息をつく。どうやら若い彼女はまだ酒に慣れていなかったようだ。セシルが目を回しているシトモネを見ながら言葉を続ける。

 

「一杯しか飲んでいないし、抜けるのも早いだろ。多分、出発までには抜けるさ」

「はぁ……まあ、戦いの前に酒を飲む風習なんかはJAPANにもあるし、あまり強くは言えんな。だが、気を付けろ」

「おっす、反省してます。ルークは酒に酔って意識の無い女性を抱き上げ、ホテルのベッドにゆっくりと横たわらせた。そして……」

「反省してる奴の態度じゃない。没収」

「あぁん」

 

 シトモネをベッドに横にした後、ロゼから三冊目の日記を没収する。

 

「全く……酒に酔いながら戦う戦士がどこにいる?」

「レイラ」

「……あれは二日酔いだから、ギリギリセーフだ、多分」

「ギリギリアウトだな」

 

 解放戦の時を思い出して遠い目をするルークと、水を飲みながら静かに微笑んで突っ込みを入れるセシル。まさかランスたちがたった今酔っ払いながら戦っているとは夢にも思っていない。

 

「それで、そろそろフェリスを呼んでおかない?」

「ん? 今回はフェリスを呼ぶ必要も無いと思っていたんだがな」

「呼んで上げた方がフェリスも喜ぶと思うわよ。悪魔界は居心地悪いみたいだし」

「……やはりそうなのか?」

 

 ロゼの言葉に反応を示すルーク。それは随分と前、闘神都市で呼び出して共に行動をしている時にルークも感じたもの。フェリスがあまり悪魔界に帰りたがっているようには見えなかったのだ。

 

「闘神都市でフェリスの様子を定期的にダ・ゲイルに見に行かせるって言ったでしょ」

「ああ、そうだったな」

 

 それは、ルークとランスが少しだけ衝突した時の事。フェリスにあまり酷い扱いをしないよう頼んだルークに対し、ランスはそれを拒否。結局はその話を聞いていたロゼが定期的にフェリスの様子を伺うことをルークに約束したという出来事だ。

 

「ランスがフェリスを呼び出す回数はそれ程多くなかったわ。アンタに言われたから減ったのか、元々たまにしか呼んでなかったかは判らないけどね」

「……そうか」

「でも、別の問題が見えてきたの。ダ・ゲイルから聞いた話だけど、フェリスは随分と周りから白い目で見られているわ」

「……人間に名前を知られ、降格したからか?」

 

 ルークが眉をひそめながらロゼに問う。悪魔にとって名前を知られるというのは小さくない出来事だろう。それも、同時に二人の人間の使い魔になったのだ。

 

「半分当たり。でも、人間の使い魔になった悪魔なんてそれなりにいるわよ。ダ・ゲイルだってそうだしね。勿論そういった悪魔は周りから多少馬鹿にされるけど、フェリスに対してのそれは明らかに常軌を逸している」

「裏で手を引いている奴が……?」

「流石。話が早くて助かる。軽く調べて貰ったところ、どうやらフェリスの事をライバル視している悪魔が裏で手を回しているみたいなのよ」

「悪魔は階級社会だから上の命令に逆らえず、必然的にフェリスにきつく当たる悪魔が多くなるという事か……」

 

 ルークが眉をひそめながらそう声を漏らし、床に視線を落とす。自分が使い魔にしてしまった事も原因の一端であるため、多少の責任を感じているのだ。そのルークの腹を軽くロゼが小突く。

 

「まあそういう訳だから、フェリスをこっちに呼び出すのをそんなに遠慮しなくて良いのよ。戦いの場に身を置いていれば、それだけ悪魔は魂を回収出来て出世に繋がるんだし」

「そうだな……それじゃあ、敵と出会ったら呼び出すとするか」

「お、話は良く判らなかったが援軍って事か? そりゃ大歓迎だぜ」

 

 ルークがロゼの言葉に静かに頷き、凱場も増援を素直に歓迎する。だが神の視点で話をするのであれば、ルークは今、この瞬間にフェリスを呼んでおくべきであった。ルークはこの事を、ずっと後になって後悔する事になる。

 

 

 

-玄武城 天守閣前-

 

「がはは、動き回っていたらいい加減酔いが覚めてきたぞ!」

「くっ、馬鹿な……この男、強い……」

 

 ランスの猛攻を必死に防ぎ続けるとっこーちゃん。玄武城の守り手であるためか、中々に手練れである。だが、それでも酔いの覚めたランスの相手では無い。

 

「玄武様の敵は全て凍らせましょう。氷雪吹雪」

「させません。氷雪吹雪!」

 

 和華が広域魔法を放ってくるが、シィルが同じ魔法を使って相殺する。いや、相殺ではない。シィルの魔力の方が和華よりも勝っているため、逆に和華ととっこーちゃんに氷雪吹雪でダメージを与えていた。

 

「くぅぅぅ……この程度の寒さ、心頭滅却すれば……」

「その技、使わせないのれす! みょん、みょん、みょん!」

「な、なにっ!?」

 

 ランスの剣を受けながらとっこーちゃんが集中を高めようとする。実はこれはただの精神集中ではなく、とっこーちゃんの持つれっきとした技であった。己の集中力を高め、攻撃力や防御力を上げるというものだ。だが、それを妨害したのはあてな2号。手から放たれたマイクロ波のようなものがとっこーちゃんに向かっていく。あまり早い攻撃ではないため平時であれば躱すのは容易かったが、今はランスの猛攻と氷雪吹雪の影響で身動きが取れず、その遅い攻撃に当たってしまう。瞬間、自身の集中力が四散していくのをとっこーちゃんは感じ取った。次いで襲ってくるのは、恐ろしいまでの冷気。

 

「馬鹿な……くっ、寒い……」

「がはは、集中力が乱れたな! これで終わりだぁぁぁ!」

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

 ランスの一撃でとっこーちゃんの体が吹き飛ばされる。あてな2号の使った技は封印98というものだ。ゲイツ系モンスターの放ってくる技であり、敵の行動を暫く制限するという強力な技だ。だが、何故あてな2号がこの技を使えるのか。

 

「あてなちゃん、どうして封印98を……?」

「洞窟を彷徨っている時にゲイツが使っているのを見て覚えたのれす」

「モンスターの技を覚えられるんですか!?」

「それもあてなの能力なのれす。ご主人様、褒めて、褒めて」

「どうでもいい」

「がーん!」

 

 これがフロストバインと真知子の付けた技能の中でも特に凄い能力であるラーニング技能だ。人工生命体であるあてな2号は多くの事に興味を示すため、それを上手く活用して敵の技を覚えられるようにしたのだ。レベルという概念が無い代わりに、戦えば戦うほど強くなる。それが人工生命体、あてな2号だ。

 

「ヒーリング。この体を壊す訳には……」

「今更回復など無駄だ。とぉぉぉぉ!!」

「っ……!?」

 

 自身の体を回復していた和華に剣で一撃を入れるランス。その攻撃に耐えきれず、和華はそのまま地面に崩れ落ちた。多少の苦戦はあったものの、結果としては大勝利である。

 

「がはははは! 俺様大勝利!」

「流石はご主人様なのれす。ぱちぱち」

 

 剣を高々と掲げ、あてな2号からの拍手を浴びるランス。だが、最初に異変に気が付いたのはシィル。

 

「ら、ランス様……和華さんですが、息がありません……」

「がはは……えっ?」

 

 シィルの言葉に青ざめるランス。慌てて駆け寄ると、和華は目を開けて上空を見上げたまま固まっていた。身動き一つ取らず、呼吸もしていない。最悪の考えがランスたちの脳裏を過ぎり、あてな2号がそれを口にする。

 

「なーにー、殺っちまったな、なのれす。おまわりさん、こいつれす」

「ご主人様をこいつ呼ばわりするな! 馬鹿な、俺様はちゃんと手加減したぞ……」

「……ランス様、和華さんは人形です。人間じゃありません」

「なにっ!?」

「和華様が人形だと!?」

 

 シィルも青ざめながら和華の体を調べていると、彼女が人間では無く人形である事に気が付く。それを聞いて声を上げたのはランスだけでなく、薙刀を杖にしてよろよろと立ち上がってきたとっこーちゃんもであった。

 

「ん? お前も知らなかったのか?」

「うむ。私が玄武城にやってきたのは昨日の事だ。和華様に促されて城に泊めて貰い、こうして今ここにいる。城の奥には鍵が掛かっていて入れなかったがな」

「全然玄武城の守り手じゃないのれす! 大して関係性もないのに向かってきたのれすか?」

「一宿一飯の恩義を返すのは当然の事」

「(大和撫子ですけど、こちらとしてはあまり嬉しくありません……)」

 

 当然とばかりに口にするとっこーちゃん。だが、彼女がいなければもっと呆気なく戦闘は終わっていたはずである。ランスたちにとっては実に迷惑な女の子モンスターであった。

 

「詐欺だ……せっかく一発ヤれると思ったのに、これでは倒し損ではないか」

「ご主人様、そういうご要望はこのあてなめが承るのれすよ。わっふる、わっふる」

「お前、飽きた」

「ががーん!!」

 

 あてな2号がショックを受けているのを軽く流し、ランスはチラリととっこーちゃんに視線を向ける。そのイヤらしい視線を感じ取ったとっこーちゃんはすぐに身を強ばらせる。

 

「もし私に手を出せば、舌を噛み切って自害します」

「むっ……」

「いや、和華様を守れなかった不甲斐ないこの身。最早生きている価値もない。今すぐ切腹を……」

「あてな」

「はいなのれす。ギガボウ発射」

「あっ……」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいたあてな2号が先端の丸い矢をとっこーちゃんの首筋に放つ。以前にバード変態プロジェクトの際に使った方法だ。見事命中したそれはとっこーちゃんの意識を奪い、そのまま地面に崩れ落ちる。

 

「で、どうするのれすか?」

「人形とやるのは俺様のプライドが……玄武の人形って事は、そいつも使っているかもしれん訳だし。人間であれば処女には拘らんが、他人の使った人形とやるのは何だかなぁ……」

「じゃあ、とっこーちゃんとヤるのれすか」

「それもパスだ。戦いの最中はすっかり忘れていたが、とっこーちゃんはマジで自害する」

「そうなのですか?」

「昔、目の前で自害された事がある。あれは寝覚めが悪かった」

「経験者は語るのれす」

 

 倒れている和華ととっこーちゃんを交互に見た後、はぁとため息をつくランス。これだけ苦労した相手なのに、どちらともヤれないのだ。ため息の一つも出ようというもの。

 

「仕方ない。胸だけ揉んで先に行くか。おっ、人形なのに柔らかい」

「それでもやることやる辺りは流石なのれす」

 

 意識の無い二人の胸を揉みしだき、ランスたちは城の中へと入っていくのだった。

 

 

 

-玄武城 城内 大扉前-

 

「むっ、何だ、鍵が掛かっているではないか」

「ランス様、これがとっこーちゃんの言っていた鍵の掛かった扉では……?」

 

 城内を進んでいたランスたちだったが、道中現れた巨大な扉にその行く手を遮られてしまう。他に道はないか軽く探ってみたが、奥に行くにはこの扉を通るしかなさそうだ。ランスが全力の蹴りを扉にお見舞いするが、扉はビクともしない。

 

「ちっ、開かんな。城の中に鍵が置いてあるかもしれん。あてな、探してこい」

「ご主人様も一緒に探そうなのれす。一人は寂しいのれす」

「めんどい」

「ランス様、鍵と言えば……」

 

 ランスの言葉で何かを思いだしたシィルは背負っていたリュックを下ろし、中から十字架型の鍵を取り出す。それは、少し前に湖の畔で拾った鍵だ。

 

「おお、そういえばそんなものがあったな。随分と昔の事のような気がしたからすっかり忘れていたぞ」

「ご主人様、そのネタは既に前回終わっているのれす。繰り返しネタは寒いだけなのれす」

「なんの話だ?」

「と、とにかく試してみますね」

 

 あてな2号の謎の発言に首を捻るランス。シィルも額に汗を掻きながら扉に近づいていき、鍵穴に十字架型の鍵を差し入れる。ピッタリと入り込み、そのまま動かすとガチャリと扉が開いた。だが、同時にボキッという音が鍵穴の中から響く。

 

「あっ……すいません、ランス様。鍵が折れてしまいました」

「なに!? で、扉は開いたのか?」

「……あ、扉は開いています」

「ふん、ならいい。別に城の戸締まりが出来なくなろうとも、俺様には関係ない。では中に入るぞ。シィル、先頭を歩け。鍵を壊した罰として弾避けの刑だ」

「……はい」

 

 悲しそうな顔をしながらシィルが頷くが、そんな中でシィルは鍵と一緒に置いてあった日記の事を思い出していた。

 

「(確かあの日記には、城から出て行くという記述がありました。鍵が合ったという事は、あの日記の持ち主はこの城に住んでいた……? という事は、取り残された女性もこの城に……?)」

「おい、何をぼうっとしている。さっさと扉を開けないか」

「あ、はい」

 

 ランスに促されてゆっくりと扉を開けていくシィル。すると、すぐに声を漏らす。

 

「きゃっ……」

「む、どうした!?」

 

 そう口にしながらすぐにシィルの前に飛び出すランス。その目の前に広がっていたのは、JAPAN風の大きな広間と、その部屋の中心で一心不乱に絵を描いている謎の生物。シィルはこの生物に驚いて声を漏らしてしまったのだ。一見人間のようにも見えるが、その顔は驚くほど真っ白であり、人間では無い事を物語っている。シィルが驚くのも無理は無い風貌だ。

 

「なんだ、こいつは?」

「絵を描いていますね。こちらにも気が付いた様子がありません……」

「きっとお絵かきの時間なのれすね。」

「おい、貴様。何をしている?」

「……ふん、ふんふん……ふん……」

 

 ランスの呼びかけにも応えず、絵師は一心不乱に絵を描き続けている。若干不愉快になったランスは剣に手を伸ばすが、目の前にある絵を見てその手が止まる。

 

「むっ……この絵は確か……」

「天守閣の前で戦った人形の絵ですね」

「まるで生きているような絵なのれす」

 

 絵師が描いているのは、先程戦った和華の絵であった。だが、絵の中の和華は先程の人形と印象がまるで違う。無表情であった人形に対し、絵の中の和華は優しそうな笑みをこちらに向けているのだ。

 

「うむ、笑っているとますます美人が栄えるな。中々に判っている奴じゃないか」

「……ふん、ふん……あっ……出来た……」

 

 ランスがチラリと絵師に目を向けた瞬間、その絵師は天井を仰いで筆をゆっくりと置いた。その口から発せられたのは、絵の完成を告げる言葉。

 

「出来たってその絵がか?」

「わぁ、よかったですね」

「……苦節200年。やっと終わった」

「にひゃく?」

「これで、満足だ……」

 

 そう呟き、バタリとその絵師が倒れ込む。慌ててランスたちが駆け寄ると、その絵師の躰を霧が包み込み、その中から現れたのは一羽の鶴であった。口から血を吐いており、息はない。だが、どこか満足そうな表情で死んでいる。

 

「どうなっているんだ?」

「ランス様、多分ですが……これは妖怪だと思います」

「妖怪? のっぺらぼうや海苔子さんと同じという事か?」

「はい。この鶴には何か強い想いがあり、妖怪化したものかと……」

「貴方たちは誰ですか……?」

 

 そのとき、部屋の中に第三者の声が響いた。ランスたちが声のした方向に視線を向けると、そこには和華の絵があるだけ。

 

「ん、どこだ?」

「ここにいるではありませんか」

「わっ! 絵が喋ったのれす。ギガボウ発射!」

 

 声は和華の絵から発せられていた。思わず矢を放ってしまったあてな2号だが、先程とっこーちゃんを気絶させた際に先端の丸まった矢に変えてから元に戻すのを忘れていたため、その矢は立てかけられた絵を破らずに後ろに倒すだけにとどまった。

 

「あっ、痛い……」

「……痛いのか?」

「当たり前です、無礼者……あれ? あれ、あれ?」

「どうかされましたか?」

「変です、動けません。視線すら動かせない……そこの者、判るように答えなさい」

 

 ランスたちに向かって偉そうな声を放つ和華の絵。それを見下ろしながらランスが当然だとばかりに答える。

 

「そりゃあ絵なんだから動けないだろ」

「……? 何を意味不明な事を……これだから野蛮な者は……」

「ランス様、もしかしてこの絵、自分が絵だって判って……?」

「……えっ? まさか、本当に……? わたくし、絵の中に入れられてしまっているの?」

 

 ランスの反応だけでは信じられなかった和華の絵も、シィルの反応を見て流石に不安になる。まさか自分は本当に絵の中に入れられてしまったのか。その問いに答えるランス。

 

「そうだ。まあ、絵の中に入れられたと言うよりは、絵に描かれているだけだがな」

「……うそ?」

「嘘じゃないのれすよ」

「ひぃ……わたくしが絵の中だなんて、どうしてこんな事に……?」

「知らん」

「そうだわ。専属護衛の慶次郎を呼んで。あるいは長尾弘次か……」

「誰もいないぞ。この城には俺様たちしかいない」

「馬鹿な……」

 

 ランスたちの言葉を聞いて和華が絶望したような声を漏らす。だが、絵に描かれているためその表情はまるで変わらず、微笑んだままだ。少しだけ不気味な光景である。

 

「……はっ、玄武の奴か……」

 

 何かに思い至った和華が声を漏らすのを見ながら、ランスが突如イヤらしそうな表情になる。

 

「(これは冒険者の王道パターンの一つ。見事解決すればウハウハエッチのパターンだな)」

「(ランス様が何を考えているのか表情だけで判ってしまいます……はぁ……)」

「(てんとうむしが28匹、てんとうむしが29匹……)」

 

 平常運転のランスと、その考えを即座に見抜くシィル。あてなは何も考えていない。すると、それまでぶつぶつと何かを言っていた和華の絵がランスたちに向かって声を発する。

 

「そ、そこの者。特別に許す! わたくしを助けなさい」

「よし、振り回す」

 

 即座に絵を掴み、ぐるんぐるんと振り回すランス。

 

「ひぁぁぁぁ……止めなさい、目が回ります」

「ご主人様、燃やしましょうれす」

「あてなちゃん、それは流石に……」

 

 物騒なあてなの意見は流石に却下し、振り回すのを止めて絵に向き直るランス。

 

「自分の立場を弁えてものを言うんだな」

「(くっ……だが、この者たちの協力無くして絵から抜け出すのは不可能……ここは大人しく従っておこう。わたくしならばその程度の事、容易い)」

「で、お前の名前は?」

「無礼な、そちらから先に名乗りなさい」

「よし、振り回す」

「ひぁぁぁぁ……」

 

 全然容易くなかった。高貴な口調と見目麗しい容姿だが、どこかポンコツ属性の香りがする女性である。その後、やはり彼女の名前が和華である事、この玄武城の姫ではなく無理矢理連れてこられた事を聞き出したところで彼女は眠りについてしまったため、とりあえずは絵を持ち歩く事にしたランスたち。

 

「うぅ……いつも以上に荷物が重いです……」

「全く、体力の無い奴だ」

「無い奴だー、なのれす」

 

 因みに、ランスの荷物を持つのはシィルの仕事である。ズシリと重量のある荷物を背中に抱え、息も絶え絶え城の中の階段を上っていく。実を言うとシィルの体力はこういった事で鍛え上げられており、魔法使いにしてはかなりの体力の持ち主だったりするのだが、それはまた別の話。

 

 

 

-洞窟内 鍾乳洞-

 

「はぁ、いい加減疲れたわ……」

「そうですね。少し休憩にしましょうか」

 

 所変わってこちらはバードとコパンドン。二人は未だに城下町にすら辿り着けず、洞窟内を彷徨っていた。

 

「(こんだけ迷うとか、本当に大吉なんか……? これから伸びるってことやろうか……?)」

 

 いい加減バードに疑いの眼差しを向け始めたコパンドンは持っていた水筒から飲み物を注ぐ。明らかに険悪な雰囲気であることはバードも察していたため、何とか話題はないかとコパンドンに声を掛ける。

 

「それは何ですか?」

「砂糖水や。甘いもんは疲れが飛ぶんやで」

「へぇ……コパンドンさんって、子供みたいなところありますね」

「なんやてぇ! 大人の女をからかったらあかんで!!」

「ご、ごめんなさい……その、別にからかった訳では、き、気を悪くしてしまったのなら、その、本当にごめんなさい……」

 

 必死に謝ってくるバードを冷めた目で見るコパンドン。軽い冗談のつもりで怒ったのだが、まさかこんな情けない反応を取られるとは思っていなかった。

 

「(年齢ネタって本気で返されるのが一番傷付くのに、この男は……この間の連中はその辺上手かったんやけどなぁ……)」

 

 コパンドンが少し前にポルトガルであった飲み会を思い出す。解放戦の英雄、不良シスター、傭兵二人、その全員が大人な面々であったため、こういった年齢ネタも上手に昇華してくれて笑い話で済んでいたのだ。あれと比べると、目の前のバードの反応のなんと情けない事か。大吉でなければとっくに見捨てている。

 

「(でも、折角見つけた大吉君や。繋ぎ止めておかんと……)」

 

 だが、コパンドンはバードを見捨てない。大吉の運勢の男には本当に滅多に出会えないのだ。落ち込んでいるバードに近づいていき、その頬に軽くキスをする。ハッとした表情で顔を上げるバードに対し、コパンドンはウインクをしながら口を開く。

 

「頑張りや。未来の旦那様」

「コパンドンさん、僕は、僕はもう!」

「離れんかい、ぼけぇぇぇ! 状況考えんか!!」

 

 抱きついてきたバードにヤクザキックをお見舞いするコパンドン。コパンドンの中でのバードの評価はストップ安継続中であった。

 

 

 

-砂漠地帯 ホテルおたま-

 

「何だろう……急に全力チョップをしたい発作が……」

「どんな発作よ」

 

 その頃、何故だか闇討ち気味に全力チョップをしたくなっているルークと、珍しく冷静に突っ込みを入れるロゼの姿がホテルおたまにはあった。

 

 

 

-玄武城 城内 最上階-

 

「ようやく最上階に着いたぞ。けっこう狭い部屋だな」

「ひぃこら、ひぃこら」

「…………」

 

 最上階へと辿りついたランスたち。そこにあったのは狭い部屋であった。人工生命体であるあてな2号も何故か疲れた様子であり、シィルは重い荷物を運んでいるせいか言葉を発せないほど疲れている。ランスが部屋を見回していると、呼吸を整えたシィルが汗を拭いながら口を開く。

 

「お城というのは、上に行けば行くほど狭くなっていく作りですからね」

「まあいい。頂上万歳」

「万歳れす」

 

 ランスの言葉を受けたあてな2号は両手を大きく上に上げて万歳の格好をしながら部屋を駆け回る。

 

「あっ」

 

 そして、そのまま足を滑らせて窓から落ちていった。流石に固まるランスとシィル。直後、どーんという轟音が城の外から響いてきた。あてなが落ちた音だろう。

 

「嫌な事件だったな……」

「ランス様、逃避している場合じゃありません! あてなちゃんが……」

 

 シィルが慌てて窓際に駆け寄り、ランスもそれに続く。下を見下ろすと、モクモクと土煙が上がっていた。なんだかコミカルな形で穴も開いている。

 

「死んだか?」

「普通の人でしたら即死でしょうが……あてなちゃんなら……」

「まあ、あてななら大丈夫だろ。放っておこう。そんな事よりも気になる事がある」

 

 ハッキリ言って完全な自爆であるあてな2号は放っておく事にするランス。ここから城外まで下りていき、再度上がるのは疲れるからだ。無駄な徒労は避けたい。そのまま窓際から離れ、チラリと部屋の中央に視線を向けるランス。それが、落ちていったあてな2号以上に気になる事。

 

「女だ……美しい美女が俺様に食ってくれと言わんばかりに寝ているぞ」

 

 そう、部屋の中央には金髪の美女が寝ているのだ。ランスの採点を持ってしても余裕で90点オーバーするほどの美女だ。だが、ランスには一つの懸念があった。

 

「しかし、洞窟を抜けてからここまで誰一人として人間とは会っていない」

「この方も妖怪でしょうか……?」

 

 そう、洞窟で出会ったコパンドン以降、城下町に着いてからランスたちは一人の人間とも会っていなかった。妖怪の海苔子、人形の和華、女の子モンスターのとっこーちゃん、絵の和華パート2。となれば、目の前の美女が本当に人間なのかと疑うのも当然の事だ。

 

「……まあ、どっちでもいいか。この美女は英雄である俺様へ天から与えられたプレゼントに違いない」

「それはどうなのでしょうか……?」

「さて、寝たまま犯すのが良いか、起こして犯すのがいいか……難しい問題だな。シィル、どっちがいいと思う?」

「どっちもいけないと思います」

「馬鹿者。そんな答えは聞いていない」

 

 ポカリとシィルの頭を小突き、そのまま美女に近づいていくランス。どうやら寝たまま犯す事に決めたらしい。後ろから抱きかかえるようにして美女の体を起こし、そのまま服の上から胸を揉む。

 

「ほう、中々のボリュームだ。ぐふふ……」

「ランス様……」

「お前はそこで正座していろ。俺様を止めようとした罰だ」

「はい……」

 

 悲しそうな表情を浮かべながら素直に正座をするシィル。ふんと鼻を鳴らし、美女への悪戯の続きをしようと視線を戻したランスだったが、不意に目の前の美女と視線が合った。いつの間にか美女は目覚めており、こちらを寝ぼけ眼で不思議そうに見ていたのだ。

 

「……誰? チドセセー様? 朝のお仕置きですか……?」

「ふむ……とりあえず揉み揉み」

「あん……ち、違う! 誰ですか!?」

 

 ランスに胸を揉まれて意識が覚醒したのか、驚いたような表情でこちらを見てくる金髪の美女。その美女の胸を未だ揉み続けながら、ランスは満面の笑みを作ってその問いに答えた。

 

「おはよう、お嬢さん。俺様の名はランス! 君を助けに来た正義の味方、救世主だ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、目の前の美女は呆けたような顔になる。

 

『もう少しだ。機は必ず来る。救世主が、いずれ必ずやってくる』

 

 それは、何度となく聞かされてきた言葉。それが頭の中をぐるんぐるんと回り続けながら、金髪の美女は目の前の男にボソリと問う。

 

「救世主……様……?」

 

 止まっていた運命は、これより動き出す。

 

 




[人物]
シャック・シュラク
 玄武城広場で宴会をしていたグリーンハニー。酔ったランスに割られた。

ドニー・ブレア
 玄武城広場で宴会をしていたブルーハニー。酔ったランスに割られた。

イメルダ
 玄武城広場で宴会をしていたハニ子。酔ったランスに唇を奪われた。

和華(人形)
 無表情の美女人形。玄武を主と口にし、ランスたちを攻撃してきた。今は城の外で気絶している。

和華(絵)
 絵の中に描かれた美女の絵。人形とは違い何か事情を知っているようだが、今は眠りについてしまっている。どことなくポンコツ属性。

鶴の絵師
 和華の絵を一心不乱に描き続けていた妖怪。絵を描き終えると共に死亡。シィル曰く、想いが果たされたからとの事。


[モンスター]
とっこーちゃん
 二つ星女の子モンスター。文武両道の大和撫子であり、薙刀で不埒な敵を成敗する。貞操観念が強く、強姦されると自害する。前衛としては十分な強さを持っており、主と認めたものには忠義を尽くすため、女の子モンスター使いには割と人気のモンスターである。


[技]
封印98
使用者 あてな2号 ゲイツ98
 相手の技を一定時間封印する必殺技。ゲイツ系が使ってくる封印技の中でも、比較的安定しているとされている強力な技。

一点集中 (半オリ技)
使用者 とっこーちゃん
 掛け声と共に自身の集中力を高め、攻撃力や防御力を上げる必殺技。重ね掛けも可能であり、何度も集中した後の攻撃は中々に脅威である。

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